6-1
烏巣を仮の本陣とした袁紹は現状報告と行動計画の確認が行われていた。広い国で隠れようと思えば何処にでも隠れられるが、劉琦は対決の姿勢を選んだ。ならば叩き潰し屈服させるしか無かった。
攻城兵器の準備、集積も進んでいる。兵は将を信じ、将は主君を信じ戦いに往く。
「前衛は予定通りに要点を確保、官渡に斥候を送りましたが、敵の頑強な抵抗により破れました」
「仕方無いですわ。荊州兵はただの賊徒と違い、官軍として戦慣れをしてますもの」
主が華麗な戦と政に拘るなら、裏の汚れ事を背負うのも臣下の務めと田豊は精力的に役目に励んだ。
「官渡の城を攻め落とし劉琦を討ち取る事は麗羽様もご待望の事と思います。しかし城攻めは不要、押さえの兵を残して荊州を平らげてしまえば、いかに野心溢れる劉焉と言えども袁家の威を知る事と成りましょう」
田豊が敬愛するのは主君袁紹のみ。
荊州との戦が終われば袁家の天下が目前に迫っていた。それを阻む強敵として漢に残る勢力は益州の劉焉だけと成る。
「
田豊の真名を呼び叱責する袁紹であったが、田豊から見て、連合軍の同盟者である劉焉よりも敵である劉琦を敬う主君が理解出来なかった。
「は、はい」
「それにあの方を正々堂々と撃ち破ってこそ勝ったと言えます」
袁紹にとってそれは守らねばならない矜持だった。だが劉琦が袁紹の言葉を聞けば、矜持など腹の足しには成らず、犬にでも喰わせてしまえと言う所だった。
翌日、黄河の支流が形成する湿地帯を抜けて袁紹軍は官渡城を囲んだが、準備万端の荊州兵を相手にかなりの死傷者を出していた。
田豊としては不満だった。後退して来た者は軍令によって懲罰部隊に組み込み、最前線に逆戻りさせた。昼夜を問わず攻め続けさせる力業だった。
田豊は今後を考えて袁家譜代の家臣は極力温存し、連合軍の
「まったく、麗羽様の華麗な戦に水を差すとは愚かな連中ですね。それはそうとして……」
田豊は後退する味方を見て表情に怒りを浮かべた。
「
帰還した沮授は、初戦の敗戦で士気を下げたと罪を問われ衆人環視の中で叱責された。
「敗戦の原因究明は簡単です。指揮官の戦意不足です。──それに私は貴方が信用出来ません。貴方は今回の戦にも反対していました。荊州に知己が多いそうですが、本当は負ける約束でもしてたんじゃないですか?」
沮授は田豊の嫌みに反論した。
「今の時代、親族係累、友人が敵味方に別れて戦う事は珍しく無い。だが貴殿は、かつての友であったと言うだけでも、本初様へ二心ありとして罪を裁くのだろう。貴殿の気にくわなければ処罰対象じゃないのか? そうして、誰も彼もが処罰対象にするのだろう」
田豊は口角を釣り上げた。中央規律検査委員会を統べる彼女は粛清を行う権限があった。
「言いたい事はそれだけですか? 遂に馬脚を現しましたね。我が軍の戦意を低下させる積もりでしょうが、そうは行きません。貴方を本初様への反逆の罪で処刑します」
田豊へ一極集中した権限。袁紹軍の致命傷と言える問題だった。
沮授の薫陶を受けた者達は、田豊に処断される様を見て反旗を翻す事を決意した。不正蓄財、規律違反等幾らでも罪は用意出来る。これは権力闘争だった。
「お前達の前に居るのは敵だ。裏切るのは我々ではない。裏切ったのは彼女達だ!」
「ちょ、ちょっと何考えてるのですか! まさか、貴方まで敵に通じてたとでも言うのですか!」
田豊は最後の瞬間まで張郃が剣を向けて来た理由が分からなかった。
「裏切る? 違いますよ、剣を向けさせたのは貴女です。本初様に忠を尽くすのは家臣として当然。ですが、その為に沮授殿を貶めた貴女を許せない。死ねイ! この糞牝犬!」
貧乏人は脳へ栄養が足りて無いから馬鹿な言動をする。俺は兵にたっぷり食わせてやる。だから良い働きを見せてくれる。
江東の
見目麗しい者は生かしたまま捕らえろと命じていた俺は、捕虜のリストから二人の名前を見て呼び出した。
「放して!」
俺も聖人君子では無い。良い女が居れば抱きたいと思う。
兵に連行されて来た姉妹の容姿を見る。
「ふーん」
怯える二人を眺める。確かに可愛い容姿をしているが、年齢的にはまだ幼いと言った所だ。俺は
酒の酌をさせながら
「それで──」
耳朶をくすぐる様に話しかけると拒絶された。話を広げ様と思っていたのに食いついて来ないな。
「嫌っ」
おっと、逃げようとして大喬が倒れた。
「お姉ちゃんっ!」
「凄く……大きいです──って、な、何だお前は!」
怒鳴り声をあげるたのも仕方がないと思う。だって、大喬の股間の間には顔に似合わず極太なビッグマグナムがそびえ立っていた。俺はノンケだからそっちの趣味は無い。
(キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいイモムシゴーロゴローキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい)
俺は性差別者かもしれない。肌の色は気にしないが、同性愛者や女装の男の娘と言った非生産的な者は排除する。彼らは神の創造物とは違う。だから自然界に存在出来ない。
劣等種が種を残さないのは自然の摂理だろう。隠してる分は良いが、害悪を撒き散らして広めようとするなら危険因子だ。
同じ様に、浮浪者も流民もヒッピーも難民も生きるに値しないから排除する。荊州は我らが安息の地、余所者は不要だ。最終的解決手段を選択した俺は悪くねえ。
俺の思考は嫌悪感と憎悪で一杯になった。不要どころか有害な塵は排除するしか無い。
「劉琦様、如何されましたか!」
俺の声を聴いて護衛の兵が天幕に駆け込んで来た。
「こいつは穢れている! 俺を騙して取り入ろうとした敵の間者だ。生まれた事を後悔させてやってから首を跳ねろ」
俺は生理的に気持ち悪い大喬の始末をさせた。
豚の様に悲鳴をあげて姉の亡骸に取りすがる妹は取り押さえられた。その様子を見ながら考えた。
(おお、そうだ。こいつは兵の慰み者として使い道があるな。よし、生かしてやろう)
俺の慈悲深さが兵の忠誠を高めるのは間違いない。
それにしても、大喬は遺伝的にも劣等人種だったのだろう。殺さない理由は存在しない。だから死んで当然だ。死体が運び出され天幕が清掃される間、俺は気分転換に孫権の天幕でイチャイチャするかと足を向けた。
着てる物を完全に脱がせるより、着崩してる方がエロさを感じる。すっぽんぽんは情緒が無い。そう言った需要で発展した会社だって世の中にはある。でも愛の無い犯罪はいかん。
ちゅっちゅっしてると、火急の知らせがやって来た。邪魔をされて、むくれた孫権を宥め俺は話を聞いた。
「
革命なんたらと言う組織は袁家の支配地に潜伏させていた俺のシンパだ。今回の戦にも袁紹軍の一員としてシンパ達が
国を守るのは郷土愛や家族愛、色々と理由がある。俺はゆっくりした
歴史上、人を動かす事が上手い者は、漢を築いた
一方で、今回の戦で度重なる袁紹軍の敗北は、敵に厭戦気分を与え、袁家内部で袁紹の影響力を低下させた。袁家を守らない家長は不要な存在だと。そこで俺のシンパが役に立った。
「袁紹軍で内紛が発生しました。同志の
君主は家臣を信用しても信頼してはならない。頼ればその者に傾倒して、目を曇らせるからだ。
「ふふん、根性無しで頭空っぽの馬鹿野郎どもは、どたまに一撃で決まりだな」
俺のシンパが扇動し、
他の主だった将や軍師は『自由に殺してください』とプラカードを首からぶら下げて、戦死者の家族の中に放り出されたそうだ。凄絶なリンチを受けたらしい。
これで袁家は骨抜きだ。残った袁紹の支配地は無法地域と成る。精々、袁家内部の権力争いに
頑張って袁紹軍を破る計画を立てていた周瑜は涙目だろうが、戦場以外で勝負がつくと言う経験には成っただろう。
俺は袁紹の顔を見る事にした。
厳重な監視に囲まれた天幕の中、寝台に横たわるのは袁紹だ。袁紹の拘束はしていない。
「おお、大変でしたね、本初殿」
敗北によって虜囚となったが袁紹は、袁家の
「劉琦様、貴方には私の真名を預けましたわ」
俺は部下を外に下がらせて二人っきりに成った。
「俺はまだ貴女の真名を呼んでも良いのですか?」
起き上がった袁紹の傍らに俺は腰かける。害される恐れは無かった。勝者の余裕だ。
「
頬を染める袁紹が可愛く見えた。俺が顔を近付けると、袁紹は自然と受け入れた。
「んっ……」
くちづけをした。閉じられた瞳の睫毛が震えている。
「ふぁ……あ……」
唇を離すと名残惜しそうな声を漏らした。これって抱いてもOKって事かな?
袁紹を優しく抱き寄せた。
「はぁ……。劉琦様は、私を必要としてくれますの?」
目をとろんと潤ませて体を預けて来たので遠慮無くまさぐった。
(愛情に飢えているのか、ちょっと優しくされたら股を開くか)
目には目を、歯には歯を、おっぱいには愛情を注いで育む物だ。言うなれば俺は魂の救済を行うのだ。
「あぁ……」
背筋を震わせて恥じらいながら吐息を漏らす袁紹。
敵に囚われ、股を開こうとしている袁紹は世間的に考えてビッチだろうが、俺は構わないと思う。
「麗羽、これから貴女は俺の
「おっぱい?」
俺のおっぱいには人格者を求める。嫉妬してモラハラやパワハラをするような人格障害はいらない。性的愛玩物として俺の癒しにならない者に価値は無いからだ。
おっぱいのおっぱいに手を伸ばし、ご相伴に預かる事にした。
ちょっと触っただけなのに感度良すぎだ。麗羽の半開きになった口から吐息混じりの喘ぎ声が漏れ続けている。
「あっ、あっ……んんっ……はぁ……」
胸から腹部にかけて波打つ様に揺れていた。扇情的だね。
俺の為に死ねないのなら、それは俺のおっぱいとは言えない。これからじっくり、ねっとりと教え込んで行こう。
「うひひひ」
「……劉琦様?」
おっと、下品な声を出してしまった。雰囲気は大切だよな。
「お前の睫毛は長く美しいぞ」
とりあえず誉めて口づけをしておいた。
「あっ……」
まぁ、とにかく、官渡の戦いは袁紹軍の自壊で終了した。袁家の排除は手間が省けた。シンパを作っておいたのは正解だった。
袁紹とイチャイチャした翌朝、鳳統と孫権と黄忠からジト目で見られた。
まだ戦は終わってないと言い訳をしたが、こいつらと約束していた事をすっかり忘れていた。俺が良い女を口説き落として楽しくやっていると、悔しがる者も居た。
だけどそう言うからには、さっさと告白したか、釣り合う男に成る努力をしたんだよな。
でも結果は俺に取られている。嫉妬や羨望の視線は心地良い。勝利の味だ。
快楽に耽る前に戦を楽しもう。誰を殺し誰を生かすかは俺次第だ。
先ずはゆっくりと恐怖を教えてやる。その為にも降った袁紹には協力して貰おう。
俺の治める
劉焉が覇権を握るためには、漢の
官渡の戦いの後、袁紹に従っていた弱小勢力は国許へ帰り時勢の行く末を見届けようとした。
北の敵を撃退し残るは西の劉焉だ。弟達が助けを待っているし、さくっと終わらせたい。
「皇帝陛下は宗主である劉焉を遣い走りには出来ない。劉焉も屑だが藩屏として皇帝陛下を支える義務があるから手出しを出来ない。俺としては、本当は幼子より劉焉が皇帝に成った方がましとは思う。強い皇帝なら漢は建て直せる。劉焉は自己中心的で選民思想な豚だが、賢い豚だ。実力が伴っており汚い仕事が得意だ。あいつは生まれる家を誤ったんだ」
不敬な言葉に反応する様な者はここに居ない。居るのは俺に忠誠を誓った者か荊州を守りたい者だ。
「だけど残念ながら、劉焉の覇道と我らが荊州は並び立ちはしない。だから選択は決まっている。俺は劉焉の首が見たいんだ」
そう言うと、家臣は頑張ってくれる。もしかしたら呂布が先に成都を落としてるかもしれない。
ま、宗主であってもぶっ殺す事を誰も疑問に思わなかった。本当に、日頃の人徳が物を言うわな。
「荊州を侵した益州兵は全員、あの世送りです」
鳳統も張り切っていた。避難の間に合わなかった一部の民が
「そうだな、へこましてやれ。野犬は追い払っても戻ってくるから殺すのが正しい。駄犬は畜生らしく地べたを這いずるのが相応しいと教えてやれ」
そう言えば組合の関係者が笑顔で戦勝祝いの品を贈って来たが、袁家が勝つ事に賭けていた商家が軒並み潰れたそうだ。
「将来を悲観して自殺した者も多いとか」
商売仇が倒れて嬉しそうに語っていた。商人であっても敗者の末路は同じ。投資は自己責任であり、余裕資産以上の失敗は投機だ。
商人にとって金を失う事は命を失う事に等しい。命を落としても金は落とすな。死後の世界まで金は持っていけないが、それが彼らの信念だ。
「無様だな。負け犬が現実逃避してるだけだ」
金は天下の回り物と言うぐらいだ。俺は惜し気も無く組合に投資を続けた。市場に対する寄与は組合の方が大きいので、更に影響力を高めるだろう。
「ははは、左様で御座いますな」
こんな風に他者を踏みにじる俺達だが、審判の日がいつかやって来るのだろうか? でも荊州の民は終末まで楽しく躍り続けるだけだ。
6-2
歴史は一つの気流の中で動いている。
益州と荊州の境にある
守将である関羽は、長い黒髪を風になびかせて城壁から眼下の敵兵を見下ろしている。
長江の存在で劉焉の軍は兵力差を活かせていない。嫌がらせの様に巫の周辺にある田畑を刈り取り、集落から略奪し焼き払った。
──戦国に秦の張若が攻め込んだ経路と同じか。
関羽は凡庸な将では無い。だからこれは自分達を誘い出す罠だと理解していた。
「
関羽は字を雲長と言うが、親しい者は真名の愛紗と呼ぶ。
話しかけて来たのは、張飛翼徳、劉備玄徳を処断した後、関羽の妹分として仕える様に成っていた。
「落ち着け、鈴々。我らがここで守りを固めれば敵は先に進めない。それが目的なのだから」
子供が無知でも罪では無い。学べば出来るし、成長しないのはやらない者だけだ。
だから張飛は許された。しかし馬鹿は罪で許されない。兵の命を預かる将ならば、馬鹿は罪だ。
劉琦は女好きだが君主であり、処断を躊躇わない。だから関羽は妹分を処断せずに済む様に導いていた。
関羽は劉琦との会話を思い出す。
「関雲長よ、此度の戦はその方に巫の守りを命じる。劉焉の兵を食い止め、時を稼げ」
劉琦は袁紹との決戦を行おうとしていた。そこに劉焉の横槍が入れば戦の流れを揺るがしかねないからだ。
「承知いたしました」
関羽は劉琦におっぱいと呼ばれ、寵愛を受ける者の一人だ。
後漢書の列傳に次の様な文が残される。劉琦、心卑しく女色に耽り、その弟、劉琮が荊州の守相を継ぐ。
後世の評価がどうであろうとも、この時代を生きる関羽とって劉琦は愛する
関羽は
一方の敵将も意気軒昂と士気だけは高かった。
「亡き主君と妹の仇、劉琦を討ち、関羽……今度こそ貴様と決着を着けるぞ!」
それは混戦の中で討ち漏らした夏侯惇だった。片目を失っているが闘志は衰えていない。
石頭の武骨者は益州で隠遁生活を送る内に、古典を読み故事に習い、芸を嗜んだ。
失敗から学習をしない人間はいない。夏侯惇は家族を失って将として成長していた。
「劉琦様の名を貴様ごとき下郎が軽々しく口にするな! 負け犬は負け犬らしく、地べたを這いずって吠えてろ」
関羽は仇等と言う被害者面が気にいらなかった。天下に重きをなす劉琦は、荊州に暮らす全ての者にとって希望だった。
激昂して言い返す関羽だが、家臣は仕える主人の影響を受けるらしい。関羽の口上を聞いた張飛は、劉琦と比較して似ていると感じたが口にはしなかった。
夏侯惇が率いる兵は劉焉に与えられた士卒の他に、曹操軍残党も雑ざっていた。
敵は再起を図る前に潰してしまう。それが正しい選択だ。敗残兵は徹底的に狩り殺しておくべきだったと関羽は唇を噛み締めた。
──此度は一兵余す事無く皆殺しにする。
対峙が長引く中で、劉琦が官渡で袁紹軍を破ったと言う報告が入ると関羽は好機と見て精兵を率いて反撃に出た。関羽が斬り込むと遂に劉焉軍は囲みを解いたのである。
朝廷から使者が来て俺を楚王に任命して行った。巫に到着する前だから、やる前から劉焉が負けると思っていたらしい。今後の政を俺がどの様にするのか朝廷は知りたがっていたが、俺の器量では天下を統べる事は出来ない。そもそもやる気が無い。
「ふん、丞相や宗主を倒して王か。朝廷も狂ってやがる」
漢の終わりは兆しどころか前から軋み声をあげていた。今更、王の肩書きはいらん。
時代の終わりは前から来ていたんだ。
「周の時代、楚は中原から離れた
確かに戦はまだ終わっていない。巫から敵を撃退したと言っても、かなりの敵が荊州に残っている。
「俺に鎧甲は要らんぞ。今に劉焉軍は破れる。お前らが勝利してくれると信じてるからな。だけど俺が死んだら火葬にしろ。土葬にはするなよ。後、殉死はいらん」
女出入りの激しい俺だが、死んでまで付いて来いとは言わない。
巫では「全ては劉琦様の為に!」と声高々に叫び、関羽が頑張ってくれているそうで、放って置けば益州まで攻め込みそうな勢いだ。
劉焉軍では多くの士卒が死傷するか、脱落していた。関羽は投降して来た敵は皆殺しにしてるらしい。戦を良く分かってるじゃないか。後で誉めてやろう。
俺が到着した時、無様に背中を見せて逃げる敵軍を勢い着いた我が精兵が追いかけていた。力こそ正義だ。
力無き者が粋がっても勝てはしない。
敵の殿軍は夏侯惇が指揮していた。窮鼠猫を噛むって言葉もあるしな、生かして捕らえよう等とは思わない。
「夏侯惇は名うての将だ、
褚師子肥は景公の治める宋が、曹との戦で破れた時に殿軍を指揮していた者だ。俺の指示は間違いなく伝えられた。
流れ矢が馬を殺し夏侯惇は倒れた。その間に追い付いた味方の騎兵が夏侯惇を取り囲んだ。
夏侯惇は我が兵を斬り倒し、死力を尽くして抵抗した。だが多勢に無勢、手傷を負っており足元も覚束ない。
「おのれ、私は華琳様と秋蘭の仇を討ちたいだけなのに、天は今回も劉琦に味方をするのか!」
絶叫していたが、知らんわ。そんな事と俺は思った。引き際を知らず、荊州を乱す者は死ね。
「死んだ操公と妹に尽くすのか。敵ながら何と見事だ」
内心の嫌悪感とは違う、一見公平な評価を口にした。この演技は俺の徳の高さと慈悲深さを効果的に演出する。
「討ち取るのも惜しいが、戦場での死が望みならば降るまい。それも武人としての矜持を守る為だ。遠慮は無用、全力で向かえ。それこそ武の道に生きた者への手向けだ!」
この後、敵の策源地である益州に兵を進める事に成るが、呂布は今頃、どの辺りに進んでるのだろうか?
劉焉は欲を出して将を損ない兵を減らした。その代償は益州が逆侵攻を受けると言う物だった。
呂布は五週間で70余の街を落とし、劉焉は劉琦を『宗主に刃を向ける事は道を外れた大逆であり謀叛人だ』と罵った。最早、勝つしか劉焉に残された道は無く、負けた時が益州の最期だからだ。
劉焉は
「益州の民は宗主であると言うだけで劉焉に付き従っております。いかがなされる?」
「成都周辺と城下に籠る敵の兵力は8万。対する我が方は占領地の平定に兵を割いており、手元の兵は5,000、それと劉焉の行いに憤って加わった義勇兵が1,500。確かに数の上では寡兵と言えますが、敵の多くは武器を与えられただけの民草であり、戦意は低い。烏合の衆と呼べましょう。劉琦様が楚王と言う天命を皇帝陛下より授かって、勢いは我らにある。すなわち我に天祐神助があります。それに我らには天下無双の豪傑である恋殿がいらっしゃるのですぞ」
劉焉軍が数で勝りながら呂布軍を包囲殲滅出来ないのは弱兵であるからだ。呂布軍にぶつかれば衝撃力で敷いた陣を抜かれ、数の優位が覆される。
包囲殲滅陣はそれなりの錬度を持った士卒で無ければ実行出来ない。農具を武器に変えた所で、百姓が呂布軍に敵う筈もなかった。だから初戦の迎撃に失敗した後の劉焉軍は、呂布軍に義勇兵が参加する前の時点で、16倍の兵力差がありながらも成都に籠り硬く守りを固めていた。
この様な状況を鑑みて、陳宮は自軍の勝利を確信していた。その勝利を確実にする為に策を練る。その上で情報収集を怠らなかった。
荊州では捕虜を原則的に処断する。我の妨げとなり、行動の自由が奪われるからだ。
「程仲徳は食事を確り取っているのですか? まさか仙人見たいに霞を食べているとか」
ハウツーは簡単、陳宮は処理の手順として尋問を行った。
「いやー、そう言うのは聞いた事が無いですね。日に三四升です」
冗談を交えて問うが、返って来る内容はふざけた物で陳宮は眉をひそめる。
「まさか、恋殿でも無かろうに」
捕虜の口から程昱の情報を聞き出す事は難しかったが、程昱を天下の奇才と評価している。
対曹操戦では自分を死んだ事にさせて、郭嘉に投降を装わせており、策を成し遂げておれば
今回も程昱は策の一つとして、呂布の家族を質に取っていた。卑怯、卑劣と呼ばれる事を躊躇わない行動力があった。
荊州兵が成都攻めを始めれば毎日、日暮れと共に呂布の家族である動物達を一匹、
その報告を聞いた程昱は嘆息した。
「むぅ、怒ってがむしゃらに攻めてくるかと思ったのですが、上手く行かない物ですね」
呂布の戦意を低下させる。あるいは自制心を失わせる目的であったが、此度の策は上手くは行かなかった。しかし次の手を打っており、程昱の余裕は崩れていなかった。
「勝敗は時の運と言いますが、理性と感情は別物です。
独り呟く程昱だった。
6-3
「皇帝陛下万歳! 大漢帝国万歳!」
道行く先々で益州の民は歓声を上げていた。サクラではない。自発的行為だ。
巫から白帝に進んだ俺は地元の貧乏人どもに銭20万を恵んでやった。うちに絡んで来ない様にする宣撫工作だ。これが噂になって広まったらしい。
欺瞞と虚栄に満ちた世界だ。世間の風評は一過性の物だが、手配りを怠れば足を引っ張られる。その為に金をばらまいた。
「劉焉を倒しても世に平和が訪れるとは限らない。それでも乱世よりはましだってこいつら思ってるんだろうな」
俺はいつも通り鳳統を膝の上で抱き締めながら頭の上に顎を乗せていた。
「劉焉の覇道を破るのは劉琦様の他に誰が成し遂げられるでしょうか。これからも天下の為に、愚かな我らを御導き下さい」
鳳統もそうだが、俺の家臣は俺に天下を取らせたいらしい。
「んー、俺としては荊州以外はどうでも良いな。潜在的な脅威となる勢力を幾つか残せば、敵が居る事で国は纏まるだろう? 統一なんて無駄なんだよ」
俺の素直な言葉に鳳統は、「今は残念ですが諦めません」と言いやがった。いや、そこは諦めろよ。こいつ、こんなに図太かったか?
元海賊の
親父が死んだ。
政から退いて俺に全てを任せて楽隠居をしていたのにだ。
「
思わず立ち上がりかけたが、膝の上の鳳統の重みで俺は心を落ち着けた。君主はいつも外面だけは冷静で居るべきなのだから。
「賊軍は南郡を掌握、荊州北部の制圧に動いております」
「何それ、マジで意味が分からん。蔡瑁だけって事も無いだろう。同調した別動隊が居るはずだ」
君主とは難しい立場だ。政とは関係の無い、胸襟を開く仲が良い友人関係を作れない。使える屑か豚と認識する為の付き合いから始まってしまうからだ。それでも親父は蔡瑁を信頼していた。
「目的は何だ。目的は。蔡瑁の妻は、親父の後妻だぞ。何を考えてやがるんだ……」
下手に動けず待機命令を出していると、追加の情報が届けられた。
「賊将
報告が耳を素通りする。そして思い出した。
親父が俺に地位を譲った時、蔡瑁は反対していた。あいつは俺より弟の
だから俺は言ってやったんだ。俺の政に不満があるなら、俺の首を取って自分で変えろと蔡瑁を挑発した事があった。顔色を変えるあいつが面白かった。
「アハハ、あの糞野郎、本当にやってくれたな。糞虫が、安息の時なんて与えねえ。腹から臓物を引き出してからくびり殺してやる。くひひ、窒息するのが早いか、失血で死ぬのが早いか見ものだ」
俺の言葉に、鳳統は振り返って心配する。
「劉琦様、御無理はなさらないで下さい」
急いては事を仕損じる。焦らず蔡瑁を葬る時を待つ。そう言えば、弟はどう動くのだろう? あいつが蔡瑁に着くなら俺も考えないといけない。蔡瑁をぶっ殺したら俺のおっぱい達を連れて、この国から出ていくのも選択肢としてありだと思う。
「ああ、分かってる。俺は益州に取り残されてしまったのか?」
親が死んだら血族は弟だけだ。荊州なんてただの土地でしかないから、欲しければ弟にくれてやる。
「いえ、蔡瑁が兵を例え用意出来たとしても、外征に主力を動かしていた我らとは数に開きがあります。反転し蔡瑁を討つは容易いでしょう。問題は、劉焉軍が追撃して来た場合です。勝敗の一大神機は正にこの一戦にあると言えるでしょう。我ら家臣は一丸となりて劉琦様の御為全力を傾注し身を捧げます!」
敵に絶望を与えてくれるならば、こいつらの忠誠も役立つ。血塗られた道も皆で渡れば怖くない。
「あ、うん。しっかりやってくれ」
「はい。頑張ります!」
益州伐の最中に起きた蔡瑁の反乱は荊州の国力を低下させる。だが劉焉との戦いも止まる事は出来ない。
力のある俺が決断し、家臣が実行する。これが荊州のある姿だ。蔡瑁の糞虫がどうこうして良い訳が無い。やっぱり糞虫と俺とでは物の考え方が違うのだろう。
夜明けが近付く
しかし我が軍は西に向かい怒濤の勢いで進んでいる。周囲の敵に荊州に戻ると見せかける為だ。
(俺もまだまだ甘かったな……)
謀叛の予測が出来なかった。親父の家臣だったやつが裏切るなんて考えてなかったからだ。
史記で韓信が狡兔死良狗烹、高鳥盡良弓蔵、敵国破謀臣亡と言っていたが、蔡瑁も戦が終われば自分が喰われると考えていたのだろうか? あいつの場合、親父に仕えていただけで俺の直臣では無い。だから危機感を持ったのか。
(そこらの凡愚ならまだしも、俺は君主だぞ。呆けてどうする、 ぬるま湯に浸かってたのは俺も同じか。こうなったら徹底的にやってやる。一心不乱の戦争だ)
人はその立場に成って初めて知る事が多い。身内を殺された復讐も同じだ。全ての元凶は劉焉だ。良い叫び声と骨の砕ける音を聴かせて欲しいと思う。
「これは復讐では無い。これは暴力に対抗する為に必要な処置で、天罰なのだ。目的は敵の降伏ではなく和平だ。あえて言おう、連中はカスであると! 有象無象のカスが幾ら集まろうと、お前ら荊州兵は強い。精兵だ。カスの頭でも叩き潰せば考えも直すだろう。カミのご加護があらんことを」
俺の演説は簡潔に締めくくった。
先鋒は関羽でその脇を張飛が固めている。
「百姓風情であっても手加減はせぬ! 我が主を敵に回した事、後悔しても遅いぞ!」
関羽は青龍刀を振るった。斬撃は確実に敵を捉えて葬る。
「やられた分、やり返すのだっ! うりゃうりゃうりゃ!」
張飛も蛇矛で敵の首をポンポンとチョンパしていた。見事な戦技だ。
さすが平民相手だと敵が雑魚過ぎてワロタ。敵の防衛線を抜いて我が兵は成都に向かった。呂布との合流も時間の問題だろう。
「ちょろいもんだぜ」
将の活躍に喚声を上げて勝利へと前進する俺達の足下には、百姓の死体が転がっている。ケツから突き出たあれはネギか。ヤベ、肛門がぐちゃぐちゃだ。鳳統は平然と戦場を見ている。軍師の思考に切り替わると、感性が麻痺するのだろうか。
「死ね死ね」
威勢良く我が兵は戦っている。やっぱり、戦争はこうで無くちゃいかん。スカッと勝ってこそ楽しく戦えるのだ。
敵の士卒の多くは志を持たん百姓だ。本業は農業であり武官とは違う。付け焼き刃で勝てると思うなよ。
「さあ、立てよ。立つんだ。心配するな殺す気はない」
投降して来た兵を整列させた。しょせんは農民で意思も弱い。
「落ち着け、落ち着け」
そう言いながらも武器を捨てた後は皆殺しにした。
武器を向けてくるのが強制徴用の民草でも俺の民では無い。敵は容赦なく殲滅した。お陰で坑殺男女數十萬とか言われてる。生き埋めでは無く、死体を埋めただけだが、数字はあながち間違いでは無い。
政の不振を兵や民の命で購う。まぁ、仕方無いわな。
権力主義で全体主義の国家は成功すれば長生きをする。中共やソ連、北朝鮮もなんやかんや言って半世紀以上、隆盛である。俺が生きてる間、荊州が保持出来れば最高だ。
権力者ってのは働いたら負けだと思う。身の丈に合わせて野心を抱かなければ済む話だ。全て家臣や親族に投げて、引き込もって生活出来る者が勝ち組だ。
判断力不足で周囲を巻き込んで破滅するよりは、誰にとっても最良の選択だと言えるだろう。
兵が敵を潰しながら進軍する。足音は地響きの様に音を鳴り響かせていた。それを見て俺と家臣は笑っている。きっと楽しい未来が待っているからだ。
殺した分だけ脅威は減って俺達が幸せに成れる。質量保存の法則と言うより、等価交換だな。
ひたすら西へ西へと進んだ。
成都に近付くと、堅守死戦とばかりに敵は頑強に抵抗した。家族や友の為かは知らんが、まあ死人の過去に興味はない。そして呂布軍と合流した。
「地獄へようこそ、ですぞ。我が王よ」
陳宮の言葉に俺は乗って答える。
「ふん、ならお前は牙を剥いた死神か?」
地獄は涼しいようだ。海抜何メートルか知らないが気温減率から考えたら当然か。
『荊州から悪霊に誑かされた賊徒の軍団がやって来る。だが天は我らを見棄てない。劉州牧を信じる者は必ず救われる。やがて我らに同調する者が各地に現れ、審判を下す。そして天の軍団が悪霊と賊徒を滅ぼすだろう。忠勇なる益州の民よ、邪悪を退けて共に光に満ちた漢を取り戻そう』
敵の部隊には、カルト宗教染みた敵の宣伝のビラが配られていた。文面考えたのは何処のどいつだ。
「敵の軍師、何て行ったかな?」
「程仲徳です」
「ああ程昱か。確かに、時が来れば平和が復活するかもしれない。束の間の平和だがな。それでも、あいつらが生きて人生を楽しむ事は無い。やつらの信念を砕いて、やつらの信じる天に送ってやれ」
陳宮が自由に動ける様に、呂布を征西将軍に任じ今回の戦の仕置きを一任した。二人の組み合わせは相性が良いからな。お手並み拝見だ。
その間に、俺は寄生虫を水源地に散布させた。これは謀略や後方攪乱の分類に入る。
住血吸虫は既存の寄生虫なので俺の指示でやったとはばれない。殺しをすれば、それは大切な人を守る力と成る。
細菌や寄生虫は管理しやすく実に経済的な戦略兵器だ。
他にも懐柔し情報提供者を用意した。
人との繋がりは大切だ。金を積まれて転がらない奴は少ない。宦官だって汚職で法を左右した。高い賄賂に見合うだけの仕事ぶりなら良いが、ただの糞やカスは排除せねばならない。カスと付き合うとろくなことにならないからな。
鳳統に吟味させ、
麻袋を頭から被せられて視界を塞がれ、手足を拘束された男はガクガクと震えていた。
「そう怯えるな。俺はお前と話すのを楽しみにしていた。だから、招待した。大切な客としてな。どうせいつか死ぬんだ。それが今日か明日になるかは、お前次第だ。大切な話だからよく聞いて考えてくれ。そうしたら、一生遊んで暮らせるだけの金をやろう」
用意した物語を噂や記事にして流布させる。情報は管理しなければ敵にも筒抜けになるからな。
こくこくと頷いている。自由も意思も金で買える。
「うん、分かった様だな。同意すれば帰してやる。だけど俺を裏切ったら、少々、面倒だがお前の家族をバラバラにして犬に食わせてやるからな」
愛とは犠牲を払う事だ。だから家族愛とかも利用して、敵の士気を下げようと俺はあれこれやったが、敵はそれでも戦おうとしている。
しかし駄目な者が武器を持っても駄目だ。抵抗するより自分達の指揮官を批判しろ。
「一歩間違えば、俺らが荊州ごと滅ぼされていたな」
鳳統と共に味方の攻撃の進捗状況を視察していた。
呂布軍は陳宮のバランス良い攻撃計画で勇敢に戦っている。生きる為に何の努力もしなければ、攻められる側の光景を俺は見ていたかもしれない。
「世界に輝く漢帝国だと今まで教えられて来ましたが、荊州で暮らす中で、世界の中心は漢ではなく他にも多くの国がある事を知りました。漢で輝く荊州を守る為にも、成都を落とした後は急いで戻り、謀反人を討ち滅ぼしましょう」
鳳統の言葉に頷く。
「ああ、終わらせて家に帰ろう。胸糞の悪い戦もこれで終わりだ」
敵の兵は皆、死を悟った目をしていた。こいつら羊かよ。盲目的な行動も過ぎれば命を失う。人生を反省しろ。
人生一回と限らないが、時間の大切さをわかってない愚民が多い。それがお前らの望んだ生き方か? とりあえず場当たり的に対処すれば良いや、では長生きできないぞ。
武器を持てば遅かれ早かれ人を殺す。生きて家に帰る為に必要な戦場の掟だ。脱走して家に帰るのも手だ。劉焉も政なんか放り出して外の世界にとんずらすれば良いのに。そうしたら、俺もパルティアやローマまで追いかけようとは思わない。