ダメだしもどんどんください!
「...タフ。グスタフ?」
名前を呼ばれた彼は重い身体を起こし、辺りを見回す。何だか嫌な夢を見ていた気がする...。
まだ、視界がぼんやりしていて、頭にモヤがかかっているような気がした。
「終わったよ、グスタフ」
彼の目は先ほどから自分の名前を呼ぶ男の姿を捉えた。
(白衣のようなものを着ている。研究者?ああ、そうか、確か俺は毒を吸入していて...)
ようやくハッキリとしてきた頭で今の状況を把握したグスタフは男に対して問いかける。
「何か異常はあったか?」
いいデータが取れたとでも言いたげな顔をした研究者はその問に対して、
「いや、何も問題はないよ」
と答えた。それを聞いて満足したのか、グスタフは首を鳴らし、立ち上がる。
「グスタフ。これからどうする?」
続けて、研究者の彼はニタリと嫌な笑みを浮かべ、聞いた。
「とりあえず、このまま戦場へ向かう」
グスタフは自分が受けた命令を思い出しながら、的確に返したつもりだったが、
「違う、違う。僕が聞きたいのはそういう事じゃなくて」
と、グスタフの返事は意図に適していないと言うように、彼は嫌な笑みのまま、さらにこう続けた。
「君は今、指揮官の座をおろされている訳だけれど、思うように部隊を操りにくくなっただろ?そうすると君の計画にも支障が出るんじゃないかと思ったんだ」
グスタフは眉を寄せて、難しい顔をした。それはグスタフも考えていた事だった。
「ああ。まずいな。俺の今後に関わって来るだろう」
グスタフと研究者は計画についての話を始めた。
彼等がこのように会話を繋げられるのには、理由がある。
若き天才研究者の彼は、軍の中で唯一、グスタフの復讐計画を知っている協力者なのだ。彼もまたグスタフと同じように貧民の出で、幼少のころ虐げられた経験があった。グスタフはそんな過去を自分と似ていると感じ、彼に全てを話した。もし協力者にならなかった場合、殺そうと考えていたグスタフだったが、そんな心配は杞憂だったようで、彼はグスタフに深く共感し、グスタフの協力者となったのだった。
「部隊の指揮権はあるのかい?」
「今は自分の部隊だけだ」
「少ないな」
「ああ。まずは人員を確保する」
「そうか。わかった。人員確保だね?そっちは僕が何とかしよう」
「助かる」
「礼はいらない。僕がやりたいことでもあるからね。君は目の前の戦争に集中したまえよ」
淡々とした会話の応酬を終え、グスタフは扉へ向かう。
(俺がやることは決まっている。邪魔な奴らは殺すだけだ)
彼はあの日の誓いを胸に、血でまみれた戦場へ歩を進めた。
全てが終わり。また、幹部達は会議を開いていた。
その中には研究者の姿も見える。全員が集まった所で1人の男が立ち上がり、発言した。
「今回の戦争についての報告です。結果は我が軍の勝利です。しかし、圧勝と言える結果ではありませんでした。大きな要因となるのは、グスタフ・ハイドリヒによって味方も巻き込まれた事による、人員減少があったためだと考えられます」
幹部達はやはりと深い溜息をついた。
「結局こうなってしまうか...。勝てたことは喜ぶべき事だが、次の戦争もこのようでは、このまま我が国が自滅するぞ!」
会議に重苦しい空気が流れる。ふむ、と1人の幹部が呟き、
確かに彼は危険だ、と前置きして話し始めた。
「だが、彼さえ制御出来れば、我が国がこれから負けることは無いのではないか?我が軍の被害も少なくなるだろう?」
他の幹部達は口々に、
「出来たらとっくにやっている!」
「苦労しない!」
と男の意見を否定した。それは男も、想像していたようで特にうろたえた様子もなく、続けた。
「わかっている。しかし、ひとつだけ方法がある」
幹部達は先ほどとは打って変わって、男の方を期待した目で見つめる。
「君に力を貸して欲しい」
そう男が声をかけたのは、彼とは正反対の位置にいた、1人の研究者だった。
「僕...ですか...?」
彼は戸惑ったように聞き返した。
「君だ。君はグスタフ・ハイドリヒの専属研究者なんだろう?彼を制御できるもの。例えば、そう。記憶を改ざんするものや、物理的なショックを与え、無理やりこちらに従わさせるもの。何でもいい。」
男だけでなく、会議に参加していた幹部達全員が研究者の男を見た。
「わかりました。少し時間をください」
彼は男の目を見据え言った。その言葉を聞いた幹部達は会議室から、バラバラと出ていった。
最後に残った彼の額には、うっすらと脂汗が滲んでいた。
グスタフは研究者の彼に呼び出され、あの部屋へと足を向けていた。ロックを開け、中へ入ると焦った表情を浮かべた彼と目が合った。
「グスタフ。まずい事になった。」
彼はそれから、会議で決まったことをグスタフにすべて話した。
「俺は今すぐ部隊を集める。幹部の奴らを殺しに行く!」
焦ったような、怒ったような様子のグスタフを見て、宥めるように、彼は言った。
「無謀だ。数が違いすぎる。戦っても勝ち目はない」
「だが、待っていれば俺が操られるだけだろう!ならば...」
グスタフは尚も興奮したまま口早にまくし立てる。
「落ち着け!グスタフ。僕はひとつ情報を手に入れた。」
彼の希望のある言葉に期待したのか、静かになったグスタフに彼は告げた。
「ここからずっと東へ言った所に日本という国があるのは知っているかい?ドイツ政府の資料に書いてあったんだが、妖の軍隊があるらしい」
グスタフはそれを聞き、思案している。
「妖か...。大きな戦力になりそうだ。よし...」
グスタフはさらに考える。
(その軍隊を乗っ取り、手下として使えるのなら...可能性はあるか...)
「よし。俺は準備が出来次第、幹部の奴らには秘密で日本へ向かう。自分の部隊は連れていくつもりだ。お前は、幹部達に手を回しておいてくれ」
グスタフと研究者の男は互いに頷きあい、行動を始めた。
「グスタフ・ハイドリヒは頭がキレます。彼がいる状態で作業をしていると、行動が露見する可能性が高いです」
若き研究者は幹部達を前に話し始めた。
「バレないように実行するなら、別の国へ移すのが最適かと」
彼は平静を装い、そう話し続ける。
「なるほど。ならば、我が国の同盟国に頼むべきか...」
そのまま話を続けそうな幹部の男を遮り、研究者の彼はまるで用意していたかのように言葉を並べた。
「心配には及びません。私の知り合いで毒についての研究をしている者がいるんです」
もちろん、知り合いなどはいるはずもないが、そんな事には、気づかない幹部達は彼に質問した。
「それはどこだ?」
彼はすぐさま答える。
「日本です」
幹部達は一様に口を開け、驚いていた。
「日本!?日本は我が国の同盟国ではないぞ?」
「しかもあんなに遠い所に...」
驚きから出た様々な意見に彼は、すべて答えた。
「安心してください。既に知り合いには許可を取っています。そして、遠いからこそ、グスタフ・ハイドリヒは簡単には戻ってこれない」
幹部達は彼の話に聴き入っていた。
「わかった。君を信じよう」
彼は、はい、と応えると会議室をあとにした。
グスタフは政府の所有する書庫を調べていた。
日本の妖の軍隊について、更なる記述を探すためである。
と、奥深くに眠っていた赤い手記をめくっていると、気になる記述を見つけた。そこにはこう書かれていた。
「あの軍隊は、本部すらわからなかった。当然だ。私はついに見つけた。いや、本当に一部の人間にしか見つけられなかったのだろう。地下だ。それも日本政府の所有する土地の。ああ、きっと、私も直に殺されるのだろう。桜華忠臣。彼は恐ろしい総統だ。容赦はしないだろう。禁忌を知った私は生きて帰れないのだ」
(これは...地下にあるのか。いや、重要な所はそこではないか。日本政府の所有する土地?日本政府が認めているのか...?.....!日本政府すらも押さえ込んでいるのか!)
グスタフは驚きから、目を見開いた。
期待以上だ。これなら幹部達も殺し尽くせる.....!
(そして、桜華忠臣。待っていろ...!地獄を見せてやるよ)
グスタフは書庫から自分がいた痕跡を消し去ると、自分の部隊に連絡する。
「今すぐ準備をしろ!怖気付いたやつは置いてきていい!俺に付いてこれるやつだけついてこい!」
グスタフは書庫をあとにする。
誰もいなくなった書庫は、静寂に包まれていた。
読んでいただきありがとうございました!ホント次は頑張ります!次から桜華忠臣編に入ります!次も呼んでもらえると嬉しいです!