一将功成りて万骨枯る   作:キューブケーキ

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2.劉琦様びっくり

2-1.

 優秀な人材を囲い込む。それは政を行う事にとって必然だ。それには利と情だ。

 利益は目に見える物で、情は恩や義理、親愛と言った形で与える。

「君はとびきりの美人だ。今夜、一緒に寝ないか」と孫家の面子をストレートに誘ってみた。

 江南の女は褐色の肌をしている為に漢では下賎な蛮族と蔑まれている。俺にとってはそれなりの見た目でおっぱいさえあれば良い。

 穴さえあれば良いと、突っ込む事しか考えない下品な連中と俺は違う。柔軟に対応した者が人生を楽しめるのだ。

「あぁ……劉琦様っ……」

 そんなこんなで、新たに加わった孫家諸将のおっぱいを一杯、堪能している内に時が流れるのは早い。孫家の者は情熱的で、閨では甘い声を響かせてくれる。

 重臣だけではなく孫権も対象だ。

 戦に疲れた孫権の心を癒したのは俺だ。家臣を導く主君としての重荷は若い彼女を苦しめていた。友すら簡単には出来ない。

 心の隙間を埋めるのは簡単だった。

「ねぇ、私の体……どうかしら?」

 孫権は情熱的にくちづけをして来る。だから優しく応えてやった。

「そうだな。俺の子供を産ませる価値はあるぞ」

 愛を囁き抱き締めるとチョロい。簡単に落ちた。

 俺も初めは肉欲に溺れハッスルしまくったが、孫家を侮っていた。

 痛みの後に快楽の(うず)きを覚えた孫権は自分から迫って来た。

「愛してるわ」

「あ、うん。ソウダネ、俺モ愛シテルゾ。でも、ちょっと休もうか」

 だけど孫権はしがみついて来る。しかも名器で、きゅっきゅっと締め付けて来るから、その感覚に身を任せてしまい、結局は搾り取られた。

「……もう勘弁してくれ」

 何度も求められ、体力的に疲労困憊の賢者タイムに成った。隣で静かに寝息をたてる孫権は清らかな表情のままだが、どこか艶々していた。孫家、恐るべし。それが俺の結論だ。

 それからしばらくして黄巾の乱が始まった。

 来るべきイベントがとうとう来た感じだ。司隷(しれい)は皇帝陛下のお膝元だから除外するとして、荊州(うち)を含めて(せい)州、(じょ)州、(ゆう)州、()州、(よう)州、(えん)州、()州の八州で賊が急増した。

 乱を逃れて来る流民の数は多かった。肥沃な荊州に雪崩れ込んで寄生生活を送ろうとする薄汚い連中だ。これは荊州存亡の危機である!

 食い尽くされる訳にはいかない。この世は弱肉強食、だから俺は命じた。連中の息の根を止めてやれ。殺せと。

 俺は別に天下を統一したい訳ではない。俺にとって、世界は様々な宗教、民族、思想で別れていて当然で、争いは無くならないと言う認識があった。だから荊州さえ守れれば良い。現状維持なのだから漢が滅びない程度には手を貸す積もりだ。だから他国の民はどうでも良い。

「賊を荊州にいれるな」

 一応、俺は清流派と思われているが、うちは国境を堅め流民の入国を制限した。有刺鉄線の鉄条網は無いから、柵と壁を作っている途中だ。その費用は関税で補っている。

 移住の基準は働く気のある者だけ許す。それ以外、施しだけを求めて来た難民は必要無い。荊州の民も食わねば生きていけないからだ。最低でも自分の食い扶持を稼ぐ事はして貰う。入国して即座に生活保護申請なんてどこかの国みたいな不正を許しはしない。

 偽善者なら救恤(きゅうじゅう)とか慈善活動を行うのだろうが、死ぬなら勝手に死ね。生活が出来ない人生を歩んできた自己責任だ。

「天の御遣いが現れてこの乱世を静める、か。下らん」

 最近、巷で流れる噂だ。しかし天の力を借りねば鎮圧出来ない反乱と思われているとは、漢の権威も低下したな。俺達が頂く天は帝のみ、と流言を取り締まらせた。これには軍師、官吏も挙って賛同し、朝廷からも誉められた。もし自称天の御遣いが現れても即座に捕らえて斬首だな。

「殺した流民の首は切り取って柵に並べろ」

 それを見せれば一罰百戒の役に立つ。死と恐怖を頭に認識させる。だが流民の足を止めても、次に黄巾賊の襲来がある。

「流石、劉琦様。この仕置きを見れば善からぬ事を企む者も震え上がる事でしょう」

 ここでは俺の全権を預けられた潘濬(はんしゅん)が、南陽野戦軍の攻撃の指揮を執っていた。俺の傍らで荀彧は、廖立(りょうりつ)の立案した防衛計画の進行を見極めている。

 数は多くてもロシアみたいに空挺(VDV)特殊部隊(SPETSNAZ)を用いて浸透突破をして来る訳ではない。

「弓兵斉射、続けて各個に射て」

 守ると言う事は戦う事だ。友愛の精神にも限度がある。限度を超えた無法はぶっ飛ばす。

「痛い、痛い!」

 矢の雨が黄巾賊の頭を抑える。俺が房中術の本を読んでる間に味方歩兵は両翼を延伸させるべく前進した。荊州将兵は流血流汗をものともせず勇戦した。

 一方の敵だが、しょせんは無辜の民を食い物にする賊だ。正規軍相手に動きは鈍く、此方の動きに翻弄されている。OMGの様に縦深打撃を行える訳でも無い。そして脆い。

「死ねイ! このクソ野郎!」

「来いッ」

 本来、武は汚い。人を殺す術だ。だから敵をぐちゃぐちゃの肉塊に変えて行く。

「好き勝手に生きたんだ。これも自業自得だな」

 敵が例え戦術を知っていて方陣を布いて居ようが、円陣を布いて居ようが、勝利を布陣して居ようが、要害の地に布陣して居ようが、戦うべき時と戦わざるべき時を見極めておけば撃ち破る事が出来る。

 獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。それと同じだ。

 少し妙なのが、太平道の宗教はアイドルの追っかけぽいと言う事だった。

 宗教やアイドルを否定する訳ではない。一部、頭のおかしい連中が世間を騒がして顰蹙を買う。今回もその類いだろう。

「劉琦様、戦果と損害の概算が出ました」

 竹簡を受け取りながら目を通す。遺棄された賊徒の遺体は4桁、鹵獲された金属製品は潰して再利用する。金目の物は少ない。

 紙の専売が廃止され、出版物が増えても竹簡は保存の観点から残されている。公文書を竹簡で保存するのはかさ張るから場所を取りすぎる。その上、重くて手が疲れる。帰ったら親父に竹簡廃止を進言しよう。

 

 

 

 黄巾賊起の報が届いて、どれくらい経ったか覚えてはいない。ただ、上から無茶振りをされるのは何時の時代も変わりがない。

「首魁の張角が何処に居るか。はっきりと分かってないのに討伐しろとは、簡単に言ってくれるな」

 ほどなくして朝廷からの指示で、黄巾賊の反乱を鎮圧すべく官軍が編成された。

「面倒臭い」

 ま、今は従っておく。いずれ宦官の阿呆どもが、何進(かしん)大将軍を殺害すると言う不祥事をやらかして皆殺しにされる。その時は俺も宮中の糞どもをぶっ殺してやるぜ。

 形だけは仕事をするかと、うちから比較的近場の()州に向かった。

「すんなり討伐に成功されたとしても、この後も引き続き、(えん)州、()州の賊徒討伐も命ぜられるでしょう」

 閨で語る軍師連中の予測だ。訪れる未来にうんざりした。それでは北征か北伐と言った長征に成る。 

 今回の鎮圧には顔馴染みが何人か参加していた。

 曹操が率いてきた縦隊は1700名、俺は独立師の1200名。作戦計画によると主力打通の袁紹の兵団が5万。これでは実質的に袁紹軍だ。戟より槍の装備が多い。やはり金のある袁家は装備が良い。

「劉琦様、率いて来た兵はそれだけですの?」

 そう言われたのも仕方が無い。北方の守りである公孫賛(こうそんさん)は幽州から3万もの兵を動員して来ていた。公孫って聞くと曹と宋の故事を思い出す。

(曹を滅びに導いて主君の曹伯陽(そうはくよう)と共に討たれた公孫彊(こうそんきょう)は祖先かな?)

 前回、袁紹に協力した時は万の兵を動かした。だが今回は得られる物も金と官位だけ。阿呆臭い戦で兵を損なう気は無かった。曹操の所はどう言う腹積もりかは知らん。

「本初殿が居るから十分だろうと、頼りにしておりますぞ」

「当然ですわ」

 上機嫌の袁紹に兵糧を恵んで貰う事にした。荊州から運ぶコストを考えたら、少しでも安くしておきたい所だからな。俺のおっぱい予備軍、荀彧の提案だ。

「袁紹は豫州の復興を怠っており、汝南郡以外には興味が無いそうです。復興に回さなかった分、袁家の資金はまだ余裕があります。余裕があるなら、借りを作っても踏み倒せば良いと考えます」

 袁紹は復興をしたくても出来ない理由があった。略奪と殺戮で住民は減り、税収も減っている。人の上に立つ以上は命令した責任もある。高笑いしてたら済む話ではない。

 まあうちにとっては、周辺国の国力が低下する事は喜ばしい。仮想敵は弱いほど良いしな。

 とりあえず荀彧は「流石、我が子房よ」と誉めておいた

(しかしおっぱいの成長率は芳しく無いな)

 顔を赤らめて照れる荀彧にちらりと視線を向けて、同じ軍師でも周瑜との違いを比較してしまった。周瑜の存在を主張するふくよかなおっぱいに対して、荀彧はストーンとした体型で、色香や艶やかさはまだまだ足りない。

 蕾は美しい華に成ってから愛でるのがマナーだ。俺は荀彧の成長を応援してるぞ。

 袁紹が主攻を行う間、曹操は騎兵により迂回して敵の側背に助攻を行った。俺は無理せず包囲網の形成を手伝っていた。

 接触線=前線で、戦線を構築すれば後は簡単だ。敵を包囲網から出さずに掃討すれば良い。COIN作戦と同じだ。

「皆、励め。民の為、漢の為、賊徒を殺せ」

 袁紹と曹操の攻撃で敵は北へ敗走していた。荊州兵は弩や弓で遠距離攻撃を行うだけ。敵は冀州方面に逃走を図るが、ぼこぼこくたばって逝く。楽勝過ぎてあくびが出る。

 そう思っていたら、敵は俺の本陣を目指して逆襲をしかけて来た。

「よくも同志を!」

 賊将の張曼成(ちょうまんせい)は味方の前哨線を浸透突破した。その手腕には素直に驚いた。

 俺の矛である関羽は前線で敵に足止めされている。まあ、そう言う時もある。

 後、関羽の場合、矛より刀か

「下郎、(ひざまず)け。頭を垂れるなら一思いに殺してやるぞ?」

 俺は慈悲の言葉をかけてやったが、恩知らずにも怒りの表情を浮かべ斬りかかって来る。

「貴様ニ(つち)(あじ)(あじ)アワセテやる! シネエエエエエエエエ!」

「おわっ」

 壮烈な斬撃が閃光と共に放たれて来た。

 汚いな。流石、黄巾賊汚い。礼節を知らず卑怯すぎる。いい加減にしろよ。

 めちゃシコボディなギャルと違い相手は男だ。遠慮はしない。

「ちょ、危ないだろう!」

 だが俺は防御一方で押され、何とか剣で敵の攻撃を防いでいた。疲労で腕の筋肉は切れそうだ。

「ブッ殺ス!」

「ああっ、劉琦様!」

 荀彧が叫び声をあげた。本陣を急襲され親衛隊も賊軍相手に取り込み中だった。

 人は肩書きさえあれば武勇は無くても生きていける。それが権力者の立ち位置だ。なのに敵の矢面に立たされている。

「糞っ……殺ってやる! バカチンがー!」

 世の中は不条理で当然だが、誇りある死なんてクソっ喰らえだ。生きる為には全て捨てられる。

「あ、あそこに張角が居るぞ!」

 俺の言葉に張曼成が反応して視線を向けた。その瞬間、奴の胸元に剣を突き刺してやった。

 張曼成は信じられない、と言う表情を浮かべて事切れた。

「ざまあ」

 爆笑する俺を周囲はポカーンとして見ていた。

 今日の俺はスペシャルだ。敵将を討ち取った事で味方の士気は天を衝く勢いだ。

 

 

 

 親衛隊が粗方、周辺の敵を掃討した頃、薄汚い身なりの集団が現れた。

 武装してるし敵の増援か、と迎撃の指示を出すと数人が此方に向かって来る。

(降伏だろうか?)

「義勇兵の代表が御挨拶に参っております」

「あ、そう」

 義勇兵だった。

「劉琦様こんにちは。私、劉備玄徳と言います。皆を助けたくてやって来ました」

 桃色の髪をしたおっぱいは劉備玄徳と名乗り、中山靖王(ちゅうざんせいおう)劉勝(りゅうしょう)の子孫だと名乗っていた。その割には汚い身なりだ。連れてる供は義妹の張飛と友人の趙雲だと言う。

「ほーん、で?」

 水色のおっぱい、趙雲は俺の対応が気に入らなかったのか、目付きが険しい。

 無礼と言うなら無位無冠のこいつらこそ態度が悪い。おっぱいに免じて許してやるがな。

 趙雲は俺の視線を受けて一礼をすると口を開いた。

「我々は黄巾賊の暴虐を憂い、義によって立ちました。劉琦様の兵の端にでもお加え頂ければ、我が槍の戦働きで御期待に答えて見せましょう」

 たゆんたゆんと喋る度に揺れるおっぱいを眺めがら、気の強そうな趙雲が閨ではどんな声で鳴いてくれるのか想像する。三國志の路線で行くなら、趙雲は俺に忠を尽くす事は無いだろう。劉備も俺の元を離れて独立をしようとするだろう。中々、良い体だが見過ごすしかない。

「代償に兵糧、武具の提供か?」

 俺の言葉に劉備は勢い良く頭を下げる。

「お願いします!」

 今なら弱小勢力だから潰すのは簡単だが、それではおっぱいが無駄に失われてしまう。

 この討伐期間中、恩を売ってやれば、こいつらは義理堅く忘れないだろう。群雄割拠の乱世に成った時こそ利用価値がある。

「文若、劉備達に必要な物を分けてやれ」 

 劉備と趙雲を睨むように観察していた荀彧に声をかける。俺に対する忠誠心は高いから、劉備の阿呆な挨拶に憤っているのだろう。

「畏まりました」

 軍師達には劉備達を取り込む策を考えさせよう。

 

 

 

 黄巾賊は、幾つかの集団軍を作り各地で暴れて居たが、豫州刺史の王允(おういん)が領内から賊軍を一掃したり、皇甫嵩(こうほすう)朱儁(しゅしゅん)と合流して3万程の(スコア)をあげたり、官軍の反攻で各地で敗退。冀州に集まりつつあった。数は20万ぐらいか。うちの軍師連中の言った通りだ。

朱儁(しゅしゅん)殿が右車騎将軍に任ぜられたそうです。それと中央では袁隗(えんかい)様に代わって廷尉の崔烈(さいれつ)様が司徒に任じられたそうです」

 宦官と仲良くしてると中央から離れていても人事の噂が流れて来た。

「出世に興味はないが、うちも負けられないな」

 俺はおっぱいを愛でながら兵を北へ進ませる。黄巾賊に協力する村は見せしめとして皆殺しにして燃やした。中国の歴史で虐殺なんか何度もやっている。屠城、屠殺と言う言葉が存在する時点でそう言う事だ。

 人的資源の有効活用と言う観点から言えば、奴隷として荒れ地の開墾や鉱山で働かせたり、女は更に奴隷を生む製造機として使えたが、仕方無い。食糧や金目の物だけ戦利品として確保させた。汚い金だし、宦官の賄賂にでも使わせて貰うとしよう。

「劉琦様、こんな酷い事は止めて下さい! これが官軍のやり方何ですか」

 劉備は殺戮を止めさせようと俺の元にやって来た。無礼を咎めようとする荀彧を制止して俺は告げた。

「劉備よ、お前が皆を助けたい気持ちは分かる。俺だって出来れば助けたい。しかし賊は許されないのだ。見逃せば俺も罪人だ。協力する者も賊だ。この光景を忘れるな。賊の末路だ。そしてこの者達の死は無駄では無い。よほどの阿呆かお人好しでも無ければ、これで賊を匿う者は減るだろう」

 劉備は理解をしても納得出来ない様だった。よほどの阿呆でお人好しがこいつか。

「劉備、念のために言っておくが、手心加えてわざと逃がしたりするなよ」

 話を終えた俺は手を振った。帰れと言う意味だ。

 宗教とマルチとアカは人を洗脳する。人を堕落させる蛇ならまだ可愛いが、地獄に呼び込む悪魔の手先だ。

 善悪を見分けられる視野が無いと、こうやって頬を叩かれる事に成る。

 死ねば皆仏と言うけど、死者に鞭を打つ国だ。例え灰に成っても賊は許されない。

 戦で勝つには相手より倍の兵力を用意する事だと紅茶提督は言っていた。中国は人口だけは多い。領民を徴兵して使い潰せるから兵を動員する事は可能だ。袁紹の率いる豫州野戦軍は第2野戦軍、皇甫嵩(こうほすう)の率いる冀州野戦軍は第1野戦軍と改編され、決戦に挑んだ。中原大戦と言った様相を呈している。

 火攻めで皆殺しをしたら楽そうだが、燃焼させる材料を集めるのも苦労する。民の支持を失う訳にもいかないし、結局、軍勢をぶつける。ただそれだけだった。

「趙雲、貴様の武、確と見せて貰うぞ」

「お任せを」

 義勇軍はおおよそ1個営(大隊)に相当する。数個の連(中隊)に分かれて攻撃を開始した。お手並み拝見と行こう。

 趙雲と張飛が楔を形成し、敵を吹き飛ばす。その後、関羽に率いられた荊州兵の営が、逃げ出す敵に襲いかかる。戦意が崩れた後の敵は脆い。

「殺さナイデ! 殺さナイで!」

 武器を捨て懇願する声も関係無い。剣で首を飛ばされるのはまだ良い方で、戟で叩き伏せられた者は倒れ伏した後に踏み殺される。

「ごメンナさい! ゴメンなさい!」

 戦場で敵の命は無価値だ。弱者が強者に、ただ蹂躙されるだけだ。

 逃げる敵は味方に合流しようとする。目指す先に敵の首魁が居るのだろう。

 俺個人としては、張角の首を持って来て謝罪をするなら、ある程度は許してやっても良いと思うが、皆殺しにするまでこの戦は終わらない。漢の皇帝が治める天下を乱す者は許されないのだ。

 堅壁清野は守る側の行う焦土作戦だが、俺達は賊徒を殲滅する。村や街も残さない。

「義勇軍に伝令、倒した敵の物は俺の権限で全て与える。刈り取り自由だ」

 給料の出るうちの兵と違い、義勇兵は文字通りボランティアだ。他者の援助に頼るしかない。だから戦場で手に入れる物が義勇兵の収入源だった。

 俺が義勇兵に許可したのは戦場の清掃をさせる為だ。義勇兵はしょせん、正規軍の兵士に成れなかった者だ。底辺は底辺らしく、分相応にゴミ拾いをして貰おう。それで戦場はある程度片付き、やつらは懐が膨らむ。Win-Winで誰も損はしない。

 義勇兵によって身ぐるみ剥がされた死体が転がる。その後、野晒しにすれば獣の餌に成るが、病気が怖いので纏めて燃やしておく。二酸化炭素の排出を考えたら、埋める方が良いのかも知れない。だが、口蹄疫で豚を埋めた朝鮮は汚水を出していたから、やっぱり焼く方が良いと思う。

 はみ出たはらわたでホルモンを思い出す。ああ、焼き肉食いたいけど食の安全は不安だ。

 義勇兵は勇戦している。功名心のある趙雲は得難い存在だ。現時点で、劉備を支える気があるのかは知らないが、個人の武名を優先する者は仕事に対する姿勢も意欲的だ。実に頼りに成る。帰って来たらおっぱい誉めてやろう。

「脆いな」

 敵は退却に偽装した動きではない。敵の士気は低く崩壊していた。深追いは危険な気もするが、戦功をあげる機会と味方は奮い起っている。

「死ね、漢に逆らう愚民など要らん!」

 それに対して何か言い返していたが知らん。

「フザケンナヨ! 民草ダッテ生キテルンダヨ!」

 官軍は気持ち良く敵を殺して進んだ。その先頭は袁紹軍に成っていた。うちは予備隊として追従していた。

 俺は組合から提供された地図を確認した。稜線陣地には持ってこいの場所があった。

「この先、隘路に成っているな。斥候を出しておけ。奇襲されたらかなわんからな」

 そう言った直ぐ後に事態は急変した。

 俺は目の前の光景が信じられなかった。万の兵力を誇る官軍が、たった一人の敵将に蹴散らされている。パァン! と豪快に弾けているのは人だ。

「おいおいおいおい、何だよあれは」

 血飛沫を巻き上げて袁紹の軍勢を蹂躙している。一人だけ無双ゲームをしてるみたいだ。

 敵将の後方から続く賊軍は大した事は無いだろうが、その将が桁違い過ぎた。一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れは、一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れに敗れると言うアレだ。

 他人の不幸は俺の幸せに繋がる事だが、袁紹軍があまり殺られ過ぎたりすると、予備隊の俺達が投入されるから困り物だった。

「あれは呂布です!」

「呂布?」

 そう言えば組合からの報告で、涼州黄巾軍の主戦力として暴れまわり、董卓軍を撃破した怪物だと言う話があったと思い出す。

 とりあえず弓兵に準備させた。例によって毒矢だ。

 袁紹軍が壊走して来るなら、援護射撃に偽装して呂布ごと制圧する。毒を使っても証人も死ぬから口封じは問題無い。そうと決まったら腹がへってきた。俺は弁当を開ける事にした。

「呂布が向きを変えました!」

 何、弁当の香りにでも釣られたか?

 呂布は袁紹の本陣を突く距離まで迫っていたが、進路を変えて此方にやって来る。

「呂布の軍師、陳宮は中々の知恵者と聞きます。本陣の守りが堅いと見て、兵力で少ない此方を突破して行く積もりでしょうか」

 荀彧の言葉に俺は答える。

「一撃離脱か」

 なんにせよ射撃のタイミングは現場に任せている。天下無双の呂布だろうと毒矢を食らえばくたばるだろう。

 荊州以外での戦は義理と遊びだ。だからこそ貴重な兵や金を無駄に消費は出来ない。

 それに有力な将は確保するだけじゃなく、始末もしておきたい。金も愛情も有限だ。慈悲の心を注いでも、将来に敵に成るなら殺せる時に殺しておくべきである。特に呂布は強すぎる。袁紹軍の前衛が一瞬で撃破されてしまったその光景を考えれば当然だ。

 飼い慣らせないなら殺す。

 呂布は鎧袖一触と蹴散らしながら俺の近くに迫る。緊張感が周囲を覆う。

 袁紹軍の弱卒は怯えて右往左往して前を塞いでいる。邪魔だ。

 いざとなれば袁紹軍の兵ごと撃ち殺せと命じている。俺の安全はそこらの凡夫より重要だ。人の命は貴賤で別れる証明だな。

 荀彧がきゅっと手を握り締めているのが視界に入った。

 緊張感を解してやろうと頭を撫でてやると、強い意思を宿した瞳で俺を見返して来た。何ですか。そこはナデポじゃないのか?

「劉琦様、呂布に投降を勧告してみてはどうでしょうか」

 思い切って口にした荀彧の言葉に俺は考える。

 何言ってんの。だが、まぁ、駄目元でやってみるか。

「呂布よ、俺は劉琦だ。お前ほどの武人が何故、賊徒に加わるのだ。お前も、お前の家族も仲間も逆賊として討伐される。俺は惜しい。お前ほどの武人を賊として討たねばならんのが」

 俺は敵意は無いと両手を広げて前に出た。って言っても弓兵は待機させてるがな。

「俺に降れ。悪い様にはしない。お前も、お前の家族も仲間も身の安全を保証しよう。腹一杯だって食わせてやるぞ」

 呂布が馬を止めた。おっ? 俺の方に馬を進め近付くと下馬した。

 首取られないかとちょっぴりドキドキした。そして呂布は口を開く。

「本当?」

 呂布は深紅の瞳で俺を見詰める。俺は呂布にだけ聞こえる様に囁いた。

「ああ、孫権の一族もうちで保護してる」

 ぴくりとアホ気が揺れ動いた。賊を囲っている。それだけで大罪だが、呂布には蜘蛛の糸か溺れる前に差し出された藁だろうな。

「今なら三食昼寝とおやつもつけてやるぞ」

 勿論、場を和ませる冗談だ。だけど即答された。

「劉琦様のお世話に成る」

 マジでか!

 俺は呂布をぶっ殺す積もりだったが、すんなり投降しやがった。こいつ裏切らないだろうな?

 とりあえず、袁紹には適当に誤魔化して荊州に送る事とした。劉備は「劉琦様はやっぱりいい人ですね!」なんてぬかしやがった。口封じが面倒臭い。纏めて前線で死んでくれないかな。

 そして帰りを待てずに、ついムラっとして呂布を抱いた。今は反省してる。

 何故なら俺は呂布の食いっぷりを侮っていた。食費は普通の成人男性10人前を超えており、その体力は底無しだった。

「恋は……どうすれば良い……?」なんて(うぶ)な対応にハッスルした。

 呂布は破瓜(はか)の痛みを乗り越えた後に、俺との行為に馴染んで目覚めたのか「もっと……もっと……欲しい……」と俺の腰に脚を絡めて貪欲に求められた。房中(ぼうちゅう)術を学んでる訳でも無いだろうが、呂布は閨でも天下無双だった。

 よく考えると寝首を掻かれる危険性もあったのに、俺って馬鹿だ。

 ナニを終えた後、呂布が俺の腕に抱き付いて来た。

 視線を向けると「……迷惑?」なんて訊いて来た。だから一言、添えておいた。

「いや。好ましく愛しいぞ。ずっと俺の側に居てくれ」

 護衛として。

「嬉しい」

 何だか、恋しい人に寄り添う様に密着して来やがる。

 

 

 

2-2 

 組合からの情報によると黄巾賊の首魁は女だと早くから分かっていた。

「張三姉妹か」

 悪くないおっぱいらしい。最近、戦場に出る事が多く、外泊用に枕を新調しようか考えていた。

(俺のおっぱいに加えるか)

 本心を偽れば絆を作れる。俺は楽しみにしていた。今大事なのは新しい枕だと。

 しかし総攻撃を前に曹操が抜け駆けをした。袁紹が本陣でぶちギレていた。

「俺達も行くぞ」

 混乱する敵の中に荊州兵を前進させた。義勇兵を消耗させるべく前衛の尖兵を命じたが、黄巾の組織的抵抗力は崩壊していた。これでは義勇兵でも楽勝だった。

 智を武器にする者は他者を見下すほど己に自信を持つべきだが、うちの軍師は謙虚だ。

「逃げる敵を追いましょう。死に物狂いで抵抗する死兵は賊軍に居ないでしょう。屑はしょせん屑で、兵士には成れません」

 奥ゆかしい荀彧の言葉に頭を撫でてやる。劉備の視線を感じたので俺はついでに話しかけた。

「劉備よ、この戦が終わったらお前達はどうする」

「そうですね。どうしましょうか?」

 質問してるのは俺だが劉備はあっけらかんとしてる。これは何も考えていないな。

 だったら提案をしてみる。

「お前達さえ良ければ荊州に来ないか」

 きょとんとした表情を浮かべて劉備は此方を見る。荀彧は黙ってやり取りを聞いていた。

「荊州ですか。でもどうして私達を誘って下さるのですか」

 お前らを野放しにするより飼い殺しの方がましだからだよ。勿論、そんな事は口に出さない。

「共に民の暮らしを守る同志と見込んだからだ」

「劉琦様!」

 何か勝手に感動してる。俺は手を差し出し、劉備はその手を握った。

「これから宜しくな」

「はい、劉琦様!」

 劉備を近くに置く事で、いつでも殺せる様に成った。孫権も呂布も同じだ。俺が飽きるか、排除するその日までは可愛がってやろう。

 その間に戦闘は終息を迎えつつあった。

 俺の目の前で敵の本陣は燃えていた。猿轡を噛まされた三姉妹が転がされている。

「おお、曹操殿、お手柄ですぞ」

 宦官の目付役が曹操を褒め称えた。

「有難う御座います。ですがまだ終わってはおりません」

 そう言うと曹操は、死神の持つ様な鎌を振り上げて斬撃を放ち、三姉妹の首をポポーン、と切り飛ばした。

「漢に反逆し民を苦しめる悪逆な黄巾賊の首魁張角はここに討ち取った。漢の領土を不法占拠した賊軍は敗れ、我々は勝った!」

 これはせめてもの情けだろうか? 捕まれば拷問が待っている。一思いに殺されたならましな方だろうな。

 即座にそんな考えを切り捨てる。向こうから袁紹が部下を伴ってやって来るのが見えたからだ。

「華琳さん、何を勝手な事をしてるのかしら。賊の首魁は都に連行する様に命じられていたでしょう」

「あらご免なさい。こいつらの行いに苛ついて居たから」

 本当かよ。

 袁紹は曹操に出し抜かれた事に立腹していた。腹が煮えくり返る思いだったのか、顔面を真っ赤に染めていた。

「貴女、私を馬鹿にして……」

「ああ、本初殿。曹孟徳殿は本初殿の麾下、適切に駒を動かす見事な采配でしたな!」

 俺は面倒臭く成ったので話に割り込んだ。

「なっ、そうだよな?」

 周りの諸侯に振ると、空気を読んで挙って袁紹の器の大きさを褒め称えた。

「流石、本初様は優雅で心が広いですね!」

「あ、あら、そうかしら?」

 阿呆に指揮権や権力を持たせると面倒だ。そして阿呆が切れると何をするか分からない。

 視線を感じて顔を向けると曹操が生ぬるい目で俺を見ていた。視線が合うと目礼して来たので、軽く片手上げた。

 

 

 

 荊州に帰った俺は親父に報告をした後、新野城に戻った。豪族や名士から戦勝祝いの挨拶が途切れる事無くやって来るので仕事も捗らない。それでも宦官や何進大将軍、皇后等の有力者に賄賂を贈る事は忘れない。

 巷では曹操擊冀州殺黄巾張角斬首十萬(ゆっくりできないげすをせいさいしたよ)とか伝えられてるが、盛りすぎだ。あいつの兵は2000にも満たない数だったのに戦果だけ倍増されている。一人頭50人を殺したか、同数の敵としても50回は戦った事に成る。

 空気の読める俺はそんな事実を広めはしなかった。

「張角を討った曹操は一番手柄だ。今後、あいつは出世するだろうから、祝いに酒や楽器を贈ってやれ」

「楽器ですか?」

 俺の指示に手配を行っていた文官は顔に疑問符を浮かべていた。

「あいつ、中々の文化人らしいからな」

 コネは大切だが、曹操は宦官や諸侯の受けも宜しくない。俺は三國志の英雄と言う事で、そこまで宦官の孫だからと馬鹿にはしていなかった。攻められない様に一応、付き合いだけはしておく積もりだ。

 課業終了後、退庁する官吏に混ざって俺も城下に出た。庶民っぽい服装をしてお忍びで気分転換だ。

 冀州戦役で首魁を討たれ、黄巾の乱が鎮圧されると避難民は収まったが、今度は移民や旅人が増えて来た。

 金を落としてくれて荊州の経済が回るのは良い事だが、入国者数が多いと見落としも出てしまう。そう言う時に限ってトラブルは発生する。

「お兄さん、一緒に飲まない?」

「飲むだけか」

 俺の言葉に腕を絡める事で答えたおっぱいのでかい女。飲み屋の店員だろうか、誘いに乗る事にした。

「こんな所に店があるのか?」

 繁華街から離れた路地に入ると男達に囲まれた。笑い声を漏らす男達は、チビ、のっぽ、デブと言った特徴的な連中だ。

「兄ちゃんスケベ心を出して残念だったな。怪我したくなかったら持ってる物全部渡せ」

 何と言うかテンプレ過ぎる台詞に呆れた。俺の街でこんなごろつきまだ居たとは驚きだ。

 後で警備隊の責任者を叱責してやるが、その前にこいつらに仕置きだな。

「うるせぇ、エビフライぶつけんぞ! いや、俺はエビフライが食べたい。むしろ食わせてくれ」

「何を言ってやがる。舐めてるのか?」

 ノッポは短剣を片手に近付いてくる。

「うるせえ、シナチク野郎! てめえこそ誰に口効いてるのか分かってんのか?」

 美女がエロい下着を着て迫ってくる訳でも無く、何か凄んでやがるから顔面ぶん殴ってやった。相手の骨が砕けた感触があった。カルシウム取ってないのだろう。

「兄貴ぃ!」

 仲間が剣を向けて来た。だが俺も護身術は習っている。

「無駄だボケ」

 せっかくのお忍びを邪魔されて苛立ちはMAXに近い。

「死ね! この街の城主の顔も知らん流れ者の屑め」

 路地には、俺を嵌めた女を含めて四人の死体が転がった。身の程を知らん馬鹿共だ。

 殺しをした後は興奮が覚めていないらしく、帰ったら俺のおっぱい達に心配されたが、何人も相手にハッスルした。そして俺は生きている事を強く実感する。これからも命果てるまで人生を楽しむ努力をしよう。

 その為にも荊州を守る事だ。民あっての国では無い。国あってこそ民の生活が守られる。

 だからこそ荊州の為に何が出来るか考える。俺は、おっぱいを楽しむ自由を妨げる者達と戦う覚悟がある。俺以外のあらゆる代償を支払い、あらゆる困難に耐え、全ての敵を滅ぼすのだ。

 

 

 

2-3

 

 霊帝崩御。その知らせが組合と宦官から流れてきた。

 皇帝の死後、朝廷では政争が激しくなり、弁だ協だと何か揉めていた。

 それで何進大将軍が殺され、何進大将軍に可愛がられていた袁紹がぶちギレて宮中に兵を差し向けて宦官を殺戮したと言う。

 袁紹やるじゃねえか。俺は気に入った。だから袁紹の全面的支持を表明した。

趙忠(ちょうちゅう)様より、御恩は忘れません。これから宜しくお願いしますね、との御言葉です」

 趙忠は十従侍のNo2であり皇帝の信認も厚い女だ。

「何それ、荊州(うち)で面倒見ろってのか」

 利用価値がまだある宦官はうちが手を回して組合の伝で保護したけど、えらい事に成った。

 忠義や愛国心なんて物は溝にでも捨てられたのか、何進大将軍が死んだだけで国は乱れた。俺、ワクワクするぞ。

 事態は予想もつかない程の混沌とした状況で、西園八校尉でも格下であった曹操が、保護した陳留王の協を新な皇帝として擁立し、相国(しょうこく)として実権を握った。

「妹より劣る姉はいらないわ」だとよ。

 虎賁中郎将で中軍校尉の袁紹はさらにキレた。高々、議郎の曹操に手柄を掠め取られたのだから、仕方無いわな。

「醜いな。権力争いなんて」

 そう言う俺の前に、『ちょっと曹操、ムカつくんで反曹操連合を作ってぶちのめそう』と言う主旨が書かれた檄文が袁紹から届けられていた。

 独裁専横と腐敗堕落は宦官の特権であったが、曹操はそこまで腐っていない。完全な言いがかりだ。だけど諸侯に根回しせずに相国に成ったのは、曹操にしては失敗だったな。

 いかに曹操と言っても連合軍相手に兵力差が開く。おれらが味方に付いた勢力が勝つだろうが、どちらにしようかな。曹操か袁紹か。

 これは漢があらゆる問題を一気に解決出来る、溜まった汚物を一気に浄化されるチャンスだ。上が無能だからこう言う政争が起きる。

 俺はワンマン社長ではないから家臣の意見は参考に聞く。親父に意見や報告をする前に、家臣を集めた。その中には保護している孫家の面々も居た。

 俺は未来知識による発想はともかくとして、文官としても武官としても並みだからな。こいつらの助けが無いと困る。だから大切に愛でてやる。

「本来、漢を支えるべき地位の者が互いに争いを起こそうとしています。両者と親交のある我らとしては、どちらの味方に付いても角がたつ。しかし、かの者達にこの国の未来を委ねるには不安があります。事態を静観し、両者を争いで疲弊させ残った方を討てば如何でしょうか」

「いや、袁紹は傲慢で阿呆だがお人好しでも御しやすい。それよりも曹操が残れば脅威と成るでしょう。才あるあやつが権勢を高めれば、荊州の優位性も失われてしまう。ここは袁紹に協力すべきかと」

 意見は色々と出たが、どれも俺の好みではない。俺としては損益を考えて、得れる物が少ない外征をする気がさらさら無かった。民は主を生かす為に犠牲と成るのは当然だが、出さなくて良い犠牲なら抑えたい。うちの被害は少なくして最大限の利益を求めよう。

「大義と成すべき事。それは第一に荊州の保全だ。それに連中も蝗害が広がれば戦の騒ぎでは無いな」

 唐突な俺の言葉に家臣達は怪訝な表情を浮かべた。

「袁紹と曹操に文を送ろう。戦を止めるぞ」

 戦を止めるべく、両者に会談と友好善隣条約締結を推奨した。

 一方で俺は、華佗に研究させていたバッタを放つ様に命じた。このバッタは防疫の過程で発見された。敵国を食料危機に陥れ、ある期間で死滅するよう改良されている。

 敵か味方かはまだ判断が付きかねている。だが何れは敵に成る。それなら少しでも打撃を与えておきたい。一人殺すのも百万人殺すのも同じだ。蝗害を受ければ、曹操と袁紹の勢力圏は打撃を受けるだろう。

 それに、また米相場で一儲け出来そうだ。

 

 

 

 日も高い内からおっぱいと戯れる程、俺も阿呆ではない。それに精力も尽きる。

 献策や報告を受け、その採否や指示を行っていた。

()州、司隷(しれい)(えん)州では蝗害の被害が早速、出始めているそうで、一月もせずに冀州と青州にも広がるでしょう。それと、曹操の支配地では徴発が始まりました」

 黙って見殺しに出来るのが俺達だ。家臣からは結果に対して称賛の声も上がった。

「文字通り、倉廩(そうりん)満ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄辱(えいじょく)を知るですな。お見事な采配です」

 三度三度の食事が出来る事は努力の結果だ。それが奪われるのは耐え難い事だ。

 俺は荊州に住まう者には働いた分だけ幸せに成れる事を約束出来る。親父も無茶な税もかけていないし、そこは上手く行っている。

 蝗害の被害で周辺国が荒れようと他所は他所、うちはうちなのである。

 曹操の軍勢が掌握している範囲は狭い。食料危機に対して司隷では皇帝の名の下で、徴発と言うか略奪が始まった。行っていたのは曹仁(そうじん)曹洪(そうこう)曹純(そうじゅん)と言った従妹達であった。

 特に曹操の金庫番である曹洪は、蝗害が自分達の勢力圏で広がる事に歯止めも出来ず、上がる相場と支出に焦っていた。

 僅か数日で跳ね上がった相場でうちは大いに稼がせて貰っているが、あちらは火の車って事だ。

「お姉様は相国として皇帝陛下を擁立なさっています。その政を支えるのは漢の民として当然の義務ですわ」だとよ。

 行動力のある曹仁は「ぶっ殺すっす!」と有言実行で、供出を渋る商家の主をくびり殺し、店を焼き討ちしたとも聞く。

 その非道は曹家の一門が率先して行っている為に、やがてそれは支配地全域で行われる事に成ってしまった。

 政も戦いだから、その行いは悪くないと俺は思う。だけど世間一般はそうは思わない。

 略奪をしたと言う醜聞だけが広がる。

「それは良かった。協力者の謝礼も上乗せしてやれ」

 袁紹、曹操は共に一族や豪族の支持があって成り立っている。しかし主流から外れた不満分子は必ず居る。俺はそう言った連中に組合を通して指示と支援を与えて、シンパを作り上げた。

 信賞必罰をモットーにする俺は、協力者にも報いる。人は、金の詰まった袋で頬を殴ってやれば、歯を吹き飛ばしても笑顔を浮かべる。だから動かすのは簡単だ。煽動し、このまま荊州以外を滅茶苦茶にする覚悟はある。

 黄巾賊や孫家残党も市中に潜み、武装勢力は軽く10万を超えていた。しかし軍師連中曰く、まだ時期では無いと言う事で武装闘争は指示をしていない。

「孫子も戦わずに勝つのが良いと言ってます」

 昔、読んだリデル・ハートっておっさんの書いた本に書いてあった。Indirect approachとか言うやり方だ。

「そうか。全て任せる」

 俺は人材を活用する。将来の君主として親父や周りから人を使う事を教えられて来た結果だ。人は環境に左右される。何でも与えられた恵まれた環境でこそ才能は花開く。逆に底辺の生活を送っていると貧困の連鎖から抜け出せなくなる。だから貧乏人の分も俺は人生を楽しむ。

 彼女達が考えた策は、第一段階として、蝗害である程度、両勢力に被害を与えたら物流を止めて相場を上げ、暴動を起こさせる。次に戒厳令を布告させ、決起部隊に首脳陣を拘束又は殺害で排除させる。最後は治安維持の名目でうちの兵隊を送り込んで、不穏分子を一掃し完了する、と言う乗っ取りだった。

 俺は荊州以外の土地はいらない。それに三日天下では意味無い。だが、下らない派閥抗争と権力闘争の戦いに付き合うしかない。

(小規模な局地戦に限定出来れば良いが……)

 あまり大規模な戦闘に成ると色々と面倒だ。戦争するに価する敵では無い。

 現状に満足し見栄も欲も限れば、全国制覇は必要と成らない。そう言う物だ。

 俺の戦争なら俺が始めるしな。連中は死ぬ場所は選べない。殺す場所も死に方も決めるのは俺だ。もし荊州を敵として選ぶなら、生まれて来た事を後悔する様な死に方をくれてやる。

 

 

 

 曹操は三公を輩出した袁家を軽んじていないと、袁紹を前将軍に任命し懐柔しようとしたが、袁紹は断った。曹操の権威を認めてないからだ。

()州九郡の守相である私に対して、あのチンチクリンは何を思い違いしてるのかしら? 身の程を弁えるべきですわ」

 戦にも華麗を求める袁紹にとって(はかりごと)は相入れない考えであった。袁紹の家臣はまた違った考えであろうが、主君が計を用いらない以上は、表向き動き様も無かった。

 最初に暴発したのは袁紹ではなく曹操側だった。蝗害による被害はとどまる事を知らず、今や荊州の周辺全域に広がった。一息着いたら、その後は疫病が流行り死者を増やした。うち以外はワクチンも無いし、感染経路が分からないから余所者を殺すだけだった。馬鹿は勝手に自滅しろ。

 そう思っていたら、夏侯惇が弘農郡より南陽郡に攻め込んで来た。魯陽(ろよう)の街を襲い略奪をしてると言う。びっくり何て物ではない。うちに助勢を頼みながら攻めてくるとは、曹操の考えが分からん。

「急激な情勢悪化で食糧に困窮し、士気や軍規が著しく低下していた様です」

 うちは他国に援助する程、食い物も余っている。金さえ出せば売ってやった。

「だから暴走したって言うのか……やってられん」

 弱小勢力ならともかくとして、脅して味方に付くほどうちもぬるくはない。

(ガチでうちとやり合う積もりか?)

 攻められたらやり返すがうちの流儀だ。

「うちを敵に回して何故そこまでするか、だな」

 俺は親父の名代として博望(はくほう)に兵を集結させていた。

「魯陽の状況はどうなっている?」

「物見の兵を放ったのですが、まだ戻って来ません」

 関羽の報告によると、斥候と連絡が途絶えたと言う事だった。

「ふーん。ちょっと様子を見に行くか」

 俺の言葉に関羽は慌てる。

「劉琦様自らお出に成るまでもありません。私にお任せ下さい」

「良いって事よ」

 月明かりの下で街に向かった。敵の気配は無い。静かすぎた。

 街の入り口に近付くと、老若男女を問わず切り取られた首が並んでいた。

「野蛮人共め。この借りは必ず返してやる」

 護衛として連いて来た関羽が激昂している。落ち着きが無いな。しょせんこの程度で死ぬ連中なのに。

「落ち着け」

 そう言いながらもワクワクする。死の香りが嗅ぎ取れたからだ。

 折角ここまで来たんだ。手ぶらで帰る気も無い。俺は城内に兵を進めた。

「なっ……!」

 関羽は口許を押さえて絶句した。

 俺は期待通りで嬉しく成った。

(やってくれたな)

 街は鮮血で彩られていた。路上には民も兵も殺され尽くしていた。

 何処の誰が殺されても勝手だが、荊州を脅かした事は開戦理由に十分だ。

 民はどれだけ君主に貢献出来るかが求められる。これで曹操を潰す大義名分を手に入れた。

「安い挑発だが、やられたらやり返すのが礼儀だ。子の不始末は親に取って貰わんといかんな」

 前太尉で曹操の父である曹嵩(そうすう)捕縛を命じた。

 俺の言葉に関羽が顔を向ける。

「それと民を丁重に埋葬してやれ」

 筋は通っているから関羽は頷いた。

 こうなると司隷に対し派兵するしかない。洛陽解放、曹操討伐に流れは傾く。()州の(ぎょう)を拠点とする袁紹に討伐参加の返事を送った。

「賊臣曹操は漢室を蔑ろにしている。朝臣として看過出来る事ではない。世の義士は本初殿を盟主として集い、曹操に天誅を加えるべく立ち上がるべきと考える。討つべきは今だ!」

 先ずは曹操の策源地である(えん)州陳留郡と司隷を遮断すべく潁川(えいせん)郡に兵を進出させた。南陽郡の隣なので移動は直ぐだ。それと同時に陳留のシンパに武装蜂起を命じた。やるなら徹底的にやってやる。

 例え生き残っても、男には一切無縁、行き遅れのババアで終わる曹操が哀れだ。だからその惨めな人生を終わらせてやる。

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