DEVIL SURVIVOR 2  With you forever.   作:ルーチェ

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1st Day 憂鬱の日曜日 -2-

 

時は少々さかのぼり、地震発生の直前。場所はジプス東京支局司令室。

 

ジプス東京支局は永田町の国会議事堂地下深くにある。

ジプス(JP's)とは「Japan Meteorological Agency, Prescribed Geomagnetism research Department」の略で、《古よりの盟約》に記された《審判の日》に備え、この国の霊的防衛を司ってきた組織である。

国土防衛の拠点であり、人類の最後の砦であるジプスの局長・峰津院大和は司令塔の上で来たるべき時を待っていた。

 

 

 

気味の悪い轟音と共に突如地震が起こった。

 

(来たな…!)

 

ヤマトは平然と立ちながら、揺れが収まるのを待つ。

 

「なるほど、これが始まりか」

 

不敵に笑うヤマト。

 

「さて…」

 

ヤマトは司令塔の椅子に座ると脚を組んだ。そして両手を膝の上で組んで言う。

 

「まずは最初の敵か。どう出るかな?」

 

非常事態だというのに、彼の表情は楽しそうだ。

まるでゲームか何かを楽しんでいるように感じられる。

 

「渋谷駅付近に登録外のDケースを確認!…それに我々のプログラムとは違う術式で動いています!」

 

「構成データが桁違いです。計測できません!」

 

計器を観測している女性局員が報告すると、司令室内がざわめいた。

Dケースというのはジプスにおける悪魔絡みの事案を指す符丁である。

普段は地下に身を隠すジプスだが、セプテントリオン襲来の際にはどうしても人目に触れざるをえない。

そんな時に会話が関係者以外の耳に入っても問題ないように、こうした符丁を用意した。

つまり渋谷駅の件 ── ジプスとは無関係の民間人であるカナデがビャッコを召喚したこと ── は想定外のものだということだ。

 

ジプス局員は召喚式を使って召喚する。それも素質があって訓練された局員だけしか召喚できない。

さらにジプスが使用する召喚式は古より峰津院家に伝わる秘術を研究の末に数値化し、プログラムとして完成させたもの。

ジプスとは無関係な人間が悪魔を召喚できる手段を持っているはずなどないと考えていたわけで、イレギュラーの出現はそれだけでジプスを震撼させるものであった。

 

「どういうことだ?」

 

ヤマトが眉を顰める。

 

「わかりません。しかし駅構内の監視カメラの映像によると、ビャッコと思われる悪魔を連れた少女と、制服を着た高校生らしき男女の計3人が確認されています」

 

「ビャッコだと?…そうか。フッ…それはいい」

 

ヤマトはマコトに命令した。

 

「迫、渋谷駅の3人組を捕まえて来い」

 

 

 

 

「国会…議事堂…!?」

 

カナデたちが連れて来られたのは国会議事堂の前だった。

政府の機関とはいえ、まさか国会議事堂に連れて来られるとは思ってもいなかったので、彼女は驚いてしまった。

もっとも秘密基地というものは意外な場所にあるもので、さらに誰にも知られないよう地下にあるというのが常套である。

どうやら議事堂の建物は無事なようで、正門では警備員がマコトたちの制服を見ると敬礼し、閉まっていた門扉を開けてくれた。

 

議事堂の内部に入ると、カナデたちはエレベーターに乗って地下へと降りて行く。

エレベーターを降りてしばらく歩くと、目の前には地下とは思えないほど明るくて広いホールのような場所に出た。

正面には直径が3メートルくらいある大時計が掲げられていて、周囲の壁は図書館のように大量の本が収められた書棚で埋め尽くされている。

 

「国会議事堂の地下にこんなものがあるなんて…」

 

カナデたちは広いドーム状の部屋をぐるりと見渡した。

イオは憧れの「秘密基地」に目を輝かせている。

 

「ここが我々の活動拠点、ジプス東京支局だ」

 

マコトはそう言ってそのまま真っ直ぐに歩き、カナデたちは大時計の下へとやって来た。

 

「さっき、マコトさんはわたしたちに協力を願いたいと言ってましたけど、具体的に何をするんですか?」

 

カナデがマコトに訊く。

 

「端的に言うと、我々と共に侵略者と戦ってもらいたいのだ」

 

「侵略者って駅に現れた悪魔のことですか?」

 

「違う。我々の敵はセプテントリオンだ」

 

突然カナデたちの頭上から若い男性の声が響いた。

カナデが声のした方に視線を向けると、大時計の前に冷たい目の青年がいる。

 

「あ、局長」

 

マコトが青年の顔を見て敬礼した。

 

局長というからにはこの「秘密基地」のトップなのだろうが、トップという割には若く、イタい格好をしている。

飾り紐のたくさん付いた軍服っぽい黒いロングコートを着ているだけでなく、白手袋着用、前髪で右目を隠しているとなると、組織の幹部というよりは中二病をこじらせてしまったカワイソウな人にしか見えない。

 

(なんだかヤバそうな人、来たー! リアルでこんな格好をしている人、初めて見た…。ビジュアル系ロックバンドのメンバーが着る衣装っぽいというか…。あ、それより邪気眼系中二病? 右目とか左腕に何かヘンなものを宿しているタイプ?)

 

カナデがそんなことを考えていると、青年は彼女に言い放った。

 

「お前がビャッコのサマナーか? タダの小娘にしか見えぬが」

 

高圧的で尊大な態度の”局長様”に少し腹が立ったカナデは嫌味を含めて訊いてみた。

 

「マコトさん、この中二病を患っている傲慢不遜な人は誰ですか?」

 

「この方はジプス局長の ──」

 

「峰津院大和だ」

 

マコトに代わってヤマトは自ら名乗った。

 

「ところで、中二病とは何だ? 私は健康体だが」

 

(本人にはまったく自覚症状はないみたい。というか中二病という言葉を知らないらしいわね)

 

カナデがそんなことを考えていると、イオがひそひそ声で訊いてきた。

 

「なんだかビジュアル系ロックバンドのメンバーとか、特撮ヒーローものでよく見る悪の組織の幹部にいそうな人ですよね?」

 

「わたしに訊かないでよっ!」

 

イオもカナデと同じようなことを考えていたようだ。

まあ、あの姿を見れば誰だって同じことを考えるに決まっている。

しかし普通は思っても口にしないものだが、このイオという少女は天然なのかもしれない。

 

「聞えているぞ、新田」

 

ヤマトが偉そうな態度で言う。

イオの名前を知っているところをみると、すでにカナデたちの情報は彼に伝わっているようだ。

 

「私はロックになど興味はない。それに私は悪ではなく、人類を救済する正義の味方だ」

 

(はあ…正義の味方って言われてもね。人は見た目じゃないとか言う人もいるけど、あきらかに見た目がヤバい系だもの。局長ってことは20代後半くらいかな? かなり若く見えるから、もしかしたら20代前半かもしれない。まあ何歳であっても、こういうイタい格好はとっとと卒業すべき年齢のはずだけど…)

 

カナデは小さな声で隣にいるマコトに訊いた。

 

「マコトさん、局長さんって何歳なんですか?」

 

「局長は17歳だが、それが ──」

 

「ええーっ! 同い年なの?」

 

意外すぎるマコトの答えにカナデは驚いて声を上げてしまった。

そのせいか、ヤマトがカナデをじろりと見た。

 

「何を驚いている? 私が17歳だと何か問題でもあるのか?…それはともかく久世奏、ここでビャッコを召喚してみろ」

 

(上から目線…まあ実際、彼のいる場所はわたしたちのいるフロアの数メートル上にあるのだから仕方ないんだけど、あの態度は気にくわないわね。でもビャッコを呼び出さなければ後々面倒なことになりそう)

 

カナデは携帯を構えて叫んだ。

 

「出でよ、ビャッコ!」

 

魔方陣の中から姿を現すビャッコ。

その凛々しさと愛らしさにカナデは思わず顔が緩んでしまう。

 

「ほう…民間人が四聖獣を呼び出すとは驚きだ。神獣ビャッコは伝説の四神の一柱とされている。凡人が呼び出せるような雑魚ではない。しかし私には及ばぬな」

 

ヤマトはそう言って、悪魔を呼び出した。

 

「これが私の悪魔、ケルベロスだ」

 

ケルベロスを召喚したのは単に自慢したかっただけだろう。

ちなみにケルベロスというのはギリシア神話に登場する冥界の番犬だ。

一般には3つ首で、竜の尾と蛇の鬣を持つ巨大な犬や獅子の姿で描かれる。

しかし目の前にいるのは首がひとつの獅子である。

 

(このコもフサフサで大きな肉球の持ち主だわ。ううっ…一度でいいからモフりたいよ~)

 

カナデはケルベロスに夢中になっていて、それをヤマトは感心しているものだと勘違いした。

 

「フッ…どうだ。感心したようだな。ところでお前をここに呼んだのは他でもない。我々の指揮下に入り、侵略者セプテントリオンと戦え。そして勝て。以上だ」

 

「は?」

 

カナデは目を丸くする。

 

「聞こえなかったのか?」

 

「いやいや、聞こえたけど、それだけ?」

 

「それだけだ」

 

「……」

 

「意味が理解できないほど難しいことを言った覚えはないが?」

 

「言いたいことはわかったけど、それって人に頼み事する態度じゃないわよ」

 

「頼み事などではない。これは命令だ」

 

不毛な会話が続いていた。

ここは自分が大人の態度をとらねば収拾がつかないとカナデは考えた。

そこで大きく深呼吸をし、目の前の相手が常識的な人間ではないことを改めて自分に言い聞かせた。

 

(ここまでの少ない情報を総合してみると、ジプスというのはセプテントリオンという侵略者と戦う組織で、サマナーと呼ばれる悪魔使いたちが使役する悪魔を武器として戦い、負けたら世界が滅びてしまい、人類も死に絶えてしまうということみたいね。それに『お前をここに呼んだ』と言うのだから、わたしだけを戦力として考えているのであって、ダイチやイオさんはオマケで連れて来られたといったところかな)

 

さらに彼女は考えた。

 

(そしてこのヤマトという人間は態度の悪さと言葉が足りずに損をするタイプだわ。せっかくイケメンなのにもったいない。うん、イケメンだということは認めるわ。さらに声もいい。声優の諏○部○一そっくりのイケボイスだ。セプテントリオンとかいう敵を倒したら、ビジュアル系バンドのボーカルになることを勧めようかな。いや、7人組のアイドルグループに入る方がいいかも。『マジLOVEなんとか~♪』とか歌わせてみたいな…)

 

カナデが余計なことを考えていると、隣にいたダイチが興奮気味に言った。

 

「つまり、俺の…ポルターガイストの力が必要なんだな!?」

 

大きな勘違いをしているのだが、本人はまったく自覚していないようだ。

 

「貴様は不要だ。足でまといにしかならぬ」

 

ヤマトがそっけなく答える。

 

「なあ~~」

 

ダイチはショックを受けて床に座り込んでしまった。

続いてイオが訊く。

 

「じゃ、わたしは?」

 

「ま、邪魔さえしなければ使ってやらんこともない」

 

イオに対してはダイチほど厳しい言い方はしないが、あまり期待はしていないといった感じだ。

それでも彼女は何が嬉しいのかわからないが喜んでいる。

 

「じゃ、カナデは?」

 

ダイチが悔しそうに言うと、ヤマトの表情がぱっと変わった。

 

「幹部待遇で迎えよう♡」

 

「国家公務員で幹部待遇か。悪くはないわね…」

 

カナデの気持ちがほんの少しだけ傾いた次の瞬間、ダイチが叫んだ。

 

「贔屓だ!」

 

「これが実力主義というものだ! 悔しかったらもっとマシな悪魔を召喚してみろ」

 

ダイチの言葉を一刀両断にするヤマト。

ふたりのおバカな会話のおかげでカナデは正気に戻った。

 

「いくら局長だといっても、勝手に採用とか人事なんてできないでしょ! そもそもまだ就職する気はありません!」

 

「とりあえずは条件附採用期間として6ヶ月間働いてもらい、その結果が良好な場合は正式に採用となる。労働条件は他の省庁よりハードだが、その分給料はいいぞ」

 

ヤマトがにやりと笑いながら言う。

 

(人の話なんて聞いちゃいないよ。彼とまともに会話するのは至難の業だわ。でも局長というからにはそれなりの権限があるようだから、この状況下では無闇に逆らうのは得策ではないわね)

 

カナデは幼い頃から苦労して育ったせいか、あらゆる状況に対してもすぐに適応できるという特技を持っている。

そのおかげですぐに冷静さを取り戻した。

 

「は~い、質問! 労働時間、賃金、福利厚生、社会保障等、具体的な労働条件について教えてくださいな。あ~、それからわたしは17歳なので未成年、というか年少者になるわけで、その場合は労働基準法について様々な制約があるんですけど、それについてどうなってるんですか?」

 

カナデが学校で生徒が先生に質問するように手を挙げて訊いた。

するとヤマトが面倒くさそうな顔をして言い放つ。

 

「法律などというものが峰津院に…この私に通用すると思っているのか?」

 

「いやいや、峰津院家というのがどういう家柄か知らないけど、公務員が法律無視していいわけないでしょ! ケルベロスという凄い悪魔を使役できるあなたがいて、それでも戦力が足りないというのだから、敵はめちゃくちゃヤバイものだって誰にでもわかるわよ。そんなものと戦わされるなんてまっぴら御免だわ。戦わせたいなら、それに応じた待遇を示しなさいよ!」

 

「お前の言い分はわかる。しかしジプスの人材不足は深刻だ。人類の存亡のカギを握る重要な機関でありながら、いかんせん予算が少なすぎる。我々はその存在を公にできないため警察や自衛隊のようなグッズの販売はできない。さらに業務内容が危険な作業を含む特殊なものであり、長時間の時間外勤務等で辞めていく人間も多い。給料は他の公務員より待遇はよいのだが、労働組合がいろいろと ──」

 

そこまで言って彼は気がついたらしい。自分が愚痴をこぼしていることを。

 

「と、とにかく人類未曾有の危機を前にして法律などについて論じている暇はないのだ。まあ、ある程度の融通は効かしてやろう。望みがあるのなら言ってみろ」

 

「えっと…」

 

カナデはヤマトの隣でおとなしくしているケルベロスに視線を移した。

 

(凶暴な顔つきだけど賢そうな目をしている。うー、モフりたい。頼んだらモフらせてくれるかな…?)

 

そんなことを考えていると、突然館内の警報が鳴り響いた。

 

「何なの!?」

 

カナデはとっさに身構えて辺りを見回した。

ダイチやイオはオロオロしている。

 

「第1のセプテントリオンの登場だ。迫、カナデを連れてドゥベの殲滅に向かえ」

 

ヤマトは警報に慌てることもなく、淡々とマコトに命令を下した。

 

「局長、彼女は民間人でまだ何も ──」

 

マコトは慌てるが、ヤマトは聞く耳を持たない。

 

「民間人であろうとも、こいつがビャッコのサマナーならば、それ相応の戦いはできるはずだ」

 

俺様なヤマトに部下のマコトが何を言っても意味はない。

というわけでカナデはいきなり実戦に駆り出されることになってしまった。

 

(いくらビャッコのサマナーだといっても事情のわからない民間人を怪物と戦わせるなんて人権無視よ。『それよりもあんたがケルベロスと一緒に戦いなさいよ!』と言いたいところだけど、“つべこべ言わずにさっさと行って来い”オーラがヤマトの全身から出ていて、文句を言おうとしても隙がない。こうなればセプテントリオンとやらをやっつけて、いい条件での雇用契約を結んでやろうじゃないの!)

 

カナデは気合を入れた。

 

「帰って来たら覚えていなさい!」

 

「ああ。無事に戻って来られたら、な」

 

ヤマトはフッと鼻で笑い、カナデをマコトに預けて去って行った。

そしてヤマトが消えたと同時にカナデはマコトに文句を言う。

 

「何なんですか、あの人? 局長というからには偉いんでしょうけど、態度悪すぎです」

 

「すまない、局長はああいう人なんだ。いきなりですまないが、これからわたしと一緒に来てくれ。危険な任務だが、我々が全力でサポートする」

 

「サポート? ってことはわたしが…というかビャッコが頼りの作戦なんですか?」

 

「ああ」

 

「……」

 

「このジプスには局長以外でビャッコほどの悪魔を使役できるサマナーはいないのだ。わたしの使役する天使パワーはレベル24。恥ずかしながら訓練を受けたわたしより素人である君の方がサマナーとしての資質に長けているということになる」

 

つまりマコトの言う全力のサポートもそれほど期待できないということだ。

さらにヤマトの使役する悪魔と同レベルのビャッコを使役できるカナデをジプス、というよりヤマトが手放せるはずがない。

 

「事情はよくわかりませんけど、わかったということにして戦います」

 

「ありがとう、カナデ。さあ、行こうか」

 

「はい」

 

 

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