DEVIL SURVIVOR 2 With you forever. 作:ルーチェ
ジプスの全局員と民間人サマナー、そしてロナウドたちのレジスタンスグループ全員が東京支局に集合して一緒に健康診断を受けている。
昨夜のフェクダ戦から一時休戦となっている両陣営が健康診断を受けている光景はなんともいえず不思議なものだ。
ヤマトにはなんらかの企みがあってのことであり、それを承知で参加するロナウドの思惑も気になる。
両者ともセプテントリオンを倒して人類を救うという目的は一緒なのだから協力し合うのはよいことだ。
ただそれぞれが考え方、目指す新世界が違う。
ヤマトはロナウドを脅威だとは思わず、手駒として利用するだけ利用して捨てようと考えている。
それはロナウドも薄々感じており、彼自身もヤマトを利用してやろうとしている気配がある。
そのふたりが同じ場所にいるのだから、本人たちよりも周囲の人間が緊張しているかと思うとそうではない。
意外と和やかな雰囲気の中で、特に女性参加者たちは和気あいあいとしていた。
カナデが女子更衣室に入ると、フミが笑顔で迎えてくれた。
「やー、お疲れさん」
「フミさん、身体の具合はいかがですか?」
「んー、別になんともないかな。悪魔に操られていたってことだから、脳波とか精密検査しなきゃいけないかもしれないけど」
「ともかくご無事でなによりです。でも無理はなさらないでくださいね」
フェスティバルゲートでの記憶はまったくないようで、フミは相変わらずマイペースを保っている。
そんな彼女に呆れていると、そこにヒナコが現れた。
大阪での負傷で包帯を巻かれている姿が痛々しいが、案外元気そうだ。
「カナデちゃん、おはようさん」
「おはようございます、ヒナコさん。お怪我は大丈夫ですか?」
ヒナコは笑いながら答えた。
「こんなんかすり傷や。オトメさんも無理せぇへんなら、みんなと一緒に戦ってもええ言うとったわ」
けっしてかすり傷とはいえない怪我をしているヒナコ。
その原因となったカナデに気を遣わせたくないと、やせ我慢しているのは見え見えだ。
しかし医師であるオトメから戦線復帰の許可が出ているのなら大丈夫だとカナデは安堵した。
そんな会話をしながらカナデは検査着に着替えると、他の人たち同様に検査会場に入った。
そこにも見知った顔がいる。
検査を終えたマコトがこちらへやって来た。
「おはようございます、マコトさん」
カナデが先に声をかけると、マコトは彼女に気づいて笑顔で応えた。
「おはよう。君はこれからか?」
「はい」
「そうか。ならば終わったら局長室へ行ってくれ。局長が君に用事があると言っていた」
「わかりました」
◆
「胸見せて。…はい、異常なし。次は口開けてね。…こっちも異常なし、と。見事なくらいの健康体ね」
血液採取、心電図、レントゲン、身長・体重測定に視力と聴力検査まで行い、最後にオトメの問診というフルコースの健康診断である。
「健康だけが取り柄ですから」
カナデが笑って答えると、オトメもつられて笑った。
「そうね、人間健康が一番よ。さて、これでおしまい。女性陣はカナデちゃんで最後かしら?」
「はい、そのようです。…どうもありがとうございました」
お礼を言って更衣室へ戻ると、微妙な空気が漂っていた。
アイリがフミの姿を見て固まっている。正確に言うと彼女の胸を見て固まっているのだ。
「あ、なるほど…」
カナデは納得した。
フミは検査着を着ておらず、下半身はショーツのみで、上半身はジプスのコートを羽織っているだけ。
胸の大事な部分は隠れているが、谷間は丸見えである。胸は平均以上の大きさがあり、形も見事だ。
アイリは自分と彼女を比べた末に、ショックで固まってしまったというわけだ。
「カナデちゃん…着痩せするタイプなん?」
「うわっ…!」
冷静に状況把握をしていたカナデに、ヒナコがそっと近寄って来て後ろから彼女の胸を掴んだ。
いきなり身体に触れられたものだから、カナデは驚いて飛び跳ねてしまった。
「ちゃんと引き締まってるやん。しかもスタイルのバランスええし」
身体を無遠慮に触られて、カナデは涙目で身体を捩らせる。
彼女の最大の弱点は「くすぐりに弱い」なのだ。
「く、くすぐったい…。やめっ、やめてください!」
「え、くすぐり弱いん?」
カナデとヒナコの様子を見ていたアイリがふざけて参戦する。
「どうだ!」
羽交い締めされているような体勢のカナデの脇腹を思い切りくすぐった。
「ちょっ、アイリちゃん、やめて、あははは!」
「おー、姦しいねぇ」
女子校のノリでふざけ合っているヒナコとアイリ。
一方、カナデは息も絶え絶えな状態でやられるままになっているのに、誰も助けようとする気配はない。
おまけにフミはそれをニヤニヤしながら傍観している。
そこにイオとマコトがやって来た。
その様子を見てふたりは驚くというよりは半ば呆れた状態だ。
「ふたりとも、やめた方が…」
「やめないか、ふたりとも」
イオとマコトは止めようとしてくれるが効果はない。
ますます女子校の教室のようになってきた。
平和な日常の光景に見えるが、カナデにとってはセプテントリオンとの戦い並に必死である。
すでにフェクダ戦で切羽詰まった時と同じくらい瀕死の状態で、このままでは確実に死ぬとカナデは焦りまくる。
しかし大丈夫だ。
彼女の死に顔動画は誰にも届いていないので、ここで死ぬことは絶対にない。
「こらこら、早く服着ないと風邪ひいちゃうわよ」
そこへオトメがやって来て苦笑する。
それでもおふざけをやめないヒナコとアイリ。
「し、死ぬぅ…」
もう限界だという時だった、突如地震が発生する。
そして館内の警報が鳴り響き、カナデはやっと地獄の責め苦から解放されたのだった。
◆
第4のセプテントリオン・メグレズは突如東京湾の海中に出現した。
地震はメグレズの出現によるもので、カナデはセプテントリオンに命を救われたようなものだ。
ただメグレズは地上に現れる気配はないようで、これではジプスも手の出しようがない。
しかし芽のようなものを射出し、地上に被害を与えている。
とりあえずジプスのできることは〈芽〉を処理するだけで、カナデたちは東京支局で待機ということになった。
またヤマトが名古屋支局を放棄すると言ったものだから、ロナウドはジョーと一緒に大慌てで名古屋へ戻って行った。
彼らはジプス局員の代わりとして名古屋支局と名古屋の街を守ってくれることだろう。
◆
メグレズは東京湾の海中にいる…はずだった。
しかし状況が変わり、司令室にはお馴染みのメンバーが集まっている。
「測量によると、メグレズは徐々に移動している。まもなく海面へと浮上するようだ」
事実を淡々と告げるヤマト。
「さらにメグレズは3体いることがわかった。同時に動き出したようだな。座標は東京・名古屋・大阪。浮上の後タワーを目指して侵攻するだろう」
ダイチやアイリたちの「またタワー?」「どうしてタワー?」というざわめきをヤマトは視線で一蹴する。
「厄介なことにこのメグレズは互いを補完する性質を持っている。…つまり同時に倒さないと奴らは再生するということだ」
ここでヤマトは声を張り上げて宣言した。
「いいか、我々は部隊を3つに分けて3体のメグレズを同時攻撃する!」
そして編成が発表された。
大阪はカナデ、ダイチ、イオ、ケイタ、ヒナコ。
名古屋はロナウド、ジョー、オトメ、フミ、アイリ、ジュンゴ。
そして東京は…
「私ひとりで十分だ」
ということで、ヤマトがひとりで迎え撃つということになった。
「…いいか、3体同時に倒さなければ意味がない。各都市との連絡を怠らずに必ず撃破しろ」
ヤマトの指示で各サマナーたちは大阪と名古屋へ散って行った。
◆
「まだ来てへんのか」
大阪港に到着したカナデたちだったが、メグレズの姿はまだない。
ケイタは早く戦いたいのか不服そうだ。
「力を合わせてがんばりましょうね!」
カナデが沈鬱な空気を変えようとして明るく振る舞うと、ヒナコもそれに合わせてくれた。
「そやな。しっかりやらんとあの局長さんに雷落とされそうやわ」
しかしケイタは苛立って、ダイチに当たるようになった。
「俺の邪魔すんな。自分、弱い悪魔しか呼び出せんのやからな」
ケイタがダイチに言うが、ダイチは何も言い返せない。
ベルセルクを使役するケイタとアガシオンやオバリヨンのダイチでは、ドーベルマンとチワワくらいの差があるのだから仕方がないのかもしれない。
そんなダイチのしゅんとした様子を見ていて、カナデは思った。
(昔からダイチはそうなのよね…。普段は陽気で周囲のムードを明るくするんだけど、本人が落ち込むと周りを巻き込んで雰囲気を暗くする。放っておくといつまでもウジウジしているから、つい我慢できなくなって慰めてしまう。それがいけないのかな…?)
とはいえ放っておけないので、カナデはダイチに声をかけた。
「ダイチ、もっと自分に自信を持ちなさいよ。そうやってすぐに落ち込んだりウジウジしているから、いつまで経っても成長しないのよ」
「だって…」
「昨日も言ったけど、人間には向き不向きってものがあるの。ダイチはムードメーカーだから、強い悪魔を使役することよりも、仲間が安心して戦えるような雰囲気作りをするのがあなたの仕事じゃないかって思うんだけど」
「……」
「イオさんだってダイチがいるから戦えるんだって言ってたの忘れた? 自分の役割を果たしなさい!」
「わかった! 俺は俺なりの戦いってものを見せてやるよ」
ダイチがそう言った次の瞬間、彼は満面の笑みを浮かべ、バックに星がキラキラと散った。
(うわっ…まただよ、このパターン。アルコルは本当にエフェクト機能を削除したのかしら? ヤマトの場合はそれなりのイケメンだからキラキラエフェクトも似合うけど、ダイチには全然似合わない。悪いけどロナウドさんだったら似合わないどころではなく、「うぁ…」っていう感じで、わたしの彼に対する好感度はダダ下がりになるわね。まあ、とにかくダイチの士気が上がったのだからまあよしとしようか)
◆
前触れもなく海から衝撃音がしてメグレズが浮上した。
「うわっ、デカッ!」
ヒナコがその巨大さに驚いて思わず声を上げる。
カナデたちは手持ちの悪魔を召喚すると、メグレズに向かって走り出した。
しかし大量の雑魚悪魔の群れが背後に湧き出て来た。
こうなると二手に分かれて戦うしかない。
「雑魚はわたしとダイチで片付けるから、みんなはメグレズを!」
カナデは召喚したスザクで雑魚悪魔を殲滅していった。
ダイチも力が足りないとはいえ奮戦している。
その隙にヒナコたち3人はメグレズまで辿り着き、攻撃を開始した。
激しい攻撃の後、メグレズが震える。そして移動を開始した。
「カナデちゃん、そっち行ったで!」
「はい、任せてください!」
ヒナコは状況確認のためか携帯を取り出して電話している。
会話の様子から察すると、名古屋でもメグレズの〈芽〉の攻撃によって苦戦しているようだ。
その間にカナデはメグレズの眼前までやってきた。
「行くわよ!」
ビャッコとスザクによる同時攻撃でメグレズが震えだす。
その時、嵐が巻き起こった。
「きゃっ!」
カナデは強風で吹き飛ばされそうになるが、スザクが翼で受け止めてくれたのでダメージを受けることはなかった。
「大丈夫か、主?」
「ありがとう、スザク。大丈夫よ」
カナデが礼を言うと、スザクはそっと彼女を地面に下ろしてくれた。
メグレズは再び動きだし、同時に〈芽〉を射出した。
「芽は俺がやる」
ケイタはそう言って芽まで走って行った。
そしてダイチと合流するとふたりで〈芽〉に攻撃を仕掛けた。
仲が悪いように思えるふたりだが、連携しながら上手い具合に〈芽〉を潰していってくれる。
おかげでカナデはメグレズ本体の攻撃に専念できるようになった。
「…止まった?」
ようやくメグレズの動きが止まったところでカナデの携帯が鳴る。アイリからだ。
「カナデ、大阪はどう!?」
「今メグレズの動きが止まったわ」
「名古屋も同じ。東京はどうかしら?」
ここでヤマトからの通信が入る。
「準備は整ったか、各員ご苦労…奴の息の根を止めろ!」
一気に畳み掛けた総攻撃に、メグレズは霧散した。
静まり返る現場に、ヤマトの声が告げる。
「…作戦成功だ」
その言葉に全員歓喜した。
そして皆で勝利を喜びながら全員で大阪本局へ戻ったのだった。
◆
ロナウドとジョーは名古屋に残り、あとの民間人サマナーたちはすべて東京支局に帰還した。
明日のセプテントリオン戦に備えるためだ。
そしてカナデはヤマトに呼び出されて彼の私室へと向かっている。
その途中、彼女は廊下でフミに出会った。
「お疲れさまです、フミさん」
「カナデもお疲れさん。で、どこへ行くの?」
「ヤマトの部屋です。お茶を飲みたいって言うので淹れてあげに行くんです」
「ふ~ん…」
「いろいろ言ってやりたいこともありますから、ちょうどいい機会だし」
「言ってやりたいこと?」
「はい。わたしはジプス局員や民間人のサマナーたちを無茶な作戦に平気で投入するというヤマトのやり方に疑問がありますし、ポラリスとの邂逅の後にどんな世界を創ろうとしているのか知りたいんです。彼の意思がわからなければ、彼と共に戦うことが正しいのかそうでないのか判断できません。それにわたしの勝手な行動にはヤマトも言いたいことがたくさんあるでしょう。だからそれを受け止め、その上で弁明しようと思っています」
「そうか…あんたも局長のことを冷酷で無慈悲な人間だって思っているクチなんだね。あの人は目的のためなら手段を選ばないから。でもそれって当然じゃない? それに局長のやり方はたくさんの犠牲を出しているように思えるけど、結果的には最小限の犠牲で済んでいる。1万の犠牲を出さずに済むなら、10や20の犠牲は仕方がないことだよ」
「それはそうかもしれません。でも10の犠牲をゼロにはできなくても、9や8に減らす方法をみんなで模索すべきだとわたしは思います。ヤマトひとりで何でもできるものじゃありません。今日だってヤマトひとりだけではメグレズを倒せなかったわけだし」
「う~ん…それは正論だね。でも局長は誰かの意見を聞いて自分の計画を変更するような人じゃないよ。…もっともあんたの言葉なら聞く耳を持つかもしれないけど」
フミはそう言って一呼吸おくと意味深な目で続けた。
「ひとついいことを教えてあげる。昨日、あんたが名古屋で大ピンチだった時に、局長が助けに行けたのは転送ターミナルを使ったからだって知ってる?」
「はい。本人がそう言っていました」
「でもターミナルはずっと故障中で使えなかったんだよね。それをあたしが調整したんだけど、起動テストもしないで局長は使ったんだ。無茶なことするよね? アレって人間を分子の単位にまで分解し、目的地で再構成するっていうシロモノなんだけど、一歩間違えれば分子化した肉体が元に戻らずに死んでいた。そんな危険を顧みずにあんたを助けようとしたんだから、余程あんたのことが大事なんだね」
「……」
カナデは言葉を失った。
たしかにあの時は名古屋支局が陥落しそうになっていた。
でもだからといって自分が死んでしまっては元も子もない。
(何が彼をそこまでさせるというの?)
そこまでするヤマトの覚悟や信念がカナデには想像もつかない。
「ま、局長が何を考えているのかわからないけど、少なくともセプテントリオンと戦って死んでいった人間の命を蔑ろにするような人じゃない。彼らの命の重みをひとりで背負っていく覚悟で戦っているって感じだね」
フミの言葉にカナデは心臓をぎゅっと掴まれた気がした。
「それってどういう…?」
「知りたかったら本人の口から聞くといいよ。局長は実力主義を掲げていても、自分の認めた人間なら対等に話をしてくれるはずだし。じゃあね」
そう言ってフミはさっさと行ってしまった。
フミの言葉でカナデはヤマトという人間がますますわからなくなった。
人間というものは見る角度によって様々な光を放つ多面体のようなものだとカナデは考えている。
(これまでわたしが見てきたのはヤマトの冷徹な部分だけで、それだけで峰津院大和という人間を判断してはいけない。他人の言葉ではなく、本人の言葉で相手のことを見極める…それが上手な人間関係を築いていく上でもっとも大切なもの。だからヤマトとはきちんと話をしなきゃ。そうしなければわたしは選択を誤ることになるかもしれないのだから)