東方風大地   作:熾闇の庭

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Round.3 キャディ

二週間が経った。人間の里で寝泊りしながら、昼はコース整備に走りまわった。

小町も助けてくれた。グリーンキーパーを探してくれたのは彼女だ。腕の良いグリーンキーパーだが、何故か刀を使っていた。

何か面白そうなことが始まると嗅ぎつけた新聞屋も飛んできた。ゴルフについて説明してやると、話が一気に里の外へと広まった。

ゴルフをやってみたいと言う者も何人か集まった。大半は妖怪だったが、分別のある妖怪らしく、食べられずに済んでいる。

そして。

 

小町「これがゴルフコースか。中々壮観だねえ」

 

小町の表情は晴れやかだった。

急ごしらえにしては立派なコースが完成したと思う。同じ気持ちなのだろう。

プレストウィックとまではいかなくとも、ゴルフは楽しめる。大会をするにはあと17ホール欲しいが。

ゴルファーに転進してから、初めての本格的なゴルフだ。

 

小町「いやー、楽しみだよ。あのグリーンってのが特に大変だったね。白玉楼まで行って、わざわざ庭師を借りてきて刈り込んだんだ。流石庭師、良い仕事だよ。私とは大違いだ」

リリィ「小町……」

小町「それに、キャディにぴったりな奴も見つかったそうじゃないか」

リリィ「サニーミルクって子さ。小さいけど、中々目が利くよ。どんな木陰にも惑わされず、ラインを読み切る。アタイには真似できない能力だね」

小町「それは良かった。私はキャディって奴が出来ないからさ、あいつならきっとあんたの助けになってくれるよ」

リリィ「そんな!」

 

立ち去ろうとする小町に、語りかける。

サニーミルクは確かに優秀なキャディの素質がある。それでも、彼女をキャディに迎えるつもりは無かった。

 

リリィ「十分助けられたよ。小町、あんたの協力が無ければ、このコースは出来なかった……」

小町「リリィ」

リリィ「本当に感謝している」

小町「大げさだよ。私はリリィの手伝いをしただけ、仕事がサボれれば何でもよかったのさ」

 

いつもと変わらぬ飄々とした態度だった。だが、目はこちらを見ていた。小町は勘付いているのだろう。自分が何を言おうとしているのか。

誰にキャディを頼むかは、既に心に決めてあった。

 

リリィ「確かにキャディにはゴルフのサポートが求められる。測量に、ライン読み。どれも大事さ」

小町「リリィ」

リリィ「でも、本当に大事なのは、ゴルファーの心を落ち着かせること。ゴルファーと息を合わせ、苦楽を共にしてこそ、真のキャディなんだよ……」

小町「リリィ」

リリィ「アタイはキャディだ。キャディに必要なものは分かってるつもりさ。全英では、多分アタイにはそれが出来ていた。だからいい結果が残せた……」

小町「リリィ」

リリィ「だから、頼むよ。小町、あんたにキャディをやって欲しい。アタイを助けて欲しいんだ。ラインはアタイが読む。測量も得意さ。でも、一人じゃ……心細いんだよ……」

小町「リリィ……」

 

風が吹いていた。

集まった参加者たちの喧騒を風が運んできた。

優秀なキャディが必要なのは、自分にではない。ゴルフを知らない者たち、幻想郷の参加者たちにだ。

サニーミルクは彼らに譲ろう。

 

小町「分かったよ。そこまで言われたんじゃあ、放っておくわけにはいかないね」

リリィ「小町……」

 

草のにおいがする。

 

リリィ「ありがとう……」

 

刈られた芝のにおい。フェスキュー草のにおい。そして、野菊の香りだった。

 

 

野菊は故郷の香り、フェスキュー草は故郷の彩り。

 

人は故郷を捨てられない。

 

故郷を持たぬ人間は、孤独の中に一人きり。

 

故郷を持った人間は、孤独の殻を突き破る。

 

打つも孤独、競うも孤独。

 

ゴルファーは、コースの上で誰もが孤独。

 

キャディの役目、それはゴルファーの故郷になることだ。

 

リリィは孤独でなくなった。

 

小町が故郷になった。

 

小町が笑った。リリィが笑った。

 

野菊が静かに風に揺れていた。

 

 

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