二週間が経った。人間の里で寝泊りしながら、昼はコース整備に走りまわった。
小町も助けてくれた。グリーンキーパーを探してくれたのは彼女だ。腕の良いグリーンキーパーだが、何故か刀を使っていた。
何か面白そうなことが始まると嗅ぎつけた新聞屋も飛んできた。ゴルフについて説明してやると、話が一気に里の外へと広まった。
ゴルフをやってみたいと言う者も何人か集まった。大半は妖怪だったが、分別のある妖怪らしく、食べられずに済んでいる。
そして。
小町「これがゴルフコースか。中々壮観だねえ」
小町の表情は晴れやかだった。
急ごしらえにしては立派なコースが完成したと思う。同じ気持ちなのだろう。
プレストウィックとまではいかなくとも、ゴルフは楽しめる。大会をするにはあと17ホール欲しいが。
ゴルファーに転進してから、初めての本格的なゴルフだ。
小町「いやー、楽しみだよ。あのグリーンってのが特に大変だったね。白玉楼まで行って、わざわざ庭師を借りてきて刈り込んだんだ。流石庭師、良い仕事だよ。私とは大違いだ」
リリィ「小町……」
小町「それに、キャディにぴったりな奴も見つかったそうじゃないか」
リリィ「サニーミルクって子さ。小さいけど、中々目が利くよ。どんな木陰にも惑わされず、ラインを読み切る。アタイには真似できない能力だね」
小町「それは良かった。私はキャディって奴が出来ないからさ、あいつならきっとあんたの助けになってくれるよ」
リリィ「そんな!」
立ち去ろうとする小町に、語りかける。
サニーミルクは確かに優秀なキャディの素質がある。それでも、彼女をキャディに迎えるつもりは無かった。
リリィ「十分助けられたよ。小町、あんたの協力が無ければ、このコースは出来なかった……」
小町「リリィ」
リリィ「本当に感謝している」
小町「大げさだよ。私はリリィの手伝いをしただけ、仕事がサボれれば何でもよかったのさ」
いつもと変わらぬ飄々とした態度だった。だが、目はこちらを見ていた。小町は勘付いているのだろう。自分が何を言おうとしているのか。
誰にキャディを頼むかは、既に心に決めてあった。
リリィ「確かにキャディにはゴルフのサポートが求められる。測量に、ライン読み。どれも大事さ」
小町「リリィ」
リリィ「でも、本当に大事なのは、ゴルファーの心を落ち着かせること。ゴルファーと息を合わせ、苦楽を共にしてこそ、真のキャディなんだよ……」
小町「リリィ」
リリィ「アタイはキャディだ。キャディに必要なものは分かってるつもりさ。全英では、多分アタイにはそれが出来ていた。だからいい結果が残せた……」
小町「リリィ」
リリィ「だから、頼むよ。小町、あんたにキャディをやって欲しい。アタイを助けて欲しいんだ。ラインはアタイが読む。測量も得意さ。でも、一人じゃ……心細いんだよ……」
小町「リリィ……」
風が吹いていた。
集まった参加者たちの喧騒を風が運んできた。
優秀なキャディが必要なのは、自分にではない。ゴルフを知らない者たち、幻想郷の参加者たちにだ。
サニーミルクは彼らに譲ろう。
小町「分かったよ。そこまで言われたんじゃあ、放っておくわけにはいかないね」
リリィ「小町……」
草のにおいがする。
リリィ「ありがとう……」
刈られた芝のにおい。フェスキュー草のにおい。そして、野菊の香りだった。
野菊は故郷の香り、フェスキュー草は故郷の彩り。
人は故郷を捨てられない。
故郷を持たぬ人間は、孤独の中に一人きり。
故郷を持った人間は、孤独の殻を突き破る。
打つも孤独、競うも孤独。
ゴルファーは、コースの上で誰もが孤独。
キャディの役目、それはゴルファーの故郷になることだ。
リリィは孤独でなくなった。
小町が故郷になった。
小町が笑った。リリィが笑った。
野菊が静かに風に揺れていた。