Re:ブラッキーが呼び出されしは本物の異世界!? 作:煌めきの風
「……まぶっ」
薄暗い石造りの通路を通って箱庭の中に入ると、そこにはさっきまでとは全然違う風景が広がっていた。突如として降り注いできたまぶしい光に思わず目を細める。
遠くに見える高い建築物や空を覆う天幕、様々な種族が道を行き交う光景そのものが好奇心を刺激してくる。そして何よりも所々にあるカフェらしきものが、先ほどまで忘れていた空腹感を思い出させる。
「おー、思ってたよりもすごいなー」
「でも、前に私が来たときとは、雰囲気がだいぶ違いますね」
「お、あの売店のやつ、うまそうだな!」
周りを見渡して目に入ったのは、ガタイの良い成人男性が串に刺した肉を炭火で焼いている串焼き店。肉の表面がこんがりと焼けた香ばしい匂いとあふれんばかりの肉汁が空腹のおなかをさらに刺激してくる。
思わず足の向かう先がその売店になりかけた時、レイナが後ろから制してくれた。
「………いてっ」
「だめですよ。黒ウサギさん?っていう人と合流するんですよね?」
「わ、分かってるって」
ジト目で見られているだろうレイナの言うことを聞いて、売店の肉をあきらめる。
足を止めずにそのまま売店の前を通り過ぎる。その際、店主にギロリと睨まれた気がしたが、反応せずに通り過ぎる。
そして、ウサ耳を目印にして黒ウサギのことを探すが見当たらない。もしかして、黒ウサギの所属するコミュニティの本拠に移動してしまった可能性もある。
「見当たらないな……」
「そうですね、聞いていた特徴の人は見かけませんね」
「どーすっかな……」
噴水の近くにたくさんあるカフェテラスの間を歩きながら、今後の予定を考える。
そして“六本傷”の旗印を掲げたカフェテラスの側を通ろうとしたとき、そのカフェからガチン!という音が聞こえた。
「なんだ?」
突然聞こえた大きな音に周囲を歩いていた人らが一斉に、音の発生源に目を向ける。もちろん、俺とレイナも視線を向ける。
目を向けた先には、瞬く間に人だかりができて当事者の顔を見ることはできなかった。しかし、話している声だけは聞こえてきた。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道は、修羅神仏の集う箱庭でしかお目にかかれないわね。………ねえ、ジン君?」
氷のような冷たい声音で問いかけられたジンと呼ばれた者が慌てて否定する。声の感じからするとまだ子供だろう。
というか、最初に聞こえてきた冷たい声音をどこかで聞いたことがある気がする。
「彼のような悪党はこの箱庭でもそうそういません」
「そう?それはそれで残念。………ところで、今の証言でこの外道を箱庭の法の下で裁くことはできるのかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとることや、身内を殺すことはもちろん違法ですが…………裁かれる前までに箱庭の外に逃げてしまえば、それまでです」
「ちょ、ちょっと、通してください」
群がる人々の間を縫うように歩き、話している人たちが見える場所まで移動する。
そして、視界に入ったこの騒ぎの当事者四人の中には、先ほど一緒に湖に落とされた久遠さんと春日部さんがいた。残りはローブを着た緑髪の少年とタキシードをピチピチに着たガタイのいい男だった。
「久遠さんに春日部さん?」
二人の名前を呟くが、向こうの二人はこっちの様子に気づいていない。
「知り合いですか?」
「ああ。俺と同じでこの箱庭の世界に呼び出されたんだ」
「そうですか……」
背中のほうから聞こえる質問に答える。俺と同じ境遇ということを伝えると、レイナからの答えには少しつまらなそうなことが感じ取れた。
「そう。それなら仕方がないわね」
テーブルに座っている飛鳥は苛ただしげに指を鳴らした。すると、飛鳥の目の前に座っていたガタイのいい男がいきなりテーブルを勢いよく叩いた。
「こ………この小娘がァァァァァァァ!!!」
突然男は雄叫びを上げ、その体を激変させた。巨躯を包むタキシードはふくれあがる広背筋によりはじけ飛び、その下に隠れていた体毛が変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。
周りの野次馬はその姿を見るなり、悲鳴をあげる者や一目散に逃げる者などに別れた。俺はその波に逆らって久遠さんの方へ足を進める。
その間にも男はゲームとかでもよく出てくる人虎――――ワータイガーのそれへと酷似した姿へと変わっていた。そして、鋭い牙の生えている口を開き、怒りの感情をそのままに久遠さん達に言い放った。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが………俺の上に誰がいるのか分かってんだろうなッ!?三桁の外門を守る魔王だぞ!!俺に喧嘩を売ることはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!!その意味が
「
久遠さんが男に黙るように言うと限界まで開かれていた口がガチン、という音を立てて閉じる。突然口が閉じただけでは彼の怒りが収まらないらしく、丸太のように太い豪腕を勢いよく振り上げて襲いかかる。
近くにいた春日部さんも突然のことで少し反応が遅れて動くことができない。
レイナが腰に吊していた刀を抜き、首のところで寸止めにしておく。
「だから、いい大人が女の子を襲うのは感心しないんだけどなあ」
「!?」
突然現れた刀に驚愕の表情をして、体を止める男。体を止めたことにより振りかぶった腕が無防備にさらされ、春日部さんがその腕を掴んだ。
「喧嘩はダメ」
春日部さんはさらに腕を回すようにして男の巨躯を回転させて地面に押さえつけた。
久遠さんは驚いた表情をしてこっちを見ていた。
「和人君!?あなたいつからいたの!?」
「ついさっき戻ってきたところだけど」
「そう……………コホン。さてガルドさん、私たちはあなたの後ろに誰がいようと気にしません。それはジン君も同じでしょう。だって、彼の最終目標はコミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」
消去法でジンと呼ばれた少年の方を見ると、その顔は恐怖で潰れそうになっていた。
しかし、久遠さんに最終目標を問われた彼の顔には先ほどまでの恐怖はなかった。
「………はい。僕たちの最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外の道は残されていないのよ」
「く………くそ……!」
春日部さんの華奢な腕によって押さえつけられているガルド――――久遠さんがそう呼んでいた――――は、悔しそうな声を漏らす。どうやって押さえつけているのか気にはなるが何か特別な力があるのだろう。
ガルドの悔しそうな表情を見て少し機嫌が良くなったように見えた久遠さんは、右足のつま先でガルドの顎を持ち上げると悪戯っぽい笑顔を浮かべて話を切り出した。
「だけど、私としては貴方のような外道はズタボロになって後悔しながら罰せられるべきだと思うの―――――そこで提案なのだけれど」
久遠さんは話をそこで区切ると、周りにまだ残っている野次馬や店員は首をかしげる。飛鳥はガルドの顎を持ち上げていた足を離して、提案の内容を言った。
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方のコミュニティ“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂をかけてね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
太陽が傾き青空だった空があかね色に染まってきた。小さい頃はこの時間になったら帰るように言われていたことを思い出した。まあ、あまり外で遊ばなかったんだけど。そんな街の噴水広場で声が響く。
「な、なんであの短時間で“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になっているんですか!?」「ゲームの日取りは明日!?」「しかも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備をしている時間もお金もありません!」「いったいどういう心算があってのことです!」「聞いているのですか四人とも!!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!」
まるで打ち合わせをしていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。反省をしていると言った俺以外の三人は何食わぬ顔で聞き流していた。黒ウサギと一緒に帰ってきた十六夜は側でケラケラ笑っている。その光景に苦笑いを浮かべる。
そして、黒いサギは説教する相手を久遠さん達から俺へと変えた。
「和人さんもどうして止めてくれなかったのですか!?」
「な、なんか知らないうちに話が進んでいてだな………」
「だとしても、止めることはできましたよね!?」
「い、いや、俺が行ったときはもうほとんど話がついていたしな」
「そ、そうですか…………」
俺の答えに黒ウサギががっくしと項垂れる。そして、側で笑っていた十六夜が止めに入る。
「別に良いじゃねえか。こいつらも見境無く喧嘩を売ったわけじゃねえんだから許してやれよ」
十六夜の言葉を聞いた黒ウサギは数秒考えた後、少し笑顔を浮かべた。
「…………はあ、まあ良いです。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さん一人でも十分でしょうし」
「は?俺は出ねえぞ」
黒ウサギが笑顔で言った言葉を十六夜が一刀両断した。心の底から本当に十六夜一人で大丈夫だと思っていたのか、突然の言葉に黒ウサギは慌て始める。
「な、何言ってるんですか!?」
「当たり前よ。貴方なんか参加させないわ」
黒ウサギがなんとか十六夜のことを説得しようとしているのをよそに、久遠さんも十六夜の言ったことに賛同した。
そのことにさらに慌て始める黒ウサギ。
「だ、ダメですよ!お二人はコミュニティのお仲間なんですから、ちゃんと協力しないと……」
「たぶんそういうことじゃ無いと思う」
「……え?」
「桐ヶ谷はわかってんな」
俺が呟いた言葉に黒ウサギは首をかしげる。
十六夜は真剣な表情で黒ウサギを右手で制する。
「いいか?この喧嘩はこいつらが
「あら、分かってるじゃない」
「…………もう好きにしてください」
説得することをあきらめたのか黒ウサギは項垂れた。
一通り話が終わったと思って少し安心していると、俺以外のみんながこっちを見ていた。
「……………え?」
「で、桐ヶ谷。ずっと気になっていたんだが……後ろのそいつは誰なんだ?」
十六夜が怪訝な表情で指さしたのは、俺の後ろに隠れているレイナだった。
レイナは黒ウサギ達と合流してから、ずっと俺の後ろに隠れてズボンを掴んでいた。くじいた足は立てるほどにはだいぶ治ったらしい。
「ああ、そういえばまだ紹介してなかったな」
「レイナ=ヴィエーチル、です」
ずっと隠れているレイナを俺の前に立たせて、みんなに挨拶させた。レイナは知らない人の前で緊張しているのか少し震えていた。
レイナの自己紹介が終わったのにみんなの視線がさっきよりも強くなっている気がするんだが。
そんな雰囲気の中、久遠さんが発した言葉は予想の遙か上をいった。
「………………………和人君。いくら箱庭だからって女の子を誘拐してくるのはさすがにダメだと思うのだけれど」
「…………はぁ?」
どっからどう見たら、俺がレイナを誘拐しているように見えるんだ!?
心の中で驚きの声をあげていると、久遠さんに続くように十六夜達も次々と言葉を投げつけてくる。
「おい桐ヶ谷……まさか、元の世界でも女の子を誘拐してたのか?」
「いや、してないから!!」
「まさか、和人さんが…………そんな殿方を私たちのコミュニティに入れるわけには……」
「だから違うって!!」
「和人はロリコン?」
「いや、そっちでもないから!!」
「じゃあ、ホモなの?」
「それでもない!!俺はノーマルだッ!!ていうか、おまえら俺をからかっているだろ!?」
「「「うん」」」
「おまえらなあ………!!」
俺のことをからかっていることがわかると、清々しいほどの笑顔を見せている十六夜達を思わず殴りそうになる。
そんなとき、俺達を止めてくれたのは意外にもレイナだった。
「あ、あの!」
「どうかしましたか?」
「か、和人さんは、ゴブリンに襲われそうになった私を助けてくれたんです!そんな人が誘拐なんてしません!!それに私が和人さんと一緒に来たいって言ったんです。だから、和人さんは誘拐なんてしてません!」
レイナは大きな声でさっき十六夜達が言ってたことを否定する。そして、どういう訳か分からないがレイナの目は潤んでいた。
その勢いの良さに思わず、みんなが驚いた表情をした。
そんな中、久遠さんがレイナの前まで近づいて、腰を下ろして彼女の頭を撫でた。
「大丈夫よ、冗談だから安心して。私たちは和人君がそういうことはしないと分かっているから」
「そうですか、良かった……」
久遠さんにしっかりと冗談と言われたレイナは、安心したのかさっきまでの表情から年相応の可愛らしい笑顔を浮かべた。
「はは………それで、この後はどうする?僕らのコミュニティへ帰る?」
脇の方で見ていたジンがこれからの予定を聞いてきた。その問いには、話に置いてけぼりにされていた黒ウサギが答える。
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”にギフト鑑定をお願いしないと。十六夜さんが獲得してくれたこの水樹のこともありますし」
「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」
突然出てきたコミュニティの名前に首をかしげる。直訳すると、千の瞳っていうところか。千個も目があったら気持ち悪いな。
十六夜の質問に黒ウサギが答える。
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つもの達の軍隊コミュニティ。箱庭の全土に精通する超巨大コミュニティです。幸いこの近くにその支店がありますし」
「ギフト鑑定って?」
「その名の通り、ギフトの秘めた力や起源など鑑定することデス。自分の力の正しい形を把握していた方が、ご自身の力を引き出しやすくなると思います。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」
同意を求めてきた黒ウサギに十六夜達三人は複雑な表情で返す。自分の力の正しい形や起源に思うところがあるようだった。
一方で、俺にそういった力があるとは思えない。
そんな疑問を抱きながら、俺たちは“サウザンドアイズ”に向かうために歩き出した。
この小説は遅くなっても完結させるつもりなので、見捨てないください……_(._.)_
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