SAO〜赤目の罪人〜   作:鎌鼬

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現実・少女のとある1日

 

 

「んん……」

 

 

窓から射し込む朝日で目を覚ました。はっきりしない意識で時計を確認すれば、セットしておいた時間よりも五分は早い。起きるか起きないかを目覚め切っていない頭で考え、起きない方を選んだ。昨日は友人に誘われてガンゲイル・オンラインを遅くまでしていたのだ。正直に言って寝不足で、学校があるが遅刻してもいいやと考えてしまっている。

 

 

「おやすみなさい……」

 

 

一人暮らしなので誰も聞いていないが寝ることの決意を表すために口にして、布団で頭を覆う。そうする事で朝日は遮断されて、全身が良い具合に温もってくる。至福の瞬間だ。そしてそのまま眠りに就こうとしてーーー

 

 

『ーーー貴女に恋をした!!マルグリットォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!』

 

「ウゼェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

 

セットしておいた目覚まし時計のウザさに思わず叫びながらはね起きる。そして高笑いを続ける目覚まし時計を掴んで投げ捨てようとして、敷金の事を考えてベッドに叩きつける事にする。

 

 

最悪だ。折角の至福の瞬間が台無しにされてしまった。確かに目覚まし時計の役割としてはあの時計は優秀なのだろうが、それを上回るウザさが全てを台無しにしている。

 

 

『女神の残り香を嗅ぐだけで私の脳髄はぁ、あぁぁぁぁぁ……ッ!!』

 

「ウザ過ぎる……ッ!!」

 

 

友人から誕生日プレゼントとしてもらったこの時計だが、捨てようか真剣に悩んでしまう。それでも悩むだけで済ませるのはこの時計がとてつもなく高価な品物だからだ。オークションで落としたと言っていだが何でも数万円はかかったと言っていた。その金額をポンと出す感性にドン引きし、それだけ高価ならさぞかし効き目があるのだろうと期待していたのだが……現実はこれだ。

 

 

10分ほど高笑いを続け、目覚まし時計はようやく静かになった。目覚めはあの時計のせいで最悪だが、幸運にも眠気は欠片も存在しない。少なくとも目覚まし時計としては有能だ。ウザ過ぎるが。

 

 

「はぁ……ご飯作ろ」

 

 

目覚まし時計のウザさに不快感を覚え、寝癖の付いた髪を撫でながら、私は朝食を作るために冷蔵庫に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を作るついでに弁当を作り、食事を取って身支度を済ませればいつも通りの登校時間になる。ここから学校までそう離れているわけではないが余裕を持って登校したいので朝礼の始まる20分前には着く様な時間に家を出る。

 

 

「行ってきます」

 

 

返事は無いと分かっているがそれまでに染み付いた習慣からそう言ってしまう。静かな部屋に少しだけ物寂しさを感じて外に出て、鍵をかける。すると隣の扉が開き、そこから男性が片手にゴミ袋を、片手に杖を持って出て来た。

 

 

「あ、おはようございます。()()()()

 

「ん……あぁ、おはよう」

 

 

覇気の無い声で挨拶を返してくれたのは()()()()さん。白髪に赤目で、虚弱体質故に痩躯で枯れ木を思わせる隣人だ。いつも生気のない顔をしているが、今日は疲れている様に見えた。

 

 

「顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」

 

「寝不足な、だけだ。夢見が、悪くてな」

 

 

虚弱体質のせいで休みがちになり、それ故に対人経験が少ないために吃った様な口調だが昌一さんはちゃんと理由を話してくれた。よく見れば目元には隈が見えている。

 

 

「しっかりしてくださいよ?私、もう倒れている現場に出くわすなんて嫌ですよ?」

 

「む、すまない」

 

 

過去に昌一さんは倒れて、たまたま通りかかった私が発見したという前科がある。あの時は本当に驚いた。何せ帰って来たら部屋の前で昌一さんが白眼をむいて倒れていたのだから。救急車を呼ぼうとしたが、彼が貧血だと言って休めば治ると言っていたので結局呼ばなかったが。

 

 

「ちゃんと休んでくださいね?それじゃあ行ってきます」

 

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 

昌一さんに出掛けの挨拶をすると、昌一さんは柔らかく微笑みながら返事をしてくれた。

 

 

それを見て、目覚めの時の不快感は欠片も残さずに消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昌一さんと別れて真っ直ぐに学校に向かう。通学途中には私と同じ制服を来た学生の姿がちらほら見える。部活の朝練に行くにしても遅い時間帯なのでJRで通って来た生徒達だろう。

 

 

「ーーーシッノちゃんおっはよぉぉぉぉッ!!」

 

 

教室に行ってどんなジャンルの本を読もうかと考えていたら背後から突然朝に似つかわしくないハイテンションな挨拶と共にタックルされて、胸を鷲掴みにされる。声と行動からこんなことを仕出かす友人は1人しかいないと確信し、近くにあった壁に背中から全力でぶつかりに行った。

 

 

「グェッ」

 

 

潰れたカエルの様な声を上げながら胸を鷲掴みにしていた手が解かれる。そうして後ろを振り返れば、そこには地面に転げ回って悶絶している黒髪の少女の姿があった。

 

 

「おはよう、志摩さん」

 

「お、おはよぉ……う〜む、人のことをプレスしておいてその塩反応。やはりクールビューティ」

 

 

生まれたばかりの子鹿の様に足を震わせ、口元を拭いながら立ち上がった彼女は志摩累(しまかさね)。私よりも頭半分は低い慎重に愛らしい顔付きの紛う事なき美少女だ。さっきの行動から分かる様に頭の方がかなり残念なところがあるが小動物の様な雰囲気を漂わせているのでマスコットとして認知されていると全く周りとの交友が無い私の耳にも届いている。密かにファンクラブも出来ているらしい。

 

 

あと巨乳だ。低身長なのに巨乳だ。もげればいいのに。

 

 

そして彼氏持ちだ。それに彼氏の方も頭が残念だ。

 

 

「ーーーおっはよぉアサダサァン!!それにマイスゥィートエンジェルルイルイ!!」

 

「ウォォォォォォォ!!恭二くぅぅぅぅうん!!」

 

 

噂をすればなんとやら。茶髪で痩せ気味の小柄な少年、志摩さんの彼氏である新川恭二(にいかわきょうじ)が累さんと同じ様なハイテンションで挨拶をして来て、志摩さんにタックルされてマウントを取られていた。マウントを取られる瞬間に頭を地面に打ち据えたのが見えた。あれは痛そうだ。

 

 

なんというかこのカップルは頭が残念な上に何かと全力でやるので着いていけない。彼らとはこの学校に入学してからの付き合いで、私の性格と彼らの性格は正反対な筈なのにどうしてここまで長続きしているのか不思議に思う事がある。まぁこの空気は嫌いでは無く、彼らのことも気に入っているので悪くは無いと思っているが。

 

 

「ぐぉぉぉぉ……ル、ルイルイ……ちょっと離れて。しばらく転げ回りたい」

 

「うぅ……離れたく無い……でも恭二君の頼みなら聞き届けたい…ルなんて二面背反なんだ……ッ!!」

 

「何言ってるのよこのバカップル。それよりも他の人の邪魔になるから道の端にでも寄ってやりなさい」

 

「「はぁい」」

 

 

道のど真ん中でコントを始めようとする2人に注意するとやる気の無い返事を返して道の端に移動し、そこでまたコントを始める。本気でこの2人は何がしたいのか分からなくなって来た。きっと何も考えずにその場のノリで生きているに違いない。

 

 

こんなのが弟だったら昌一さんも苦労するだろうなぁと考えて、もしかして新川君が原因で昌一さんは虚弱体質になってしまったのでは無いかという恐ろしい予想を立ててしまった。違う筈だ、昌一さんは虚弱体質は生まれ付きだって言ってたし……違うと信じたい。

 

 

「ねぇねぇルイルイ、朝田さんが僕の事を出荷直前の養豚場の豚を見る様な目で見てくるんだけどどうしてだと思う?」

 

「それは恭二君がそれだけの価値しか無いと見られてるからじゃないのかな?」

 

「そんなぁ」

 

 

……なんか付き合うのがバカバカしくなってくるが、この空気は嫌いじゃない。志摩さんも新川君も、()()()()()()()()()()のに以前と変わらない態度で接してくれる、大切な友人なのだ、

 

 

例え頭のネジが外れている人間だとしても、大切な友人なのだ……友人、なのだ。

 

 

「そういえば朝田さん、兄さんの様子はどうだった?」

 

「寝不足みたいだったわよ。なんでも夢見が悪かったからだって」

 

「そっか……」

 

 

昌一さんは親元を離れて一人暮らしをしている。時折、実家には電話をしているらしいがそれでも顔を合わせる機会は減ってしまったので虚弱体質でどこかで倒れているかもしれない昌一さんの事を心配しているのだろう。

 

 

「ま、GGOで話してみるか」

 

「そうと決まったら早く学校に行こうよ!!今日こそ教頭のカツラを剥ぎ取るんだよ!!」

 

「おっとそうだった!!待ってろよ、教頭ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

全力ダッシュで学校に向かっていく2人を見て、私は心の中でハゲを隠そうとバレバレのカツラをしている教頭先生に合掌をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見事に教頭のカツラを剥ぎ取り、朝礼から終礼まで教頭から説教されるという新しい伝説を作り上げた2人を無視して下校する。その時に丁度冷蔵庫の中身が無くなりそうだった事を思い出して、商店街に寄って買い物をする事に決めた。今日の夜には新川君と志摩さんとガンゲイル・オンラインをプレイする事を約束しているので、夕食は簡単に済ませられる物にしようと食材を籠の中に放り込む。

 

 

「……む、朝田か」

 

「あ、昌一さん」

 

 

100g98円の豚肉のパックを籠に入れたところで片手に籠を持って、片手に杖を突いている昌一さんに出会った。顔色は朝見た時よりも良くなっているのであの後多少は寝たのだろう。それでも生気が無いのには変わりないが。

 

 

「……昌一さん、それって」

 

「俺の、飯だ」

 

 

ふと気になって籠の中を覗いて見たらそこには少量の食材と、ゼリー飲料が入っていた。どう考えてもまともな食生活を送っている様に見えない……が、昌一さんの事情を考えれば納得出来る。

 

 

昌一さんは刃物に対して強烈なトラウマを持っている。症状は日によってバラバラだが、酷い時にはおままごとで使う様なオモチャの包丁を見ただけでも発作を起こす程だ。

 

 

……私も似た様なトラウマを持っているので理解は出来る。しかし、昌一さんの症状はあまりにも酷過ぎる。刃物という日常生活で使う物に対して過剰と言えるレベルで心が拒絶しているのが分かった。あんな発作は刃物で誰かに殺されそうになったか、()()()()()()()()()()しないと起こさないだろう。

 

 

一度気になって新川君に聞いてみたが、予想はしているが分からないと言っていた。もし知りたいのなら昌一さんに直接聞いてくれと、出来る事なら聞かないで欲しいとも言われた。新川君がいうにはあれでもマシになった方らしい。そんな事を言われると聞こうだなんて考えられなかった。

 

 

「はぁ……そんな食生活してたら身体壊しますよ?ただでさえひ弱なんだから食事くらいはきちんと取らないと」

 

「済まん」

 

「ちなみに、ゼリー以外の食事の使い方は?」

 

「スープにする、つもり、だった」

 

「スープ、スープかぁ……」

 

 

まともに聞こえるが昌一さんの事だ、きっとスープだけ一杯飲んでそれで終わらせるつもりなのだろう。そんな食生活をしていたら、また玄関で倒れている昌一さんを目撃する事になるに違いない。

 

 

「……良かったらうちで食べますか?一人分増えても手間じゃないですし」

 

「……いいの、か?」

 

「えぇ。その代わりに今日新川君と志摩さんと一緒にダンジョンに行く予定何ですけど着いてきてくれませんか?」

 

「それくらい、なら、問題、無い」

 

 

昌一さんから了解を貰えて内心でガッツポーズする。これでダンジョンクリア出来る確率が上がった。昌一さんと一緒にゲームが出来るからでは無い。そこのところ間違えない様に。

 

 

丁度その時、スマホが震えて着信があったのを報せてきた。液晶画面を見ればLINEで新川君と志摩さんから同時に『おめでとう』というメッセージが届けられている。辺りを見渡しても2人の姿は見えない。超能力か何かをあのバカップルは持っているのだろうか。

 

 

「どうか、したか?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 

得体の知れない恐怖を感じながら、取り敢えず会計を済ませて昌一さんと帰る事にした。その時に見栄を張ってなのか、昌一が私の買った物を持って帰ろうとして、アパートの前で過呼吸になりかけていたのが可笑しくてつい笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーリンク・スタート」

 

 

昌一さんとの食事を終えて食休みを済ませたところで新川君たちと約束した時間になった。時計を見て時間が来ている事に気がつき、服を脱ぎ捨てて下着姿になり、ベッドに横になって〝アミュスフィア〟を装着する。

 

 

コマンドを唱えると同時に意識が現実から仮想現実に運ばれ、リアルの朝田詩乃からバーチャルのシノンの身体に変わる。ゲーム内の時間が現実と同期しているので、〝グロッケン〟は街灯で照らされているものの薄暗くて視界が悪かった。

 

 

「お、来た来た」

 

「シッノのぉぉぉぉん!!」

 

 

〝グロッケン〟に入ってくるのと同時に出迎えてくれたのは都市迷彩(アーバンカモ)の上下に身を固めた長身痩躯の男性アバターと、彼と同じ格好をしたロリ巨乳の女性アバター。しかもロリ巨乳の方は私にダイブして来ている。

 

 

なので右ストレートでぶっ飛ばす。街中だからダメージは発生しないし、そもそもガンゲイル・オンラインはPK推奨だから問題無い。グハァッと女性が出す声では無い声を出しながら彼女は吹き飛ばされ、男性に受け止められた。

 

 

「うわ〜ん!!シュピーゲルゥ!!シノのんにフラれたよぉ〜!!」

 

「ハハッ、ドンマイフィーユ」

 

 

男性の方はシュピーゲル、女性の方はフィーユ……このやり取りで分かっただろうが彼らは新川君と志摩さんだ。見た目が変わったくらいで中身が変わっていないのでここだけリアルの様に思えてしまう。

 

 

それにしても何でフィーユはここでもロリ巨乳なのか。その脂肪を少しは分けて欲しい。

 

 

「……待たせた、か?」

 

 

どうやったらフィーユから脂肪を剥ぎ取れるか考えているとローブを着ているがフードを外して顔を曝け出しているステルベンーーー昌一さんがやって来た。〝真紅の死神(クリムゾン・デス)〟とか呼ばれて有名なはずなのに顔バレしていないおかげで周りのプレイヤーはステルベンの顔を見ても無反応だ。

 

 

「いいえ、私も今来たところよ」

 

「んじゃ、ステルベンも来たしさっさと行きましょうか」

 

「レアアイテムが出るまでダンジョンアタックするのだぁ……ッ!!」

 

 

こうして私たちは各々の武器を持ってフィールドにあるダンジョンに向かうのだった。

 

 

 





シノノン視点で送る1日。おら、恭二きゅんとその彼女をキチ枠にしてやったぞ。喜べよ。

恭二きゅんに予め彼女を与える事でアサダサァン化を防ぐ処置。ロリ巨乳の彼女を作ってしかもラブラブとかいうどこかの野武士が発狂しかねない優遇っぷり。

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