DEVIL SURVIVOR 2  With you forever.   作:ルーチェ

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6th Day 決別の金曜日 -3-

 

夜遅く、ヤマトは招集をかけた。

それは明日のセプテントリオン戦を前にし、サマナーたちがそれぞれ自分の身の振り方を決めておこうという声が上がったからだ。

名古屋からはロナウドとジョーも呼ばれ、13人全員が東京支局の会議室に集合した。

もちろんカナデが誰を選ぶのか…その答えを全員が待っている。

 

まずは誰もが一番気になっていたことの説明から始まった。

 

「すべてのセプテントリオンを倒した時、ポラリスに謁見する道が示される。しかし私が知っているのはここまでだ。示される道がどのようなものかは私も把握していない」

 

「ということは、貴様が抜け駆けすることはできないということだな?」

 

ロナウドがヤマトに対して敵意丸出しの言い方をする。

 

「そうだ。安心したか?」

 

ヤマトも刺々しい視線をロナウドに送りながら答えた。

このふたりが顔を合わせて話をするのは、名古屋支局がフェクダに襲撃された時以来だ。

あの時は時間がなかったが、今回は時間がある。

誰にでもすさまじい言い争いになるだろうという予想はでき、そしてまもなく両者の戦いは幕を開けた。

 

「俺は貴様の野望など断じて認めない! 貴様を打ち倒し、すべての人間が平等で平和に暮らせる社会を創るぞ!」

 

「平等で平和だと? いかにもクズが考えそうなことだな」

 

「何っ!?」

 

「平等など怠惰な人間の常套句! そんなものは社会に甘えたクズを量産するだけだ!」

 

「そんなことはない! ひとりがみんなのために、みんながひとりのために頑張る…。そうやってお互いが助け合う社会こそ、誰もが理想とする世界ではないか!」

 

「ふん、勝手に吠えていろ。相手にする気も起きん」

 

ヤマトとロナウドの舌戦に、真っ先に参戦したのはジョーだった。

 

「俺はロナウドの言う世界に賛成だな。…俺さ、重い病気を抱えたカノジョがいてさ、病気のせいで不遇な目にあってきたのをいっぱい見てきちゃったんだよね。だから強者だけが幅を利かせる世界なんて絶対に認めたくない」

 

「あたしも…ロナウドはあまり好きじゃないけど、1番とか2番とか、そんなのない世界になるならそっちの方が幸せだと思う」

 

アイリの言葉にオトメも頷く。

 

「わたしも共感できるかな…。家族も友達もみんなが同じように幸せな方がいい」

 

ここまでの流れだとロナウド側が有利なように見えるが、もちろんヤマトの意見に賛成する者もいる。

 

「俺はこっちやな。強いもんが偉い。シンプルや」

 

ボクシングをやっているだけあってケイタは力がすべてだという考えを持っている。

 

「ま、平等なんか、努力しないヤツの言い訳だよね」

 

フミらしい言い方だ。

そしてマコトもヤマトの側についた。

 

「わたしはジプスの人間だ。最後まで局長に従う」

 

自分の意思を示した人たちはそれぞれ自分のリーダーとなる者の後ろに立った。

残ったのはダイチ、イオ、ヒナコ、ジュンゴ、そしてカナデだ。

 

「俺は…仲間同士戦わずに済む道を探すべきだと思う」

 

突然、ダイチが立ち上がってそう言った。

これまですすんで何かをすることもなく、ただ言われたことを渋々やっているだけの存在だったから、彼が自ら意見を言うなど誰も想像もしていなかった。

 

続いてイオがダイチを支援する。

 

「わたしは志島くんの意見を支持します。峰津院さんも栗木さんも言うことが極端すぎます。だからどちらの考えにも賛成できません」

 

彼女の意見にヒナコが頷く。

 

「そうや。これまで一緒に戦ってきた仲間同士が争うなんておかしいで。話し合いでなんとかならんの?」

 

「仲間が、戦う…。そんなの、ダメだ」

 

ジュンゴも加わって言った。

 

「ならば君たちの目指すものを言いたまえ」

 

ロナウドが厳しい目つきで訊く。

続いてヤマトもダイチを軽蔑するような視線を送りながら言った。

 

「ふん、所詮貴様らのような愚民に私の崇高な理想は理解できまい。そんな輩に自身の意見などあるはずもない。賛成できないからという理由で、反対しているにすぎないのだからな」

 

「……」

 

「ほら、何も言い返せまい」

 

ヤマトはそう言うと、今度はカナデに訊いた。

 

「カナデ、誰を選ぶか決まったか?」

 

カナデはダイチの意思を聞き、3つの考えが揃ったところで答えを出すつもりでいた。

ダイチがまともな考えを持つに至ったのは彼女にとっても想定外で、返事をするのにほんの少しだけ迷ってしまったくらいだ。

しかし彼女の答えはすでに決まっていて、それ以外の道はありえない。

 

「わたしはヤマトと一緒に世界を破滅から救う道を進むわ」

 

カナデの答えを聞いた者たちの反応は3つだった。

当然だという顔をする者。

あからさまに敵意を見せる者。

そして期待を裏切られたという感じで落胆する者。

一番ショックを受けていたのはダイチだった。

 

「カナデ、君はヤマトのやっていることが正しいと本気で思っているのか?」

 

「わたしを助けてくれたのも、仲間を大事にしているからですよね? その仲間と戦うんですか?」

 

「局長さんの言っとることは無茶苦茶や。そないな考えに賛同するって、あんた、見損なったわ」

 

「カナデ…仲間と、戦うの?」

 

イオ、ヒナコ、ジュンゴも続けてカナデを非難する。

カナデは黙って彼らの言葉に耳を貸し、その上で答えた。

 

「仲間であろうとも、必要であるなら、わたしは戦うだけです」

 

こうはっきりと宣言されたなら、ダイチも腹をくくるしかない。

 

「…わかった。でも俺はヤマトの考えに従うことはできない。カナデと戦うのも嫌だ。だから無い知恵絞って戦わずに済む方法を探すよ」

 

「これで決まった、な」

 

ヤマトはそう言って、その場にいた全員の顔を見渡した。

 

「では明日、セプテントリオンを倒し、最終的に勝ち残った者の意思が人類の総意ということでよいな?」

 

全員が黙って頷いた。

それはセプテントリオンが出現する前に人間同士での戦いが行われる可能性を示唆している。

そして負けた者は勝った者の陣営に加わるか、もしくはこのゲームから降りるということに決まった。

このルールはヤマトが言い出したことだが、ロナウドもこれには異議を唱えずに了承した。

ヤマト陣営は大阪本局を本拠地と決めて、カナデたちを連れて東京支局を出て行った。

それは東京支局の放棄を意味する。

3都市の結界が消えた今、本局さえあればセプテントリオンとの戦いやポラリスとの謁見に支障はないというヤマトの結論でもある。

ロナウドの陣営は名古屋支局へ戻り、そしてダイチたちは主のいなくなった東京支局に残ることとなった。

 

 

 

 

大阪本局へ着くと、カナデはすぐにヤマトに局長室へ呼び出された。

 

「お前が私を選ぶのは当然のことだが、少し意外な気もした。これまでの言動から、志島や新田らと手を組んで、私に敵対する可能性も捨てきれなかったからな」

 

上機嫌のヤマトにカナデは返した。

 

「わたしは正しい選択をしただけ。今さら話し合いで何とか解決しようなんていう甘い考えには付き合いきれないわ」

 

「フッ…そのとおりだ。我々には時間がない。それに連中は何の取り柄もなく、サマナーとしてもたいした戦力にもならぬ。お前に切り捨てられたと知った時の志島の顔を覚えているか? あの哀れな奴の顔…弱者そのものだ」

 

「……」

 

「お前は私が見込んだとおり聡明で、善悪を見極める力を持っている強者だ。これからもずっと私のそばにいろ。そうすれば正しき者に導かれた清廉で高尚な世界は完成され、その頂点で思う存分己の力を発揮できるようになるぞ」

 

「わたしは別に頂点に立ちたいなんて思っていないわ。…ところで明日から三つ巴の戦いとなるわけだけど、わたしにいい案があるの」

 

「いい案?」

 

「そう。まずダイチたち東京陣営を無力化するの。仲間同士が戦いたくないなどという軟弱な輩だもの、オトメ先生あたりに上手く唆されて名古屋陣営に取り込まれる恐れがあるわ。雑魚ばかりでも徒党を組まれると面倒だから、さっさと始末しておいた方がいいかな、って。それでちょっとお願いがあるんだけど、聞いてもらえる?」

 

「言ってみろ」

 

「えっとね…」

 

カナデが簡単に作戦を説明した。

 

「面白い案だ」

 

「でしょ? 可能な限り無駄な労力を使わず、それでいて最大限の効果を生む作戦よ。それで東京陣営を解散させて、次は名古屋陣営なんだけど、こっちは少し難しいかな。東京陣営と違って徹底的に叩き潰さないと絶対に負けを認めないだろうから」

 

「ならば徹底的に叩き潰せばいい。お前が好きなように戦えるよう、お膳立てはしてやる」

 

「それと教えてもらいたいことがあるのよ」

 

カナデはヤマトから人間による攻撃魔法と防御魔法、悪魔にスキルを付与する方法などを教えてもらった。

彼女の霊力レベルならさほど難しいことではないようで、かなりの戦力増強になるだろう。

 

「ありがとう。すごく勉強になったわ。じゃ、ヤマトはセプテントリオン対策の方に専念してね。…で、話はこれでおしまいかな? 今夜はいろいろあってもう遅いから、早く寝ておきたいのよ」

 

「あ、ああ…」

 

なんだか歯切れの悪い感じのヤマト。

 

「まだ何か話があるなら聞くけど、手短にね」

 

「いや、話はあるが、それはすべてが終わった後でかまわない。明日に備えて休んでくれ」

 

「うん。おやすみ、ヤマト」

 

 

 

 

カナデは大阪本局に一室を与えられた。それは東京と同じで幹部用の部屋だ。

ひとりになり、彼女はこれまでのことを振り返っていた。

 

(ヤマトはわたしの真意に気がついていない。ううん、気がついていても、わたしなんて取るに足らないものだと考えているのかもしれない。どちらにしてもダイチたちには誰にも手を出させないわ。あんな言い方をしたけど、彼らは立派だと思う。この状況においても仲間と結んだ絆を一番大切にしているんだから。彼らにはヤマトやロナウドさんのように具体的に目指すものはないけど、ダイチがあんな立派なことを考えるようになったなんて、信じられないけどすごく嬉しい。まあ、逃げに入っているとも言えなくないけど。それはともかく明日になれば3つの陣営が信念の強さをかけて戦うことになる。ダイチたちとは戦わずに済むだろうけど、ロナウドさんたちとの直接戦闘は避けられそうにない。でもだからといって今更計画を変更するなんて無理。もう後には退けない。それに重要なのは過去ではなく未来だもの)

 

「カナデ、とうとう始まったね」

 

アルコルがカナデに話しかける。

勝手に部屋の中に侵入するという彼のマナー違反に慣れてしまった自分が恐ろしいと、カナデはしみじみ感じてしまう。

 

「こんな遅い時間までわたしのことを監視しているのね?」

 

「うん。私は君のおはようからおやすみまでずっと見守っているから」

 

どこかの家庭用品メーカーの企業スローガンみたいなことを言うアルコル。

ストーカーの一番タチが悪いところは、本人がまったく悪びれていないということ。

特に彼の場合は人間の常識が通用しない部分があるからどうしようもない。

それにカナデにとって力強い味方であるから、彼女も邪険にもできないのだ。

 

「こうして君とふたりでゆっくり話ができるのも今夜だけだろうから、今のうちに話したいと思ってさ」

 

(そう…明日、最後のセプテントリオンを倒したら、ポラリスとの謁見が待っている。まもなく11時の鐘が鳴るから、その明日は目前に迫ってきているんだ)

 

カナデは身震いした。

覚悟はできているといっても、自分の考えた作戦が成功するかどうかは大きな賭けで、その結果は全人類に及ぶのだから。

しかしその不安や迷いを悟られまいとして、彼女は明るく振舞うことにした。

 

「11時の消灯時間までは付き合うけど、鐘が鳴ったら出て行ってちょうだい」

 

「ああ、わかっている。君も明日の戦いを前にして、ゆっくりと身体を休めないといけないからね」

 

「ヤマトと同じことを言うのね? もっとも彼とあなたとでは意味が少し違うけど」

 

「ヤマトは君こそが自分の理想を理解し、支えてくれる唯一の人間だと信じている」

 

「そんな彼を裏切るようなことをするわけだから、少し心が痛むわ」

 

「でもやるのだろ?」

 

「もちろん。彼にとっては大きなお世話なんだろうけど、わたしは彼を放ってはおけないのよ。彼って昔のわたしに似ているところがあるから」

 

「そうだね。君も子供の頃は孤独だった。他人とは交わらず、いつもひとりだったね」

 

「ええ。わたしは物心ついた頃に両親を亡くした。周囲の大人たち、特に同世代の子供を持つ親たちはわたしに対して、親を亡くした可哀想な子だから優しくしてあげなきゃいけないという態度で接してきたわ。逆に親のいない子だからって、自分の子供にわたしと一緒に遊んじゃダメだと言う親もいた。親がいない子は躾がきちんとされていないから素行が悪いという考えなのよ。親と死に別れたのはわたしのせいじゃない。その理不尽な理由でいろいろ差別されることがあったから、自然と距離を置くようになってしまったわ」

 

「……」

 

「でもそれって自分が嫌だと思うものから逃げていただけ。親のいない可哀想な子だから優しくしてやるという考えを持つ人間には、親がいてもいなくても他人には優しくするのが当然であるという行動を示して見せた。それに素行が悪いのは親がいるとかいないとかと関係なく、本人の品性とか人格が重要なんだって証明した。登下校の際には出会う大人にきちんと挨拶し、学校の勉強もしっかりとやって成績もトップクラスだったから、自然とわたしを見る目が変わってきたわ。そうやって自ら社会に飛び込むことで、わたしは周囲から評価されるようになった」

 

「……」

 

「たぶんヤマトは他人と交流する機会を持つことができず、おまけに優秀過ぎたから他人と自分は違うものだと思っているのよ。自分と同レベルの人間でなければ相手にせず、人間を『自分にとって利用価値があるか否か』で判断している。それじゃ友人なんてできはしない。彼は友人なんて必要ないって言うけど、わたしはそうじゃないって断言できる。わたしは17年の人生経験で『孤独は人間を弱くし、仲間の存在が人間を強くする』という真理を見つけたわ。だからそれを彼に教えてあげたいの。まあ、そのためには多少の荒療治が必要になるけど」

 

「でも君の願いが叶うとは限らない。君が彼に勝てるかどうかわからないのだし、勝ったとしても彼は永遠に理解してくれないかもしれない。いや、今以上に他人を信用しなくなるかもしれないよ」

 

「それでもやらないよりやって後悔する方がマシだもの。わたしの決心は変わらないわ」

 

カナデがそう答えると、アルコルは憂いを帯びた微笑みを向けた。

 

「そういう君だから、私は…」

 

彼の声は急に小さくなり、後半何を言ったのか聞き取れなかった。

 

「何て言ったの? 聞こえなかったわ」

 

「うん、こっちの話だから」

 

そう言って彼は口を閉じた。

ただカナデの顔を見ながら静かに微笑んでいる。

これが普通の男性であったら気持ちが悪いだけなのだが、彼の視線にはそれがない。

やはり彼が人類の監視者であるからなのだろうかと、カナデは思った。

 

「そういえば、あなたはわたしのことをずっとストーキングしているみたいだけど、わたしの子供の頃を知っているってことはずいぶん昔から追い回していたってこと?」

 

「いいや、そうではない。君に興味を持ったのは2年くらい前だ。ちょうど君を育ててくれた親類が亡くなって、君が天涯孤独の身になった頃だよ。その頃から君は強く輝きだした」

 

「どういうこと?」

 

「人はね、人生の転機においてその真価がはっきり顕れるものなんだ。その時の選択で人は残りの人生を踏み誤ることもある。君と同じように育ててくれる親類縁者がいなくなって孤児となる子供は多い。その場合、彼らの多くは世の中を恨んだり、自分の身の上を嘆くばかりだ」

 

「そうね。でもそれはしょうがないのよ。まだ右も左もわからない状態で世間の荒波に放り出されたら、自分は悪くない、世の中が悪いって思いたくなる。そうしないと辛くてたまらないもの」

 

「だけど君はそうならなかった。世間の荒波に正面から立ち向かい、くじけることなく戦い続けている」

 

「ええ。人生の序盤で後ろ向きになったら、残りの70年とか80年という長い時間も後ろ向きになりそうだもの。自分の不幸を嘆いたり、他人を羨んだりする暇があったら、今の状況を改善する道を探す方がはるかにいいと思うのよ。テストの点が悪かったらもっと勉強すればいいし、泳げないなら練習をして泳げるようになる。簡単なことじゃない?」

 

「君のそういうポジティブなところは好きだよ」

 

「フフッ、ありがと」

 

「そんな君だから誰よりも輝いて見えて、私は幼い頃の君に興味を持った。私はアカシック・レコードの記録の中から君の過去を探し出して、君がたくさん泣いた後にひとりで立ち上がる姿を見たよ。そして君が自分の可能性を信じ、絶え間ない努力を重ねていることを知った。そんな君なら不可能を可能に変えてくれると確信したのさ」

 

「つまりわたしを追い掛け回していたのは最近の2年くらいで、それ以前のことはアカシック・レコードの記録を見たってことね。アカシック・レコードっていうのは人類の歴史が記録されている記憶媒体ってこと?」

 

「そうだよ。人類に関するものだけでなく、元始からのすべての事象、想念、感情が記録されている。さらに過去だけでなく君たちが未来と呼ぶものも記録されていて、その中で人間の死に関わることを動画として情報提供したものを、君たちは死に顔動画と呼んでいる」

 

「つまり死に顔動画は未来予想ではなく、確定していた未来の情報だったということなのね。…でもわたしたちはそれを回避することができたわ」

 

「ああ、そうだ。人間はその強い意思や行動によって予定調和の未来を変えてしまうことができる。だから人間は面白い」

 

「面白いって、もう…」

 

その時突然、カナデはこれまで考えもつかなかった名案が浮かんだ。

 

「…そうなると人類の未来の選択肢がひとつ増えることになるわ」

 

「どういうことだい?」

 

「これまでは新世界をどのような形にするのかを考えて、ヤマトは実力主義社会、ロナウドさんは平等主義社会を理想として戦ってきた。でも無の侵食によって人間の住める土地は殆どないし、なにより生き残っている人間の数では種を維持することができないんじゃないかって思うの。だからポラリスに謁見を許されたら、わたしは過去に戻してもらうことにするわ」

 

「何だって?」

 

「ポラリスが世界の管理者だというのなら、アカシック・レコードを操作して神の審判が起きなかった時点にまで戻すのは可能なはず。そうすれば死んだ人間も壊れた街も何もかも元通りになり、わたしたちは普通の生活に戻れるはずよ」

 

カナデは世界を戻すという突拍子もない案を思いついたようだ。

そんな彼女を見て、アルコルは目を細めて微笑む。

 

「やはり君はすごい人間だよ。ポラリス、つまり管理者というのは天の玉座にあり、アカシック・レコードを操作、編集することが可能だ。ヤマトや栗木ロナウドは任意の思想やルールを世界に定着させる『世界改変』を目指しているが、君は世界の過去データを現在に上書きすることで発生した事象をリセットする『世界回帰』を望んでいるのだね?」

 

「そのとおり」

 

「しかしそれには問題がある。世界を戻すということは、君たちはこのセプテントリオンとの戦いのことを覚えていない状態に戻るということだ。つまりもう一度同じ災厄を引き起こす可能性が高いということになる」

 

「それは承知の上よ。わたしたち人間が変わらなければ、ポラリスはまたセプテントリオンを送り込んで人間を滅ぼそうとするでしょう。そしてヤマトは変わらずに実力主義社会の実現を目指して、ロナウドさんは平等主義を掲げ、人間同士が同じ戦いを繰り返すだけになる。それじゃ意味ない。でも記憶…脳に蓄積されたデータが失くなったといっても、経験したことは身体に深く刻み込まれていると思うの。都合のいい考え方だけど、予定調和の未来を変えられるなら過去だって変えられるはずよ」

 

「それが君の17年の歩みと、この6日間で経験したことから導き出した答えなんだね?」

 

「そうよ。わたしがやろうとしていることが正しいことなのかわからないけど、わたしは正しいと信じて行動するだけ。まあ、明日の戦いで最終的な勝利者にならなければ話にならないから、今夜はここまで。…って、ほら11時の鐘がもうすぐ鳴るわよ」

 

ほどなくして大時計が11時を報せる鐘を鳴らした。

 

「名残惜しいけど、ここまでだね。おやすみ、カナデ」

 

アルコルはそう言って音もなく消えたのだった。

 

 

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