DEVIL SURVIVOR 2 With you forever. 作:ルーチェ
午前4時を過ぎたところで、アルコルはカナデを転送ターミナルへと案内した。
カナデは自分が眠っている間に起きたことなど何も知らないので、ターミナルの入口にいるヤマトの姿を見つけると即座に足を止めた。
「アルコル、もしかしてヤマトに話した?」
カナデはアルコルを睨みつけながら訊く。
「ヤマトだけじゃなくて、他の仲間たち全員に話したよ」
「なんでそんな余計なことをするのよ?」
「余計なことなのかい? 君は彼らに嘘をついていることで心を痛めていた」
「……」
「だから私は真実を明かし、全員が君の選択に理解を示してくれたよ。一部の人間は納得できないという感じだったけど」
「……」
「彼らは見送りをしたいと言っていたけどそれは君が望んでいないし、私は君とヤマトをふたりきりにさせたかったから断ったよ」
「だからヤマトがここにいるのね?」
「そう。ヤマトには君を見送る資格があるからね。じゃ、私は席を外すよ」
アルコルはカナデを残して姿を消した。
そのタイミングでヤマトが彼女に近づいて来た。
「ヤマト…」
カナデは自分が嘘をついていたことを謝ろうとしたが、ヤマトの名を口にしたとたんに目の奥が熱くなってきて言葉に詰まってしまった。
「何も言わなくていい。もし私がお前の立場であったなら、同じことをしただろうからな」
「…ごめん、な…さい」
「その謝罪は何に対してのものだ?」
「それは…」
「嘘をついたのは真実を話せば反対されるから、だろ? 当然だ。お前を犠牲にして成り立つ世界など誰も望んではおらぬ」
「ううん、犠牲というのは違うわ。人はそれぞれ自分に与えられた役目を果たすために生きているって、わたしは考えているのよ。あなたがジプスの局長であるのは、それがあなたに与えられた役目だから。そしてわたしに与えられた役目が管理者というだけ。わたしだって何かのために誰かが犠牲になるなんてこと許さないもの」
「…そうか。お前はそう考えているのか。ならばいくら私が説得しても、お前は絶対に意思を曲げないだろうから、もう何も言うまい」
「ありがとう、ヤマト」
「礼などいらぬ。それよりも志島たちから預かっているものがある。受け取れ」
ヤマトはそう言うと携帯を操作した。
するとカナデの携帯が着信を知らせる。
「友達の悪魔が届いたよ☆」
カナデが悪魔召喚アプリを操作すると、そこにはダイチのセイテンタイセイをはじめとして、12人の仲間たちの悪魔が悪魔リストに加わっていた。
もちろんヤマトのサタンもある。
「もう私たちにはいらぬものだ。ポラリスと戦う以上、戦力増強は必須。これだけあればなんとかなるだろう」
「ええ。…ありがとう、ヤマト、みんな」
カナデは携帯を握り締めると、しゃがんで嗚咽し始めた。
とうとう堪えきれなくなってしまったのだ。
そして携帯がメールの着信を知らせ、続いてヤマトが言った。
「回帰後の世界でお前に言おうとしていた言葉をメールで送った。これは私のけじめというか、自己満足のようなものだ。メールを見るか見ないかの判断はお前に任せる。ただし見るのであれば、すべてが終わってからにしろ。…さらばだ」
そう言い残し、ヤマトはターミナルを出て行った。
そしてそれと入れ替えにアルコルがカナデの前に現れる。
「カナデ…ゴメンよ。君の憂いを取り除いてあげたいと思ったのに、逆に辛い想いをさせてしまったかな?」
アルコルが申し訳なさそうな顔で声をかけるが、カナデは俯いたまま首を横に振った。
「違う。辛くて泣いているんじゃないのよ」
そう言って彼女は顔を上げた。
顔は涙でくしゃくしゃだが、その中には満足そうな笑顔がある。
「ヤマトと仲間たちがわたしの選択を認めてくれたのが嬉しいの。そしてわたしのために奔走してくれたあなたの気持ちも嬉しい。ありがとう、アルコル」
「うん。それじゃ、行こうか」
「ええ」
カナデの瞳に迷いはない。
そう感じたアルコルは彼女をターミナル中央部の制御装置の前に立たせた。
「これから私たちはポラリスのいるアーカーシャ層へと向かう。さあ、君の携帯を制御装置にかざして」
カナデがアルコルに言われたように携帯を制御装置の上にかざすと、ターミナル全体が白く輝き始めた。
「きゃっ!」
急に身体が宙に浮き、彼女はバランスを崩して手足をばたつかせた。
「カナデ、こっちだ」
自分の方へ手を伸ばしたアルコルの手を、カナデはしっかりと掴んだ。
その次の瞬間、カナデの意識は薄れ、白い闇の中へ消えていったのだった。
◆
そこは幻想的な空間だった。
まるで宇宙空間のようで、星のようなものが線を描いて巡っていた。
「ここに、ポラリスが…」
カナデの声に反応するかのように、中央にある円盤が浮いて、顔のようなものが出てきた。
「人の子よ、試練を乗り越え、よくぞ私の前までやって来た」
それこそが世界の管理者、ポラリス。
人間は滅ぶべきだと決定し、この災厄を引き起こした張本人だ。
その声は慈愛に満ちた女性のようでもあり、厳格で冷酷な男性のようでもある。
「問おう。お前は世界に、どのような姿を望むか?」
「わたし…いえ、わたしたちは元の世界に戻りたい。人間の世界はあなたにとって愚かでくだらないものなのでしょう。でもわたしたちはわたしたちなりに生きてきて、あの世界があったんです。だからわたしは世界を回帰させ、もう一度やり直したいと思っています」
「そのようなこと、私は認めぬ。世界を回帰させれば、人間は同じことを繰り返すだけだ」
ポラリスは世界回帰を認めようとはしない。
それはカナデの想像していたとおりの流れで、逆に素直に認められたら予定が狂うところであった。
カナデは自分のシナリオを変更せずに進める。
「あなたは万物を管理・運営し、自らが定める摂理にそぐわぬ世界に干渉する絶大な力を持つ管理者。あなたは人間を存続に値しない種であると判断を下し、セプテントリオンを送り込んできた。それはあなたが自分の定める摂理が真理だと思っているから」
「そのとおりだ」
「でもあなたの定めた摂理が真理であるとは言えない。なぜならあなたと違う者が管理者となれば、摂理自体が違うものとなる。つまり真理ではないということ。あなたが勝手に決めたルールで人間を滅ぼしちゃおうだなんて、こっちにとってはものすごく迷惑なんですけど!」
「不敬であるぞ、人の子。お前は神に逆らうのか?」
「神? あなたは自分が全能者だとでも思っているの?」
「当然だ」
「フフッ、それを聞いて安心したわ」
カナデは不敵な笑みを浮かべた。
「どういう意味だ?」
「だって、あなたは矛盾をいっぱい抱えていて完全な存在じゃない。それに今まで気づいていなかったから、あなたは自分を全能者だと信じ込んでいた。でもここでその矛盾を暴くことで、あなたは自分を不完全なものだと認めざるをえなくなる」
「お前は何を言っている? この私が不完全なものだと言うのか?」
「そう。まず、あなたの剣であるアルコルはあなたの意思に反した行動をするようになった。人間を助けようとして知恵や武器となるものを与えてくれたわ。あなたが全能者であるなら、彼のような存在を生み出すことはありえないでしょ?」
「……」
「仮にあなたが完全な存在のアルコルという”もの”を生み出したのだとしましょう。でも彼は人間と交わっていくうちに、いつの間にか人としての感情を持つ”者”へと変わっていった。あなたは人間を監視するためにアルコルを送り込んだ。その結果、人間が存続に値しない種であると判断を下したというのに、そのアルコルが人間は滅んではいけないと考え、あなたに反逆している。これが矛盾ではないと? これでもあなたは全能者だと言い張るのかしら?」
「……」
「人間がどうしてもダメでやり直しができないクズな存在であったら消してしまうのも仕方がないけど、あなたのやり方だと人間以外の生物も消えてしまう。野を駆ける獣、空を飛ぶ鳥、海を泳ぐ魚、他にも昆虫や微生物もだけど、それらも全部無によって消えてしまったわ。あなたはその生物も滅ぶべき存在だったと言うの?」
「……」
「人間が滅ぶべき種であったというなら、それはあなたが管理者として力不足だったってことじゃないかしら? それを無によってすべてを消し去ろうだなんて、それで自分の失敗を帳消しにするつもり? 存在を消し去ったとしてもなかったことにはならないわよ」
「……」
「あなたは気づいていないかもしれないけど、管理者が数千年単位で代替えするということは、管理者よりさらに上位の者がいるということ。つまりあなた自身も管理された存在であるということよ」
カナデの言葉にポラリスの絶対的な自信のようなものが消えていった。
見た目には変化はないものの、漂っていた威圧的なオーラが薄れていくのをカナデは感じていた。
「では人間の代表としてあなたに問う。人間はここまでたどり着くことができたというのに、あなたはやはり滅ぶべき種だと判断を下すのかしら? わたしたちはアカシック・レコードに記された絶対的な未来を覆し、人間の持つ可能性を示したのよ」
「ああ、お前とその仲間なら生きる価値はあるだろう。しかしお前たち以外の人間は生きる価値などない存在だ」
「あなたの摂理ではそうかもしれないけど、別の管理者だったら違う判断を下すんじゃない?」
「別の管理者だと? 管理者の代替わりはまだ2000年以上も先だ」
「そう、エライが管理者になるのはずっと先のことだけど、あなたが管理者としていられるかどうかは別物よ」
「何?」
「わたしはここまで来るのに様々な困難を乗り越えてきたわ。不可能だとも思えることでもね。だったらわたしがあなたを倒し、新しい管理者になるということも不可能ではないはずよ」
「ハハハ…なにをバカなことを! 人間ごときが管理者になどなれるものか!」
「やってみなきゃわからないわよ!」
「この私を倒す…か。万が一に私を倒したとしても、お前に管理者は務まらぬ。管理者になるには3つの条件があるのだぞ」
「その条件のことは当然知っているわよ。問題もほぼクリア済み。まずわたしが管理者システムの直下の存在であることは確かだし、管理者権限はあなたを倒せば自動的に移譲されるらしいから。そして剣なら心配は無用よ。ね、アルコル?」
カナデがアルコルに訊く。
「うん、私がカナデの剣になるから」
笑顔で答えるアルコルの態度に、カナデはポラリスが苛立ったような気配を感じた。
「管理者だとか神だとか言っても、これくらいのことで平静さを失うなんて、やっぱり全能ではないって証拠ね」
「黙れ! 人間風情がこの私に勝てると言うのか!? 身の程知らずな小娘め、叩き潰してやる!」
ポラリスがそう叫ぶと、奇妙な白い物体が複数現れて、カナデの周りを取囲んだ。
「わたしは仲間たちから人間の未来を託されたんだもの、ここで負けるわけにはいかないのよ!」
カナデは携帯を高く掲げると、仲魔を召喚した。
ルシファーとサタンを中心に、13体の悪魔が並ぶ様子は壮観だ。
「なるほど、それだけの悪魔を揃えれば、この私に楯突くのも頷ける。しかし人間ごときがそれだけの数の悪魔を従えて戦うほどの力があるとは思えぬ。自滅するのが目に見えているぞ」
「さあ、どうかしら? この場所にいるのはわたしだけでも、心をひとつにした仲間たちがここにいるんだから!」
カナデは胸に手を当てて叫んだ。
「人間の未来は人間の手で掴んでやるわ!」
◆
ポラリスとカナデの戦いが始まった。
カナデの周りに浮かんでいる白い物体はポラリスの身体の一部らしく、それらをすべて倒さなければポラリス本体に攻撃は届かない。
さらに万能属性の攻撃しか通用せず、他の属性攻撃はすべて無効化されてしまうというラスボスに相応しい超チートキャラだ。
こちらの有利な点は悪魔の数であり、万能属性を持つものは白い物体を攻撃し、その他の悪魔はカナデの守護をする。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
といっても、この場所では時間の概念などなく、したがって疲れるとか空腹になるということもないらしい。
カナデはそう感じていた。
永遠に戦いは続かのように見えたが、戦況に変化があった。
白い物体がすべて消滅すると、ルシファーとサタンの多重攻撃で本体の表面に亀裂ができたのだ。
そしてポラリスの核らしき部分が露出する。
「今よ!」
カナデはルシファーとサタンに核を攻撃させた。
どんなに強力な敵であっても、核を攻撃されればひとたまりもない。
ポラリスは悲鳴のような声を上げて、身体を構成する部分がボロボロと崩れ落ちていく。
しかし核が白い人型の物体に変化した。
そして次の瞬間、辺りは真っ白な世界になった。
その白い世界に白い人型の物体が浮かんでいる。
「え? まさか…!?」
白い人型の物体は見覚えのある人物の姿に変化していった。
それはカナデそっくりの姿をしていて、本人とカナデの姿をしたものは3メートルほど離れた位置で対峙した。
「あなた、誰?」
”本物”カナデが”偽”カナデに訊く。
「わたしはあなたよ。見ればわかるでしょ?」
「どうせわたしの心を乱そうって魂胆でしょうけど、そうはいかないわよ」
”本物”カナデは敵意むき出しで言うと、”偽”カナデは困ったような顔で答えた。
「違うわ。わたしはあなたのことが心配なの」
「わたしが心配? 自分自身に心配されるようなことなんてないわ!」
「そんな強がりはもうやめて。わたしはあなたと同一の存在だからわかるの。本当はみんなと別れて辛いんでしょ? 二度と会えないんだから哀しいはず。それを無理して辛くないフリをしている。自分自身に嘘なんてつかなくていいのよ」
「……」
「あなたの仲間たちの未来を守りたいという気持ちは本物だってわかってる。だから管理者になることに反対はしない。でも辛いのに辛くないふりをしていたら、いつか心が壊れちゃう。誰かに頼ることをせず、自分ひとりで頑張り過ぎちゃったあなただけど、自分自身になら甘えられるんじゃないの?」
「…もう我慢しなくてもいいの?」
”本物”カナデはおぼつかない足取りで前に進んだ。
それを見ていた”偽”カナデは優しく微笑む。
「もちろん。わたしならあなたの苦しみを取り除いてあげられる。さあ、わたしの手を取って。そうすればあなたは楽になれるわ」
”偽”カナデが手を差し出し、”本物”カナデがその手に自分の手を伸ばす。
パシッ
”本物”カナデの手が”偽”カナデの手を払い除けた。
「どういうこと? あなたはわたしを拒絶するの?」
顔を歪める”偽”カナデ。
”本物”カナデは人を小馬鹿にしたような態度で答えた。
「あなた、バっカじゃない? 所詮あなたは偽物よ。わたしと同一の存在だというのなら、わたしが自分自身にすら甘えない人間だって知っているはずだもの。そんな手に引っかかるほど、わたしは単純な人間じゃないわ」
「くっ…」
「わたしは友人たちにひとりで苦しまないで仲間を頼れと言ってきたわ。そんなわたしが誰にも頼らないだなんて滑稽だけど、それは単に頼れる相手に恵まれなかっただけ。わたしよりも力のない人に重い荷物を背負わせることなんて無理でしょ? 重い荷物を前にして誰かが通りかかるのを待つより、自分に鞭打ってでも背負って歩く。その方が間違いなく前に進むことになるから。それが辛くたって、苦しくたって、停滞するよりもはるかにマシ」
「……」
「でもね、最近になって頼れる友人ができたの。彼は人間的に問題の多い人だったけど、もう心配はいらないと思う。だからわたしは彼に自分の背負っている荷物の半分を任せてきたわ。もちろん彼の荷物を半分背負っているけど、それは苦痛でも何でもない。むしろ嬉しいくらいよ。彼は人間の世界で、わたしはこっちの世界で自分にやれること、自分にしかできないことをやる。そう思うと苦しいとか哀しいという気持ちは消えてしまう。別に虚勢を張っているわけじゃないわよ。本心からそう思うんだから」
「……」
「というわけで、わたしはあなたに取り込まれるようなヘマはしない。いくらわたしに負けそうだからって、こんなチャチな心理作戦じゃ勝てるわけないわよ。潔く負けを認めたらどう?」
勝利者としての確信を得たカナデは堂々と言った。
すると”偽”カナデはその姿を消し、元の白い人型の物体に戻った。
「管理者になろうというだけあって強い意思と力を持っているな、久世奏」
「どうも」
「お前なら管理者が務まることだろう。しかし人間はお前の期待に応えることができるとは限らないのだぞ。人間に幻滅し、自らの選択を悔いる時が来るやもしれぬ」
「そうかもしれない。でもわたしは今まで後悔したことはないし、今から先のことを考えて迷ったり不安を覚えるなんてわたしのガラじゃないのよ」
「そうか、お前の覚悟はよくわかった。私の負けだ。…さあ、私を消すがよい。私が消滅した瞬間、管理者権限が移譲されお前は新たな管理者となる。管理者権限には所有者の意思や願いを世界にフィードバックする機能があり、お前が望めばその望んだ世界となる。お前がどのような世界を創るのかわからぬが、少なくとも私をがっかりさせるようなものにはしてくれるなよ」
「いいえ、わたしが創るんじゃないわ。人間が創るの。わたしの想いは12人の仲間たちに受け継がれて、彼らがその想いを広めてくれるはずだから。わたしはそれを見守るだけよ」
カナデはそう言って微笑んだ。
そしてルシファーを召喚して命じた。
「ポラリスを焼き尽くせ!」
ルシファーは〈メギドラオン〉を放ち、すべてを焼き尽くす神の炎でポラリスを消滅させた。
こうして7日間にわたる激戦は終結したのだった。
◆
真っ白だった世界が色を取り戻し、再び宇宙空間のような場所に変化した。
「お疲れさま、カナデ」
アルコルがカナデに声をかけた。
「やっと終わったわ。…じゃなくて、これから始まるんだった。管理者権限を移譲されたみたいだけど、どうやって使うのかしら?」
「難しいことじゃないよ。ただ願うだけさ。君の想いが強ければ強いほど、世界は希望に満ちたものになる」
「世界回帰を実行すると、ヤマトたちはわたしのことを全部忘れちゃうのよね?」
「忘れるというより、初めから知らなかったことになる。なぜなら君が生まれてこない世界になるのだから」
「あ…そうか。わたしだけがいない元の世界、か…。でもわたしがいないのに、わたしの影響を受けた人間が存在するというのはおかしくない? もっとも、この7日間の経験値がリセットされるよりはマシだけど」
「まあ、管理者システム自体が全能ではないからね。管理者が変われば摂理も変わる。そして世界を回帰させればその前後の世界に食い違いが出てしまい、その辻褄を合わせるためにどこかに歪みが出る。歪みを正そうとしても、どこかに無理が出る。完璧な世界はありえないのさ。深く考えない方がいい」
「そうね。じゃあ、さっさとやっちゃいましょうか。みんなが待っているから」
カナデはそう言うと目を瞑った。
(わたしの願う世界は…)
彼女の思考に反応するかのように、空間が歪み始め、時間が巻き戻っていく。
そして世界は彼女の手によって回帰され、人間は再び自らの足で前へ進むことを許されたのだった。