魔法少女リリカルなのは-拳に想いを込めて-   作:rain-c

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第一話魔法少女誕生

 赤い空に異形の怪物。怪物と対峙する独特の衣装を身に着けた同年代と思わしき少年。途切れ途切れに見えるノイズ交じりの映像。怪物と対峙する少年に加勢しようとアルター能力を発動させ、体を前へ動かそうとするが、俺の体は意思に反してアルター能力が発動しないばかりか、指一本動かせない。急に現れた俺を一瞥することも無く、怪物と対峙している少年は魔法陣と思わしきものを展開し攻撃を行う。まるでここに俺が存在して居ないかの様な少年の反応。少年の展開した魔法陣より飛来したものが怪物に当たり、少年は怪物を退けることに成功した。俺はその光景にホッと息をつく。だが、少年の表情は思わしくない。彼が望んだ結果ではない様だ。

 怪物の逃走した方角へ悔しそうな視線を向けていた少年の体がふらつき、地面に倒れる。そこで俺の見ていた映像はぷっつりと途切れてしまった。

 

「夢、か」

 

 リアリティーのある夢に妙な違和感を覚えるが、俺には由詑かなみの持つアルター、夢(ハート・トゥ・ハーツ)のようなアクセス型のアルターなど持っていないため、ただの夢のはずなのだ。

 しかし、夢で片付けるのに違和感を感じ、最近行ったゲーム、読んだ小説、見たアニメに思考を落とそうと考えたところで、枕元に置かれている時計が目をはいった。時計が示す時刻は午前七時。

 夢のことは気になるが、そろそろ支度を始めないといけない時間だ。

 胸の中の違和感に後で考えればいいと思考に蓋をし、俺は小学校へと向かう準備を開始する。

 通う学校は私立ということもあり学校に行く格好は指定の制服。俺個人としては、普通に公立に通う気満々だったのだが、前世の知識でちょいちょい歳不相応の会話をする俺を出来る子と思った両親が、強く進めてきたために、自由な校風であると有名な近所の私立の学校に通うことになった、

 私立に通うのは構わないのだが、シミとかつくと目立つ為に、指定の白い制服は割と嫌いだ。

 私立聖祥大附属小学校三年。

 それが今の俺の身分である。さすがに義務教育である小学生の身で遅刻は避けたい。遅れて教室に入り無駄に目立つのは、まっぴらごめんである。

 聖祥に通い始めて三年目、最初の方は小学校へ通うのに、いろいろと思うところがあった。しかし、いざ通ってみると中々に楽しい場所であり、充実した生活を送れていると感じるあたり、俺の精神年齢は自分で思っているほど高くないのかもしれない。

 

「楓!起きてたら降りてきなさーい」

 

「あいよー」

 

 階下から聞こえる母親の声に気の抜けた返事を返した俺は、ブレザーと鞄を手にとり部屋を出る。ブレザーを羽織らないのにはもちろん理由がある。第三次調味料大戦が開幕してしまうのを避けるためだ。荷物になるがシミ抜きの手間を考えるなら、仕方のない事だ。自室の扉をあけると、香ばしい匂いが鼻に届く。どうやら今日の朝食は和食らしい。鮭の焼けたいい香りが俺の腹を刺激する。変な夢を見たせいかハッキリと覚醒しているため、香りだけで俺の口の中を唾液が満たしていき、自然と喉がごくりと鳴った。空腹を激しく訴え始める腹を無視し、洗面台へと向かう。鏡に映るのは今の自分の姿だ。

 少しばかり赤みがかった茶色い髪をした幼い少年。別にハーフという訳では無いし、無論染めてもいない。地毛がこれだ。

 前世では確実に注意される髪色なのだが、周りには光を通し輝いている様に見える金髪の少女やら、老人が染めているイメージしかない紫の髪の少女やらと、黒い髪の人間が少ない。しかも地毛だから注意されてもどうしようもないのだが。

 地味に嬉しいのが、つり目であることだったりする。ここ数年で見慣れた顔をじっくりと見たりするほど自意識過剰ではない。寝癖を直し顔を洗い、下で済ませる支度のほとんどを終えた俺は、朝食と母親の待つリビングへと足を運ぶ。

 

「…おはよう。母さん」

 

「おはよう。楓」

 

 挨拶を返してくれたのは、俺の今生での母親、暮島優稀(くれしまゆうき)。小学校三年生の息子がいるとは思えない肌の張りに、スレンダーとしか表現できない体型。大学生でも十分に通用する外見をしているが、母さんは三十代である。この街では美容方法が回覧板に書かれて回されているんじゃないかと思ってしまうほど、若い外見の大人が多い気がする。過去に、回覧板を覗いて見た結果、普通の回覧板だったのは今ではいい思い出でである。

 母さんに挨拶を返した後、今日の朝食は香りにより大体判明してはいるが、リビングに置かれている四人がけのテーブル、正確にはそこに用意されている朝食へと視線を移す。そこには、俺と母さん二人分の朝食が置かれているのだが、俺の目がおかしくなっていなければ置かれているのもが若干おかしい。

 香ばしい匂いを上げる焼き鮭、ナスときゅうりの浅漬け、若布と豆腐の入った味噌汁。そして、おいしそうな焦げ目の付いた食パン。

 

「母さん、またご飯炊き忘れたの?」

 

「もー、私がそんなドジばかりするわけ無いじゃない。今日は違うわよ。お米が消えてたのよ。どこいっちゃったのかしら?楓知らない?」

 

 米が消えた発現から判るように、うちの母親の天然度合いは度を越している。一応米が本当にないのか米びつに目をやると、見事に空っぽだ。

 

「えっと、たぶんスーパーに行けばいっぱいあると思うよ。っと、いただきます」

 

「そうね、今日買って来るわ。楓ありがとう」

 

 俺の指摘に不思議そうな表情から一転、顔を輝かせる母さん。いつも思うんだが、こんな答えで納得してしまう母さんがいつか詐欺に合いそうで不安になるが、不思議なことに母さんは人の悪意など不の感情には敏感なため、今のところ騙されたことは無かったりする。

 半分程朝食を食べ進めたところで、問題点に気が付いた。うちの学校は給食ではない。今日の俺の弁当はどうなっているんだろう。

 

「あのさ、今日の弁当は?」

 

「サンドイッチにしておいたわ」

 

「ありがと、母さん」

 

 俺の心配をよそに、ラップに包まれたサンドイッチを高々と上げて見せる母さんに苦笑しつつも、俺は感謝の言葉を述べると、母さんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「あ、楓。そろそろバスの来る時間じゃないの?」

 

 リビングにかけられた時計の示す時間は、午前八時ジャスト家をでるには丁度いい時間だ。

 

「だね。ご馳走様でした」

 

「はい。お粗末さまでした」

 

 朝食で使用した食器を流しへ置き、あまり好きではないブレザーを羽織り、俺は家を後にした。

 

◇◇◇

 

『……けて』

 

 特に問題なく学校が終わり、いつものように家より少し歩いたところにある人通りの少ない森の中で、アルター能力を使った訓練をしようとしたところで、声が聞こえた。ノイズ交じりで聞こえる声。あたりを見回してみるも、なにも見つけられない。

 

『たす……』

 

 再びあたりを見回してみるが、見える範囲に人影はない。また木に囲まれた場所におり、ノイズ交じりということもあって、今朝見た夢の光景が頭を過ぎる。もしかしたら俺と同じかも知れない。一度気にかけたからか、声の主が気になって仕方が無い。

 

「探して見るか」

 

 特訓をしようと下ろした鞄を再び肩にかけ、俺は声の主を探す為に、森の中を歩き始めた。始めはゆっくりと歩いて探していたのだが、途切れ途切れに聞こえる声から助けを呼んでいることがわかり、そこからは小走りで森の中を捜索している。走り始めて十分ほど立ったが、どれだけ森の中を進んでも、助けを求める声の主に近づいたような気がしない。きっとこれは移動しても聞こえてくる声の大きさが変わらないからだろう。

 

 コレが幻聴だったりしたら俺、病気だな。

 

「なのは!急にどうしたのよ!?」

 

「なのはちゃん!」

 

 急に聞こえた声に驚いてしまい、体がびくりと反応し自然と足が止まる。そして彼女達の声が聞こえたのと同時期に、助けを求めていた声が聞こえなくなった。

 声の主たちが、救助したのかなと木陰から声がした方を覗き様子を伺う。そこには同じ学校の制服に身を包んだ三人の少女の姿があった。

 活発そうな金髪の少女、おしとやかそうな紫の髪の少女、そして、オコジョらしき動物を抱えた茶色い髪の少女。少女達には見覚えがある。積極的に会話をしたことはあまりないが、彼女達三人はクラスメートだ。

 金髪の少女はアリサ・バニングス、見た目通り活発で、クラス内において結構な発言力を持つ、リーダータイプの少女。紫の髪の子は月村すずか。彼女はバニングスさんほど積極的に発現することは少ない為、よく本を読み、見た目とは裏腹に、運動神経が高いという事しか知らない。最後に茶色い髪のオコジョらしき生物を抱える少女、高町なのは。彼女個人の情報は、運動神経が低いと理数系が得意であることしかわからない。しかし彼女の家はこの海鳴市では有名である。

 高町さんの家族の経営する喫茶翠屋のシュークリームはうちの母さんいわく、幅広い年齢層の女性の胃袋を虜にした魔性のお菓子だそうだ。俺も一度食べ胃袋を見事に鷲掴みにされていたりする。

 

「……この子、怪我してる」

 

「大変じゃない!すぐに動物病院に連れて行くわよ!」

 

「急ごう!なのはちゃん!」

 

「うん!」

 

 俺の思考が脱線している間に、三人の少女は駆けて行く。彼女らを追いかけてオコジョに詰問するのもありっちゃありなのだが、オコジョが喋れなかった場合、彼女達の眼に映る俺は、傷ついた動物を病院に運ぼうとする彼女達の邪魔をし、あまつさえ動物に話しかける危険な同級生にしか見えない。彼女達の反感を買うことになるのは確実だろう。というか俺なら確実に反感を抱く。

 

「今打てる最善の手は……放置、だな。急に俺なんかに話かけられても、優しい彼女達ならオコジョの傷の手当を優先するだろう」

 

 去っていく少女達の姿が見えなくなるまでその背中を見送り、当初の目的の為、俺は森の奥へと進む。辺りに人の居ないことを確認し、大きく息を吸い精神を整える。

 

「さて、やるか」

 

 自分の中の何かが消費され、アルター能力発動時独特の色が俺の右腕を包み込んでいく。光が消失すると、この世界に来てから見慣れた装甲に覆われた赤い腕が発現する。指を一本一本折り曲げていき動作確認。

 

「今日もよろしくな。相棒」

 

 特訓とはいえ、派手なことは出来ない。行うのは、簡単な動作確認にアルターを使用しての移動に、イメージトレーニング。イメージするのはもちろんこのアルターの元の持ち主である一人の青年。自分で選択した意思を最後まで何があってもやり通すといった覚悟を持った彼の戦い方をトレースし、自分の動きへと変換する。まあ、彼自身の戦い方も割と素人っぽいのでこの訓練は比較的容易だ。

 日が落ちるまで特訓した俺は、少女達に連れて行かれたオコジョの事が気になりながらも帰宅した。

 

◇◇◇

 

 二度あることは三度あるとはよく言ったものだ。この言葉を最初に言い始めた人間は偉大だな。

 

『聞こえ……僕……ますか?』

 

「またか。またこの声か」

 

 一度目は夢の中で、二度目は森で、そして今聞こえているので三度目。どうやら今頭の中に響くノイズ交じりの声は幻聴ではないらしい。

 

『僕の……あなた……力を貸し……』

 

『お願い……』

 

『危険が……』

 

 ノイズが混じり、途切れ途切れにしか聞こえないが、声の主が弱っているのがわかる。ここでどうするのが正解なのか。俺には正解を導くだけの情報は所持していない。かといって助けを求める声を無視するなど論外だ。急いで寝巻きから外出用の服装へと更衣を済ませ、俺は階段を駆け下りる。

 

「楓、どこかいくの?」

 

 階段を降りる際、大きな音をたててしまったからだろう。靴を履いていると母さんに声をかけられた。

 

「……ちょっとね」

 

 助けを求める声が聞こえた。正直にいっても病院に連れて行かれるだけだ。咄嗟に良い言い訳が浮かぶほど都合よくは無い。母さんの顔を見ても、俺にはそう返すのがやっとだった。

 もしかしたら、引き止められるかもしれない。

 

「……そう。何があったのか私にはわからないけど、気をつけて行ってらっしゃい」

 

 俺の予想に反し、母さんは柔らかな笑みを浮かべるとリビングへと戻っていった。いや、ありがたいことではあるんだけど、おおらかすぎだろう。それだけ俺のことを信じてくれているってことか。

 リビングに戻る母さんにたいし、口に出して感謝を述べるのは何か違う気がし、俺は心の中で礼を述べ、家を出た。

 

 あれは、高町さん?

 声の主をオコジョであると仮定し、森から一番近い動物病院へと足を運んでいたところ、前方にオコジョを動物病院へと連れて行った三人の少女の一人である高町さんが駆けていた。

 人のことを言えたぎりではないのだが今日は祭りなど、小学生が夜に出歩く免罪符となるであろうイベントはない。優等生と評される生徒であろう高町さんが、一人夜の街を走っているのに違和感を感じた。

 まさか、彼女にも声が聞こえている?

 しばらく彼女の様子を観察しながら後をつける。運動神経がそこまで言い訳じゃないため、その速度はあまり早くはない。しかし、彼女が闇雲に走っているわけではないのは見て取れた。どこか焦っている風に見えるのも、気のせいではないだろう。

 良く考えてみれば、夕方に何処からか聞こえた声の主を探し森の中を探索した時にも、彼女と遭遇した。それに、最初に声の主と思われるオコジョを見つけたのは彼女だ。彼女にもこの声が聞こえているとみて間違いないだろう。迷い無く走り続ける彼女、どうやら俺と違い彼女にはこの声の主がどこにいるのかはっきりとわかっているのだろう。もしかしたら、彼女にはノイズ交じりではなく、はっきりとこの声が聞こえているのかもしれない。体力が無いにもかかわらず、足を止める事無く彼女は進む。

 

「……なんだ?」

 

 前方を走っていた高町さんが、動物病院の前で頭を抱えた。そして耳障りな音が俺の頭の中を抜け、あたりの気配が一変。それと同時に、動物病院の中より何かがガラスの割れる大きな音が聞こえ、高町さんは無用心に敷地の中へと足を踏み入れた。もっと警戒心を持てと説教したくなる行動だ。高町さんの姿が壁により遮られてからすぐに響く大きな音と倒れる木。俺が何か行動を起こす前に門より飛び出した高町さんの姿。これはさすがに接触したほうがいいだろう。

 

「おい、何があった?」

 

「えっ、あっ、暮島くん?」

 

「この人は?」

 

「グアアアアアアア」

 

 急いで高町さんの隣を併走する形で追いつき声をかける。急に声をかけた俺に驚く高町さんと、高町さんの胸に抱えられ疑問の言葉を口にするオコジョ。そして俺達の後を住宅街の壁を破壊しながら追ってくる黒い塊。なにこの新キャラ。どちら様よ。

 

「オコジョが喋った。つうか、後ろのアレは何だ?どっちかの客か?」

 

「オコジョじゃなくて、フェレットなの!」

 

「あれはジュエルシードの暴走体です」

 

 ああ、この小動物フェレットっていうのか。前世で小動物なんてハムスターとリスぐらいしか触れあったことないから見分けつかないよ。つか、ジュエルシードってなんだ。

 

「情報どうも。さて、途切れ途切れに聞こえた声の主はお前だよな?ジュエルシードが何かわからんが、中々にピンチっぽいけど、俺はどうすりゃいい?」

 

「あなたにも僕の声が聞こえたんですか?」

 

 俺の言葉に驚いた様子のフェレット。フェレット、というか小動物の驚き顔とか中々にレアだな。

 

「途切れ途切れのうえにノイズ交じりだったけどな」

 

「……そうですか。なら魔法の素質は彼女の方が」

 

 視線を高町さんへと向けるフェレット。

 結局どうするんだ?

 

「すみません。僕にあなたの力を貸してください。あなたには魔法の資質があります。彼にもありますが、あなたの方が素質が上なんです。迷惑かもしれませんが僕の力を使ってください。必ずお礼はします。お願いします」

 

「お礼とか今はそんな場合じゃないでしょう!どうすればいいのか教えて!」

 

 高町さんに抱えられたままお辞儀し頼み事をするフェレット。高町さんはフェレットを前後に揺さぶりどうすればいいのか聞いる。

 酔わないか心配だ。

 

「状況はいまいち理解出来ないが、時間稼ぎは必要だな?」

 

「それは」

 

 俺の言葉に戸惑った様子を見せるフェレット。時間はあるに越したことはないが、フェレットの言葉を借りれば、素質のなさそうなただの子供に危険なことはさせられない。そんなところだろうか。

 

「任せろ」

 

「なにをっ!?」

 

「危ないよ!」

 

 俺は走る為に動かしていた足を止める。俺の中にある戦う力。いくら戦う力があっても実践は初だ。恐怖が無いわけではない。足が震える。けど、今使わなければ俺は一生後悔する。それに俺はこの力があるときに決意したんだ。この力に恥じない生き方をすると。

 だから俺は彼のように不敵に笑い、心にも思っていないことを口にする。

 

「別に倒してしまってもいいのだろう?」

 

 俺の意志を受け、一瞬でアルター能力は形成される。右腕は赤い装甲に覆われ、背中には赤い三枚の羽根を模した装飾が現れ、現れた直後一番上の羽根が砕け散る。

 

「景気づけだ。遠慮なく受け取っとけ!衝撃のファースト・ブリット!」

 

 砕けた羽根のあった場所より噴出される推進剤。それにより俺の体は加速する。アルター能力を使用したことにより増加した身体能力、推進剤により加速した身体から放たれた拳は、闇を切り裂く流星の如く進み、一直線に向かってきていた黒い毛玉の怪物の体を軽々と重力から解放する。宙に浮いた怪物はそのままその身を壁に埋め込ませる。

 

「魔力?けど、あの力は一体……」

 

「すごいの」

 

「グオオオオオオオオオオ」

 

 苦しげなうめき声を上げる毛玉の怪物。俺の拳を受けたところには風穴が開いているが、やつの体を形成している黒い毛が徐々に傷を塞いでいっている。ダメージを与えることには成功したが、決定打には程遠そうだ。もっと高威力の攻撃でも出来ればいいのだが、あいにくと俺には今以上の威力を誇る攻撃手段はないし、技は残り二発。大口を叩きはしたが倒しきれないのは確実だ。

 

「悪い。前言撤回だ。俺の攻撃じゃ倒しきれ無い。なにか手があるなら早めに頼む」

 

「わかりました。あのこれを」

 

「温かい」

 

 怪物と退治する俺の後ろで高町さんとフェレットが何かを始める。怪物はまだ傷の再生が済んでいないのだろう、ゆっくりとした動作で壁から這い出した後、こちらに視線を向けている。しかし、揺ら揺らと体を左右に振るだけでこちらを睨む以外の動作に移らない。

 

「それを手に、目を閉じて心を澄ませて。僕のいうとおりに繰り返して。いい?いくよ!」

 

「うん」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「契約のもとその力を解き放て」

 

「契約のもとその力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に」

 

「風は空に、星は天に」

 

「「そして、不屈の心はこの胸に、この手に魔法をレイジングハートセーーーットアーーーップ!」」

 

「Stand by ready,set up」

 

 背後から強烈な光があふれ出し、毛玉の怪物が動けないのを確認したあと、俺はフェレットと高町さんがいるであろう背後に視線をやった。俺の目に映ったのは、まるで向こう側にアクセスしたかの様に上がる桃色の光の柱。その柱はすぐに掻き消え、高町さんの姿が見えた。

 

「君の魔法を制御する杖の姿と、君を守る強い衣服をイメージして!」

 

「とりあえずこれで!」

 

 急に武器と防具をイメージしてと無茶振りされた高町さんが呟くと、彼女の衣服がすべてはじけ飛び、俺の瞳には全裸となった一人の少女が映りこむ。アルター能力者の俺が言うのもおかしいが不思議な光景だ。次第に白い衣服を身に着けていく高町さん。

 あ、目が合った。次の瞬間、一瞬でトマトのように顔を赤くする高町さんの顔をみてから同級生の全裸を見てしまったことに気づく。

 

「えっと……みた?」

 

「ごめんなさい」

 

 ピンクの杖を持ち、聖祥の制服を模したと思われる衣服に身を包み、真っ赤な顔で尋ねてくる高町さん。そんな高町さんにアルター能力を使用したまま土下座で謝る俺。高町さんの魔法少女デビューはなんともしまらないものになっている。

 

「二人とも気をつけて!来るよ!」

 

 フェレットの声に土下座の体制のまま、顔だけを毛玉の怪物へと向けると、怪物が体の上部を凹ませ、元に戻る反動を利用し、地面より高く飛び上がっていく姿が見える。

 

「えっ、えっ、どうすればいいの!?」

 

「時間稼ぎは任せとけって。フェレット、高町さんは任せた」

 

「わかりましたっ!」

 

 正座を崩し、四つん這いに近い前傾姿勢より、右腕をアスファルトの地面へと振り下ろす。俺のアルター能力、面倒だな。呼び方はシェルブリットで統一するか。シェルブリットを打ち下ろしたアスファルト部分はボコッと大きな音をたて凹み、俺はその勢いを利用し落下を始めていた怪物の頭上をとる。

 

「成功してよかった」

 

 イメージトレーニングでしか行ったことの無い跳躍方法が成功したことに安堵しつつ、シェルブリットへと意識を向け二つ目の推進剤を点火する。

 

「撃滅のセカンド・ブリット!」

 

 二つ目の羽根が砕け、俺の体が急激な加速を開始する。背中から吐き出される推進剤は即座に俺の体をトップスピードへと導いた。

 アルター能力で身体能力が上がってなかったら、失神確実な速度で放たれた拳は、俺と高町さんが先程までいた場所に向けて落下している毛玉の怪物の体に突き刺さる。

 

「埋まり、やがれっ!」

 

 拳に伝わるムニュリという感触に構わず、俺は怪物の体に風穴をあけるつもりで拳を振りぬく。しかし、俺の拳は怪物の体を貫くことは出来ず、派手な音を立てアスファルトへと怪物の体を埋め込ませるにとどまった。重力もプラスされているだろうから先程より多少はダメージを与えられたとは思うが、できる事なら、このチャンスを生かして欲しいものだが。

 

「高町さん、フェレット、準備は!?」

 

「いけます!」

 

「大丈夫なの!」

 

 アスファルトに出来た穴、その中でもがき続ける怪物に近づき、高町さんは杖を振り上げる。

 

「リリカルマジカル」

 

「封印するのは忌まわしき器。ジュエルシード」

 

 魔法を使うのは高町さんだよな?今の台詞は必要なのか?

 

「ジュエルシード封印」

 

「Sealing mode.set up」

 

 高町さんの声に反応し機械的な杖はその姿を変える。先から一対の細いピンクの光の翼を生やすと、怪物をピンクの光で出来た帯が包み、怪物の体を絞め付けていく。 

 

「Stand by ready」

 

「リリカルマジカルジュエルシードシリアルⅩⅩⅠ封印」

 

「Sealing」

 

 シェルブリットでも貫くことが出来なかった怪物の体を、ピンクの帯がいとも容易く突き破っていく。

 

「フアアアア」

 

 最後に苦しげな雄たけびを上げると、怪物の姿は掻き消えた。その姿を見届け高町さんが手に何かを握り締めると、彼女の服装がもとに戻った。緊張感から開放され疲れが一気に出たのか、その場にぺたんと座り込んでしまう高町さん。

 

「はああ、疲れたの」

 

「お疲れさん」

 

 シェルブリットを霧散させ、高町さんの目線にあわせその場にしゃがみ、肩を叩き労いの言葉をかける。そこで耳に届くサイレンの音。俺は大変なことに気が付いてしまった。

 

「なあ、魔法少女となった高町さんや?」

 

「なあに?暮島くん」

 

「この状況を魔法でもとに戻せたりはするのか?」

 

 俺の言葉に辺りを見回し、顔色を悪くする高町さん。嫌な予感をヒシヒシと感じる。というかその反応は嫌な予想しか立てられない。俺の目線の先にあるのは荒れ果てた動物病院の敷地に、壊れた民家の壁、辛うじて役目を果たしている傾いた電信柱にひび割れた道路。俺にも原因はあるので元に戻してこの場を去りたいところだが、あいにく俺にそんな能力はない。それに修繕費用を出すにしても、被害金額は明らかに小学生に弁償できる額ではないだろう。それに集まってきた国家公務員の皆様に、この状況がどうやって出来たかなんて説明できるわけもない。

 

「フェレット、どうだ?」

 

 一縷の望みをかけてフェレットへと顔を向けるも、彼、あるいは彼女はゆっくりと首を左右に振る。どうやら魔法といっても万能ではないらしい。

 現状でうてる最善の一手は逃げる、だな。

 

「いくぞ!」

 

 どうしよう、どうしようと顔を青くしている高町さんに手を差し伸べ立たせた後、俺達二人と一匹は全力でその場を後にした。

 

「はあはあはあはあ。こんなに走ったの初めてなの」

 

「大丈夫?」

 

 動物病院から走り続けて十分弱。高町さんがばててしまい、仕方なく俺達は休憩を取った。高町さんの肩に乗り移動していたフェレットが気遣わしげに声をかける。

 

「とりあえず、夜も遅い。今日は高町さんの息が整うのを待ってから解散だな」

 

「はーはー。りょう、かい、なの」

 

「わかりました」

 

 素直に同意の意を示す一人と一匹。ズボンのポケットより携帯電話を取り出し時刻を確認。この時間に女の子と小動物だけで家に帰すのは忍びないな。

 

「整ったら家まで送るから、とりあえず家族に見つかった時の言い訳でも考えといてくれ」

 

「ふーわかったの」

 

「すみません。僕のせいで」

 

 もとより小さい体をさらに小さく縮ませ、頭を下げるフェレット。そんなフェレットの頭にそっと手をのせ、わしゃわしゃと少しばかり乱暴に、けれど決して痛みを与えないように撫でる。

 

「あほか。命に比べたら安いもんだ。な、高町さん?」

 

「そうだよ!フェレットさんを助けられたんだもん。気にする必要ないの!」

 

「二人とも……ありがとうございます」

 

 再び頭を下げるフェレットに俺と高町さんは顔を見合わせ苦笑する。何であんな怪物が現れたりしたのか定かではないが、一つだけわかったことがある。どうやら彼、あるいは彼女の責任感は相当強いらしい。

 その後、詳しい話はまた明日ということにし、息の整った高町さんを家まで送り、俺達は別れた。

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