DEVIL SURVIVOR 2  With you forever.   作:ルーチェ

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5th Day 驚愕の木曜日 -3-

 

札幌はすでに冬の様相で、東京に比べてかなり肌寒い。

露出部分の多い衣装のヒナコがここに来たら参ってしまうのではないかと思うほどだ。

頭上は厚い雪雲に覆われており、上空の様子はまったくわからない。

カナデはジプスのコートが初めて役に立ったと感じ、白い息を吐きながらヤマトのもとへ駆け寄った。

 

「お待たせ、ヤマト。カーマを連れて来たわよ」

 

「ご苦労だった」

 

ヤマトの言葉は少なく、これまでと変わらないが、その言い方と表情からはカナデを労う気持ちが感じられる。

昨日のタコ焼きの効果が出てきたのかもしれないとカナデは思ったが、実際は例の写真の効果が大きい。

 

「それにしても静かね…。民間人の避難は終わったの?」

 

「…いや、その必要はない」

 

「それ、どういう意味?」

 

「今朝の時点でこの街は無人だった。今、北海道にいるのはこの場にいるジプスの人間だけだ」

 

「……」

 

ヤマトはそれ以上何も言わなかったが、カナデには現状が理解できた。

北海道はすでに殆どが無の侵食によって消え失せてしまっている。

現在ではテレビ塔を中心とした半径十数キロメートルの範囲がかろうじて残っているだけ。

そしてその浮島のような土地にはもう生存者はいない。

ポラリスによる一撃と、それに伴う悪魔の出現は東京と大差はなかったはずだ。

しかしその後に社会不安による流言、暴動、強奪、破壊といったものが人間を狂わせて命を奪っていった。

札幌以外の都市でこのような悲劇が起きなかったのは単に運がよかったで、一歩間違えば札幌と同じ道を辿ったことだろう。

 

「カナデ、我々がやらねばならぬのは死者を悼むことではなく、人類の未来を切り開くことだ。さあ、カーマを呼び出せ」

 

(たしかにそうね。今やらなければならないのは、アリオトを倒すこと。もうすぐアリオトが札幌上空に到達する。その前にカーマを所定の位置にセットしなければならない。それがわたしの仕事だもの)

 

ヤマトは名古屋にいるマコトに連絡を取っている。

その様子だとシヴァの方はすでに定位置に着き、ヒナコが日舞でご機嫌取りをしているらしい。

 

「仕事をしてもらうわよ」

 

カナデはカーマを召喚して言った。

カーマは例の龍脈の鎖で縛り上げ、逃げられないように鎖の端を地面に固定してある。

 

電話を終えたヤマトがカナデの隣に立ち、カーマに向かって言う。

 

「貴様の役目は彼女から聞いていると思うが ──」

 

「イヤ、なのネ~。シヴァなんか撃ったら、またパスパタを撃ってくるのネ~! もう二度とお断りなのネ~」

 

ここまできても、まだカーマは協力を渋っていた。

 

「穏便に済ませたいと思っていたが…仕方がない」

 

ヤマトはそう言って合図をするように右手を軽く上げた。

すると周囲にいた局員たちが一斉に携帯をかまえる。

それを見たカーマは逃げようとして暴れるがまったく効果はない。

そんなカーマにヤマトが黒い笑みを浮かべて言った。

 

「カーマよ、貴様には選択肢がある。今ここで我々に消されるか、我々に協力するかの二択だ。選ぶ余地はないと思うが…どうする?」

 

「ちょっ…待て! 待つのネ、人の子よ!…ひ、ひとつだけ確認っ! シヴァたぶん怒るのネ、そしたら貴様カーマを守るか、なのネ~」

 

「無論だ。貴様が私の役に立つのなら、それなりの礼儀で接するさ」

 

カナデは心の中で苦笑した。

彼女はこの作戦内容を知っており、この後カーマがどうなるか知っているからだ。

シヴァのパスパタが放たれたと同時にカーマを上空へ放ち、アリオトのコア付近に到達した瞬間に射抜かれる。

そしてパスパタはアリオトのコアをも同時に射抜くことになるのだ。

しかし悪魔には死という概念はなく、たとえHPがゼロになっても一定の時間が経過すれば全回復するのだから問題ない。

よってカナデには罪悪感はこれっぽっちもない。

 

しばらくしてカーマは渋々だが承知した。

 

「う~…よし、やるのネ。どうせやるなら、潔くなのネ」

 

「期待しているぞ」

 

ヤマトはにやりと笑うと作戦開始の号令を発した。

 

「作戦開始!」

 

作戦が開始された。

まずカーマが矢を放つ。

続いて「着弾まで30秒」という報告の次の瞬間、ヤマトは局員たちに退避を告げた。

 

「総員、退避!」

 

「や、約束が違うのネ!?」

 

局員たちが逃げようとしているのを見てカーマが慌てる。

 

「いや、違わない。貴様亡き後の日本は必ず守る。この国の礎になることを誇りに思いたまえ」

 

ヤマトが地面に固定していたカーマを解き放った。

戒めを解かれたカーマは勢いよく上昇していく。

そして数秒後、上空から轟音が響いた。

カーマの断末魔の悲鳴はそれにかき消されてしまったようで地上には届かなかった。

様子は見えないが、気配で成功したことは地上からでもわかった。

 

「上手くいったようだな。急いで避難するぞ」

 

「了解」

 

ヤマトと一緒に最後までその場で状況を確認していたカナデは急いで札幌支局まで退避したのだった。

 

カナデとヤマト、及びジプス局員全員が転送ターミナルまで避難した直後、アリオト本体の落下で大きな地響きが起きた。

全長50キロメートルという巨大な本体が地上に落下したのだから、その衝撃は半端ではない。

アリオトは撃墜できたのだが、落下の際に外殻が破壊され、地上は毒素が蔓延していた。

とはいえ分析の結果、毒素の成分はごく弱いもので時間が経てば人が活動できる程度になるということだ。

解毒剤の方は東京支局での作製が終わり、マコトをリーダーとした戦闘部隊が札幌に向かっているという。

アリオト本体の落下でテレビ塔は大ダメージを受けてしまったため、結界も消失した。

まもなく北海道の土地がこの世界から消えてしまうことだろう。

しかしそれを憂いている暇はない。

 

 

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