僕と猫   作:逸般ピーポー

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お久しぶりです
また死にたくなったので投稿です


梅雨

雨が降っている。

 

しとしとと、という、ある種優しさを感じさせる降り方の時もあれば、ザアザアと、人を鬱々とさせる降り方の時もある。

 

雨が降っている。

 

今日も今日とて会社で無理ばかり言われ、失敗すれば叱責され、失敗せずとも責任を擦り付けられて詰られる。

結局あの中年クソハゲジジイは、手当たり次第に八つ当たりしたいだけなのだ。

 

雨が降っている。

 

こんな会社に長いこといても仕方ないとは思い、このままではダメだと言うことも分かっている。

それでもまだこんな掃き溜めにいる自分にさらに憂鬱になる。まったくもって、度しがたい。

 

ーーーーー雨が降っている。

 

『どうしてこう、もっとスカッと生きられないかなぁ』

『俺はもっと、ストレートに行くよ』

とは、誰の言葉だったか。

全く、何故こうも人の世とはこうも生きにくいのか。がんじがらめにされている。されど、人は一人では生きられぬ。

故に、人は苦しむのかもな、なんて。

 

そう、人の悩みなど、二千五百年も前から変わりはしていないのだ。

 

 

スーツのズボンがずぶ濡れになるのを感じながら、革靴をまた綺麗にする手間を考える。

毎週なるべく磨いているからこそ、面倒だと思いながらその自分に思いを馳せる。

まあ、そうは言っても自分のことだ。

どうせ、面倒だなんだとぶつくさ言いながらもちゃんと手入れをするのだろう。

 

 

そんな未来に苦笑しつつ、いつものようにアパートの鍵を開けて扉を開く。

 

 

「…?」

 

入ったところで、ふと違和感を覚えた。物音がしないのだ。

 

「うーん…」

 

まあいいか。そう思って歩を進め、部屋の電気を付ける。

 

 

そこで見たものは、クロが弱ったように小さくくるまっている姿だった。

 

「クロ…?」

 

一瞬、初めてこいつに出会った時を思い出す。あの日も確か、こんな風に天気の悪い日で。いや、雨が降っていたかは覚えていないけど。

そして、こんな風に弱っていたのを助けたのだったかーーーーー

 

「おい、クロ、クロ!」

 

咄嗟に何度も呼び掛けるも、いつもと違い反応がない。ただ、ひたすらに小さくなっているだけだった。視界の端には、ほとんど減っていない水が見えた。

 

「クソッ…」

 

今はまだ午後7時5分。この時間なら、まだやっている動物病院はあるはず…!

かつてない程に素早く付近の動物病院を調べる。

一件だけ、7時半までやっているところがあった。電話を掛ける。

 

しばらくのコールの後、繋がった。

 

『はい、こちら車崎動物病院です』

 

「もしもし!今、うちの猫が小さくなってて何も反応しないんです!水もほとんど減ってなくて…!」

 

『分かりました、それではもうしばらく開けておきますので、是非おいで下さい』

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

その後、自分の名前と連絡先を伝え、予約という形を取った。

 

ケージを引っ張り出し、動こうとしないクロをひっつかむものの、全く動こうとしない。むしろ、抵抗されている。

こうしていてもらちが明かないので作戦を変更。

部屋の適当なバックに突っ込み、下から支えて自分のお腹に持ってくる。これなら落とすことはない…!

 

急いで携帯と財布、鍵を持って家を出る。傘がないことに気付いたが、雨は止んでいた。

病院までは駅一つ分だが、ちょうど駅が家と病院の間にあるので役に立たない。自転車は雨で危険なので、走る。走る。ただ走る。

 

ひたすらに走って、息があがる。苦しい。

それでも走っていると、病院の看板が見えた。急げ。

 

 

院内に入ると、既に先生が来てくれていた。

こちらがずぶ濡れなのにも構わず、クロをひょいっと軽く持ち上げて診察室に入っていく。

急いで自分も靴を脱ぎ、先生の後に続いた。

 

 

しばらく聴診器を当てたり体温を測ったりしていたが、それも終了。

点滴を射つことになり、クロは別室に。

…あいつ、健康診断とかでも注射系は死ぬほど嫌がるんだけど、大丈夫だろうか。

 

先生と向かい合って席についた。

 

「先生、クロは…大丈夫なんでしょうか」

 

「とりあえず、病気ではないと考えて頂いて結構です。健康ですよ」

 

「じゃあ、何故あんな風に…」

 

そう問うと、先生はしばらく顎に手を当てて、こう言った。

 

「…クロさん、でしたか。今、何歳ですか?」

 

「え?ええと…」

 

…少なくとも、5年や6年ではない。13…4?

 

「…たしか、13か14歳だと思いますけど…」

 

おそらくだが、そうずれてはいない筈だ。

そう答えると、先生はこちらの目をじっと見て言った。

 

「ええ。では、恐らく老化、ですね。最近寝ている時間が長くなったり、ものにぶつかりそうになったりはしていませんか」

 

「確かに…」

 

休日は確かにそんな感じだったか。

 

「徐々に体の機能が弱くなってきているのでしょう。そして今日は、特に体調が悪くなったか、もしくは雨に嫌な思い出があるのか…。

そんなところだと思います」

 

「嫌な思い出、ですか」

 

…まさかな。

 

「ええ。

…さて、点滴も終わりました。しばらくは様子をよく見ていてあげて下さい。体調を崩したり、病気になりやすくなってきているようですので」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

代金を支払い、病院を出る。

胸の中には、バックで小さくくるまっている黒いもふもふが、普段より一回り小さく感じた。

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