DEVIL SURVIVOR 2 With you forever. 作:ルーチェ
カナデはヤマトの命令で大阪に向かっていた。
大阪本局の菅野史という女性局員が昨日から行方不明になっていて、彼女を探せというのだ。
大阪の人間が探し出せない人物を、土地勘のまったくないカナデたちに探させるというのは無茶である。
”たち”という複数形であるのはダイチとイオが同伴しているからで、昨夜のうちに両親のもとへ帰った彼らがなぜここにいるかというと…
「いろいろ考えてみたんだけどさ…、ヤマトってあれでも政府機関の幹部だから、ここでイイとこ見せておけば、後々就職に有利じゃないかなって」
「わたしもこんなチャンス二度とないって思って。両親が無事なのは確認できたし、ふたりも『頑張ってきなさい』って送り出してくれたから。あ、でも高卒でも雇ってくれるのかな…?」
…ということだ。
カナデは呆れて物も言えなかった。
もちろんダイチとイオはポラリスとの邂逅の後に訪れる新しい秩序の世界のことなど知らない。
だから呑気にしていられるのだ。
さらに意外なことに、ヤマトは戦力外通告をしたダイチやイオを民間人協力者として受け入れるという。
使えるかどうかわからないが、駒は多い方がいいということなのだろう。
「どうなってもわたしには責任ありませんからね!」
カナデは誰もいない場所でひとり叫んだ。
そしてカナデは非常に苛立っている。
その理由はもちろんヤマトにあるのだが、それに輪をかけてダイチとイオが彼女の気持ちを逆なでたのだ。
「それってヤマトと同じ制服じゃん。アハハ…悪の組織の幹部2号? っていうか、そんなの着てて恥ずかしくない?」
「ペアルックみたいですね。そういえばカナデさんたちって、仲良さそうでしたものね」
…などと、ふたりはカナデに向かって暴言を吐いたのだった。
カナデはジプスの制服を着たくて着ているわけではなく、また制服をペアルックと言うイオの感覚にはついていけなかった。
朝食の時、せめてもの抵抗という意味でコートを脱いでシャツとスカートだけの格好 ── もちろん白手袋はなし ── でいると、今度はヤマトに「制服もまともに着ることもできないのか」と小言を言われた。
さらにその機嫌の悪い状態で身分証明書用の写真を撮られた。
これからジプスの世話になるのだから、IDカードは必要だ。
出入館する際のキーとして使用する他、街に出て悪魔の掃討作戦に携わる場合は必須アイテムだという。
これがあれば自衛隊や警察の人間を「顎で使える」ようになるとヤマトは笑って言っていた。
そういう法律があって今の状況はそれに該当するらしい。
出来上がったばかりのカードを見たが、思ったとおりに写真写りが悪い。
撮影の前にビャッコをモフっておけば、満面の笑みで撮ってもらえたのにと思うと余計にムカつく。
よって彼女は苛立っているというわけだ。
そして現在、カナデたちはジプス専用列車に乗っている。
これは非常時にジプスの本局と支局を結ぶためのもので、ヤマトの話によると龍脈の流れの上にレールを敷いたことで、あの大地震の影響をまったく受けていないのだそうだ。
セプテントリオンが制空権を握っているため、移動はこの高速鉄道しかないらしい。
(新幹線の車両を使った列車だけど、ずっと地下トンネルを走っているので何だか妙な感じ。たぶんリニア新幹線が開通するとこんな感じなのかな…?)
などと考えながら、カナデは本を読んでいた。
本というのはジプスの膨大な蔵書の中の1冊で、フリードリヒ・シラーの詩集である。
局内での行動の自由を認められているので、さっそく気に入った本を何冊か借りていたのだ。
一方、ダイチとイオは退屈していた。
「なあ、トランプでもやらないか?」
ダイチがそう言ってポケットからトランプを出した。
そんなものをどこで手に入れたのか訊くのもバカバカしいので、カナデは訊かずにおく。
「いいですね、それ。やりましょう。ね、カナデさん?」
イオも乗り気だ。
彼らのノリは修学旅行に向かう学生のもので、このまま大阪に着いたら大阪城や通天閣を見物に行きそうな雰囲気だ。
カナデは読んでいた本を閉じると、渋々ダイチたちのいるボックスに席を移動した。
そして小一時間ほどババ抜きや大富豪をやる羽目になった。
正体不明の敵と戦うことを考えて気が沈んでいるよりはるかにいいのだが、あまりに能天気だと少しムカついてくる。
そのムカつく気分に拍車をかけるのがヤマトである。
特別車両、つまりグリーン車にふんぞり返っている彼にカナデはメールで呼び出された。
「遅い。呼んだらさっさと来い」
第一声がこれだった。
何か不機嫌なことがあり、些細なことで苛立つというのは誰にでもあることだ。
しかしヤマトにとってはこれが平常運転である。
いちいち気にしていたら先に進まないので、大人の対応を心がけようと、カナデは自分に言い聞かせる。
「何かご用?」
「用があるから呼んだのだ。馬鹿なことを言っていないでそこに座れ」
ヤマトの座っている前の座席が回転させてあってボックスになっている。
この車両には彼しか乗客はおらず、ふたりきりで向かい合う形になった。
「昨日、お前は私が中二病を患っていると言ったが、それはどういう病なのだ? 様々な医学書を調べてみたがまったく載っていなかった」
「はい?」
「局長ともあろう者が健康体でないというのであれば、局員の士気にも関わろうというもの。作戦指揮に影響が出るものであれば、早めに治療をすべきなのだが、どういう症状なのか調べてもわからないのだ。医者ではないお前にもわかるほど徴候が顕著に現れているのだろ?」
カナデは笑いをこらえるのに必死だった。
たぶんヤマトは子供の頃から世間と隔絶された環境下で、帝王学のようなものを学ばされてきたのだろう。
だから普通の若者には一般常識でも、彼にとっては初めて聞いた言葉なのだ。
ならば丁寧に教えてあげるべきだと、カナデは真面目な顔で説明を始めた。
「中二病…それは現代における奇病のひとつで、正式名称は『中学二年生精神異常型非日常的思考可能化性症候群』。治療方法は確立されておらず、自然に治癒するのを待つか、上手く折り合いをつけて生きていくしかないらしいわ」
「よくわからぬ名称だが、私がその患者だというのか?」
「そうね。特にあなたの場合は『邪気眼系』と呼ばれるもっともポピュラーなタイプよ。この病気の特徴的な症状をいくつか教えるわ」
そう言って、カナデは続けた。
「包帯や眼帯、手袋などを好む」
「私は包帯や眼帯など好んではいないぞ。そしてこの手袋は制服着用時には必ずつけているもので特別な意味はない。というかお前も着用しろ」
「自分の前に、異世界への扉が開く日が来ると信じている」
「異世界? 新世界なら古よりの盟約によって定められており、信じるとか信じないという話ではない」
「黒い服を好む」
「これはジプスの制服であり、私の好みとは無関係だ。もっとも黒は嫌いではないがな」
「前髪がちょっと長め」
ヤマトは自分の前髪に手をやった。
「最近、忙しくて髪を整えている暇がない。それだけだ」
「自分には超自然的な力があると信じており、それを己の身体に宿しているという妄想をして悦に入っている」
「いや、実際に私には龍脈を使う力があり、妄想をして悦に入っているということはない」
「……」
普通の17歳の少年は龍脈を使う力は持っていないし、古よりの盟約などというものには無関係で、悪魔や神との戦いなどリアルではなく妄想やゲームの中の存在でしかない。
カナデたち一般人には中二病に見える姿も、彼にとっては自然体であったわけだ。
だからヤマトを自分たちと同じ物差しで計ることは不可能である。
カナデはそう結論を出した。
「もうおしまいか?」
「え?」
「お前が黙ってしまったからだ。それで私の具合はどうなのだ?」
ヤマトは本気だ。
本当の意味を知らないから、本気で自分が正体不明の病気にかかっていると思っているのだ。
「ごめんなさい。わたしの勘違いだったみたい。だからもうこのことは気にしないで」
カナデはヤマトに対して申し訳ないと思った。
きっと彼は時間をかけていろいろ調べたに違いないのだから。
悪意があったわけではないが、彼に無駄な時間を費やさせてしまったことを素直に謝った。
「そうか…まあ、それは当然だ。私は常に健康状態には細心の注意を払っていたからな、病気になどなるはずがない。これもジプス局長としての務めを果たすために必要なことなのだ」
「立派な心がけね。たしかにここぞという時に局長であるあなたが倒れたら目も当てられないもの」
「フッ…やっと私を尊敬する気になったか」
(正直言って彼の人間性については認められない部分が多いわ。でも彼が人類最後の砦の長としての自覚を強く持っており、その責任を果たすために全力を注いていることには感心する。でもそうなると、この制服は嫌がらせによるものではないということになるわね…)
「ねえ、なぜあなたはこの制服をわたしに支給したの?」
カナデの疑問にヤマトは当然という顔で答えた。
「今更何を言っている? 昨日、私はお前を幹部待遇で迎えると言ったはずだぞ。幹部といっても支局長クラスだ」
「支局長!? このわたしが?」
「ああ。それくらいの実力はあるということだ。もちろん実際にお前に支局長の仕事をさせるわけではないから安心しろ」
「でも同じくらい責任のある仕事をさせるつもりってことよね?」
「当然だ。だからくだらぬ連中と戯れ合っていないで、ここで身体を休めていろ。大阪へ着けばいろいろと忙しくなる」
「それって大阪にセプテントリオンが現れるって意味?」
「フッ…やはりお前は敵にしたくないな。私は少し休む。お前は下がっていろ」
彼はそう言ってリクライニングシートを大きく倒すと目を閉じた。
たぶん夜遅くまで医学書を読んで睡眠不足なのだろう。
「おやすみなさい、ヤマト」
カナデはそう言って立ち上がると、音を立てないようにして特別車両を後にした。
◆
東京の駅は新橋駅の地下にあったのだが、鉄道が初めて敷かれた明治期のようなレトロな佇まいだった。
大阪の駅も同じくレトロな雰囲気を漂わせている。
列車が最新型の新幹線車両だから違和感はあるが、カナデたちにはそんなことを気にしている暇は与えられない。
「お帰りなさいませ、峰津院局長!」
出迎えた大阪のジプス局員たちが一斉にヤマトに頭を下げる。
その一糸乱れぬ軍隊のような行動。
ヤマトがジプスという組織のトップであると、カナデは改めて思い知らされた。
ここでヤマトに対する悪口雑言でも吐けば袋叩きになりそうな気配すらある。
(あの人たち、たぶん「あいつら、何で局長と一緒なんだ?」なんて考えているんだろうな。別に来たくて来たってわけじゃないんだけど)
正規の局員でないカナデがヤマトと同じ幹部用のコートを着ているものだから、好奇と嫉妬を含んだ目で見られている気がすると感じるのも無理はない。
「私は本局で会議だ。お前たちは大阪を視察して来てくれ。会議は15時には終わる。それまでには本局に着くように。わかったな?」
ヤマトはそう言い捨てると、迎えの局員と一緒に歩き出した。
「待ってよ、ヤマト! 同行しろと言いながら、ここで放置する気?」
カナデは大阪の局員たちの冷ややかな視線を浴びながらも続けた。
「局長に対してタメ口かよ」などというざわめきは無視する。
「勝手にしろと言うなら勝手にさせてもらうけど、本局の場所なんて知らないし、なにより大阪は初めてなんだから、いざという時に役に立たないかもしれないわよ」
するとひとりの男性局員がカナデのそばに近づいて来て言った。
「君たちのことは局長から聞いている。こちらで案内役を手配した」
「そうなんですか?」
「ああ。もうすぐ来ると思うのだが…」
彼はそう言って辺りを見回した。
「ここにおる」
その声はカナデたちのいる場所から随分離れたホームの端から聞こえた。
彼女がそちらに振り向くと目つきの鋭い少年がいた。両手をポケットに入れ仁王立ちになっている。
「そこにいたのか、和久井」
「さっきからおったわ、このボケ」
年上の人間にボケと言い放つ和久井少年。どうも扱いが難しそうなタイプだ。
男性局員の方は怒りもせず、やれやれといった顔で言う。
「じゃあ、和久井、後は頼んだ」
「…ああ」
そしてカナデたち東京組3人と和久井少年が残された。
お互いに何も言わないが、心の中では「面倒くさい奴を押しつけられた」と思っている気配がある。
この淀んだ空気を何とかしようと、カナデは和久井少年に挨拶をした。
「わたしは久世奏。よろしく」
そう言うと、和久井少年は面倒くさそうに口を開く。
「和久井啓太。よぉ覚えとけ」
そしてぷいと横を向き、自己紹介しようとしたダイチを無視し、さらにカナデたちを残して歩いて行く。
「ああ、待ってよ!」
カナデがケイタの後を追い、さらにダイチとイオも続く。
「街を案内してくれるんじゃないの?」
カナデが呼びかけると、ケイタは振り向きもせずに答える。
「悪いがヒマやない。自分らと群れる義理もないわ。俺は悪魔を殺せるからジプスに協力してるだけや」
「……」
「大阪は東京みたいにややこしい街やない。視察したかったら自分らでせぇや。ただ本局に案内せぇとは言われとるからな、14時半にビッグマン前に来たら連れてったるわ。ほなな。まぁ、悪魔には気ぃつけや」
そしてケイタは行ってしまった。唖然とするカナデたちを残して。
◆
大阪も東京と同じく地震と悪魔の出現によって街は壊滅状態となっていた。
ただ不思議なことに大きな被害を受けているところがある一方、殆ど被害を受けていない場所もある。
「まずはビッグマンというのがどこにあるのか調べなきゃね」
カナデたちはまず手近な本屋に入って『る○ぶ大阪』を購入する。
もちろん領収書は『ジプス東京支局』と書いてもらった。あとでマコトに代金を請求するつもりなのだ。
そしてビッグマンというのが阪急梅田駅の中央改札口にある大きなスクリーンであることがわかった。
次は行方不明人探しである。
昨日の昼頃、フミは本局内にいることが確認されており、あの大地震の混乱の中でいつの間にか消えていたらしい。
ジプスの出入館管理は万全で、誰にも気づかれずに姿を消すことは不可能。
おまけに局員の行動はGPSシステムによって完全に把握されている。
それでも足取りが掴めないのだから、さすがのジプスもお手上げである。
それをカナデたちに探し出すことなどできるはずがない。
それでいて探せという。
ヤマトが平気で無茶を言うのは昨日の経験でカナデはよくわかっている。
しかし可能なことと不可能なことの区別はできる人間だということも知っている。
(つまり行方不明人の捜索は本当の理由を隠すためのダミーで、わたしが大阪に連れて来られたのは、次のセプテントリオンがこの大阪に襲来するからってことよね。列車の中でカマをかけてみたけど、ほぼ間違いないわ。だから必死になって探す必要はない。まあ、のんびり観光するというわけにはいかないから、ひとまず市内を視察…というか散策でもしましょうか)
◆
しばらく歩いて、大きく傾いた大阪城が見えてきた時だった。
突然カナデたちの前方をものすごい勢いで駆け抜けて行くものがあった。
「悪魔!?」
それは人型をしてはいるものの、間違いなく悪魔だ。
鉈のような刃物を握りしめている。
カナデはとっさに携帯をかまえ、ビャッコを召喚した。
「出でよ、ビャッコ!」
魔方陣の中から現れたビャッコにさっきの悪魔を倒すように命じる…カナデはそうするつもりだった。
しかしその悪魔はビャッコが魔方陣から出る前に霧散してしまったのだ。
消える前に悪魔召喚の際の青白い光が発せられ、翼のある人型の悪魔が召喚されたのが見えた。
たぶんその翼のある悪魔が倒したのだろう。
だとすればそこには悪魔を召喚し使役できる人間、サマナーがいるということになる。
カナデたちは一斉に走り出した。
すると翼のある女性のような姿の悪魔と、その隣にはCERO-Cの内容のゲームがそれだけでCERO-Dになってしまいそうなほど露出度の高い衣装に白い布を纏ったポニーテールの女性がいた。
携帯を握っているところを見ると、彼女が目的のサマナーに違いない。
「その服…あんた、ジプスの人なん?」
先にポニーテールの女性がカナデに声をかけてきた。
「えっと…昨日までは普通の高校生でしたが、今はジプスに協力しているタダの民間人です」
カナデはそう答えた。
するとポニーテールの女性は大袈裟に言う。
「そないなこと言っても、えらいものを使役しとるんやん。タダの民間人とは言えへんよ」
「まあ、たしかにビャッコを使役していてタダの民間人とは言い難いですね…。ところであなたのお名前は? わたしは久世奏といいます」
「ウチ、九条緋那子っていうねん」
「九条さんもニカイアで悪魔召喚アプリを手に入れた口ですか?」
カナデがそう訊くと、ヒナコは笑顔で答えた。
「そうやねん。あ、ウチのことはヒナコでええねん。年、そう違わないはずやから」
カナデは彼女のナイスバディと度胸からマコトと同じくらいの20代半ばだと思っていた。しかし現実は違っていた。
「ウチ、19や。カナデちゃんたちは17か18くらいやろ?」
「はい。わたしは17歳で、こっちのふたりは18歳です」
そこでダイチとイオもヒナコと挨拶をした。
ヒナコはカナデ以上に人懐っこくて社交的で、彼女たちはすぐに打ち解けた。
「カナデちゃん、ウチをジプスに連れてってくれへん?」
ヒナコが突然言い出した。
「カナデちゃんほどやないけど、ウチもそれなりに戦力になると思うんや」
たしかにそうかもしれない。
彼女の召喚した悪魔は鬼女リリムでレベル18。
マコトの使役する天使パワーはレベル24だから素人としてはいい線いっているだろう。
「わたしには決定権などありませんが、15時までに本局へ戻ることになっていますから、一緒にいらっしゃいますか?」
「もちろんや」
「でも局長のヤマトっていう人がものすごーく問題のある人物なので、不快な思いをすることになりますよ。それでもいいですか?」
「そんなん、かまへん」
「でしたらご案内します。といってもわたしは本局の場所を知らないので、案内してくれる人と14時半にビッグマンで待ち合わせしているんです」
「ほな、それまでまだ時間があるさかい、ウチが大阪案内したる」
カナデたちはヒナコに案内されて、本格的に大阪観光をすることになったのだった。
(観光中にフミさんが見つかればラッキーなんだけどね…)
◆
「さて、会議を始めよう」
ヤマトの一声で会議が始まった。
まずは各支局の状況、そして召喚アプリ悪用者と対処と民間人協力者の対応。
各支局がある都市はやはり壊滅状態であり、悪魔召喚アプリ悪用者の影響もあって、かなり混沌とした状況である。
さらに悪魔召喚アプリによって悪魔を召喚する者は多いが、その殆どは呼び出した悪魔と契約できずに死亡し、悪魔は野良悪魔となって人々を襲っている。
気になるのは名古屋の報告で、こちらは悪用者というより暴徒という感じであるということだ。
医療品や食料品をジプスが独占していることが気に食わないらしい。
とある男が暴徒をまとめているという情報が入っている。しかしその男の正体はまだ掴めていない。
そしてフミは依然として見つからない。
光明の見えない、その時だった。
けたたましく非常警戒のサイレンが鳴り響いた。
会議に出席していた幹部局員たちは慌てるが、ヤマトだけは落ち着いている。
こうなることを予測していたかのようで、冷静な口調で言った。
「何事だ?」
彼の問いに司令室の局員のひとりが答えた。
「何者からか、サイバー攻撃を受けています! 外部からの結界システムへのハッキングです!」
「急いでサーバーのある地点を確認しろ」
ヤマトの指示で局員たちは個々に動き始めた。
彼も立ち上がると会議室を出て司令室へと向かう。
(ジプスの回線には考えうるあらゆるプロテクト技術の他に魔術による防衛が施されている。こんなことができるのは奴のみ。フッ…奴は我々の心臓を止めに来たということか。面白い、受けて立ってやろう)
司令室では防御プログラムをフル稼働させ、さらに侵入経路ネットワークの逆探知をしてハッカーの居場所を探索していた。
しかし状況は悪化の一途を辿っている。
第1層を突破され、魔術式による暗号も解読されていく。さらに第2層と第3層も突破されてしまった。
数分後、ヤマトが司令室に到着するやいなや、男性局員が探査結果を報告した。
「サーバー特定、浪速区・フェスティバルゲート跡地内部です! 直ちに戦闘班を現場に向かいます!」
数名の局員が現場に向かおうとするが、ヤマトが制止する。
「待て。カナデたちを向かわせよう」
そう言って携帯を取り出すとカナデを呼び出した。