東方風大地   作:熾闇の庭

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Round.5 野菊

リリィと幽香のティショットが終わり、飛距離はそれぞれ230ヤードと302ヤード。

幽香はベタピン、リリィは70ヤードを残した。

 

小町「あっちに居るのはメルランって言ってね。一流のトランペット奏者としてジャズをやってるよ……でも、何で今ここに?」

リリィ「ゴルフの腕は?」

小町「さあてね。幻想郷じゃゴルフなんか初めてのはずだけど、風見幽香みたい奴も居る。油断は禁物だよ、リリィ」

 

キャディについているのは姉だかそのまた姉だかだという。

ミュージシャンはどんな球を打つのか、想像がつかなかった。そもそも何でミュージシャンがゴルフをやるのかもわからない。

 

小町「それぞれ皆理由ってもんがあるのさ」

リリィ「理由……ねえ。プレストウィックで育ったアタイには、キャディになる以外の理由なんてもんはなかったけどね」

小町「それでもさ。無くてもあっても、それは理由だよ」

 

二打目、リリィは60ヤードを転がし、三打目でピン横1メートルに付けた。

 

リリィ「あの妖怪……小町、どう思う?」

小町「リリィ、私はリリィから恐怖を感じた……幻想郷には無い、新しいものの風……恐怖を」

リリィ「……それで?」

小町「何故か幽香からも恐怖を感じるのさ。理由は分かんないけどね……」

リリィ「なるほど……」

 

幽香「ここから風見幽香伝説が始まる。キャディ、ラインは?」

 

ラインを読む。難しいラインではない。だが、木陰だった。

芝目ならばすぐに分かる。これを確実に決め、外から来た人間を下し、四季のフラワーマスター伝説が始まる。

 

サニーミルク「1個半右です。傾斜の無い簡単なライン、間違いないです。ストレートです」

幽香「流石は光を屈折させる太陽光に愛された妖精のことはあるわね。私の油断の芽は摘まれたわ」

サニーミルク「へへ、ありがたきしあわせ」

 

簡単なショットだ。くい、と力を入れて少しだけ押してやればよい。

誰の目にも明らかな、外しようのないライン。入れられれば負ける。

 

幽香「迷う必要は無い……」

 

構え、振る。ボールの芯を捉えた──捉えなかった。

 

幽香「何っ!?」

文「ダフッた!? あんな簡単なショットで!?」

宇賀神「ありゃあラインだけを見てたな。木陰のライン、芝目のライン。確かに読むのは大事だけどな、でも、ラインはそれだけじゃない」

文「どういうことですか?」

宇賀神「ゴルフってのは屋外競技だ。この屋外ってのが曲者でなァ、要は風よ」

文「風……ですか?」

宇賀神「スイングの瞬間、風が吹いた……筋肉がほんの少しこわばったのさ。それがクラブに伝わった。さっきあんなショットを見せてくれたにしちゃ、らしくないミスだな」

文「なるほど……どんな人間、まあ妖怪ですが、大舞台では思わぬミスをするものですね」

宇賀神「ラインはとにかく信じることが大事よ。信じて打つ。外れりゃそれはその時考えるしかない。信じててもこういうことは起こっちまうもんよ。だからゴルフは面白いんだが……」

 

幽香「幽香不覚ッ!!」

 

想定されたラインを大きく逸れ、ボールはグリーン下のフェスキュー地帯に転がっていった。

草花を操る能力を持っているだけあって、ロストボールにはならなかった。ボールはすぐに見つかった。

見つかったのだが。

 

リリィ「何を躊躇ってるんだい? 位置は悪くない、強めに打てば一打で戻ってこれるだろうに」

小町「見なよ。足元……ボールはどこに転がってる?」

リリィ「……野菊……野菊に支えられてるね……」

小町「幽香は別名四季のフラワーマスター。花を愛し、花に愛されている……この一打、幽香はアンプレアブルするよ」

リリィ「野菊が打てないのかい……」

 

思い出した話がある。野菊が打てず、ゴルフをやめた男。

天才と呼ばれたゴルファーの、父をも超える才能を持った子だった。

野菊が打てなかったのだと、そう言っていた。

 

幽香「野菊が……野菊が、ボールが打てない……!」

サニーミルク「幽香さん……」

幽香「……アンプレアブルを宣言するわ。ペナルティを一打追加して、打ちなおしよ」

サニーミルク「幽香さん!」

幽香「心配は無用よ。キャディ、カップまでの距離は?」

サニーミルク「……幽香さんの最も得意な距離です。さっきと同じ。最高のストレートライン」

幽香「風見幽香伝説の扉は?」

サニーミルク「まだ光が見えます。閉ざされてはいないです」

幽香「今、私は何を望んでいる?」

サニーミルク「チップインです。他の人には不可能でも、風見さんには可能です!」

幽香「そうよ。私は大妖怪、風見幽香。これを決めれば伝説が始まる! フラワーマスター伝説が!」

 

ターンベリーで会った酔っ払いは泣いていた。どうして死んだのかと。

競技委員も泣いていた。何故死ななければならなかったのかと。

優しすぎた。野菊を打てないほどに、純粋すぎたのだと。

隣に誰かが居て、同じく聞いていた。

誰か。未だに思い出せないが、リリィはキャディだ。一緒にいたのはゴルファーだ。

 

リリィ「アタイは待ってるよ……ここで……アンタを思い出せる日を、アンタに会える日まで……」

 

 

 

 

風が大地を優しくなでた。

 

フェスキュー草と野菊が揺れた。

 

人の心も揺れた。

 

人の悲しい記憶も揺れた。

 

心、幽香の野菊を想う心。

 

記憶、リリィの誰かを想う記憶。

 

フェスキュー草と野菊が笑った。

 

風、流れた。

 

草の香り、流れた。

 

人の心も流れた。

 

風に流れてどこへ行く。

 

リリィが、小町が、幽香が、サニーが。

 

大地の上を流れていった。

 

運命の風が流れていった。




書きたいところまで終わったので終わりです。
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