DEVIL SURVIVOR 2 With you forever. 作:ルーチェ
ロナウドとの交渉に失敗したヤマトは人生で初の敗北感を味わっていた。
常に勝利者であり、自分がロナウドという弱者に負けたということは彼にとって最大の侮辱といえよう。
(くそっ…これもすべてカナデのせいだ。私の命令に逆らって勝手なことをするから、この私があのような愚民に屈しなければならなかった。この借りは百倍にして返してやる!…とはいえカナデを無傷で取り返す代価として物資の半分で済んだのは幸いだった。彼女は私の手駒の中でももっとも強い駒…クイーンだからな)
ヤマトの悩みは尽きない。
名古屋支局の件は大きな犠牲を払いながらも解決の目処はついたが、大阪には大きな問題が残っている。
半壊した通天閣の修理及び地下祭壇の呪術者の補充には相当の時間がかかるだろう。
まもなく名古屋に第3のセプテントリオンが現れるというのに、自分は大阪を離れることができない。
一方、無事に保護されたフミの体調はほぼ万全で、さっそく転送ターミナルの調整に入っている。
転送ターミナルは本格的運用直前に彼女が行方不明になって使用不可となっていたものだ。
これが使えるようになれば大阪本局と各支局の移動が楽になる。
それが唯一の朗報であるといえよう。
「ゲームはまだ始まったばかりだ…アルコル」
ヤマトは背後に現れたアルコルに背を向けたまま言い放った。
「そうだね。でもここには輝く者はいない」
アルコルはヤマトの背中に呼びかけるが、やはりヤマトは背を向けたままで答える。
「貴様の望むそんな概念は端から存在しない」
「どういうことだい?」
「世界を形作るのは強さだ。能力に長けた者が支配すればいい」
少し寂しそうに見えるアルコル。
「他の可能性はないのかい?」
「ない…。それを証明してやろう」
そう言ってヤマトは挑戦的な顔でアルコルに宣言する。
「…ヤマトは変わらないな」
昔…幼いヤマトと出会った頃のことを思い出したのか、アルコルは微笑みがら言う。
「貴様も呆れるほどに」
ヤマトも同様に答えた。
「もうすぐ時間だね」
「そうだな」
ピピッ、ピピッ…
メールの着信音を耳にしたヤマトはポケットから携帯を取り出した。
「友達の死に顔動画が届きました」
執事風のナビゲーター・男ティコがアナウンスする。
「友達…だと? バカな…」
有用であるということからニカイアに登録しただけであり、自分に友人の死に顔動画など届くはずがないとヤマトは訝しむ。
しかし念のために確認すべきだと、彼はメールフォルダを開き、愕然とした。
そこには『死に顔@久世奏』の文字が並んでいたからだ。
「何…!?」
急いで再生すると、名古屋支局の司令室でカナデはセプテントリオンのビームで貫かれ、血の海の中に横たわり絶命していた。
ダイチたちに届いたものとまったく同じものだ。
「アルコル、これは…!?」
ヤマトは顔を上げるが、そこにはもう誰もいなかった。
アルコルはヤマトの前から姿を消すと、名古屋のテレビ塔の鉄骨に腰掛けて沈みゆく太陽を眺めながら憂いていた。
(すべてが運命の歯車によって定めれれているというのなら、なぜ人は考える意思を持ってしまったのだろう。…哀しいね)
◆
名古屋支局の警報はセプテントリオン出現のものではなかった。
現れたのはセプテントリオンではなく、大量の悪魔だ。
市内の荒子川公園で原因不明の爆発が起きて邪鬼レギオンが発生し、不気味な呻き声を上げながら空中を浮遊して辺りを放火して回っているという。
そこでダイチとイオとジプス局員、レジスタンスグループの民間人サマナーが出撃するが、悪魔は次々と湧いて出るためにキリがない。
「状況は非常にマズイ。俺たちも出撃するぞ!」
ロナウドとジョーが司令室を出ようとしたので、カナデは彼らを呼び止めた。
「待ってください! わたしを出撃させてください!」
しかしロナウドは首を横に振った。
「ダメだ。今はセプテントリオン襲来に備えてここで待機することが君の役目だ。ここにセプテントリオンが現れると言ったのは君だろ?」
「それはそうですけど、ダイチたちをこのまま放ってはおけません。荒子川公園の悪魔をさっさと片付けて戻って来ますから、セプテントリオンが現れたら少し待たせておいてくださいな。アポなしの訪問なんですから、それくらい当たり前です」
「笑えねぇよ、その冗談」
ジョーが頭を掻きながら言う。
「…だけど君は一度言い出したら自分の意思を曲げそうにないからな」
「わかっているじゃありませんか。ここで無駄な説得をしているより、さっさとわたしを行かせてしまった方がいいですよ」
ジョーはロナウドの顔を見ながらお手上げのポーズをした。
するとロナウドも諦めたようで、カナデに言う。
「わかった。君を信じよう。信頼がなければ共闘などできるものではないからな」
「ありがとうございます。で、荒子川公園ってどこですか?」
「荒子川公園はここから南南西約7キロの場所だ。俺が案内す ──」
「それだけわかれば十分です! じゃあ、お先に!」
カナデはビャッコを召喚するやいなや、ビャッコに跨ると名古屋支局を飛び出して、風のように駆けて行ったのだった。
◆
ビャッコに跨って廃墟となった街を駆けて行く途中でレギオンの群れがカナデの視界に入ってきた。
レギオンの群れの中で〈万魔の乱舞〉を繰り出すのはイオのキクリヒメで、ジプス局員の召喚するエンジェルやライラの姿は見えない。
単に消滅させられただけなのか、サマナーたちが死亡したのかはわからない。
カナデは不安で胸が張り裂けそうになった。
(少しでも犠牲を減らしたい。仲間を危険に晒したくない。わたしにもっと力があったら…)
そう思った次の瞬間、アルコルの言葉が脳裏を掠めた。
「そして君の選択は友人たちを危険な目に合わせている」
「それでも君は自分の判断を正しいと信じて行動するのかい?」
カナデの心の迷いに反応したのか、ビャッコが足を止めた。
そして彼女の方を振り向き心配そうに見つめている。
「大丈夫よ、ビャッコ。わたしは自分の信じた道を行くだけ。ここで迷っていて手遅れになったら、わたしが手に入れたこの力が意味のないものになっちゃうから」
気合いを入れ直すように両手で顔をパシッと叩いた。
するとそのタイミングで携帯がメールの着信を報せる。
「新しい悪魔が届いたよ☆」
女ティコがカナデに告げた。
どういうことだろうかとアプリを起動させると、悪魔リストに霊鳥スザクが追加登録されていた。
レベルは62で、ビャッコよりも強力な悪魔だ。
炎による攻撃魔法を得意とするスザクが加わったことで、カナデのサマナーとしての力はさらにアップした。
彼女が改めて戦う決意をしたからなのかどうかわからないが、新しい戦力を手に入れたことは間違いない。
「出でよ、スザク!」
カナデはスザクを召喚すると、空を舞うスザクに命令した。
「レギオンを焼き尽くせ!」
するとスザクはひと声啼いて、数百にも及ぶレギオンを一斉に焼き払った。
そして数分後に遅れて到着したロナウドたち援軍のおかげで公園内の悪魔は無事に殲滅できたのだった。
「ダイチ、イオさん、大丈夫!?」
ビャッコから飛び降りると、カナデは公園の中央で立ち尽くしているダイチたちに駆け寄った。
「か、カナデ!? もしかしてアレもカナデが…?」
アレとはもちろんスザクのことだ。
「そう。わたしの新しい悪魔、霊鳥スザクよ」
「すっげえ…。俺の悪魔なんて召喚したとたんに逃げ出したんだぜ。はあ…新田さんに助けられ、カナデにも助けられ、俺って情けねぇ…」
うな垂れるダイチの背中をポンと叩いてカナデは言った。
「人間には向き不向きってものがあるの。わたしはサマナーに向いていてダイチは向いていないだけ。だからといって人間失格ってことじゃないわ。ダイチにはダイチのよさがあって、わたしはそれを知っているもの」
「ううっ…カナデは人を励ましたり慰めたりする才能もあるよね。でも俺って結局何の役にも立ってない…」
「そんなことはないですよ」
イオがダイチの隣で言った。
「わたしは志島君がいてくれるから戦えるんです」
「新田さん…」
ダイチは目を潤ませながら彼女の顔を見つめた。
「もちろん強い悪魔を使役できるようになってもらえた方がもっといいですけど」
「よっしゃー! もっと強くなって、新田さんを守れる男になるぞー!」
イオの発言は「強い悪魔を使役できる人って素敵♡」という意味ではなく「味方に強い悪魔がいれば安心」というレベルものだろう。
サマナー自身の魅力とは別物だとダイチが知ればやる気を失うに決まっているので、カナデは黙っていることにした。
カナデがダイチたちと話をしていると、ロナウドが駆け寄って来た。
「セプテントリオンが現れた。至急戻るぞ!」
レギオンの発生とセプテントリオン出現には因果関係があるのかどうかわからないが、戦力の一部が離れ、その隙を狙ったかのように名古屋支局にセプテントリオンも出現した。
どうやらいきなり名古屋支局の中に現れたらしく、司令室は騒然としているようだ。
荒子川公園の悪魔はほぼ殲滅できたので、後始末はレジスタンスメンバーに任せ、カナデはスザク、ダイチとイオはビャッコに乗って名古屋支局を目指したのだった。