DEVIL SURVIVOR 2  With you forever.   作:ルーチェ

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3rd Day 不穏の火曜日 -3-

 

ドゥベやメラクはまだ生物らしき姿であったが、このセプテントリオン ── フェクダはその形状からして生物には見えない。

ふたつの重なり合う輪の本体の周囲を、水晶かそれに類似する鉱石のようなものがぐるっと囲んでいるのだ。

しかし紛れもなくポラリスの剣のひと振りである。

 

カナデのスザクとロナウドのハゲネとジョーのオーカスが最前線に立ち、さらに名古屋支局奪還作戦のために来ていた民間人サマナーである鳥居純吾と伴亜衣梨が参戦。

さらに大阪・名古屋のジプス局員の共同戦線によって立ち向かうが、輪はぐるぐると回り、内円と外円を合体・分離しながらさまざまな攻撃をしかけてくる。

そして合体時にはこちらの攻撃は受け付けないという厄介な敵を前にして、カナデたちは苦戦していた。

 

次第に味方の戦力は削られ、ジプスのサマナーたちは次々と倒れていった。

ジュンゴの英雄ネコショウグンとアイリの魔獣ケットシーは奮戦するが、彼らも明らかに疲弊している。

ロナウドとジョーのふたりも死力を尽くして戦うが、悪魔だけでなくサマナー本人たちも体力を消耗していった。

 

「このままじゃこっちが消耗するばかり。奴の力を削ぐ方法はないのかしら…?」

 

カナデとスザクもかなり疲れている。

頭の回転も鈍り、フェクダの攻撃をかわすだけで精一杯だ。

 

一瞬のことだった。

ほんの少しだけ「もしダメだったら」という不安がカナデの脳裏を掠めた次の瞬間、スザクはフェクダの放つビームに貫かれてしまったのだ。

断末魔の悲鳴のような声を上げたスザクは消えてしまう。

そして携帯の中で「修復中」という表示が悪魔リストのスザクの上に現れた。

スザクが使えなくなったことで、味方の戦力はガタ落ちだ。しかしまだビャッコがいる。

 

「ビャッコ、頑張って」

 

カナデがビャッコの頭を撫でると、ビャッコは「承知した」とばかりにフェクダに襲いかかって行った。

しかし物理攻撃・魔法攻撃とも受け付けないフェクダにはまったく効果がない。

有効な方法は見つからず、仲間たちは次々に倒れていく。

 

その時だった。新たなサマナーと悪魔が現れたのだ。

 

「わたしに任せて!」

 

声の主はオトメで、悪魔は女神サラスヴァティ。

レベルは19と決して高くない。しかし予想以上の力を発揮した。

サラスヴァティが手にした琵琶をかき鳴らすとフェクダの力が弱まっていったのだ。

 

「わたしのサラスヴァティには吸魔のスキルを覚えさせておいたのよ」

 

オトメは自信満々の顔で言った。

たしかにどんな攻撃も利かない相手だが、弱体化すればこちらの攻撃も届くようになるのは当然だ。

しかしフェクダも必死であり、力が残っているうちにと次々にビームを発射した。

ハゲネ、オーカス、ネコショウグン、ケットシー、キクリヒメと順に消滅していき、最後に残ったのはビャッコとサラスヴァティだ。

そしてフェクダはサラスヴァティを消滅させた次の瞬間、カナデと彼女の前に立ち塞がるビャッコに照準を向けた。

ビャッコは弱体化したフェクダの息の根を止めようと飛びかかるが、ビームで打ち抜かれてしまった。

味方の悪魔はすべてフェクダに消滅させられ、修復までには時間がかかる。

カナデのスザクもまだ修復中だ。

フェクダも虫の息だが、攻撃手段がなければどうしようもない。

そのフェクダは最後の一撃をと、彼女に照準を向けた。

 

「カナデ、逃げろ!」

 

ダイチの悲痛な叫びがカナデの耳に届いた。

しかし彼女は意外にも冷静でいた。

死を目前にしながら、彼女は驚くほど平静だ。

 

(ああ、そうか…これがあの死に顔動画のシーンなんだ。わたしの力が及ばなかったということは、それが定められたものであり、わたしにそれを覆すだけの力がなかっただけ。悔しいけど後悔はない。やれるだけのことはやったもの。心残りはダイチたちを残して先に逝くことだけ)

 

カナデが静かに目を閉じようとした時、彼女とフェクダの間の床に魔方陣が浮き上がり、その中からケルベロスが現れた。

 

「ケルベロス…!?」

 

この名古屋支局に現れるはずのないケロベロスが出現したのだ。

その場にいた全員がありえないといった顔をし、ある一点に視線が集中した。

それはフェクダのビームによって天井が破壊され、地上に大きな穴ができている場所。

陽が完全に沈み、空には青白い大きな月が昇っている。

その月をバックにして立つ人影はヤマトだ。

 

「どういうこと…? どうしてヤマトがここにいるの…?」

 

ジプス大阪本局にいるはずのヤマトが目の前にいた。

カナデはそんな疑問を抱くが、今はそれどころではない。

最強の助っ人が現れたことで、周囲の空気が一変した。

フェクダは攻撃目標をケルベロスに変更し、ビームを発射した。

しかしケルベロスは軽くかわし、さらにヤマトは自分の魔力をケルベロスに与え、力の上書きまでしたのだった。

 

「峰津院の血がなせる技か…」

 

ロナウドの呟きのような小さな声が聞こえたが、それはヤマトの耳にも届いていた。

 

「違うな。私の力だ」

 

ヤマトによってパワーアップしたケルベロスは〈万魔の乱舞〉を繰り出し、フェクダを完全に消滅させた。

いくら弱っていたとはいえ、カナデたちが何人もかかって倒せないセプテントリオンをたったひとりで倒してしまうヤマトにその場にいた全員が驚愕した。

 

 

 

カナデがヤマトを見上げると彼と視線が合った。

するとヤマトはカナデを見下ろしながら言う。

 

「余計な手間をかけさせるな、カナデ」

 

それだけ言って彼はそのまま踵を返した。

 

「待って、ヤマト!」 「待て、峰津院大和!」

 

カナデとロナウドが同時にヤマトを呼び止めた。

しかし彼は用などないとばかりに背を向けたままだ。

 

「どうしてあなたがここにいるの!?」

 

カナデの問いにヤマトは答えず、振り向こうとすらしない。

 

「カナデ、ヤマトはね、君の死に顔動画を見たから、ここへ来たんだよ」

 

カナデは声のした方を振り返った。

そこにいたのはアルコルだ。

 

「ヤマトが…わたしの死に顔動画、を…?」

 

「そうだよ。ヤマトは君を死なせたくなかったんだ」

 

「黙れ、アルコル!」

 

ヤマトぱっと振り返ると、アルコルを睨みつけた。

続いてカナデの方を向く。

 

「お前の死に顔動画が届いたのは事実だ。お前が死ぬことになれば、フェクダに対する戦力はゼロとなる。よって私が自ら出撃せねば名古屋支局は壊滅。すなわち名古屋という街が消えるということだ。別にお前を助けようとしたのではなく、結果的にお前の命を救うことになっただけのこと。勘違いするな」

 

ヤマトがそう言うと、ロナウドが叫んだ。

 

「いくらツンデレ男子を気取ってみても、カナデくんは貴様に靡いたりはしないぞ!」

 

「え?」

 

カナデはロナウドの言葉にあっけにとられた。

 

(ヤマトがツンデレ? たぶんロナウドさんはツンデレという言葉を誤解している。ツンデレとは普段は冷静だったり、そっけない態度を取る人が特定の人の前では甘えた態度を取ることを言うのであって、ヤマトはそれに当てはまらない。なによりツンデレとするには前提として「ヤマトがわたしに好意を抱いている」というものがなければ成立しない。で、それは絶対にありえないんだから、さっきの言葉から「ヤマト=ツンデレ男子」ということにはならない。これは真理だ。…でも彼がどこかの女性に好意を抱いていて、彼女とふたりっきりの時にはそういう態度になるのかもしれないから、「ヤマト≠ツンデレ男子」とも断言はできないのよね…。まあ、そんなことはどうでもいいけど)

 

カナデがそんなことを考えている間も、ヤマトとロナウドの言い合いは続いていた。

 

「貴様がいくら彼女を欲しても、彼女の心にはお前の入り込む隙などない。なにしろ貴様との取引のシナリオを考えたのは彼女自身なのだ」

 

「なんだと!?」

 

「彼女は我々の正義を認め、貴様を嵌めるのに手を貸した。つまり彼女は我々の味方となり、貴様とジプスの敵になったのだ! ハハハ…」

 

物資の取引のからくりを暴露してしまったロナウド。

 

(ヤマトに対して主義主張の違いによる対立だけではなく個人的な恨みを抱いているのは薄々感じていたけど、だからといってこんな嘘をついてまで彼を挑発するってなんなのよ! こんなことをすればややこしくなるだけじゃないの! なんて浅慮で面倒くさい人なのよ!)

 

カナデがキレ気味に叫ぶ。

 

「ロナウドさん! たしかにわたしは物資を奪うための協力をしました。でもだからといってわたしはあなたの味方ではないし、ヤマトの敵でもありません!」

 

「カナデ、お前は私を騙していたのか!?」

 

ヤマトの声は怒りで少し震えて聞こえる。

否定しても言い訳になるだけなので、カナデは開き直って正直に答えてやることにした。

 

「そうよ。だって食料や医薬品が不足して、被災者が困っているのは事実だもの。それにヤマトのやり方にちょっとムカついていたから、ひと泡吹かせてやろうと思ったの」

 

「なんだと…?」

 

「そもそも初めからあなたが出撃していれば面倒なことは起きないんじゃないの?」

 

「せっかく助けに来てやったというのに、その言い草はなんだ!?」

 

「せっかく助けに来てやった、ですって? その恩着せがましい言い方…。あれ? それってさっき言ったことと違うじゃない!」

 

「は?」

 

ヤマトは大事なことに気がついていない。

 

「さっき、名古屋に来たのはフェクダを倒すためであって、結果的にわたしの命を救うことになっただけって言ったでしょ? 今の言い方だとわたしを助けるためというのが本来の目的だって聞こえるわよ」

 

「あ…」

 

やっとわかったらしい。

 

「まあ、ヤマトが助けてくれたことに変わりはないからお礼は言っておく。ありがとう。それからわたしはロナウドさんたちの仲間になる気はまったくないわよ。彼らとは完全に考え方が違うもの」

 

「ならば私に頭を下げて戻って来るのだな?」

 

「それは嫌。頭なんて下げる気はないからジプスには戻らない。でも個人の力だけでは限界があるのよね…」

 

カナデはそう言って大げさに腕を組んで悩むポーズをとった。

 

(正直言って、ヤマトがわたしを手放すとは思えない。名古屋支局の物資の半分を引き渡す気になったくらい、わたしを必要としているくらいだもの。現にヤマトは少し悩んでいるように見える。自分から帰って来てくれとは言えず、かといってわたしがいなくなるのは困るという感じ)

 

実際、ヤマトはカナデの想像どおりに悩んでいた。

 

(生意気で命令違反ばかりする小娘だが、これから続くセプテントリオンとの戦いには欠かせぬ駒だ。しかしこのままでは彼女にジプスを抜けられてしまう。だからといってこの私が頭を下げることなど絶対にありえない。…ったく素直に戻りたいと言えば、こちらが折れてやってもいいものを。可愛い顔に似合わず頑固者だ)

 

ヤマトはカナデを可愛いと認めているらしい。

 

 

 

一方、このままでは収まりがつかないと、アルコルは一計を案じた。

 

「カナデ、君には3つの選択肢が与えられた。そのどれを選ぶかは君次第だ」

 

突然、アルコルが言い出したものだから、カナデは面食らってしまう。

 

「選択肢?」

 

「そう。ここまでは共通ルートで、続いて個別ルートに進む。君は峰津院大和、栗木ロナウド、志島大地の3人の中からひとりを選び、その人物と共に世界を破滅から救うんだ」

 

「は…?」

 

「ちなみに2周目以降には選択できる攻略キャラが増えるけど、今回はこの3人から選んでくれ」

 

(共通ルートとか個別ルートって…まるでアドベンチャーゲームじゃないの。おまけに2周目以降の攻略キャラって、こんな戦いを2度もプレイ…じゃなくて2度も経験するなんてまっぴらゴメンよ。で、何でこんなことになってるの!?)

 

カナデが誰を選ぶかではなく、この異常な状態にどう対処すべきなのかを迷っていると、アルコルはどこからかタブレットPCを取り出して彼女に見せた。

 

「今現在の君に対する3人の愛情度と友好度はこうなっている。志島大地は幼馴染という点もあって友好度は高いけど、愛情度は3人の中で一番低い。本人が君より新田維緒に好意があるみたいだからね。それで栗木ロナウドだけど、彼とは出会ったのが一番遅いから愛情度も友好度も低いのは仕方がないね。そしてヤマトは合計値が一番高い。ほら、ここ見て。こんなに友好度が高いんだから、死に顔動画が届くのも当然だよ」

 

ドヤ顔で説明するアルコル。

モニター画面にはヤマトとロナウドとダイチのバストアップの写真があって、その横に白いハートが20個並んでいる。

愛情度が10、友好度が10で、数値が上がっていくと赤い色で塗りつぶされていくシステムらしい。

驚くことにヤマトの友好度がすでに6つ赤色になっている。

彼の態度や言動からカナデに対する友好的な部分など微塵も感じられない。

おまけに愛情度が5つ赤色というから、カナデは驚くというより完全否定したくなってきた。

 

「これってデタラメじゃないの? そもそもこんなゲームみたいな展開、信じられない。というか信じたくない」

 

「いいや、事実さ。君は気づいていないようだけど、いくつかの重要な選択肢の中で、君は彼らの好感度が上がる選択をしているんだ」

 

「……」

 

「とにかく君には最善のエンディングを迎えるために全力で戦ってもらいたい。そうしないと世界が壊れてしまうからね」

 

アルコルはそう言ってニッコリと微笑む。

 

「もし、誰も選ばなかったら?」

 

「そこでGAME OVERさ。人類は滅亡し、存在したという形跡すら残らず”無”に還る」

 

「それって全人類の生存をかけた戦いの全責任をわたしが負わなきゃならないってことじゃないの!?」

 

「そうだね。でも君なら…というより君にしかできないと思ったから」

 

「あなた、何様のつもりよ!」

 

「私?…私はセプテントリオン。管理者ポラリスの剣であり、君たちを見守る者さ」

 

「……」

 

大阪で初めて会った時から、カナデはものすごく悪い予感がしていた。

なぜならアルコルというのは北斗七星、つまりセプテントリオンを構成する星のひとつであるミザールの伴星で『死兆星』とも呼ばれる。

セプテントリオンなら問答無用で倒せばいいのだが、そうもいかないようだ。

 

(よく考えてみれば、これは『実力主義』か『平等主義』か『第3の道』のどれかを選ぶというもので、特定の個人の好き嫌いで選ぶものではないのよ。友好度とか愛情度などというものは参考程度のもので、それらが低くてもわたしが正しいという道を選べばいいだけのはず。誰かを選ばないとGAME OVERになり、人類は滅んでしまうらしいけど)

 

カナデは現状を冷静に整理し始めた。

 

(まず『平等主義』はありえないから、ロナウドさんという選択肢は自然と消える。そして『第3の道』をダイチが発案できるかはどうか…それは非常に分の悪い賭けだわ。なにしろ彼は何も考えていないし、考えたとしてもロクなものにはならない。その場の雰囲気や流れで行動し、結果がよければ調子に乗るし、悪ければ落ち込んでしまって救いようがないという人間だもの。彼と行動を共にしても何の収穫もないだろう。というより余計なことに巻き込まれて苦労しそう)

 

カナデは気づかれないようにちらりとヤマトの顔を見た。

 

(そうなるとヤマトの『実力主義』しか残らない。考え方としては間違っていないと思う。適度な実力主義は進歩や発展を促すために必要なものだもの。ただ彼のやり方は気に入らないし、考え方が極端すぎるのよね…)

 

「今すぐに決めなきゃいけないの?」

 

カナデがアルコルに訊いた。

 

「そうだね。君が大いに悩んでいるのは私にもよくわかるよ。だから時間をあげよう。6日目の夜まで待つ。それが限界だから。ああ、そうだ。君のためにいいものをプレゼントしよう」

 

アルコルはそう言うと、彼女の携帯をさっと奪い取って手早く何らかの操作をした。

 

「何をしたの?」

 

「峰津院大和、栗木ロナウド、志島大地の3人に対してだけだが、彼らの愛情度と友好度がアップしたら、彼らの背後にキラキラと星が光るというエフェクト機能を追加した。これで愛情度と友好度の変化がわかりやすくなったはずだよ」

 

(乙女ゲーかよ!)

 

心の中でツッコミを入れるカナデ。

 

「余計なことしないで! そんなエフェクトなんていらないから、早く元に戻してちょうだい!」

 

「せっかくのサービスなのに…」

 

なぜか不満顔のアルコル。

それでも携帯を受け取るとエフェクト機能を削除した。

 

「これはゲームじゃないからセーブ画面はない。つまりロードを繰り返して自分の都合のいいように進めることはできないから、十分に考えて行動をしてほしい。…ああ、それから君が選ばなかったふたりは君の行動如何によっては死亡することになるから、そこんとこヨロシク☆」

 

アルコルはものすごく重要なことを最後にさらっと言って消えてしまった。

そのせいで、この場にいる人たちの人間関係が大きく変わろうとしている。

特にアルコルに名指しされた4人だ。

さっそくダイチがカナデに近寄って来た。

 

「カナデ、なんだかよくわからないけど、俺とヤマトとあのロナウドって人の中からひとり選ぶんだろ? だったら俺に決まってるよな。あんなわけのわからない奴らより、幼馴染の俺の方が気心も知れてるし」

 

その様子を見ていたロナウドがダイチを押しのけて言う。

 

「カナデくん、俺を選んでくれ。考え方が違うと言っても、愛があれば乗り越えられる!」

 

「いや、愛なんてどうでもいいんです。別にこれは乙女ゲーじゃないんですから、そんなもの必要ありません」

 

「しかし峰津院を選ばれては困る。だからぜひ俺を選んでくれ!」

 

「……」

 

たしかにカナデとヤマトが組んだら、ロナウドたちに勝ち目はない。

 

(必死になるのもわかるけど、彼のような考え方が極端で過激な行動に出る人とは永遠に平行線のままよ)

 

「悩むことはない、カナデくん! 俺なら他のふたりと違って君を幸せにできる。さあ、この手を取るんだ」

 

「いやいや、それはないでしょ。カナデのことなら俺が一番よく知っている。彼女を拉致った犯人が幸せにするなんて、それストーカーの言い分じゃん。それに彼女の死に顔動画が届いたのって俺とヤマトだけで、ロナウドさんには届かなかったでしょ? それって友好度が低いからだぜ。もう勝負見えてるんじゃない?」

 

ダイチはカナデと付き合いが長いという利点を強調するが、そんなものは何の役にも立たない。

 

(それがわかっていないくらい彼はバカなのよね。はぁ…)

 

カナデは呆れてため息をついた。

 

「そんなことはないぞ、ダイチくん。たしかに俺は彼女を誘拐した。それに死に顔動画も届いてはいないが、だからといって不利だとは思っていない。重要なのはこれからどのように彼女と接していくかだ。彼女の気持ちを変えるための時間はまだ十分ある」

 

当人を放っておいて勝手に言い争いをしているダイチとロナウド。

一方、当事者のひとりであるヤマトは静観し続けていた。

彼は自分が選ばれるという自信があるのだ。

カナデは言い争っているダイチとロナウドを放っておいてヤマトの方を振り向いた。

するとヤマトがカナデを見下ろしたままで言う。

 

「頭は下げずともよい。共に帰るぞ」

 

(あれ? 態度がこれまでと違う)

 

カナデはヤマトの意外な態度に驚いた。

自分を騙した相手に対して、その態度は彼らしくない。

やはりアルコルの言った言葉を気にしているのだろうか。

 

「わかった。わたしはこれまでどおりジプスに身を寄せるわ」

 

カナデがそう答えると、ヤマトはほんの一瞬だが眉間のシワが消えたように見えた。

 

「ならばついて来い」

 

ヤマトはそう言って背を向ける。

しかしカナデはその背中に向かって声をかけた。

 

「ああ、待って。東京に帰る前に話したいことがあるの。それにここを放っておけないでしょ?」

 

「…よかろう。お前が納得するまで待ってやる。好きにしろ」

 

言い方はこれまでと変わらないのだが、ヤマトの態度が軟化したのは間違いなさそうだ。

そしてカナデは名古屋支局の復旧作業を手伝うことにした。

 

 

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