その瞳に映る未来を   作:キイカ

9 / 11
黒獣咆哮

 

 

 ダンジョン十七階層半ばまで進んだ、仮名称『借金返済パーティー』の一行──考えたのはティオナ──。

 序盤に出て来た『コボルト』や『ゴブリン』を前衛を担当するアイズとティオナ、リンがなぎ倒し、時折脇道や壁から生まれる別のモンスターは中衛のミスカとティオネ、時折フィンも参加し蹴散らした。

 後衛で火力を担うリヴェリアやレフィーヤ、トーヤが待機していたが、ほとんど出番は来なかった。

 頼もしすぎる前衛中衛の仲間に思わず笑みがこぼれる。

 

「いやー、まじでお荷物だな。いや、荷物持ち(サポーター)か?」

 

「私たちはここぞというときに活躍するものだ。魔力を温存しておけるなら、問題ないだろう」

 

 進路を切り開いていく後ろ姿を追いながら冗談を呟くが、聞いていたらしいリヴェリアに遠回しに叱られてしまった。

 ──無駄な魔力の使用はやめろ。

 そう言いたいのだろう、彼女は。

 もちろんトーヤも気付いているが、彼の持つ魔法や、諸事情により後ろで待機し続けるのは得意ではなかった。

 

「分かっているさ。それでも戦いたくなるんだ。いや、前に出たくなるってのが、正しいな」

 

「はぁ……。お前が気にしているのは分かるが、もう少し落ち着け。下手に傷つかれると、暴れ出すのが三人もいるんだ。こちらの手間も考えてくれ」

 

「へーいへい。分かってますよ。そんな過保護にならなくてもいいと思うんだがなぁ」

 

 不承不承と頷くも、その瞳にはまだ意志が見て取れた。

 片目をつぶり苦言を呈した彼女の気持ちもトーヤは分かっていた。

 たまに前で戦っているときに避けきれず、または防ぎきれず攻撃を食らうことがある。

 その時に、彼が傷ついたことを感知出来る範囲にとある三人──慕う後輩二人と片思いしている少女──がいると、猛烈な勢いで前線に突撃し暴れ始めるのだ。

 それはもう酷い状態だ。攻撃を当てたモンスターは大体魔石ごと倒され灰に帰るし、その他のモンスターも纏めて斬られ潰され魔法で吹き飛ばされるのだ。

 ちょっとした報復だと彼女らは言うのだが、周りからすれば一方的な蹂躙にしか思えないのだ。

 それらを抑えるのは幹部であるリヴェリアたちの役目であり、その後のお説教までが一連の流れだ。

 その大本の原因が彼の突貫だったり、唐突な前線出現だったりするため──それをしている理由はある──、こうして宥めるのもいつものことだった。

 彼からすれば傷付くかもしれない仲間の代わりに、と思っているのだが、鎮めさせられている彼女ら幹部からすれば有り難迷惑であった。

 

「お前には本当に困らせられるな。何時になったら落ち着いてくれるんだ」

 

「そんなの、俺のスキルに言ってくれー。俺にはどうしようもないからなー」

 

 入団したときから魔導士として彼を育てていた彼女は、ほとほと手を焼かされる彼をいつも気にかけていた。

 フィンやロキが知っている彼の結末(未来)。それを古参であり、なおかつ彼を指導してきた彼女が知らないはずもなく、それも含めて彼の行動を咎めていた。

 口を尖らせて愚痴を呟くように言っており、表情も同じように面倒くさげだ。

 それが仮面を被っていると知っている彼女は、その翡翠の瞳を前へ向けた。

 視線の先にはアイズと話しているティオナがいる。

 

(早くあの子の気持ちに気付いてやって欲しいのだがな。そうすればトーヤも少しは変わる気がするのだが)

 

 かれこれすでにティオナが想い始めてから三年ほど──二年間は気になる異性として、三年目にしてようやく恋と気付いたらしい──しており、未だに彼女の分かりやすい好意に気付かないトーヤにリヴェリアもやきもきしていたのだ。

 彼女も彼女らしいやり方──それとなくティオナをけしかける。トーヤと鉢合わせさせるなど──で手助けしているが、一向に進む様子も、ましてや実る様子など微塵もなかった。

 鈍感、というには些か酷すぎないか? と時々思うのだが聞いてみようにも機会がない。

 

(やれやれ。これでは本当に母親(ママ)ではないか。私は私なりに彼女を手助けしていればいいか)

 

 ふと気遣いが過ぎているように気付いた。時折呼ばれる実に不本意な渾名を思いだし、目を細める。

 少し溜息をこぼし、両隣を一瞥する。

 右側を歩くトーヤは表情を元に戻し周りの警戒を続けている。

 左隣でやや怯えているレフィーヤは、杖を握りしめ無駄な力が入っているのがすぐに分かった。

 

「レフィーヤ、非戦闘時まで力むことはない。もっと肩の力を抜け」

 

「は、はい!……ところで、リヴェリア様。先ほどから表情が非常に豊かなのですが、どうしたのでしょうか?」

 

 指摘をされ顔を赤くしてたが、彼女を見ていたのかその表情の変化に気付いていたらしく、不思議そうな顔で聞いてきた。

 一瞬目を丸くしてしまったが、すぐに元に戻して落ち着き払った顔で口を開いた。

 が、声を出す前に止めた。

 脳裏に一筋の躊躇が差し込まれたのだ。今彼女が考えていたのは煮え切らない二人の関係だが、その元を辿るとどうにも話し辛い事情があった。

 ティオナが攻めきれない理由に繋がるのかは知らないが、彼が気付いていない、いや()()()()()でいる原因は分かっていた。

 合っているのかは知らないし、聞いたわけでもないが、大方それのせいだろうとは思っていた。

 

(だがなぁ。あれは下手に漏らすと混乱を招きかねん。トーヤもそれを察して言わないでいる節があるようだから、私がここで言うのは良くないだろう)

 

「リヴェリア様?」

 

「いや、なんでもない。少し今後のことを考えていただけだ」

 

 安易に話せぬ内容を鑑みて誤魔化すことにした。弟子の少女もそれを疑う様子もなく、今後ですかと反芻している。

 種族上嘘や欺瞞を嫌うエルフだが、リヴェリアが今言ったことはあながち嘘ではない。

 彼女はまだ見ぬ世界を知るために冒険をしている。今オラリオにいるのもそれが理由であり、その内またどこかへ行こうかとも考えているのだ。

 だが、それはかなり遠い未来の話し。自身が後釜として教えている少女(レフィーヤ)がまだまだ先が長いため、旅に出るのはお預けのようだ。

 そんな彼女らを横目で見ているトーヤ。自身と話していたときから時々思考に耽るのに気付いており、その際に表情が度々変わっていたのにも気付いていた。

 さらに、レフィーヤの質問を濁したことも分かっていた。それは自身が彼女を困らせていたから分かったことであり、予想では自身に関係するから誤魔化したのだろうと。

 

(頭があがんねぇな。何から何までいつも世話になっちまう)

 

 同じ魔導士として、先に立つ幹部として、長く生きる先輩として、彼女にもあらゆる面で世話になることが多かった。

 今となってはティオナに世話になることが多いが、元々は師事していたリヴェリアの下で学んでおり、実は彼女の方が関わりは深い。

 母親という渾名も間違ってはないだろ、と思ってしまうほどに彼女には助けられていた。

 

(だからなぁ、あんまり困らせたくはないんだが)

 

 先天的なスキル故にどうすることも出来ず、周りに迷惑をかけてしまうことが心苦しいことこの上なかった。

 そう思っているからもっと戦力になりたいと考え前に出るのだが、それが時折他のメンバーに影響を与えると言われてしまえば、彼は止まらざるをえなくなる。

 そして、結局自身のことを何も出来ず日々を過ごすのだ。

 外に出るにもティオナを中心に団員に手間をかけさせ、探索では傷付く度に周りに迷惑をかけてしまう。

 

(強くなれば少なくともどれも解決出来るとは思うが……)

 

 今よりもっと強くなれば。

 そうすれば外にも一人で行っても良いとロキから言われるかもしれない。

 前に出て戦っても攻撃を食らうことは減るかもしれない。

 なにより、未来が変えられるかもしれない。

 現状の強さを不満に思う剣士の少女と同じく、今の強さでは周りに負担を強いてしまうならもっと、と思う彼も、上を目指していた。

 

(先は長そうだ。経験値(エクセリア)も足らないだろうし、頑張らないとな)

 

 小さく拳を握り締め、瞳に強い意志の炎を燃やす。

 頑張るぞと考え歩いていたトーヤだが、ふと前を見るとフィンたちが止まっているのに気付いた。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「なんだかね、嫌な予感がするんだ。親指がうずうずいってるんだ」

 

 返ってきた言葉にはっとして周りを確認する。

 フィンが親指がどうこう言うときは必ずなにか起きるからだ。

 周辺を見回してみたが、特になにか珍しい、またはおかしなモンスターがいるわけでもなかった。

 現在地は大広間と呼ばれる階層主(ゴライアス)が産まれる場所の前の通路だ。

 この階層主というのは迷宮の孤王(モンスターレックス)とも呼ばれ、他のモンスターと違い非常に強力である。その分討伐すると一定期間の次産間隔(インターバル)がある。

 これから先の十八階層に行くには絶対に通らなければいけない場所なのだが、

 

「ゴライアスはいないね」

 

「うん。でも……」

 

 警戒しつつ大広間に先に進入したティオナたち前衛は、産まれていると思っていた階層主がいないことに気付いた。

 しかし、代わりにそこには別の怪物がいた。

 ティオナとアイズが警戒感を強め、それに反応してリンも気を張った。

 

「あれは……ミノタウロス、ですか?」

 

「僕にはそう見えるね。だが、なぜこんな場所に?」

 

 ティオナたちに続きフィンたちも入り、彼女らが見つけたものに気付く。

 前衛の三人が鋭く視線を飛ばしているモンスターを、視界に収めたティオネとフィンもやや堅い顔になる。

 後衛組も入り彼らが見たのは、大広間に一匹だけ立ち尽くしているミノタウロス。右手には天然武器(ネイチャーウェポン)──ではなく、なぜか鉄製と思われる斧を装備していた。

 しかし、その体は通常種より黒く見えた。

 

「どうみても斧にしか見えないんですけども。しかもなんか黒くないですか、あれ」

 

「確かに黒いな。黒いミノタウロスなんて聞いた覚えはないが……亜種とでも言うのか?」

 

 トーヤが別の階層で見た同種であると思われるそれと様子が違うことに気付き、リヴェリアもそれを肯定した。

 すでに相手の索敵範囲には入っていると思われるが、怪物が動く様子が見られない。

 それを不審に感じた彼らは、遠目から情報を探っていた。

 今のところ見た目で分かったのは、やけに黒い表皮や角のみ。その他にもすぐに襲ってこないところもあった。

 

「どうしますか団長。仕掛けますか?それとも相手が動くのを待ちますか?」

 

「そうだね……とりあえず後衛組は詠唱の準備をしといて。中衛は待機して前衛に、いやアイズに切り込んでもらおうか」

 

「分かった」

 

 不動の姿勢でこちらではないどこかを見ているモンスターに、ティオネの問に対してフィンはそれぞれに仕事を任せた。

 後衛の三人は敵を視野に入れつつ詠唱をいつでも出来るように魔力を練り始める。

 団長に頼まれたアイズは、自身の腰に吊した剣を抜いた。

 

「……行きます」

 

 一息入れ、分かりやすく一言残して風になる。

 恩恵をフルに発揮して瞬間的に接近していき、未だに振り向かない相手に一撃を仕掛けようとする。

 駆け抜け様に斬り抜こう。振り向かない。やれる。

 そう確信し一足飛びで近付こうとした瞬間。

 

『オオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

「……ッ!?」

 

 前動作もなく砲声をあげたミノタウロス。

 いきなりのことにアイズも一瞬止まりかけてしまった。

 その隙をついた怪物はさらなる声をあげた。

 

『ブゥオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

 響き渡る怪物の咆哮を、遠くで準備していたレフィーヤの肌はピリピリと感じていた。

 二連続の咆哮に危険を考慮し距離を取ったアイズ。

 指揮をしているフィンは、自分の親指がまだうずうずしていることに気付いた。

 そして、最後尾にて周囲を警戒していたリヴェリアが、何かの足音を聞いた。

 

「……何か、来る?まさか、他のモンスターか!?」

 

 後ろから届いた地鳴りとも聞こえる音に、振り向いて目を凝らして確認する。

 そして、ようやく先の何かを視認したところで、自身の言ったことは間違ってなかったと悟った。

 大広間の入り口に向かってくる()()()()()。それはつまり、モンスターが大量にこちらにやってきたのだ。

 

「フィンッ!後ろからも来たぞ!しかも数がかなり多い!」

 

「これはさっきの咆哮が呼んだと考えてもいい感じかな……後衛組は中衛のところまで移動。リヴェリアは詠唱を開始、トーヤとレフィーヤは周りに警戒して詠唱に備えて」

 

「は、はい!」

 

「はいよー」

 

 中衛の位置にいたフィンを除いたミスカとティオネが後衛に下がり、それと交代する形でリヴェリアたちが中衛に移動する。

 すぐに詠唱を開始するリヴェリアのサイドをトーヤとレフィーヤが前者は小太刀、後者は杖を握り警戒する。

 一方咆哮したミノタウロスも動き始めた。

 近くにいたアイズに斧を振り上げ襲いかかる。

 

「ッ!」

 

『オオオオオッ!』

 

 遺憾なく発揮された怪物の膂力による斧の振り下ろし。狙っていたアイズには軽く避けられてしまうが、勢いのまま地面を粉砕する。

 飛び散る破片すら凶器に変わるが、その程度第一級冒険者(アイズ)に容易く避けられないわけがない。

 間合いを保ちながら相手の攻撃を誘う。振り下ろしは当たれば非常に危険な一撃だが、事前動作が分かりやすく回避は容易い。

 

「速い……?」

 

 しかし、このミノタウロスは一般的なタイプに比べて幾分かスピードが速かった。

 もちろん、捉えきれないほどではないが、いかんせん横に薙払われてしまうと、一度距離を空けなければいけなくなる。

 薙払い、振り下ろし、それに加え力に任せた振り上げや空いている左手での殴打。

 時折足も踏み鳴らし、アイズが間合いを詰めるのを邪魔してくる。

 

「他よりは強い……でも」

 

 それでも彼女には届かない。

 上を目指し、止まることなく敵を屠り続けてきた彼女からすれば、この怪物の攻撃もやや速い程度でしかない。

 攻撃のパターンを把握し、間合いもすぐに詰めれる。

 

「もう終わりにしよう」

 

 一瞬にして後ろに回り込み、相手の薙払いを誘い出す。

 見事にそれに乗ってしまったミノタウロスは周囲を攻撃するが、当たらない。

 すでに後ろから前に回り込んでいたアイズが剣を輝かせる。

 一閃。

 魔石を含んだ逆袈裟切りをお見舞いした。

 

『オオ、オオオオオオオッ!?』

 

 終わった。

 そう彼女は思い、入り口の仲間の下へ戻ろうと視線を外した。

 そして、足を一歩踏み出そうとしたところで止まった。

 

「……ッ!」

 

『ォオオオオオオオッ!』

 

 切り裂いたと思っていたミノタウロスは、まだ息があり、魔石も完全には斬り切れていなかった。

 瀕死の様子だが、なぜか敵意はこちらに向いていない。

 それが見つめる先には──フィンたちが。

 

「させない……!」

 

 止めを刺すために接近し、斬り払おうとした刹那。

 ミノタウロスが地面を強く踏みしめた。

 それに動きを阻害されたアイズを無視してミノタウロスは走り出す。

 残る命を燃やして突貫をしようとしているのだ。

 アイズもすぐさま追い始めるが、思いの外速く斬り飛ばす頃には向こうについてしまう。

 誰か気付いてと思う彼女の気持ちが届いたのかは分からないが、フィンがこちらを向いた。

 

「ちっ!総員待避!ミノタウロスが突撃してくるぞ!」

 

 決死の突貫を仕掛けてきたミノタウロスの進路から移動を指示する。

 ティオナとリンは二手に分かれて通り際への攻撃を狙う。

 詠唱していたリヴェリアは継続しながらその場を離れる。それに伴いフィンとレフィーヤ、トーヤも移動する。

 ミスカとティオネは同時に同じ方向へ飛んだ。

 全員が動いたところで──ミノタウロスも進行方向を変えた。

 

「なっ!?」

 

「リン!下がれ!」

 

「くっ……」

 

 ティオナが驚く中、ミノタウロスは詠唱しているリヴェリアたちの集団を狙って突っ込もうとする。

 途中にいるリンも大剣を盾にしようとするが、フィンからの命令に表情を歪めながら横にずれる。

 リヴェリアを庇うようにフィンが立ち、レフィーヤとトーヤはお互いまた別の場所に移動する。

 

「またぁっ!?」

 

「今度は……トーヤか!」

 

「まじかよ!なんで俺を狙ってんだこいつ!?」

 

 動いたトーヤに合わせるようにまた進路を変えたミノタウロスに、フィンは驚きを隠せず、ティオナも目を見開いていた。

 

「くそったれめ!モンスターはお断りだよ!」

 

 執拗に狙ってくるミノタウロスを避けるために大きく跳躍する。

 足下を通り過ぎていったそれを見届け着地するが、ミノタウロスは急停止して再度突進をしようとトーヤの方を向いた。

 

「こいつ、俺が狙いか!」

 

 周りのメンバーを気にすることなく狙ってくるミノタウロスに、彼はターゲットが今は自身になっていると気付き、すぐにその場から移動する。

 向かう先は、足音がかなり近付いてきた入り口の外、今まで通ってきた方向だ。

 ミノタウロスを引きつけつつ、走り出す彼にフィンたちは驚愕するも、意を察して援護を始める。

 

「リヴェリア!詠唱は!?」

 

「もうすぐだ!」

 

「前衛、中衛はトーヤがモンスターの群れに突撃したら移動開始!迅速に殲滅しろ!」

 

「了解っ!」

 

 詠唱の時間を確認し、残った足のあるメンバーに指示を飛ばす。

 トーヤも群れに接近し、残り数十メートルほどになった。

 近付いてくる集団、彼の視界に入ってきたのは、ミノタウロスと()()()()()()の二種類。

 

「なんでキラーアントまでいるんだよ!」

 

 盛大に舌打ちもしつつ後ろから追ってくる猛牛を確認する。

 そして、これ以上は危険というところで一瞬立ち止まり、素早く口を動かす。

 

「【透過(ステルス)】!」

 

 刹那、姿が消えるトーヤ。

 ミノタウロスとキラーアントの群れは突撃してきた黒いミノタウロスと一部がぶつかり、力負けした群れの数体が吹き飛ばされる。

 いきなり消えた標的(トーヤ)の姿を探す黒いミノタウロスの後ろに、灰色の影が迫る。

 気配に気付いたそれが振り向いたが、もう遅かった。

 

「灰に帰りなぁっ!」

 

 順手で持った小太刀を袈裟懸けに振り抜き、今度こそ魔石を破壊する。

 宣言通り灰に変わった黒い牛を視界に収めた後、すぐに視線を前に戻し、モンスターの群れと対峙する。

 

「この数は重いな、さすがに」

 

「私達も忘れないで欲しいわね」

 

「おっ、任せていいか?俺は詠唱するから」

 

「リヴェリアがもうすぐ終わるからそれまでの時間稼ぎだよ!トーヤはフィンたちのところまで下がってなよ!」

 

 小太刀と杖を構えていた彼の横にティオネたちが現れる。

 各々獲物を構えて前を向いて話している。

 ティオナの言葉に従い後ろに下がるが、完全に戻るのではなく、中間ほどで待機する。

 一息ついて時間稼ぎとは名ばかりの殲滅作業をしている彼女らの後ろ姿を見つめる。

 

「詠唱終わる前に敵さん全滅しそうだな」

 

 その後は結局、彼の呟いたとおりになった。

 やや張り切っていた三名がリヴェリアの詠唱が終わるまでに、魔法でやらずとも問題ない数まで減らしていたのだ。

 これには後ろで待機していたフィンとリヴェリアも呆気にとられた顔になったが、誰一人として怪我を負ったものがいなかったため、もう考えないことにした。

 

「仲間を呼ぶミノタウロス……聞いたことはないが、亜種ということで良いのだろうか」

 

「分からないね。でも、あの黒いミノタウロスが他のミノタウロスと、なぜかキラーアントを呼んだのは事実だ。二回行った咆哮のどちらかが呼ぶためのものだったんだろうね」

 

 こちらに帰ってくる彼女らを見ながら、先ほどの特異なミノタウロスについて考察をする。

 リヴェリアもフィンも、経験にない行動パターンを持ったモンスターとの遭遇に、やや不安を残していた。

 今後の遠征などにもあれが出てこられては、隊列が崩れる上、あの個体は通常種に比べてやや強い。下手にLvの低い団員が襲われれば酷いことになる。

 今回は狙いがなぜかトーヤに向いたが、もしかしたら毎度トーヤが狙われるという可能性もある。

 それは誰が狙われるか分からないという点からすれば助かるものだが、その代わりに三名ほど暴走しかねないのが問題だった。

 

「帰ったら報告だな」

 

「そうだね。でも今はこの探索に集中しようか」

 

 帰還後にロキへ報告することを決め、戻ってきた六人を見て笑顔を浮かべる。

 

「お疲れさま。唐突な遭遇だったけどなんとかなったね」

 

 無事殲滅したティオネたちと、囮役とも言える動きをしたトーヤに労いの言葉をかける。

 約一名とても嬉しそうな顔で団長にすり寄っている者がいるが、周りは見ない振りを決め込んだ。

 

「あのミノタウロスほんとになんだったんだ……あんな執拗に追い回されるとか悪夢だぜまったく」

 

「好かれちゃったのかもね!頑張りなね!」

 

「そりゃあ酷いぜティオナぁ!?」

 

 一方体を張った囮をしたトーヤは、見に覚えのない狙われ方に頭を悩ませていた。

 誰がどう見ても彼しか狙っていなかった動きに、自身もきっかけになりそうなことを思い起こそうとするが、やはり分からなかった。

 頭を抱えて夢見が悪くなりそうだとぼやいている彼に、ひょこりとティオナが横に立ち、茶化してくる。

 あまりにも無責任な言葉に思わず大声を出してしまったが、あんなのにまた追いかけられると考えたら、背筋が寒くなってしまった。

 

「是非とも二回目は遠慮しときたいぜ……」

 

「今度はこう、ズバッ!と斬っちゃえば? 」

 

「それが出来たら苦労しねぇよ……」

 

 青白い顔になる彼を見て全くためにならないアドバイスを彼女がするが、さらに肩を落とすばかりで意味はなかった。

 

「にしてもやっぱりあの魔法は便利だねー。一瞬でも消えるなんて、私でも焦るもん」

 

「あー、まぁ、便利だな確かに。でもあれアイズとかなら普通に気付くぞ?ティオナだって直感で狙えるだろ」

 

 話題は変わり、先ほどの囮役の時に使った魔法の話になった。

 彼の持つ魔法の内の一つ、【透過(ステルス)】とは、使用時と使用中魔力を消費する代わりに姿を消すものだ。

 なかなか便利ではあるが、姿しか消せず、足音や呼吸音、気配などは隠すことは出来ず、なにより実体がある。

 周囲を薙払われたり、魔法で辺りを攻められれば、姿が消えていようが関係なく倒される。

 対モンスターには効果覿面だが、対人においては格下でもない限りはあまり使えないものだ。

 

「まぁねー。でもいきなり消えられるのは怖いからねー。私はとりあえず大双刃振り回すけどね」

 

「……お前とやったら確実に俺がぶっ飛ばされるのが目に見えたわ、ははは」

 

 笑顔で物騒なことを言う彼女に、苦笑いともいえない表情を浮かべ、乾いた笑い声を出した。

 

「とりあえずら次の階層に進んで休みを取ろう。みんなもそれでいいかい?」

 

『了解っ!』

 

 二人が話している間に、フィンたちの喜劇もどきは終わっていたらしく、手を叩いて次の行動を提示した。

 文句を言う者はいなかったため、進行を再開する。

 これから通り抜ける大広間。その先にあるのは、地獄の中の休息所である場所──迷宮の楽園(アンダーリゾート)と呼ばれる、モンスターの湧かないエリア、安全階層(セーフティポイント)だ。

 彼らはここで一度休み、深い階層まで向かう予定だ。

 十七階層を抜け、十八階層の入り口である森に到着する。

 しばらく歩いて彼女らの視界に映ったのは、天井を埋め尽くす美しい青水晶群だった。




 inダンジョン回でした。
 トーヤの魔法について一応触れましたが、こちらにも書いときます。

魔法 【透過(ステルス)】詠唱口上なし。
効果…姿を消す。トーヤから発せられる気配、音は消せない。身につけている武器も対象に含まれる。解除は他の魔法を使うか魔力の使用の中断。

 他にもまだ魔法はありますが、後々出すときにまた記載しようと思います。

 話は変わりますがソードオラトリア今日も終わりましたね。
 相変わらずティオナが可愛いけど出番少な目でちょっと悲しい…。
 そんなわけでばーい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。