DEVIL SURVIVOR 2  With you forever.   作:ルーチェ

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7th Day それぞれの土曜日 -2-

カナデはヤマトに命じられ、一緒に大阪本局の書庫でベネトナシュ戦に役立ちそうなものを探していた。

先の戦闘で疲れてはいるものの、ゆっくりと休んでいる暇などないのだ。

 

「こっちには目ぼしいものはないみたい。ヤマトの方はどう?」

 

「こちらにもない」

 

「はあ…ポラリスも最後の最後にとんでもない怪物を送り込んできたわね。魔法を封じられたことで、こちらには悪魔しか戦う手段がなくなるというのに、その悪魔を強制帰還させてしまうという最凶のスキルを発動するんだから。アリオトよりもタチが悪いわ」

 

「しかし何か手立てはあるはずだ。文句を言わずに探せ」

 

「こうなるとアレしかないのかしら…?」

 

「アレ、とは何だ?」

 

カナデの呟きにヤマトが反応した。

 

「ああ、いや…こっちの話だから気にしないで」

 

「そう言われると余計に気になる。さっさと話してみろ」

 

カナデは仕方なく話を始めた。

 

「魔法と悪魔による攻撃が封じられて、さらに人類の近代兵器では効果がないとなれば、あとはスタンドしかないかな…って思っただけ」

 

「スタンド? 何だそれは?」

 

「スタンドとは『生命エネルギーが作り出すパワーある(ヴィジョン)』というもので、持ち主のそばに出現して様々な超常的能力を発揮し、他人を攻撃したり持ち主を守ったりする守護霊のような存在のこと。まあ、一言で言えば超能力が具現化したものってところかしら」

 

「そんな能力者がこの世に存在するのか!?」

 

「たぶんいないわ、こっちの世界には」

 

「は?」

 

「だから気にしないでと言ったでしょ?」

 

「フン、バカバカしい。無駄口叩いでいないでさっさと仕事をしろ」

 

ヤマトはカナデを睨みつけ、再び分厚い本に視線を落とした。

 

(はあ…。ヤマトにうっかり聞かれちゃうなんて。でも本当にス○ープラ○ナにオラオララッシュしてもらったら、セプテントリオンくらい倒せそうなんだけどね…。いくら名案が浮かばないからって、現実逃避するなんてわたしらしくない。ほら、こんなことしてたらそれこそ時間の無駄無駄無駄無駄……無駄ァ! さあ、調べ物を再開よ!)

 

いつまたベネトナシュが攻めて来るかわからない状態で、一分一秒とて無駄にはできない。

カナデは様々な悪魔が載っている古びた本のページをめくっていたが、あるページまで来た時にその指が止まった。

 

「ヤマト、トランペッターはどうかな?」

 

「トランペッター、だと?」

 

魔神トランペッター…それは「ヨハネの黙示録」に登場する神の遣いだ。

天使の類であり、彼らのラッパが鳴らされる時、地上に災厄が起こり、世界を破滅へと導くと言われている。

このトランペッターの発する音色は特殊な音波を持っていて、ベネトナシュが携帯電話で使用する周波数の妨害電波を発しているというのなら、トランペッターの音波によって妨害電波を相殺できるのではないかとカナデは考えたのだ。

 

「フミさんは悪魔が強制的に帰還させられるのは、ベネトナシュがジャミングをしてアプリとの繋がりを妨害したのではないかと言ってたわ。だからトランペッターの音波でベネトナシュのジャミングを阻止するっていう作戦よ。上手くいくかどうかは専門家の彼女に聞いていなければわからないけど」

 

「さすがだな、カナデ。トランペッターなら大阪本局で管理しているはずだ。すぐに菅野に連絡を取るぞ」

 

そう言ってヤマトはフミに計画を伝える。

フミは話の内容を聞いて名案だと断言し、早速トランペッターの召喚準備に取り掛かった。

しかし電話を切ったヤマトは険しい顔をしてカナデに言う。

 

「しかし問題点がひとつある」

 

「わかってる。トランペッターのラッパがベネトナシュだけに影響を及ぼすわけではないということよね。ベネトナシュに対して効果はあるけど、こちらも悪魔が召喚できなくなる。リスクは高くなるけど、それに他に名案がないんだから仕方ないでしょ? とりあえずあなたはこの作戦を進めておいて。わたしは他に手があるか探してみるわ」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「了解」

 

書庫を出ようとしたヤマトをがカナデが引き止めた。

 

「ああ、ヤマト、ちょっと待って」

 

「何だ?」

 

「ベネトナシュを倒したらふたりきりで話がしたいんだけど。あなたもわたしに何か話したいことがあるみたいだからちょうどいいわよね?」

 

「わかった」

 

ヤマトはそう言い残し、書庫を出た。

その後ろ姿を、カナデは申し訳ないという顔で見送ったのだった。

 

 

 

 

カナデはヤマトの期待どおりに東京陣営と名古屋陣営を無力化した。

これでベネトナシュを倒せば自分がポラリスと謁見に望むことになるのは間違いないとヤマトは確信している。

しかし胸の中に暗雲が湧き上がっていた。

 

(カナデは私の期待に応えた。私を選び、私と共に戦おうとしてくれている。この分ならこのままジプスに残り、私の右腕となって働いてくれることだろう。しかしそれだけでは満足できない。…彼女に心惹かれ、公私共にありたいと願う自分がいる。この私が他人のことでこのような悩みを抱えるとは…。そしてなぜ私は…こんなに苦しいのだ…?)

 

ヤマトは初めて生じた戸惑いに答を求めようとするが、その答えを教えてくれる者などいるはずもなかった。

 

 

 

 

再度出現したベネトナシュの反応を追って、カナデたちは赤坂の迎賓館前に辿り着いた。

 

「頼むよ、トランペッター!」

 

「よかろう。盟約に従い、今汝の願いを叶えん」

 

フミの命令でトランペッターが息を吸い込み、軽快でありながらも荘厳な音色を奏で始めた。

周囲に音は響き渡り、そして見た目には変化がないものの、ベネトナシュは間違いなくトランペッターの影響を受けていると判断された。

 

ヤマトの合図で全員同時に携帯をかまえる。

 

「さっさと決着をつけるぞ。…ケルベロス、バアル、ザオウゴンゲン!」

 

「出でよ、ビャッコ、ルーグ、ロキ!」

 

それぞれが自分の使役する悪魔を次々に召喚する。

トランペッターの音色がベネトナシュに効果があるのと同時に、こちら側の悪魔もこれ以上は召喚できない。あとはこの戦力で戦うだけだ。

 

トランペッターの奏でる音色を背に、カナデたちは攻撃を始めた。

しかしベネトナシュも黙ってはいない。メグレズの〈芽〉を射出して反撃する。

ヤマトの攻撃にカナデが援護してふたりで畳み掛けると、ベネトナシュは4つに分裂した。

その中身を見ると、今までに対峙したセプテントリオンの姿がある。

そして上空からアリオトの〈毒素の塊〉が降ってきた。

 

「カナデ、援護するよ」

 

フミがアリオト殲滅戦で使用した解毒剤を散布して〈毒素の塊〉は無効化された。

アリオトの個体の毒素攻撃は封じられたが、状況が好転したわけではない。

アリオトの個体以外の3つのうちのふたつはメグレズとフェクダの個体で、残りのひとつは真っ黒のものだ。

この真っ黒な個体がベネトナシュの本体だろう。

ヤマトはメグレズの個体にザオウゴンゲンの〈百列突き〉で、カナデはフェクダの個体にロキの〈メギドラオン〉で攻撃を加えていくが、ベネトナシュの個体に邪魔をされてしまい十分な効果を出せないでいた。

 

「わかったよ。中身が真っ黒いの奴の弱点は電撃属性だ」

 

戦闘に加わっていなかったフミがPCを操作しながら言った。

ベネトナシュの個体を先に始末すれば、他の個体の攻撃を邪魔されずに済むだろう。

そう考えたヤマトがサマナーに指示を出す。

 

「先にベネトナシュ個体から片付けるぞ!」

 

ヤマトの号令で、カナデはビャッコに命令した。

 

「ビャッコ、ジオダインよ!」

 

ビャッコは体毛に電流を蓄積し、一気に電撃を放った。

するとベネトナシュの個体は大きく揺れて地上に落下した。

さらにもう一撃加えると、それは音もなく霧散していった。

攻撃の邪魔をするものがなくなり、さらに〈人間不可侵〉の効果が切れたことで、人間側が圧倒的に有利となる。

メグレズ、フェクダ、アリオトの順で全員攻撃を加え、ついに7体目のセプテントリオンは崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

これで7体のセプテントリオンを倒したことになるのだが、特に変化は見られなかった。

セプテントリオンとの戦いは終わり、あとは時が満ちるのを待つだけである。

そこでカナデはヤマトとの決着をつけるなら今しかないと考え、ヤマトのいる局長室へ足を向けた。

 

「ヤマト、話をしに来たわよ」

 

「ああ、入れ」

 

入室を許されたカナデはいつもと変わらない表情でヤマトの前に立った。

ヤマトの方はというと、残すところポラリスとの謁見だけということで機嫌はいい。

ただしそれを彼女に悟られまいとして平静を保っている。

 

「よく来たな。まあ、そこに座れ」

 

ヤマトはカナデに座るよう勧めると、自分はその向かい側のソファーに腰掛けた。

 

「お前の働きは見事だった。おかげで7体のセプテントリオンをすべて倒し、後はポラリスとの謁見に臨むのみ。そこでお前には特別に褒美をやろうと思う。何がいい?」

 

「それじゃ、ケルベロスをモフらせて!」

 

ここぞとばかりにカナデが言う。

ヤマトは苦笑いすると、ケルベロスを召喚した。

呼び出されたケルベロスはヤマトの足元に座り、カナデはケルベロスの首に抱きついた。

 

「わぁ~、モフモフ。それにタテガミ、フサフサぁ…」

 

カナデは蕩けそうな笑顔でケルベロスをモフる。

もうこれ以上の幸せはないというほどの笑顔だ。

その笑顔をたたえた彼女のことをヤマトは可愛いと思い、無意識に彼女の頭に手を伸ばして撫でてしまう。

 

「え? ヤマト、どういうつもり?」

 

「あ、いや…つい…。すまない」

 

申し訳なさそうに手を引くヤマトに、カナデは微笑みながら答えた。

 

「別に謝ることじゃないわ。フフッ、今のヤマトっていつものあなたらしくない。セプテントリオンとの戦いが終わったから、気持ちが穏やかになっているのかもね」

 

「そうかもな。しかしまだすべてが終わったわけではないからな、気を抜くことはできぬ」

 

「これからポラリスとの謁見があるのよね」

 

「そうだ。そして実力主義を根底とし、真の強者による清廉な世界を創造する。お前はこのままジプスに残れ。お前なら東京支局長を任せてもよかろう」

 

ヤマトの言葉を聞き、カナデはほんのわずか残っていた希望の灯が消えたことを知った。

 

「つまりヤマトはこれまでの自分の考えを改める気はないということね?」

 

カナデがケルベロスをモフりながら訊く。

 

「何を言っている? 私は自分の信念を曲げることはない。お前はその私を選び、私と共に進むと決めたのではないのか?」

 

ヤマトの答えはカナデにとって想定済みのこと。

最後に本人の口から聞くことで自分を後押しするつもりだったのだ。

 

「やっぱりヤマトはヤマトなのね。だったらわたしもわたしらしくやるしかないわ」

 

カナデはゆっくり立ち上がると、最後に一度だけケルベロスの頭を撫でてから言った。

 

「ヤマト、わたしはあなたのやろうとしていることを認めない。だからわたしはあなたと戦うわ!」

 

いきなり戦うと言い出したカナデに、ヤマトは驚きと怒りが湧き上がってきた。

 

「この期に及んで私を裏切るというのか!?」

 

「そうね…裏切ると言われればそのとおりだけど、わたしは別にあなたに対して恨みとか憎しみとか、そういった感情で戦うって言うんじゃないのよ」

 

「ならばどういうつもりだ!?」

 

「あなたのルールだと、弱者は強者に従わざるをえない。わたしがあなたに勝てば、あなたはわたしに従うしかないってことになるわよね?」

 

「ハハハ…お前が私に勝つ、だと? 本気でそんなことを言っているのか?」

 

「もちろん。…と言いたいところだけど、あなたの強さは承知している。でもわたしだって成長したわ。だからあなたが落胆しないような戦いを見せてあげられると思うの」

 

「よかろう。しかし私が本気を出せばお前は死ぬぞ。それでも戦うと言うのか?」

 

「ええ。つまりあなたが本気を出すってことは、それだけわたしのことを認めてくれているってことでしょ? 喜んで戦うわ」

 

脅しをかけても退く気配のないカナデ。

 

「ならば時間は1時間後の一九〇〇時、場所は通天閣。よいな?」

 

「了解。楽しみにしているわ」

 

カナデは微笑みながら退出した。

その笑顔はけっして虚勢を張っているのではなく、本心から勝機があると思っているからだ。

 

(わたしは自分と仲間を信じている。ここまで生き残れたのがその証拠よ。何度も不可能を可能にしてきたんだもの、人間の意識を勝手に改変させるんじゃなくて、ヤマトという人間をこの手で改変させてやるわ)

 

彼女はポケットから携帯を出すと、11人のサマナーたちにメールを送信した。

 

“一九〇〇時、ヤマトとの最終決戦を行います。わたしたちの戦いの顛末を見届けていただきたいので、通天閣までお越し下さい。”

 

送信し終えると携帯の電源を切った。

そして大阪本局を出ると、静けさを取り戻した夜の街へひとり踏み出したのだった。

 

 

 

 

カナデの前では平静を装っていたヤマトだが、彼女の姿が消えると怒りと悲しみが混ざった複雑な感情が胸の中から込み上げてきたのを感じて顔を顰めた。

 

(くっ…。最後の最後で裏切るとは…)

 

ヤマトの脳裏に浮かんだのは、満面の笑顔でケルベロスをモフっているカナデの姿だった。

 

(私の唯一の理解者だと信じていたというのに…)

 

強く握り締めた拳がブルブルと震える。

 

(私を裏切った代償は高くつくぞ、カナデ…)

 

可愛さ余って憎さ百倍といったところか。

本人は気づいていないが、彼にとってカナデへの想いがいわゆる初恋であった。

それを無残に散らされたのだから激昂するのも当然である。

 

「くそっ!」

 

ヤマトは振り上げた拳を思い切りテーブルに叩きつけた。

その様子を見ていたケルベロスが心配そうな顔で彼を見る。

 

「大丈夫だ。私はこれくらいのことで心を乱すことなどない。カナデもセプテントリオンと同じで、私の前に立ちふさがる障害のひとつでしかないのだ。ならば私は容赦なく叩く!」

 

テーブルを叩きつけた彼の右手が赤くなっているのを見つけたケルベロスは手をペロペロと舐める。

 

「フッ…私を慰めてくれているのか? 私の味方はお前だけだ。お前だけはずっと変わらず私のそばにいてくれる。これまでも、そしてこれからも、お前さえいればよい」

 

ヤマトはそう呟くと、ケルベロスの首を抱きしめた。

すると、部屋のドアをノックする音がした。

 

「カナデか!?」

 

ヤマトはカナデが心変わりして戻って来たのだと思い、彼女の名を叫んだ。

しかしドアの向こうからの声を聞いて落胆した。

 

「局長、入ってもよろしいでしょうか?」

 

ドアの向こうにいるのがマコトだとわかると少しだけ冷静に戻ったようで、ヤマトは何事もなかったかのように椅子に座り直すとマコトを招き入れた。

 

「局長、先ほどカナデが局長と戦うというメールを送ってきました。それもわたしだけでなくフミやオトメ、民間人サマナーたち全員のようです。いったい彼女に何があったんですか? 館内を探しても見つかりませんし、携帯も電源をオフにしているらしく繋がりません」

 

「そうか…。カナデは私を従わせたいらしく、そのために私を倒すのだそうだ」

 

「そ、それは本当…ですか?」

 

「私が嘘をつく理由はない」

 

「……」

 

「所詮カナデは私の手駒のひとつ。セプテントリオンとの戦いが終わった以上、もう不要だ。それに彼女が戦いを望むのだから、私はそれを受けてやるしかなかろう」

 

「本気、なんですね?」

 

「ああ。本気でなければ彼女に失礼だろ? 彼女も本気で私に挑んでくるのだからな」

 

「では、わたしが局長を止めることも、カナデを止めることもできない…ということですね?」

 

「当然だ。お前も私とカナデの戦いを見届けろ」

 

「…わかりました」

 

マコトはそれだけ言うと部屋を出て行った。

 

(これから辛い戦いに立ち会わなければならないのだな…。しかしこの戦いの果てにあるものが希望であると、わたしは信じている)

 

 

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