SAO〜赤目の罪人〜   作:鎌鼬

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冥府の女王

 

 

ステルベンを加えてダンジョンに潜った私たちの目的はここの最下層のボスがドロップする、ステルベンが使っているハデスIIIの元になった〝PMG・ウルティマラティオ・ヘカートII〟。ガンゲイル・オンライン内でも九丁しか見つかっていないアンチマテリアルライフルを求めているのだ。

 

 

とはいえど欲しがっているのは狙撃兵(スナイパー)である私だけで、シュピーゲルとフィーユはその付き添いだ。ステルベンとお揃いにしたいのかと聞かれて、そんなつもりは無いと否定したのだがツンデレ認定されてしまい、イラっとして一週間2人をPKした事は記憶に新しい。ちなみにランダムドロップしたアイテムはメイン武器以外全部売り払った。

 

 

「ーーーイィヤッフゥゥゥゥゥゥイィ!!」

 

 

ドップラー効果で声を響かせながらダンジョンを縦横無尽に走り回り、狼男と機械を融合させたエネミーをアサルトライフルの〝FN・FAL〟で掻き乱しているのはシュピーゲル。AGI万能説を提唱していたプレイヤーの言葉を信じてその通りにしたシュピーゲルは速度だけなら私たちの中で最速。その分DEFは無いのだが当たらなければ意味が無いを実現するかの様に弾道予測線(バレットライン)を掻い潜ってエネミーが放つ弾丸を避ける。

 

 

「ーーーハッハッハ!!逃げるエネミーはただのエネミーだ!!逃げずに立ち向かってくるエネミーはよく訓練されたエネミーだぁ……!!」

 

 

反対にフィーユは全身をガチガチに防具で固めて鈍足だが、エネミーの弾丸を物ともせずに悠々と歩みを進めてショットガンの〝ウィンチェスターM1897〟で蹂躙している。シュピーゲルとは反対のDEFとVITの二極振りな上に固められた防具のお陰でちょっとやそっとの攻撃ではダメージを受けない。なので避けも隠れもせずに正面からエネミーに突っ込むという無茶が出来る。

 

 

分かっていたつもりだが遠くから離れて見ると2人の連携の凄さを改めて思い知らされる。アイコンタクト一つしている様子も見えないのに互いが互いの位置と行動を完全に把握していてフィーユの射線上にシュピーゲルがいるのに通り過ぎるのを分かっているかのように撃つ。実際に〝ウィンチェスターM1897〟の広範囲にばら撒かれる散弾はシュピーゲルならカスリもしない。

 

 

「……私たち要らないんじゃないかしら?」

 

「そんな事、言って、やるな」

 

 

高台にあった狙撃ポイントから2人にこの場を任せれば良いんじゃないかと思っていたが〝デザートイーグル〟の()()()()で2人をサポートしていたステルベンに叱咤される。ステルベンはガンゲイル・オンライン内でも珍しい万能手(オールマイティ)だ。基本的には狙撃兵(スナイパー)だが必要になれば突撃兵(アサルト)でも衛生兵(メディック)でも、変わり種になれば工作兵じみたこともする。

 

 

ゲームの強さというのはプレイ時間に比例し、それはガンゲイル・オンラインでも変わる事はない。リアルで虚弱体質であるが故に時間を余らせているステルベンは普通だったら一つに絞るスタイルを万能に仕上げた。そのお陰で狙撃兵(スナイパー)なら超一流、それ以外でもほぼ一流という熟練度を誇っている。

 

 

フィーユの背後に回り込もうとするエネミーを両手に持った〝デザートイーグル〟の銃口を向けて連射。自動式拳銃の中では世界最高の威力を持つと言われている50AE弾が発射され、的確にエネミーの頭部を弾き飛ばす。ここから2人のいる距離は凡そ50メートルと言ったところか。私だってその気になればヘッドショットは出来るが、乱戦中に、動き回るエネミーに、二丁拳銃で当たるとなると無理だ。

 

 

反動を完全に片手で殺し、淡々と撃ち続けるステルベンの姿に軽い畏怖を覚えながらボルトアクションライフルの〝レミントンM70〟に取り付けたスコープを覗き込み奥にいたエネミーの頭部を狙撃する。シュピーゲルとフィーユがヘイトを稼ぎ、仮に寄ってきたとしてもステルベンが片付けてくれるので慌てる事なく撃つことが出来る。寧ろこの状況で外す方が難しいだろう。

 

 

拡縮を繰り返す着弾予測円(バレットサークル)。普通なら緊張による心拍数の上昇で激しくなるそれはゆっくりとしたリズムで拡縮を繰り返している。シュピーゲルが、フィーユが、そしてステルベンがいる。緊張や恐怖、不安なんて物は微塵も感じない。

 

 

()()()()()()()()()()ーーー

 

 

「シーーノンーーーシノン!!」

 

「ッ!?……何かしら?」

 

「終わったぞ」

 

 

ステルベンに揺さぶられながら意識を現実に戻せば、眼下にはポリゴンになって消滅するエネミーのど真ん中で拳を突き上げて勝鬨をあげているシュピーゲルとフィーユの姿があった。

 

 

「大丈夫、か?」

 

「……大丈夫よ。ごめんなさい、心配かけたわ」

 

「大丈夫、なら、それで、良い」

 

 

二、三度深呼吸をして、頭の中を落ち着かせる。そして2人の奇行にキレたのか、グレネードを2人に向かって投擲しているステルベンに続いて高台から降りることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いよ兄さん、なんで盆踊りしてただけでグレネードなのさ」

 

「死ぬかと思った」

 

「なんで直撃したはずなのにその程度で済んでるのよ」

 

 

グレネードの爆発を直撃したはずなのに髪の毛がアフロになっただけで済ませているシュピーゲルとフィーユの姿に頭を抱えたくなる。フィーユはともかくシュピーゲルのDEFなら死んでもおかしくないのにHPは全然減っていないのだ。

 

 

「エイプリール、イベントの、ギャググレネード、だ。スキンを、アフロに、するだけ。ダメージは、無い」

 

「よく持ってたわね。私は速攻で売ったわよ」

 

「記念に、1ダース、取ってた」

 

 

〝デザートイーグル〟に弾を込めながらステルベンが種明かしをしてくれる。良かった、2人のぶっ飛び具合がシステムを汚染したとかそういうのじゃなくて。

 

 

モンスターハウスになっていたエリアで小休憩を取り、壁役(タンク)であるフィーユを先頭にしてダンジョンの探索を再開する。

 

 

過去にこのダンジョンを攻略した事のあるステルベンが先導すれば最短距離で最奥まで着くだろうがそれではつまらない。彼もするつもりは無いらしくあくまでサポートに徹する様だった。

 

 

このダンジョンは遺跡型と聞いているがまだ生きているのか何処かから機械の作動音が聞こえてくる。光源は非常用の物が付いていて確保されているので心配は無い。出現するエネミーはさっきの様な機械と生物の合わさった機械融合生物(キメラタイプ)や自動戦闘機械、遺伝子操作された生物など多種多様だった。それでも私たちの装備で大丈夫出来るレベルなのだが。

 

 

「ステルベン、ここから先で注意する事はあるかしら?」

 

「トラップ、だな。前に、来た時、一度だけ、掛かって、死に戻り、した」

 

「即死系のトラップか……面倒だなぁ」

 

「シュピーゲル、私が死んでも先に進んでね?約束だよ」

 

「フィーユ……!!」

 

「シュピーゲル……!!」

 

「グレネード持ってない?ギャグじゃなくて本物のやつ」

 

「無駄遣いに、なる」

 

「じゃあハデスIII貸しなさいよ」

 

「弾の、無駄だ」

 

 

所構わずにイチャつきだすこいつらを見てると無性に爆発か爆散させたくなる。残念ながら私には持ち合わせが無く、ステルベンがいつも背負っている外部ストレージなら希望に沿う物がありそうだが断られてしまった。

 

 

無視するのが一番かと考えながら、足を止めて抱きついているフィーユと鯖折りされ掛かって死にかけているシュピーゲルを追い越して先に進む。

 

 

すると、突然浮遊感に襲われる。

 

 

「……え?」

 

「ッ!?シノン!!」

 

 

足場が無くなった事で始まる自由落下。シュート・トラップ……俗に言う落とし穴に掛かってしまった。穴の縁を掴もうと手を伸ばすが届かない。伸ばした手は虚しく空を掴む。

 

 

そして私の視界に飛び込んで来たのは、私の後を追いかける様にシュート・トラップに飛び込むステルベンの姿だった。

 

 

 






ヘカート入手編開始。つまり、現在は原作開始の3ヶ月前。

にしてもステルベンがあまりキチらない分シュピーゲルとフィーユをキチらせるのご楽しくて仕方ないな。動かしやすくてとても良い。

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