7-1
陣中料理に飽きた俺は近場の店に食べに出かけた。一仕事終えたご褒美だ。
お忍びや抜け出しも自重していたが、今回は目立たない様に護衛を連れている。常に危険見積と安全管理を怠らない軍師からの配慮だ。
食糧難とは言っても組合の加盟店はそれなりに営業していた。
(組合による市場の支配は完璧だな。加盟しないと日々の食材の仕入れにも事困る)
香辛料たっぷりな四川料理はこの時代に普及してるはずはないが、激辛麻婆豆腐が普通にあった。
世間ではろくな物も食べれず餓死者も出てるそうだが、商売は慈善事業では無い。金のあるなしで客を選ぶ。食材の原価や人件費がただでは無いから当然だな。貧乏人の出来ない分だけ金を持つ者が使い経済が回るってやつかな。
(まあ、美味しい物に罪は無い。牛も豚も鳥も命を頂くからには、俺はがっつり食べたい)
回鍋肉や担々麺を食べていると給侍の侍女が熱い視線を向けてくる。俺みたいな男は女が放って置いてくれないから、荊州では何人も深い関係になってしまった。やれやれ、益州でもか。
「美味しいですか?」
「ああ、上手い。これで明日の仕事も頑張れる」
くすっと笑って侍女は髪を楽しげに揺らし厨房へ下がって行った。
(可愛いな)
食後のデザートにおっぱいを啄むのも良いかもしれない。劣情を抱いたが、今はそんな状況では無い。
侍女の尻を視姦しながら楽しんだ後で店を出ると、俺の背後から距離を取って風体の良からぬ連中が着いてくる。
「ああ?」
馬上から振り返った俺に対して、平民風情が舐めた笑みを向けてくる。人数は護衛より多い。数に物を言わせる物取りか。
「恵んでやる。感謝して拾え」
貧乏人に恵んでやるのも高貴なる者の務めだ。財布から金を出してばら蒔いてやったが、殺気と得物を向けて来やがった。
「やる気か。後悔するぞ」
俺の忠告は通じなかった。
「ぶちのめせ、やれ!」
怒鳴り声をあげて来た。だから俺の護衛が間に割って入る。
「王をお守りしろ!」
人前で王って呼ぶんじゃねえよ。身分を隠して出歩いた意味が無いだろう。
「王だって! まさか楚王劉琦か」
「劉琦の首を取れば褒美は思いのままだぞ!」
目の色を変えて襲いかかって来た。
君主である俺が、前線で直接得物を振るう機会は数える位しか無いが、やっぱり装飾品としての武器は好まない。
戦場で頼りに成る得物は剣も槍も、色々な人が効率的な殺傷効果を試行錯誤した結果、今の形で落ち着いた。機能美に勝る物は無い。やっぱり武器は使えてこそ価値がある。
殺しの戦略、戦術、戦技も同じで、効率的な殺しの手順で出来ている。それらを理解して初めて戦場の勝利が実現出来る。
護衛は奮戦するが、敵の数はどんどん増える。
「ぬう、やむを得ん。王だけでも生き延び下され」
ものっそい提案だ。頭の良い部下は自己犠牲で役に立つ。
「駄目だ、家臣を犠牲にして逃げるなんてそんな外道な真似は俺に出来ん! 俺もここで戦うぞ!」
立場的に一応、遠慮しておいた。万が一、こいつらが生き残れば美談になる。
「それが荊州に暮らす民の為です。我らが王よ、先に行って下さい。この道を戻れば味方が待っています」
道ぐらい覚えてる。
「にゅあ!」
そんなやり取りをしてる内に護衛がまた一人倒された。
「ああああああああっ! くそおおおおお」
俺を説き伏せていた護衛が飛び出して行く。次はこいつが死ぬ番か。
「我らに構わず行って下さい! 王よ、生きて下さい!」
「俺を恨ん良いぞ。約束しよう、残った家族には配慮する」
俺は馬を走らせた。振り返りはしない。
後で皆殺しにしてやる。
──で味方と合流した俺は賊徒を殲滅した。敗残兵か匪賊か知らんが、俺に剣を向けて来た糞塵が連行されて来た。皆殺しの前の余興だ。
「お……お願いします。た……助けて下さい。家では母親が病気で死にそうなんです」
よくもまぁ、そんな陳腐な台詞を言えた物だ。
「んん? 暴力が好きじゃなかったのか?」
立場は教えてやらないとな。弱者は淘汰されるって。
「天に唾を吐くと自分に返ってくる。お前らは襲う相手を間違えたんだよ」
俺の盾と成って死んだ護衛の遺体を回収したが、玉を切り取られたり、首を切り取られたり遊ばれていた。
「笑えるんだろう? 同じ体験してみろよ」
悲鳴や怨嗟の声が聴こえるけど、関係無いね。明日の力とは、今日の犠牲で成り立つ。殺しは明るく素晴らしい未来を作るからだ。それに──やられたらやり返すのが戦いだ。
ちなみに俺がばら蒔いた金は、連中、ちゃっかり拾っていた。三途の川の渡し賃代わりにくれてやった。
「野戦で雌雄を決する、ですか?」
「劉琦の荊州兵は将と軍師が揃っている。対して我らは数こそ勝っている物の、手札は限られている。そなたの策に反して、あやつらは成都を落とす事に傾注しており、
厳顔は主君に忠誠を誓った。例え悪逆な主であろうとも誓いを違える事は矜持が許さなかった。それに
だから乾坤一擲の勝負を申し出た。
「それで荊州牧の首を狙いますか? 無理は駄目です。それこそ敵の守りは堅いでしょう。ですから、風は
そこまで言われたなら代案を求めるのも当然だ。厳顔は軍師の計画を尋ねた。
「うむ。ではおぬしはどうする? 決戦を先伸ばしにすれば我らが勝てるのか?」
しかし返事は期待外れだった。
「敵の兵糧が尽きるのが早いか、我らの士気が砕かれるのが早いか根比べです」
厳顔は胸ぐらを掴み上げた。
「士気は既に地に落ちておるぞ。数で勝りながら呂布軍を破れず、成都に籠っておる。ここで盛り返さねば、脱走に歯止めがかからぬじゃろう。お主の魂胆は分かっている。曹公の復讐に益州の民を巻き込むな!」
程昱は指を一本立てた。
「呂布や関羽を抜いて荊州牧の首を討てるならお願いします。ですがあの軍勢を相手に、囲みを破って本陣まで攻め込める自信があるのですか?」
厳顔は首を縦に振り答えた。
「出来る出来ないでは無い。殺るんじゃ! お主はそうやって小賢しい策を弄しているが良い。じゃが、我らの邪魔立て許さんぞ」
「風は邪魔なんて致しませんよ」
「ふん、我らの戦働き振りをそこで見ておれ。きっと思い知る時が来るじゃろう。出陣致す!」
厳顔はそう言って程昱を睨み付けると部屋を出て行った。
「はぁ……風も行かないと駄目でしょうね」
溜め息を吐いて程昱は後を追った。
世の中は二種類の人間しかいない。犠牲者と生きる物だ。
犠牲者は悪党ばかりとは限らない。だが殺さないより殺した方が良い。殺さなかった事を後悔するよりましだからだ。だからうちのやる殺しは将来の危険を取り除く正義の行いだ。
劉焉が腐っても、家臣は別だ。軍師は特に違う。強くならねば国を守れない。
東州兵は劉焉子飼いと言うだけで、正規軍に劣るのに精鋭の近衛扱いで温存されていた。指揮官、幕僚は正規の教育を受けていないので士官としても無能が多かった。
「それでも上手く扱うのが軍師の仕事だな」
そう思っていたが、どうも買い被りだったらしい。
守りを捨て出陣して来た。低下する士気を高める目的もあったらしい。
これを好機と見た我が軍は全面攻撃に出た。
「囲め、囲め。囲んで討ち取ってしまえ!」
雑兵が数を減らして行くのは早い。混乱が敵に広がって行く。将は兵を統率しようとするが、そうは上手く行かせない。
「敵将、厳顔。鈴々が討ち取ったのだ!」
ただでさえ実戦経験と錬度で勝る荊州兵相手に、東州兵は、将を失い劣勢を余儀なくされた。益州防衛の要は失われ劉焉逆転の道は途絶えた。
「張将軍が投降を勧告した所、これを拒絶。やむ無く討ち取られました」
厳顔を討ち取った模様が伝令から伝えられた。
「厳顔か。良いおっぱいをしていたらしいな」
俺がそう言うと鳳統は「知りません」と言い、顔を反らして、私怒ってますと態度で現した。
子孫を残すのはこの時代の絶対的な仕事で、鳳統も軍師なら理解してるだろうが、女としては俺の寵愛を独占したいらしい。
そして将を失った後、「
陳宮の計画で敵を釣り上げて野戦で撃破した。鳳統は活躍の場所を取られたと、陳宮の才に嫉妬していた。
「計画通り、万事順調です」と関羽は意気揚々としていた。
程昱は自害せずに堂々と俺の前に姿を現した。他の軍師みたいに年齢不詳で容姿は幼い。食指は動かんな。
「よお、お前が程昱か。散々、手間かけてくれたな。だけど悪いな。最後に残るのは俺だ」
程昱は俺の本質を正確に読み取った。
「劉琦様、噂に違わず時代が何を求めているか御存知の様ですね。他者を排除してでも掴む平和、それも自分達以外は無価値と言う清々しい考えとは。本当に優しい御方ですね」
「本当は気付いていたんだろう。邪魔になれば同輩でも殺す。思い通りにならないなら宦官も民草も殺す。お前の敬愛した曹操だって取捨選択をしていた。未来に生きる席は限られているんだ」
「くくく、真理ですね」
「程仲徳、お前は面白い奴だ。ここで殺しても良いが、それではつまらん。そうだ、俺に仕えろ。荊州では使える者を無駄死にさせない。お前に天下なんて無価値だと教えてやる」
程昱はくすくすと笑い声を漏らす。
「風は生きてる限り、何度でも劉琦様の御命を狙いますよ」
駆け引きで何かを引き出す積もりか?
「そいつは困るな」
「では、このまま風を殺しますか」
やり取りが面倒に成った。一気に畳み掛ける事にした。
「てめぇ舐めてんのか。敗者の生殺与奪は勝者の権利だ。ガタガタ抜かしてると兵の慰み者にするぞ。絶望と恥辱を味わって見るか? 戦で流した血を忘れてねえぞ。お前の首だけで落とし前つけれる積もりか? 首に価値なんてねえよ。だから命じてやる。荊州で生きろ。異論は認めん」
こいつに優しさや美しさを求めていない。亭主が他の女と寝たら玉を切りそうな女だからな。報国の志もいらん。軍師としての才があれば十分だ。気分を変えて生きて結果を出してくれれば良い。
「お断りします。
この女、元から生きる屍だったか。
「ふん、俺の誘いを断りやがって。なら死ね、この雑菌が」
程昱は満足そうな笑みを浮かべて斬首された。何人も死なせて来たのに、汚れ無き純粋無垢な感じの笑顔が嘘臭くて面白くない。
この戦で三万程の敵兵を討ち取ったが、欲求不満が溜まっただけだ。不満は劉焉にぶつける事にしよう。
主力を失った後は脆い。内応した兵によって攪乱の為に成都の各所に放火が行われ、隙を見て甘寧と周泰の隊によって城門が確保された。そこに呂布軍が突っ込んで行く。
「りょ、呂布だああああ!」
悲鳴をあげる敵兵を、呂布は方天画戟で斬り倒して行く。その後に続く兵を陳宮は指揮していた。
「……劉琦様に誉めて貰える?」
「勿論です! 恋殿は武功第一位ですぞ!」
後は乱戦だった。まともに抵抗してる兵は千人も居ないだろう。
女子供だろうと武器を持って抵抗する者は皆殺しにした。勿論、世間体があるから「武器を持たぬ者、抵抗しない者に乱暴、狼藉は許さんぞ」と一応言っておいた。建前は大切だからな。
力と権力があるなら使わねば意味が無い。そして俺は上手く使った方だろう。敵の悔しがる顔を見た方が達成感がある。
「うぇーい、はるばるやって来たぜ劉焉。お客様に水も出さないなんて失礼じゃないか? ぶち殺しちゃうぞ☆」
玉座に腰かけて劉焉は俺の兵に囲まれていた。俺は内緒と言うのが苦手で、部下の前で話す事を躊躇わない。
「やめろー! 余を誰だと思ってる。宗主じゃぞ。お前ら下賤な者とは価値が違う。どうだ、殺す気が失せるじゃろー!」
威厳も何も無い。裸の王様だ。悪党は悪党らしく、最後まで格好良い好敵手を演じてくれたなら良かったが、無様な終わり方が望みらしい。
「ガタガタうるせえんだよ馬鹿野郎。何言ってるか意味が分からねえんだよ、この野郎! お前が喧嘩吹っ掛けた癖に調子に乗りやがって、舐めてんのか! お前も帝位を狙ったなら責任を果たせ。お前の死で益州の戦は終わりだ」
俺の言葉に家臣は得物を構える。
「そんなー、余が何をしたと言うんじゃ。お前ら頭、おかしいじゃろう。なぜ余を殺すんじゃぁぁぁぁ!」
好意の反対は無関心ではない。憎悪と敵意だ。うざい、鬱陶しい。嫌悪感も敵意だ。
皇帝に成りたくて戦を始めたとか馬鹿だろう。自己顕示欲の塊か。どこまで行っても自己中心的で自己満足でしかない。俺は世界を変えたく無く、こいつは世界を求めている。俺の価値観とは合わない。
出る杭は叩かれるって奴よな。
「お前は阿呆だ。せっかく益州なんて理想の場所を持っていたんだから、自分だけの世界に籠っていたら良かったんだよ。俺なら益州から出ない。本当、テロリストって最悪だな。下らない自己満足に巻き込みやがって。頸動脈切って一瞬で殺してなんかやらねえ。ゆっくり死ね」
「アッー!」
俺の指示で劉焉の腹が割かれた。脂肪が厚くて斬るのに苦労していた。
「糞っ、豚野郎め」
筋弛緩剤を使えば苦痛を感じさせずに切り刻める。だけどそれでは面白く無い。
そのまま首を荒縄で縛り上げるとテラスから外に突き落とした。絞首刑は強欲の末路だ。人間の血は4リットル、失血でも簡単には死なない。そう思っていたら、首が締まり窒息する前に死んだ。内臓をぼとぼとと落としたら流れる量も多かったか。
「神の御加護を」
最高にチムドンドンする戦いだったぞ。
劉焉を殺したが俺は益州が欲しい訳では無かった。親を殺され怯える
「劉璋、益州の政はお前がやれ」
小便を漏らして呆けた顔をしている。野心は無さそうだが、凡愚だな。
「は、え?」
俺の留守中に母屋を盗んだ蔡瑁の仕置きが残っている。だから益州に関わってる暇は無い。
「理解しろ。俺はお前を傷付けたく無い。だから何も企まず、黙って指示に従え」
邪魔なら殺す。使えるならそのまま生かして活かす。それが政だ。以後、益州は俺の影響下に入るが、面倒臭いのでうちから何人か人を送って補佐をさせる事にした。
他にも戦利品として鳳統の進言で漢中郡から東部を荊州に併合させた。荊州の盾として新たに西城郡、上庸郡、房陵郡を作った。
同じ腐っていく肉なら有効活用しないとな。
7-2
老い先短い人生を楽しむ。その主旨は間違ってはいない。だけど
謀叛を起こすだけならまだしも、親父を殺しやがった。
「蔡瑁は
孫権が荊州に残した者からの情報を纏めて報告してくれた。仕事の出来るおっぱいは役に立つ。後で誉めてやろう。
「巫城の守将は
俺達が荊州に戻るには山道を進むより長江を船で下るのが早い。
荊州外縁部の交通は、外敵の侵攻を阻止、遅延させる為にわざと迂回経路となる山道を整備していた。直通の道は移動を容易くさせるが、同時に敵の進行速度も早める事と成る。そう考えたからだ。だから防衛戦では侵攻経路を想定しやすかった。
「荊州って案外、攻めにくかったんだな」
益州の抑えは黄忠と魏延に任せるから背後の心配はしていない。しかし問題は他にもあった。
周泰が代わって報告する。
「御報告致します。敵には諸葛亮が付いているとの事です」
「は?」
諸葛亮は溺死したはずだ。死人は生き返りはしない。それが世間の常識だ。
「何で、諸葛亮が生きてるんだ?」
俺は傍らの鳳統に話しかける。
「朱里ちゃんの事ですから、あの時は敗けは避けられないと分かっていました。ですから死んだのは影武者で、再起を図り潜伏していたのでは無いでしょうか」
「ふーん、他所の子供を身代わりにしたのか。形振り構わず、やるじゃねえか」
面倒な奴が再登場しやがった。だけど評価してやる。
負け戦確定の状況で粋がって死ぬより、再起を図ったのは良い選択だ。他者を犠牲にしたのもGoodだ。上に立つ者としての覚悟が感じられた。
「優秀な人材は生かして投降させたいが、ま、説得は無理だろうな」
俺の政が嫌なら、俺の領地から消え去れば良かった。それなのに荊州まで出て来た。それなりの覚悟があるのだろう。
俺は今回の戦の尻拭いは益州の民にさせてやろうと思った。陳宮や鳳統も賛成したので、劉璋に早速、要請した。
「7万の兵を用意ですか?」
「そうだ。元はと言えば、お前の親父が荊州にちょっかいを出して始まった戦だ。蔡瑁の謀叛だって、俺らを足止めする為に起こした策だ。だけど俺らはそれに乗らず、成都を落とした。その結果として罰を負うのはお前らだ。そして楚王として益州に軍役を命じる」
劉璋は渋った。
「しかし、それでは益州の民が犠牲に成ります」
──恩は無い。しかし領主に尽くすは民の義務である。
という心理で民は戦わされた。
劉璋は今後、荒れ果てた益州を再建する重責を担っていた。俺の怒りに触れず断ろうと考えたが、逃げ道は無い。
「格好着けるな。お前の所の民は消耗品なんだろう? 散々、今回の戦で死なせたじゃないか。今さら何万か増えた所で変わらんだろう。捨てる命なら俺が有効活用してやる。そうだな、一人に対して米1斗を支払ってやる。従軍してる間の面倒も此方で見るから心配するな」
そう説き伏せた俺は、益州から7万の兵を出させた。装備や兵糧は組合に手を回して用意させた。
一方、長江の南では、
益州に黄忠、魏延を抑えとして残して俺は、荊州へ大返しを行った。鳳統は策に自信を持っている様だから任せている。馬一族は義理堅いから兵を出せと言えば応えるだろうが、今回の出番は無い。これは荊州を取り戻す戦いだ。
俺の本隊は南郡に戻る形だ。関羽、孫権を主将に益州兵7万、対して敵は4万ほどらしい。
呂布の率いる別動隊が、南陽郡方面から戦略的包囲を形成すべく動いており、荊州南部には荀彧の指示で揚州方面から兵や兵糧が運び込まれている。李典、楽進が脇を固めているから荀彧は上手くやるだろう。
「さぁ、殺し合いの時間だ」
投石器と火矢による支援で、張飛を先鋒とした我が軍は巫城に攻撃を開始した。今後の再利用何て物は考えていない。うちの敵と成り得る勢力は尽く討ち滅ぼしたからだ。
全てが終われば荊州は安泰で侵入者を拒むだけで良いから、本格的な軍事拠点は必要でも無い。だから遠慮無く攻めさせた。さすがに非戦闘員の住民は殺さないけどな。
「突撃、粉砕なのだ!」
俺の配下には勇猛な将が数多く居る。これからは若手の時代だ。だから張飛に機会を与えている。
張飛に率いられた益州兵が連(中隊)、また次の連と新手を繰り出して前進して行く。
兵の装備は戟で統一されている。戟は慣れれば剣の様に片手で使える。間合いも槍の様に広く取れる万能の武器だ。
対して張飛は矛を愛用していた。
(成果をあげれるなら好きな物で戦えば良いか)
城壁の上から連弩や弓で敵も突撃破砕射撃をして来る。国境の要だけあって、前から連弩や矢を大量に備蓄していた。だから第一波が一瞬で壊滅したのも当然だった。
うーん、やっぱり益州兵を盾にして良かった。うちの兵を損ねずに済んだ。
「投降して来る者はどうしましょうか?」
「積極的に得物を向けて来た者は斬れ。ただし強制徴用された者は赦免する。戦場の片付けや復興の労役で帳消しにしてやる」
益州兵が調子に乗って、荊州の民から略奪したり虐殺をしない様に監視はさせている。戦争は終結後の後始末も考えて行う物だからだ。わざわざ領民を減らして喜ぶ状況でもない。俺の民で無いなら、赤ん坊も豚の餌にしてやったがな。
正義は見方で変わらない。悪党は悪なのだから、反旗を翻した瞬間から人としての権利を全て失っている。それがこの時代の常識であった。
城門を破ると、張飛の
「偉いぞ」
敵の首をぶら下げて、返り血を浴びた姿にドン引きだったが褒めておいた。
「にゃははは」
引き続き前進した我が軍は
ここには元曹操の家臣であった
あの女、死んでも面倒を残してくれる。
劉琦は漢のネームバリューによる一定の影響力を認めていた。それは同じ時代に生きる者にとって無視出来ない物だった。故に楚王に任じられた劉琦に謀叛を起こした罪は深い。
同じ様に敵対し矛を交えた袁紹は、戦に敗れ劉琦に降った。
しかし世間の評価はどうあれ袁紹は、依然として漢帝国丞相のままであった。皇帝に解任された訳では無いからだ。その名族が降る事で劉琦の権威はさらに高まった。
一方で虜囚と言うには、袁紹は自由気ままに暮らしていた。特に劉琦と同衾する事も多く、愛妾の一人として見られていた。しかし正室でも無く中途半端な立場だった。
人は貧しいと娯楽にも飢える。暇だとやることが無くて子作りばかりして、貧困の連鎖に繋がる。それは袁紹も同じで、ますます劉琦に傾倒して行った。
──なぜこの様に女ばかり増えたのか。
荀彧は全てを放り出して劉琦の元に行きたかったが、主君の側に居れない我が身の立場に歯噛みした。
勿論、軍師として冷静な部分では、劉琦の留守を守り、荊州を賊軍から守る事が信頼に応える事だと荀彧は考えていた。
「敵軍が
「分かったわ」
──劉琦様の軍勢を夷陵で迎え撃つ積もりかしら。
荀彧は若くして劉琦に仕え、軍師の筆頭を自負していた。
しかし曹操との戦に前後して鳳統に存在感を奪われている。呂蒙や陳宮も活躍をしたが、それぞれ孫権と呂布に仕える陪臣で、荀彧の地位を脅かす者では無い。しかし鳳統は同じ直臣であり、女としても寵愛を受けていた。
「あの泥棒猫!」
怒りで地団駄を踏む荀彧であったが、軍師として最良の選択をすべく頭は働かせていた。荊州を守るとは現状維持だけでは無い。機会があれば積極的な行動により賊軍に打撃を与えるべきだと考える。
蔡瑁軍主力は夷陵で決戦の構えだった。兵力的な余裕は無く、南に渡河して来る可能性は低いと見て取れた。
そして何の為に何を成すべきかと考えて、敵に合わせる必要も無いと再確認した。
最終的な勝利に寄与すべく、長江南岸に張り付けてる兵を
「見てなさい。劉琦様の軍師は私だって証明してやるんだから!」
荀彧は江陵の守将である
『劉琦様に降れば、屑なあんたの罪を軽減してあげるわ。でもあんたがウスノロの馬鹿で逆らうって言うなら、劉琦様が勝たれた後にあんたの兵も家族も皆殺しにされるわね。ううん、劉琦様のお手を煩わせるまでも無く、私が殺してあげるわ。返事は明日の昼まで待ってあげる』
侯音は荀彧の文を読み
翌日を待たず侯音は開城し荀彧に投降したが、広場に連れ出され斬首にされた。
約束が違うと言う侯音に荀彧は冷たい眼差しで一瞥すると、吐き捨てる様に言った。
「本当、馬鹿ね。劉琦様を裏切った馬鹿を私が許す訳無いじゃない。それぐらい理解して自刃して欲しかったわ」
絶句する侯音は、冷静そのままな荀彧の表情に一片の慈悲も
敵は殲滅する。機会があれば完膚無きまでに皆殺しにする。それが戦場での掟だった。
かくして荀彧は長江北岸への橋頭堡を確保した。
「で、何だって?」
「賊軍から和議を申し込んで来ました。どうやら勝ち目がないと言う事に気付いた様です。まともな見識を持った者も居た様ですね。でも朱里ちゃんは反対してるそうです。彼女なら戦いは負けると分かっていそうな物ですが、まだ負けるとは認めていません。私達とは何処か見えてる物が違うのでしょうね」
ポジティブに解釈すれば正義が悪を殲滅すれば、平和な世界がやってくる。
悪を殲滅する事が出来れば、侵略者は途絶えるのである──つまり、生き残りが居れば再度、侵攻の脅威が残ると言う事だ。全ての殺しは荊州の平和を実現する前座である。
話し合えば分かり合えるよ、なんて言うやつが居たらぶっ飛ばす。
殺し無しに安全保障の抑止力とはならないのだ。弱者は淘汰される。それが世の中のルールだ。
「何だそれ、今さら泣き入れて来たのか。その割に意思統一は出来てないとか、情けなくねえのか。プラチナむかつく」
他人の事情何か知った事じゃねえ。
俺は俺の目的の為に正義を貫くだけだ。
「え、ぷらちな?」
鳳統はきょとんとしていた。
まあ──返事は返してやる。話し合いを否定する物では無い。
「蔡瑁が出て来るなら会ってやる。首落とされる覚悟があるのだったら来い」
誤解の無い言葉だ。つまり──蔡瑁の返事がどうあれ、降伏するまで俺の攻撃は止まらない。
俺の幸せの為に、不穏分子をこの機会に一掃するんだ。もっとも、会見自体が孔明の罠な可能性はある。
考える。諸葛亮を凡才な俺が倒せたら、難易度の高いゲームをクリアした様に最高の気分だろう。上手くやれるかは家臣達の働き次第だ。
その為にも決して油断をしてはいけない。だからこそ、力の出し惜しみは駄目だ。
……ひょっとすると、この考えこそ孔明に影響されての思考誘導なのでは無いか──こんな風に考えさせられるのも諸葛亮の名が怖いからだ。
幼女強い、マジで強い。それを俺は思い知っている。
軍師として知識を使う事と、武官として得物を振るう事が別問題な様に、幼女を侮ってはならない。そのお陰で今まで生き残ってこられたのだから。
血臭漂う
諸葛亮は蔡瑁から驃騎将軍に任じられ、劉琦の迎撃に限り軍権を握っていた。文聘が大将軍に任じられた事を考えると、No2と言えた。
「劉琮様の様子は?」
説得に当たっていた蔡瑁は、首を振り不首尾な事を表す。
「未だ納得成されず、我らの義挙に御賛同頂けていない」
自分にも姉の居る諸葛亮は、家族の情愛とはそう言う物であると理解していた。互いに憎み合ってる関係では無い家族であれば守ろうとするのも当然であった。
「この上は戦場で楚王を討ち、結果を以て納得して頂くしかありません」
官吏にとって君主は御輿であれば良い。そこに血筋や官位で、権威に箔が付く。
蔡瑁は劉琦を討った後の御輿に劉琮を据えようと考えていた。外戚として荊州を動かし、漢に影響を与える。そんな夢想すらしていた。
「ふむ……であるか。ならば劉琦を討て。その上で、劉琮様に起って頂く」
蔡瑁は決戦を決意した。頭を下げる諸葛亮の口元には歪んだ笑みが浮かんでいた。
諸葛亮は根が執念深く、受けた恥辱を忘れない。復讐の為なら努力を惜しまない。
その点では劉琦も同類と言えた。
劉琦が勝利を確信しながらも攻撃を継続したのは小心者であるが故の警戒心で、戦と交渉での主導権を握る為だった。
諸葛亮は劉琦の内心を正確に読んでいた訳ではない。夷陵で目立つ動きをする事で、荊州南部の劉琦軍を引き付ける事にした。そして交渉で劉琦軍主力を欺き、夜間行軍で夷陵から主力を前進させて決戦に持ち込むと言う計画だった。
狭い隘路は兵力差を無くしてしまう。遠征軍である外戦部隊と留守を守った国内軍、後備部隊として経験の差はあったが、劉琦の首を取れるかもしれないと考えていた。
(雛里ちゃんが相手でも、今度は負けない)
諸葛亮は揚州の戦いでの敗因は人命を重視した事だと結論付けた。そうでなければ、負ける筈が無かった。
劉琦は君主で諸葛亮は軍師だった。史上最高の名君と成れる相手でも、政と戦は違う。軍事的に本質が素人である劉琦に負けた。その点だけは、忘れてはいけない。
人格的には女にだらしない。知識は家臣が補う。政に対しての行動力はある。
──行動力しか取り柄の無い相手だ。主導権を握られれば、窮地に転じるのは向こうだ。
蔡瑁が去った後、諸葛亮の姿勢はそのままだった。そして喉の奥から笑い声が漏れた。
勝つ為には幾らでも卑怯者になろう。だが今回は荊州が舞台だ。敵も味方も元は荊州の民。
社会体制を批判したり、アイドルに熱狂するのも若い内だけだ。年を取れば将来の安定を優先する。荊州とは安定した場所だった。
「くそったれめ」
夜明け前に敵から使者がやって来た。眠りを妨げられて不機嫌ながら、降伏でもするのかと聞けば会談を求めて来た。
だから会談の場を設ける事にした。
──しかし、裏をかかれた。
忠誠、義務、名誉、郷土愛、あれやこれやを奮い起たせて士卒が戦って居る。
「王! 敵軍がすぐ側まで迫ってきております!」
芽は早い内に摘み取るべきだ。敵もそれを理解していた。俺の首を狙っていた。
戦は最後に生き残った者が勝者だ。だから如何なる手段を使っても敵の総帥を倒せば勝ちとなる。
俺は関羽の側で守って貰おうと思った。だけど馬に乗ろうとしていた。
「愛紗、どこに行く?」
「御身には指一本触れさせません。お任せを」
関羽は愛用する青竜刀を小脇に構え、雄叫びをあげて敵兵の中に駆けて行った。一閃で倒される敵の姿が遠目にも見えた。
──って、感心してる場合では無い。いや、そこは俺を守れや。使えないおっぱいに苛立ちを感じた。
「劉琦様、劉琦様! 愛紗さんや私達、荊州の民は劉琦様の手足です。例えこの場で倒れ伏そうとも、異論は御座いません。ですから、ここは任せて行って下さい!」
人間関係は信頼だ。鳳統もそう言うが、こいつの頭は俺にとって必要な物だ。
「うん、分かってる。だが今は自分の運を信じるしかない──だから、お前も逃げるぞ!」
「あわわわっ!」
俺は鳳統を抱えて馬に乗ると、関羽とは逆方向に走らせた。
危なくなったら逃げる。それは恥とは言わない。損失の拡大を防ぐ損切りだ。
俺は、俺を守って死ぬ者には筋を通す。残された者には金銭的に生活を保証する。これは絶対だ。そうでなければ命を賭ける者も居ないだろう。
雇用主としての責任の取り方だ。英霊として葬式も盛大にしてやろう。
逃げる事の出来ない哀れな兵達の声が背中に聞こえた。
「臣下にとって、仕える主君の為に死ぬ以上に名誉な事はありません」
鳳統が俺の心を読んだかの様に告げる。
奴隷根性丸出しで、英雄崇拝のノリってやつだ。
「そうか」
たかが奇襲を喰らっただけだ。俺の気分はまだ負けていない。兵も残っている。
敵の策は、悪辣とはまだ程遠い戦い振りだった。やられてたまるか。
欲しい物は平穏だ。必ず手に入れる。生き残るのはこの俺だ。
いや勝とうが負け様が敵は兵力を消耗し、人的資源は枯渇する。継戦能力云々を言う前に、税収や食糧にも事欠き自壊するだろう。
戦をするとはそう言う事だ。
まぁ、此方としても戦闘の長期化は望んでいない。敵を干上がらせる前に荊州の社会基盤が破綻してしまう。
最後に大事なのは結果で、実現する為の意思と行動だ。
諸葛亮の手駒は限られている。欲をかかずに攪乱する事を目的にしていた。
(意趣返しか。ああ、ヘドが出る)
尻尾に食い付かれ虚を突かれた。一銭にも成らず、理屈は通じない。
戦では敵を叩ける時叩く物だ。だから俺は背中を気にしながら逃げた。
だけど敵の追撃は関羽や張飛が抑える事で発生しなかった。
白帝城まで逃げる事も考えていたが、幸いにして俺は巫の手前で友軍の後続と合流した。
荊州兵の
「劉琦様、御無事で良かったです!」
「ああ、ありがとう。中々、楽しい体験だったが心配をかけたな」
泣きながら抱き付いて来た孫権を軽く抱擁しながら、敵を撃退した関羽達が下がって来るのを待った。
国家の指導者とはそう言う物だ。F/A-18に自ら乗って異星人の宇宙船を攻撃する様な立場では無い。戦の
関羽は兵を失った事を謝罪したが、俺は気にしていない。自分に厳し過ぎるだろうと思うが、個人の美意識の問題だ。ただ、コミュニケーションの一環としてフォローはしておく。
俺の前に跪く家臣を見渡して、地獄の釜の蓋を開ける決意をした。
「信念、努力、勇気にお前らは満ちている。そこでもう一働きをして貰おう」
戦いは何でも解決出来る手段だ。
「王よ、ご命令を!」
関羽の目は闘志に満ちていた。
オッカムの剃刀の法則──哲学で言う所の、一番単純な考えが、一番正しい。戦争も単純にやろう。
「真面目に相手をするのが間違いだった」
俺は広げさせた地図の一点を指差す。
「そこは……」
驚く関羽に俺は笑みを向けた。
「最低限の兵力で襄陽を急襲し阿呆の首を取る。お前らは派手に動け。賊軍を撃滅しろ」
襄陽──政治的にも軍事的にも影響を与える敵の中枢だ。
7-3
普通。その二文字は戦場ヶ原ひたぎや織斑一夏、球磨川禊、兵藤一誠の様な生き方をして来た人間にとっては、決して望んでも手に入れられない物である。それはライトノベルと呼ばれる『おファンタジア』ではお約束の展開だからだ。
だけどここは『おファンタジア』とは違う。
俺は高望みをしない。普通の生活を手に入れるのだから。
誰もがゴールに立てる訳ではないし、いずれにしても、普通の生活を送る為には敵を潰すしかない。それも頭だ。
「派手に暴れろ。そして敵の目を引き付けろ。増援が到着する前に襄陽を確保する」
俺は指示を出した。軍師達は、具体的目的を達成する為の行動計画立案に移った。
「秦の白起将軍が楚の西陵を攻めた進路を逆に進む、か。面白いな」
戦国の頃、白起は楚の
「劉琦様自ら別動隊の指揮を成されるおつもりですか。それなら私もお側に居させて下さい」
鳳統の言葉に俺は首を振り却下した。俺は敵の首魁をぶち殺すと言う仕事がある。
「諸葛亮の目はここに向いてる。だから雛里はここに残って、愛紗を支えてやってくれ。俺の本陣はここに残ってると信じさせる為だ」
普段は言わない俺が、真名を人前で呼んでやるのは効果的だ。鳳統は顔を赤らめ、ペコリと頭を下げて了承する。
行き掛けの駄賃。鳳統に金目に成りそうな物の再利用を命じておいた。軍師は政策と戦略イノベーションを研究したり、プラグマティストで理解が早くて済む。金があれば大抵の問題は解決出来るし、みんな幸せになれる。話はそれだけだ。
「者共励め!」
甘寧、周泰の手勢を尖兵とし、張飛を前衛に、孫権の兵から抽出した軍勢で襄陽を襲撃した。その前段階として、敵の増援を阻止すべく華佗の開発した幻覚剤を貯水池や井戸に流して敵を混乱させた。
「……宜しいのですか」
と周泰は命じられた時に躊躇っていた。目を丸くして、口を震わせ、怯えていた。
俺は周泰に自信を持って答えた。
「躊躇うな。これは純然たる兵法の一つで恥じる事は無い」
それに命令によって起こった事象の責任は、命じた物が取る。この場合は俺だ。
何を言った所で、民を利用する事には変わり無いがな。正直、悪辣な手口だ。
貯水池や井戸の意義は、民に必要な水分を補充して生存を維持させる為だ。そこに幻覚剤を入れたのは、民の賊軍に対する反発心を増進して蜂起を促す起爆剤としてだ。
荊州の一般的特性で民は俺に忠実だった。普通の日々が送れる暮らしに満足していたと言うのも大きい。そこで馬鹿が謀叛を起こして不満が溜まっていた。幻覚剤はそれを解放する。
「これより我らが王は荊州を取り戻される。民草は勇み喜べ。王が御帰還成される。忠を尽くすは今ぞ」
幻覚剤で人的戦闘能力を飛躍的に発揮した民の蜂起は、賊軍の行動力を拘束し我に寄与する。ラリった所に扇動してやれば簡単に動き出した。
正義や真実は勝利の中にある。勝てば良いのだ。だから妥協はしない。やるべき事をやる。
失敗は仕方が無い。明日よりも今日を大切に生きるべきだ。何がしたいか、何が出来るか。夢を描き、たどり着く為の目標を立てて、達成する為の努力を実行に移した。
挫けたり、影響を受けるだけではなく、自分を貫いて襄陽を攻めた。
戦は数だ。個人が持つ武を積み重ねた戦力より、兵力の多さが戦の優劣を決める。だから敵の兵力は民の暴動で分散させた。
「敵は此方の動きを警戒して兵を各地に振り分けました」
「過大評価してくれてありがたいな」
「まったくです」
トップダウンの旧体制な敵と違い、うちはボトムアップな領地経営が行われていた。部下に丸投げとも言えるが、お陰で身軽に動けた。だからケツにひのきの棒を突っ込んでやる。
昨日の敵は今日の友なんて割り切る事は無理だ。憎悪を込めて殺してやる。
降伏勧告はしない。城内からの手引きで兵を突っ込ませた。
「ぎゃあああああ」
「た、助けてえええ」
陳腐な悲鳴が聴こえた。
夜と朝の境界が曖昧な時間帯、馬蹄が敵の死体を踏み潰しながら入城した。頭蓋骨が砕かれ脳漿やしわの寄った脳回の断片が飛び散る。それ以上に城下は血の臭いが漂っていた。
「殺せ、殺せ。裏切り者はぶち殺せ」
地下に潜る事も許さない。枯れ木も残らぬ程、完膚無きまでに叩き潰す。
解けない疑問は幾らでもあるけど、敵は撃滅する。それにあいつらが望んだ戦争だ。
旧約聖書によると神は御遣いを送り、アッシリア軍18万5千を滅した。対して俺達の仕事は、荊州に糞を垂れた阿呆野郎の敵を倒すだけ。たったそれだけだ。
理想だけでは平和を得られない。この機会に官吏、商人、将来的に邪魔に成りそうな者は全て殺した。目的を達成する為に手段は問わない。大切なのは結果だ。
人類は排他的で攻撃的な種族だから食物連鎖の頂点に立てた。戦では野獣の様に戦う事も生存本能故だ。だから本日も何事も無し。
世の中には絶対、完璧と言う事はある。完璧な結果を出す為に、戦いの合間にも休憩は適度に入れる。交代で飯を食わせた。
「しっかり飯を食えよ」
兵士は腹一杯食ってから戦う。飢えた兵士は頭に栄養が回らず、録な働きが出来ないからだ。栄養は活力であり、満たされて満足な働きが出来る。
「──だから、戦場では食欲のある、よく働く者から死んでいく。そして臆病者が生き残り、食わない者が正しいと捏造されているんだ」
ま、指揮官としては自分の体力も分からない馬鹿の方が動かしやすいけど程度による。
次と言う未来の無い次の世代の1億人を犠牲にして、更に最底辺の10億人を殺害しても自分の手の届く範囲の者が救えるなら、大多数の幸福より殺戮を選ぶ。それが組織を動かす者だ──きっと、死んだら地獄の業火に焼かれるだろうけど。
食事を終えたら殺しの続きにかかる。血の宴で襄陽は盛り上がっていた。
謀叛人の末路は哀れで惨めで無惨な物と決まっている。見せしめとして処断されるからだ。一生の内に何かを成し遂げられるのは極少数の者だけだ。だから家畜の様にただ従い何もしないのが一番の生存する道だ。
権力、金、名誉、愛、世界は様々な餌と乗り越えられない罠に満ちている。そして鴨はネギを背負って罠に飛び込んで行く。
奇跡の逆転と言うのは存在しない。戦に百戦百勝があるように、逆転は必然で起きる。だから用意の出来て無かった賊軍は俺の前に破れた。
(とは言っても、諸葛亮の率いる軍勢が残っているか。ま、俺の軍師達に抜かりは無い)
襄陽は解放された──そして俺には一仕事が残っている。
疑わしきは罰する。それは敵の侵入を防ぐ防御の一つだ。粛清をやろう。未来の為だ。
「劉琦様」
家臣が耳打ちして来た。俺は頷いて、
「馬鹿な勝負に命をかけた結果、この様だ」
王座に腰かけた俺の前に謀叛人共が引き立てられた。蔡瑁だ。
「ユダは銀貨30枚でキリスト様を売った。お前は幾らで俺を売ったんだ?」
跪いて蔡瑁は命乞いをした。
「私の持ちます財産全てを差し出します。その上で劉琦様、そして臣下の皆様、関係者各位へのお詫びと償いを、誠心誠意をもって対応して行きたいと思います! ですから何とぞ命だけはお助けを下さい!」
この阿呆は俺を罠に誘い込んでくれた裏切り者だ。
俺は性善説を信じていない。人は環境で左右されるのではない。DQNな毒親から生まれた子供でもまともに育つ場合がある。だから悪に染まる以前に、元から悪の気質がある悪党だったのだ。
被害者は俺だ。親を殺され、民を傷つけられた。けじめを付けよう。
「てめえを殺して財産は国庫に没収だ、ボケ。それともそんな事すら分からなくなったのか? 思い出させてやるよ」
そう言うと剣を受け取って蔡瑁の太股に剣を突き刺してやった。420HCのブレイドと感触は違うが、面白いほど切り裂いて血を吸った。
「うわああああああああああああ!」
絶叫の声が耳を打つが、でもまぁ、どうでも良いと思う。視床下部から攻撃性が刺激される。
力が沸くのは鍛練では無い。憎しみからだ。
「押さえておけ」
甘寧と周泰が俺の指示に従い蔡瑁を押さえ付ける。袁紹に声をかけた。
「麗羽、他所に行っても良いぞ」
「私は御側に控えております」
笑みを向けてくれたが、俺は素っ気無く答える。
「好きにしろ」
俺は蔡瑁の汚いケツを丸出しにさせた。悪い子にはお仕置きが基本だ。
「心配するな、痛いのは一瞬らしいから」
「何をする気だッ! よせ、なぁあああああああ!」
ひのきの棒をケツに突き刺してやった。肉を裂く手応えが伝わって来る。
「んほおおおおおおお!」
悲鳴をあげた蔡瑁は失禁し、ケツから血を流して気絶した。本当の強さとは必要な時に武器を振るえる力だ。
そのまま俺は斬首を命じた。
「宜いのですか。この者の罪は斬首でも温すぎると思いますが」
甘寧は首を跳ねる前に訊いてきた。
「ああ、だけど糞の相手を長々やるのは時間の無駄だ」
斬首した首は城壁に晒した。その瞬間、「王を讃えよ!」と、歓声が聞こえる。そこは空気を読んで俺も笑顔で手を振った。熱狂する民や兵の笑顔が怖い。
(一歩間違えたら俺の首がこうなっていた……)
さて、問題は汚い血で俺の手が汚れてしまった。
「失礼します」
女官から水の入ったタライを受け取った袁紹が、俺の手を拭ってくれた。
当たり前の様に奉仕してくれる彼女に礼を言うと笑顔を向けてくれた。やっぱり、俺のおっぱいを選ぶ目は間違ってない。こいつは良い女だ。
蔡瑁が討たれた事を知ると諸葛亮は意外にもすんなりと投降した。罠かと思ったが、素直に武装解除に応じ軍勢は解散された。しょせんは烏合の衆か。
「もう少しであやつの首を取れたのですが……」
関羽は悔しそうに報告する。そんなに手柄が欲しかったのか?
「御苦労だったな。ま、良いって事よ」
関羽達を労いながら諸葛亮を視界の端に捉えた俺は連れて来る様に命じた。
大人しく連行されて来た諸葛亮は俺の前に跪かされた。
「お前が阿呆共を扇動してくれたお陰で不穏分子は一掃出来た」
俺の嫌味に表情を歪める。
「何人死んだかな。五万ぐらいか?」
諸葛亮は答えない。そりゃ当然か。代償が大き過ぎた。
「今回、謀反の協力者は片っ端から殺してる。残る大物はお前だけだ」
まさか偽者じゃないよな、と思っていると諸葛亮は口を開いた。
「先般来の戦におきましては、仕えた主を失う等色々な事故が起きまして敗け戦の要因にもなったのでありましゅけれども、私は軍師です。将として統率する力は不足していました」
そう言いながら武官連中を一瞥する。ふん、確かにこいつは主と将に恵まれて無かったな。
「で?」
俺は続きを促す。
「軍師は政、あるいは戦における様々な出来事に対して最善の職責を果しまする為に、その力を最大限まで発揮すると言う事は、これは当然やらねばならぬ事であると今更申すまでもない事です。しかし軍は軍師一人が思う通りに動かす事は非常に困難です。主との信頼関係もありますが、士卒には武の心得の無い百姓も居るという事から、これはやむを得ない事でありましょう」
ま、俺の家臣達と比較するには差があるしな。そこは仕方無い。
そして諸葛亮は言葉を区切り、俺の目をしっかりと見て答えた。
「ですから私は悪くありません。私の助言を活かせなかった主が負けただけで、私は負けていません」
「ははは、良いぞ。その自信と傲慢。軍師はそうでなくてはな」
諸葛亮はぶっ殺そうと思っていたが、気が変わった。こいつは面白いやつだ。まだ腹に抱えてる物がありそうだが、きっと俺を楽しませてくれるだろう。生かして馬車馬の様に使役してやる事にした。
とりあえずはこれで、漢帝国での戦いは一つの終りを迎えた。
勿論、これで戦いは終りではない。エロゲーをクリアしても、ファンディスクやシナリオ追加のリニューアル版があるように、政治闘争や復興事業と言う戦いが待っている。
だから俺は仕置きを終えてある程度落ち着くと、劉琮に荊州を任せて俺は田舎に籠った。と言っても田畑を耕す泥臭い生活は出来ない。
おっぱいに出仕させて稼いで来て貰い、俺は秘宝館を営業しながら家で食っては寝て過ごす自堕落な毎日だ。
「兄上、西のパルティアから使者が参りました。ローマとの戦で漢の力を借りたいとの事です」
政から身を引いたとは言え、まだまだ弟は俺を頼って来る。優秀な家臣に丸投げする「君臨すれど統治せず」どころか完全に俺の指示待ちかよ。
頼られたら答える。兄弟だからな。
「それは敵の謀略だ。使者の首を跳ねろ」
本当に力を借りたいのであったとしても、わざわざ戦に参加する必然性は無い。
「旅先で賊に襲われて死ぬのはよくある事ですね」
流石は我が弟。理解が早くて済む。だがこいつはまだ甘い。他人は信用しても信頼すべきではない。頼れば齟齬があった時の損失が計り知れない事に成るからだ。
大陸中央の均衡が崩れると防波堤が無くなると考えるかもしれない。だが漢までの道のりは遠い。アレクサンダーですら到達出来なかった。
「それに戦と成っても、我ら荊州が残る限り漢の意思は引き継がれます」
「あ、そう」
郷土愛はあるが、一国の政は割りとどうでも良い。孤立主義・排外主義が一番だろう。
多くは求めない。この日常が続くなら。
何かを背負う弱者より、捨てて身軽な方が生き残れる世界だから。
劉琦
後漢末期の君主。劉表の長男。心卑しく女色に耽り、その弟、劉琮が荊州の守相を継ぐ。
一方で、宗主を殺害。諸侯を対立させ楚王と成り漁夫の利を得た事から汚い劉琦で知られる。
晩年は荊州を離れ揚州呉郡で秘宝館を営みながら過ごした。
昭和100年、日中共同の学術調査の結果、劉琦の墳墓を上海郊外に発見した。長年、荊州を追放され流れ着いた終焉の地と考えられていたが、劉琦本人の他に正室と多数の側室の骨壷、埋葬品が発見されており、墳墓の規模、出土した埋葬品の量から裕福な生活を送っていたと考えられる。
どっとはらい。