小町「いいよ! リリィ、いいボールだ!」
良いボールが打てた。音で分かる。芯を捉えた音。空へ、高く空へとボールが舞った。
七色の風が見える。幼い頃から風の多い土地で暮らしてきた。幾重にも重なる風の層が見える。
分厚い風を突きぬけて、ただひたすらに進んでいく。まっすぐに、風に煽られることなく。
完璧なティーショットだ。
集中が切れたのだろう。今までは耳に入ってこなかったが、ギャラリーが賑わっていることに気づいた。
文「ナイスショット! これはリリィ選手、かなりいい当たりです!」
???「おお、こりゃあいいや。あのお嬢ちゃん、細っこい体してる割に物凄い球を打ちやがるぜ。200は軽く出てる」
文「あやや? そんなに物凄いショットだったのですか?」
いつの間にか新聞記者まで集まっていた。射命丸文。小町いわく、迷惑だが悪い奴ではないらしい。
その隣に居るのは、恰幅のいい男だった。目立つ存在だが、人間の里で見かけた記憶は無い。
???「ありゃあ俺の居たクラブでも滅多にお目にかかれないようなベストショットよ。今までに見た中じゃあ、アレに次いで二番目ってとこだな」
文「なるほど。ちなみに一番というのは?」
???「そこに居た奴でね、面白い奴だった。ゴルフを諦めた俺たちに夢を見させてくれる奴でな……コツコツ打つようなゴルフじゃない。飛ばす者の時代……新しい時代って奴を感じさせてくれる。欠点と言や、素直すぎることくらいのもんよ」
文「ははあ……ゴルフのルールを考えれば、飛距離を出せるものは当然有利ですからね」
???「ま、そいつが一発でプロテストに通って鹿沼初のプロになれたってのも、この天才・宇賀神の飯の力があってこそだがな! ワッハハハ!」
小町「リリィ。いい打球だったよ。かなり飛距離も出てるし、コースも良かったね。後はグリーンまで歩測して、ベタピンにつけてバーディだ」
リリィ「あの新聞屋の隣に居るのは誰だい? 見かけない顔だね」
小町「ああ、あれかい? ありゃ宇賀神とか言ったかな。リリィの来るちょっと前にこっちに来たらしい。料理人だからって、普段は大食いの妖怪に召し抱えられてるみたいだね」
リリィ「へえ……アタイの他にも、こっちに来た奴ってのが居たのか……」
小町「見た感じ、別の場所から来たみたいだね。髪も黒いし目も黒い。リリィとは違ってさ」
リリィ「アジア人か……」
プレストウィックで会ったのも、プレストウィックで待っていたのも、アジア人だったのではないか。
記憶が引っかかっている。何か、忘れていたものがある。思い出せるかもしれない。
幽香「プレーの邪魔よ。どいて頂戴」
言葉の通り高圧的な女性が背後に立っていた。ゴルフクラブ代わりに日傘を抱え、キャディはもみ手している。
不遜で高慢な態度を隠そうともしなかった。まるで今から伝説を作る身だと言わんばかりに。
幽香「全く……後ろの組がつかえてるのに、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃと……競技員は何で警告を出さないのかしら」
サニーミルク「へえ、全くその通りで……」
幽香「あなたもその口調やめてくれない? 己の立場を弁えてるのは結構だけど、これ以上は苛立ちに変わるわ」
サニーミルク「だ、だだだってそんな、力ある大妖怪様に向かってこれ以上は……」
幽香「この私に意見するなんて、己の立場を知らなさ過ぎるわね。調子に乗り過ぎよ……あなたは今日限りでクビ。このコースが終わったら、どうなるか分かるかしら?」
サニーミルク「ひ、ひいええ……分かりました、分かりました! だからお命ばかりは……」
何を話しても怯え続ける妖精キャディ(優秀な、光に惑わされずラインを読めるキャディだ)を哀れに思ったのか、小町が割って入った。
小町「打った後どかなかったのは確かに私らが悪かったよ。すまなかったね」
幽香「ええ。気をつけて頂戴。風見幽香の伝説はこれから始まるのだから」
小町「……なるほど、大した自信だね。でも、ゴルフの経験は?」
幽香「昔外でやったことがあるわ。115戦111勝……こんなところかしらね。外からやってきたゴルファーさん?」
リリィ「115戦111勝!?」
小町「何だって!?」
幽香「それともう一つ。私に勝利の可能性を問う質問は失礼よ。ゴルフは自然の中で行う競技。フェスキュー草だろうとなんだろうと、草木は常に私の味方。勝利の可能性は常に100%!」
幽香もまた300ヤードを叩いた。
この日、秋にはまだ早い空を赤蜻蛉が舞っていた。
赤蜻蛉を友とするものが居た。
赤蜻蛉をものともせぬものが居た。
幽香のボールが飛びし時、一人の天才は固唾を飲んだ。
リリィのボールが飛びし時、もう一人の天才は目もくれなかった。
傲慢は強さの証、臆病は勇気の証。
勝利の証を手にするものは、どちらの証を持つものか。
幻想郷の秋、リリィ・マクガンの秋──