コラプスィング・ワールド   作:初霧零音Mk-Ⅱ

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どうも、初霧零音Mk-Ⅱです。
nobu2283さん、こんなカオスな小説をお気に入り登録していただき、ありがとうございます。
UAが予想以上に増えるの早いですね…
さてさて、4話目行きましょう。


#4 《ALO》バージョン・アスナと《GGO》&《SAO》バージョン・シノン

 

 数分間、僕はただデーヴァをじっと見ていた。

 10メートル以上ありそうな巨体に、やけに大きい翼。速さがあろうと、シャナの身軽さに勝つ可能性はゼロに近いだろう。

「お前の巨体で、私は捕まえられない。……キリトだって。」

 シャナの如く、相手の癪に触ることを、人の言葉を話す《ホラー》に言い放った。

 思惑通り、デーヴァは頭にきたのか、

『ふん、並みの人間が……!!』

と気持ち悪い声で言ってから、キリトに攻撃を仕掛けた。

 けれど、あのゴブリンじみた怪物と同じく、振りかぶりが大きい。

 炎の翼を出す。

「!!」

 キリトがとっさに、剣で防御態勢を取る。でも、高速で移動した僕が、一足先にキリトを狙っていた右手を斬った。

「ふう。………お前、隙が大きすぎる。」

『GRR…………ッ!!』

 金属硬度は『贄殿遮那』の方が上で良かった。こうしてダメージを与えたんだから。

「痛くてもっと隙見せて、どうするの?『断罪』っ!!」

 放った炎が刃となって、奴の左肩を深く切り裂いた。

『GRR……ッ!! 炎……如きで……。』

 対応が追いついていないデーヴァ。さぞかし怒りに満ちているだろう。

 とはいえ、ここはスイッチどきかな。

「キリト。」

「よっし!」

 隙だらけのーヴァに、キリトが駆け寄っていく。そして、ジャンプ。

「スターバースト……ストリーームッ!!!」

『GRRR……ッ!!』

 お疲れのはずのキリトも、しっかりスターバースト・ストリームを決めた。

 それにわずかに胸の中にある、奴の4基の並列電脳(マトリクス)が見え出した。

 デーヴァに急接近し、胸部あたりで高度を維持する。

「アラストール、装甲溶かすから。」

「うむ。」

 アラストールの援護を受けて、僕は右手に炎の力を込め、デーヴァの胸の残留装甲を溶かし出す。

 動けない僕のカバーリングとして、キリトが動き出した。

 デーヴァの視界の中でちょこまか移動して、奴の足を中心に二刀流で軽く斬り、じんわり痛めつけている。

 装甲があと3、4割となったところで、キリトはさらに手数を増やしだした。

 《ウォーバル・ストライク》や《ホリゾンタル・スクエア》も、3回に1度使っている。

 数層の装甲を溶かすのも終盤の1割、となったとき、

「でやっ!!」

『GRRッ!!』

キリトがデーヴァの左足を斬り捨てた。

 それをありがたく感じつつ、さらに力を込める。

 そして、2分もしない間に溶かし切った。

「よし……これで弱点の防御は消えた。」

 後ろに下がって、静かに着地する。それから、『贄殿遮那』を『夜笠』にしまう。

「フォーム・チェンジ、ノエル。」

 変身したと同時に、ホルダーからチェーン・リボルバーをつかみ取る。

 僕のフォーム・チェンジと、穴の開いたデーヴァの胸部装甲を見て、キリトは、はあーっとため息。

「自分を何だと自負しているのか、そんなことは知らないけど、もう一度死んでもらう!!」

 ここでやっと、キリトの攻撃で誤魔化されていた、自己の消滅危機に感づいたデーヴァは、慌てだす。

『まだだ、まだ、私は死なん!!』

 最後の足掻きとして、デーヴァは重力球の準備をしようとする。呆れた機械人間だよ。

 僕は深呼吸し、宣言する。同時にノエルの必殺銃攻撃を開始した。

「〝ホラーの姫君〟ククリは……私たちが『保護』します!! ………フェンリル・レディス・スタベーション………オーバードライブッ!!」

『GRR……ッ!! グワァァァァァッ!!』

 アサルトライフルでマシンガンとロケット弾の間隙を縫い、完全にデーヴァの並列電脳を破壊した。

 そして、奴は崩壊し、『時間封鎖』も解除された。

「うぐ………疲れた……。」

 制服、かつアスナの姿に戻ったら、アラストールの言う通り、疲れでふらついた。

「こんなことになる前の倍以上の力を2日連続で使ったんだ……。無理はないけど……まずいな。」

 キリトは右肩を回しながら、それでも気を緩めていない。言っていることは正しいし。

「……とにかく、家まで粘ってみるよ……。」

 制カバンを背負って、僕は最大限に見せかけの姿勢を作り、歩き出した。

 

 だが、帰宅後。3回分の戦闘のツケはすぐに返ってきた。

 着替える気にならず、カバンを床に置いてすぐに、僕は勉強机に突っ伏した。

「やっぱり、ダメ……。体が重い……。」

 ガンッ、と額をぶつけたことを、心の隅で本物のアスナに謝りたいが、運悪く、睡魔に襲われた。

 意識がまどろみだした時、後ろでキリトは何かを見つけたらしい。

「……今度はここなのか……。」

 キリトのセリフから、『光球』のことだ、と思って僕は、無理に体を持ち上げた。

 そして、振り返って、ライトを当てる。

「うわ………迷い込んでくれたね~……。」

「シ、シノン!!」

 それも《GGO》バージョンのシノン(朝田詩乃)だ。迷わずキャプチャーした。

 同時進行で、僕の意志に逆らい、睡魔が意識を埋め尽くしてきて、抵抗できなくなってくる。

「あはは………もう……これで7人目……。」

 空虚な笑いを浮かべて、しかも制服のままで、今日もまた僕は居眠りをした。

 起きた後は、何事も無く塾に行き、帰ってきてお風呂に入り、ストレスの溜まる1日を終えた。

 

 十分に睡眠を取って、翌日。

 何故か4時半に目覚めた僕は、上半身を垂直に起こした状態でぼーっとしていた。

 キリトはそばで寝袋に入っていて、まだ寝ている。

 彼の寝顔が穏やかで、つい微笑んで眺めていると、またちょっとした事件が発生した。

 

 

 ――――――――――――ガンッ!!

 

 

「フギャッ!!」

 真上からシノンの『へカートⅡ』と『MP7』が落ちてきて、頭に命中。痛みで悲鳴を上げてしまった。

 慌てて両手で口を塞ぐ。

(ヤバイ!! すごくうるさかったよ、今の!!!)

 焦りで心拍数が急に上昇したけど、誰も起きた気配がしないことに気付いて、ほっとした。

 キリトも、無反応。

「……よかった……アラストールとティアマトーしか聞いてなかったね………。」

 いつもの元気が復活している。助かった。

「昨日の疲労は大丈夫なのか?」

「不安。」

 僕が空元気を見せていると思ったか、アラストールとティアマトーが心配してくれた。

「昨日はごめん。一応、しっかり寝たから、平気だよ。」

 2人の気遣いに感謝の言葉を述べ、僕はキリトを起こしにかかった。

 

 キリトに手伝ってもらって、食器片付けまで終わった。

「さてと……」

 ふと時計を気にする。

「あ、5時18分くらい………。よし。」

 あることを確信して、冷凍庫から食パンを3枚取り出し、トースターに入れた。

「どうした?」

 キリトが、何かあったのか、と不思議そうな顔をしている。

「おそらく、キリト、貴様のための朝食であろう。違うか?」

 アラストールが僕の意図と、完全に一致することをキリトに教えつつ、同時に僕に確認を取る。

 調理台にもたれかかれもって、僕は答える。

「合ってるよ。この時間だと、3枚減らして1枚半ずつ食べても、それなりに何とかなる。妹もまだ起きないし。」

 僕の配慮がうれしいのか、キリトは笑った。

「助かるよ。それに、こういう時間はあった方がいいしな。」

 

 互いに高校生だからか、パンが焼けてから2、3分で食べ終わった。

「ん? そういえば……」

 キリトが不意にぼやいた。

「光汰、お前、『アスナ』と『シャナ』、それに『ノエル』は一番慣れてるだろ?」

 即座に僕はキリトが言いたいことを理解し、ため息をつきたくなった。

「はいはい。『シノン』に変身しろ、と。わかったよ。………フォーム・チェンジ、シノン。」

 シノンの名を口にすると、目線が少し下がった。試しに前髪の両サイドを触ってみた。

 ヘアピンのようなものがちゃんと付いていた。

「よくわかったな。」

 キリトはそうにやけつつ言って、何か企んでいる。冗談交じりで変態じみたこと言うことがあるから。

 あるいは、素直に感心しているだけか。よく、わからない。

 いろいろと考えてみたら、キリトの思考についてどうでもよくなって、はあ、と僕はため息をついた。

「……シノン以外はどれも1回以上変身してるから、絶対変身してないのだろう、って思っただけだって。」

 僕、他人の言うことの隠された文脈は、時たま解るんだよね。

 キリト、言わないから学習しておいてよ。

 

 今日は《GGO》のシノン姿のまま、いつもの時間で家を出た。

 詩乃は、僕より学年が1つ下だけど、表向きは冷静沈着、内面は結構モロイところがある。『第3回バレットオブバレッツ全国大会』で《死銃》こと《赤眼のザザ》に襲撃をくらった後、砂漠地帯の洞窟で、キリトに泣いて当り散らしたシーンは、挿絵があった分、印象深い。

 

 

『なら……あんたが一生私を守ってよ!!』

 

 

 このセリフが僕を、《SAO》で2番目に(つまりアスナの次に)シノンに引き込ませた、直接のきっかけだ。

 手で髪とかを触っていたら、原作で読んだことを思い出していた。

 そこで、またさらに脳裏にあることが浮かんだ。

「そういえば、キリト。」

「何?」

 ほとんど事実確認に近いことを、僕はキリトにぶつけた。

「今の君の姿は《SAO》時代のもの。僕は同じく《SAO》時代のアスナ、そして《GGO》内のシノンを持ってる。でも、それだけだよね?」

「!!」

 キリトも思い出したようだ。

「確かに、俺は《ALO》のスプリガン、《GGO》の2つとも失ったまんまだよ。それに《ALO》のアスナ、プラス《SAO》と《ALO》のシノンもまだ、だったな。」

 そう言うと、キリトは右手で握り拳をつくって、じっと見つめだした。

「そちらの『収集』も早くせばならぬな。」

「緊急事態。」

 アラストールとティアマトーが、僕とキリトに続けてそう言った、その時。

「「!!」」

 不吉な気配をキリトと同時に感じ取った。

「言ってる矢先に、嫌な感じだね、キリト。」

「………俺たちがたった今、『やるべきだ』って話してたことで、奴らに機先を制されたみたいだな。」

「よし。真っ向から相手してやりますか。」

 僕はカバンを提げてない左肩を回して、いつでもいけるように準備する。

「動揺が全くないな、佐々倉光汰。」

 首からかけている『コキュートス』から、アラストールがどっしりとした口調で言った。

「全ては、おとといのあの大けがから、だよ。」

 1度、深呼吸する。

「あの戦いが、曖昧な気持ちを消せた、何よりのきっかけだから。」

 地味にさらっと、クールなシノン、みたいな感じのセリフを言ってしまった。

 《GGO》屈指の凄腕スナイパー・シノンの力が、アスナやシャナのように使えるか、早く実証したい。

「感心。」

 ティアマトーが二字熟語で、お世辞を僕に言った。

 それから、少しの間黙っていたキリトが、再び口を開いた。

「……どんどん近くなってきてるな。」

 敵がね、ということで、僕もその点に神経を集中させる。

「……『アスナ』になっちゃってから、もう何だかね、『この人は一般人』とか『こいつは敵だ』っていうのが、僕もちょっとずつわかるようになってるしね。………あからさまにバカって言いたくなるよ、今回の敵も。」

「そうだな。こんなにはっきりわかる邪悪な敵意………知能レベルの低い怪物だろう。」

 キリトとの会話が、ほとんど滑らかに進むようになった。『非日常』が、『日常』に変わりつつある、何よりの証拠だと思う。

 互いに神妙な気持ちになって、話すこともないため、見合ってうなづくだけうなづいて、黙って歩いた。

 そうして、数分後。僕とキリトの予想が的中した。

 いつもの通学路上に、中身が怪物だとすぐわかる人物が3人、どん、と突っ立っていた。

 1人は女まがいの髪の長い男、残りの2人は明らかに女。

 男は右手に光剣、左手に銃を装備している。水色の髪の女と黒髪の女は剣が一振りずつ。

 つまり、僕たちを待ち構えていたのは、《GGO》バージョンの『キリト』、《ALO》バージョンの水妖精族(ウンディーネ)・『アスナ』、そしてゲーム『ホロウ・フラグメント』とかにしか出てこない、《SAO》バージョンの『シノン』だ。

 そこまで確認できたところで、本日1回目の『時間封鎖』が来た。

 僕はアスナの姿に戻って、『閃光』の戦闘服に服装を変え、すぐに右手にレイピアを持つ。

「中身は何であれ、油断するではないぞ。」

 親切にも、アラストールが警告してくれた。気の引き締めになる。

「わかった、アラストール。……光汰、ちょっといいか?」

「えっと……何?キリト君。」

 キリトが何か、僕に言いたいことがあるらしい。

「……2対1だけど、任せていいか?アスナとシノンは、今はお前の一部だからさ。」

 作戦なのかわからないけど、キリトの頼みを拒む必要なんて、あるわけない。

「なるほど。キリト君は《GGO》バージョンの自分に集中してたいのね。了解。私は、最後に今持ってるフォームのシノンに、つなげていけるようにするわ。キリト君、気を付けてね。」

「ああ。そっちもな。」

 キリトはその言葉を皮ぎりに、《GGO》上の自分にバトルを仕掛けていった。

 僕はゆっくりと女2人の前に立つ。

 さっきの話を聞いていたのか、水妖精族の方が先に、

「あら、私たちのこの姿を手に入れるために、慣れてもない2対1を?」

と僕を挑発してきた。

 わかりきったことだから、気に留めない。

「英雄にでもなりたいの?」

 ……ショートパンツの短剣使い兼射手の味気ない言いぐさは、ちょっと頭にくる。

 でも、その質問は完全に的外れだ。

「歴史に残らない英雄、ねえ………。いいかもしれないけど……全く関係ないわ。ともかく、私はあなたたちを倒して、そのフォームを手に入れてみせる。」

 討伐宣言を布告して、戦闘開始。

 戦い始めて、嫌なことに相手は同時に、それも違うところを狙ってくる。しかし、僕はしっかり剣の軌道を読んで、かわして反撃、を繰り返した。

 そうこうしているうちに、相手に動きにムラが見え始めた。

「ものの数分で、その無駄な動きはないんじゃない?」

「うっ…。」

 来た。これは水妖精族の方に攻撃をぶつける大チャンスだ。

「おバカさんね。スプラッシュ・スター!!!」

「きゃあっ!!」

 吹っ飛んだバーサクヒーラー。……後ろをおろそかになんかしてないからな。

「せいっ!!」

 コンマ5秒で振り返りざまに、大きくレイピアを一閃。

「そんなっ!!」

 《SAO》上のシノンが、まともに僕の一撃をくらった。

「こっちはあなたたちの悪事もあって、抱えているものが大きいの。わからないかな?」

 やはり、これでは同時に仕留めにくいから、頼りになるあのフォームを使おう。

 ため息を漏らしながら、レイピアを鞘にしまう。

「………フォーム・チェンジ、シャナ!!」

 シャナやヴィルヘルミナに変身すれば、地上オンリーの《SAO》バージョンのシノンと、空中も戦える《ALO》バージョンのアスナと十分すぎるくらいの距離を取って、別々に片付けられる。

 ヘイズ化して、『夜笠』を纏う。それから『贄殿遮那』を取り出し、右手で持って刃先を敵に向けた。

 相手のスタミナ切れが早くきてくれたことで、戦局は僕の方に動いているんだろう。妙に勝つ自信がある。

「お前たちは、私がこの姿になれる時点で、戦略面を考えても、勝つ見込みはほとんどない。」

 さらなる堂々宣言。自分でもちょっと恐ろしい。相手の神経を逆なでし過ぎだ。

 ダメージが少しだけ小さかったのか、《SAO》バージョンのシノンが先に立ち上がった。敵意が丸わかりな視線を、僕にぶつけてくる。

「ふざけないで………。」

 シノンのクールさはあるけど、中身は気味悪い怪物。そう考えると躊躇というものが、どこかに行ってしまう。

 顔を俯けている間に足音を忍ばせて近づき、蹴りを相手の腹に一発入れる。

「うぐっ!!」

 剣士シノンの姿をとる怪物が、数歩後ろによろけた。

「貴様らとこちらは決定的に違うぞ。……取り入れた人間と元の怪物の、2通りの姿しかない、貴様らとはな。」

「空中戦。」

 アラストールとティアマトーが敵に忠告。戦意喪失を狙ったものだ。

 僕も後に言葉を続ける。

「そ。だから、《ALO》のアスナは厄介だけど、お前は地上でしか戦えない。そのお陰で、私は自由な戦い方ができる。お前たちが『使命』を背負った私に、強気でいられるのも時間の問題。」

 そこまで言い切って、僕は完全な1対1に持ち込める機会を設けられる作戦を思いついた。

 顔に少し笑みを浮かべてしまう。

「……フォーム・チェンジ、ヴィルヘルミナ。」

「……やらんとすることはわかった。」

 ヴィルヘルミナに変身して、(アラストールの言葉に無言でうなづき、)包帯を水妖精族の女に対して放ち、きつく巻いて、空中で締め上げた。

「ああっ!!」

 《ALO》は妖精を扱うVRMMOだから、奴に飛ばれては困る。

 そして、懲りずに不意打ちを企む、もう1体の怪物の気配が動いた。初心者の僕に攻撃を見切られてどうするんだ。

「完全に甘いのであります。」

 さらに包帯を出し、鞭の如く強くそいつを打ち飛ばした。

「うあっ!!」

 体をきりきりと舞わせ、シノンの皮をかぶった敵は、背中から建物に激突した。

 もう片方は見ないで、巻きつけた包帯を結んで切り落とした。

「きゃっ!!」

 女の子のように声を出そうが、惑わされないっての。

「フォーム・チェンジ、アスナ。」

 アスナの姿に戻り、同じアスナ姿の敵に近づく。そして、1度立たせる。

 僕は怒りのムード全開の笑顔を作った。

「仲間を近づけさせはしないわ。」

 そして、相手の左の頬をフルスピードの右拳で容赦なく殴り飛ばす。

「あぐっ?!!」

 運動エネルギーに任せて、水妖精族女は20メートル以上は確実に、後方に飛んでいった。

 個別戦への持ち込みに成功したため、ふう、と一息つく。

「これで1対1に持ち込めたわ……。」

 反対方向を見ると、敵の相方が全身の痛み(?)に、思うままに動けないでいる。

 レイピアを鞘から抜き、僕はそいつに向かって走り出した。

「うぐぐ……強い………。」

 僕の耳にかすかにそう届いた。聞き流し、『コア』のある心臓あたりに、攻撃の照準を合わせる。

 怪物がふらり、と立ち上がった。

 

 ――――――今だ。

 

「もらったわ。シューティング・スター!!」

 ザクリ、と相手の体を裂く音が、通りすがりに耳元で響いた。

「ああっ!!」

 悲鳴が上がると同時に、相手の身体は空中に跳ね上がり、僕は加速のついた体を足でブレーキをかける。そして、敵は僕の後ろに落下。

 ここからはキリトに言った通りの流れで行こう。レイピアを鞘にまたしまう。

「……フォーム・チェンジ、シノン。」

 スナイパー・シノンに変身。『へカートⅡ』と『MP7』を召還し、『MP7』は腰のホルスターにしまい込む。

 

(へカートはシノンの相棒………。でも、アイツらのせいで彼女は今、僕の姿の1つ……。だから……へカート、僕に力を貸してくれ!!)

 

 そう心で叫びつつ、左膝を立てる。そしてへカートを構え、照準を立とうとする敵のシノンに合わせる。さっきの僕の攻撃で、『コア』が傷口から見えているから、スコープで定めやすい。

「そこよ。」

 無感情に言い放ち、僕はへカートのトリガーを引いた。

 

 ――――――――――――バァァン!!!

 

 思った以上に反動が来て、僕は後ろに転げた。

 しかし、狙いはズレなかったようで、『コア』が砕け散る音が聞こえた。

 立て直してみると、怪物は崩壊していた。そして、ぼやけた《SAO》バージョンのシノンの体が、僕の体と同化した。

「うっ……何、この感じ……? ……普通の光球『回収』とは全く違う……。」

 それは痛みを伴っていた。同一人物を持っていると、こうなるみたいだ。

「それにしても……《GGO》のシノンは、よくこんな威力の高い銃、扱えてたわね……。」

 シノンのクールな口調で(無意識だからね?)、僕はへカートを撫でながら、独り言を言った。

 自分で驚くのはここまでにして、もう1人の敵に意識を向ける。

「さて、後はあいつだけね。……早くしないと。フォーム・チェンジ、アスナ。」

 立ち上がって、アスナ姿に戻り、レイピアを再び右手に持った。

「早急処置。」

 ティアマトーが僕を促す。……そんなに急かさなくとも。

「わかってるわ、ティアマトー。」

 同じ姿の敵の方へ僕は駆け出した。

「ど、どうにもできない……。」

 そいつは包帯を解こうと、必死にもがいている。……フレイムヘイズ『万条の仕手』の力をバカにしてる。

 これで止めにしたい。そう思ってレイピアの先端を相手の心臓あたりに向ける。

「言ったで………!!」

 最悪なことに、右方向から新手が出現。僕に攻撃を加えようとしている。

 とっさにレイピアでガードするが、水妖精族女と10メートル以上引き離された。

「くっ……急に援軍なんて………それに影妖精族のキリト君じゃないの!!」

 《ALO》のキリトが来ては、バーサクヒーラーへの束縛が意味をなさない。

「……スターバースト・ストリーム!!」

「うがあっ!!」

 バスッ、という切り裂く音が聞こえた。もちろん、ソードスキル名からして、味方のキリトが勝ったのはわかった。

「よくも仲間を散々にやってくれたな。」

「仲間……? あなたたちのどこにそんな連帯感みたいなものがあるのよ。横、気にしないと返り討ちにされるわ、あなた。」

 《GGO》の自分を取り返し、こっちに迫り来るキリトに視線をやる。

「光汰!!」

「キリト君!! スプリガンはお願いするわ!!」

「任せろ!!」

 《SAO》のキリトvs《ALO》のキリト。同じ二刀流同士の戦いが始まった。

 気を取り直して、僕はウンディーネの前に立つ。こうなったからには無愛想なあの人を使おう。

「フォーム・チェンジ、シャナ。」

 レイピアを片付け、シャナに変身。ここからは対空中戦だ。

 敵は悠々と、体についたチリを手で払っている。そして、笑っている。

「ふう。さっきやられた分、返してあげる。」

 余裕綽々な態度に血が頭に上った。

「うるさいうるさいうるさい!!! 空中で……お前にトドメをさす!!」

 シャナの名ゼリフで、相手の発言を帳消しにするように怒鳴り、僕は炎の翼を出した。

 

 空での戦いを開始してから、お互いに決定打を出せないまま、数分間刃の交え合いが続いた。

 相手もさすがに、アスナの情報を取り込んでいるから、《シューティング・スター》とかで攻撃してくる。

 でも、精度は僕より劣っているから、『贄殿遮那』でガード。ところがなんと、斬り返しを狙っても、相手の防御を崩せない。

 こう微妙に巧みに攻防をやられると、早く終わらせたい気持ちを加速させられる。

 自己ヒーリングをされてるから、余計に状況は悪化している。

 ここで、1度深呼吸して、焦っている精神を落ち着ける。

「私は……お前たちを絶対に許さないし、絶対に負けない。」

 『贄殿遮那』を両手で、さっきよりも強く握る。相手をグッと睨む。

 敵が受けの構えを取ろうとした、その一瞬。

 僕は瞬間移動で、一か八かの大博打に出た。

「しまった?!」

 言葉を漏らして、水妖精族女は防御態勢に移るのが、僕の予想以上に遅れた。

 すでに大きく『贄殿遮那』を振りかぶっていた僕は、全体重を乗せて、そいつを真っ二つにした。

 そして、先刻のシノンの同化と同じ流れで、ウンディーネ・アスナを入手した。

「う……。さっきと……一緒………。」

 痛かった。ただその一言に尽きる。でも、僕にはどうしようもない。

 1度地上に降りて、キリトの方を見やる。

「……まだ決着がついてない。」

「キリト本人の方が少々優勢ではあるな。」

 スプリガンに対して、技の手数も精度も上を行くキリト。僕は支援に回るのが良さそうだ。

「……フォーム・チェンジ、《GGO》バージョン・シノン。」

 《GGO》のシノンに姿を変え、へカートを両手に携える。それから、僕は静かに歩き出した。

「狙撃。」

 ティアマトーが、僕の意図を踏まえた発言をした。

 近くにあったガードレールをひょいと飛び越え、それから横支えの金属パイプにへカートを乗せて、僕は1回目に撃ったのと同じ姿勢を作った。

「ここの方が狙いやすいわね。……キリト……頑張って。」

 スプリガンが僕に背を向けていたから、本人はすぐに気付いてくれた。

「うぉーーっ!!!」

 キリトが攻撃を激化させて、スプリガンをへカートの射線上に追い込もうとした。

 だけど、残念なことに敵は顔だけ、僕の方に向けてきた。………これは失敗だ。

「いかん!! 気付かれたぞ!!!」

「くっ!!」

 狙い撃ちできない。急遽へカートをひもで背中にかけ、右手にMP7を持った。

 そして、剣撃を叩き込もうとし続けるキリトとの位置取りを考慮に入れて、僕は走り出した。

 

 そこからMP7を3、4回程発砲し、キリトの援護に徹した。

 けれども、数分後、突然スプリガンは空中へ飛んだ。

「くっ! あれじゃ、こっちがロクに攻撃できない!!」

 キリトが、苦虫を噛み潰したような苛立ちをぶちまけた。

 僕はそれを無視して、冷静に判断を下す。

「ちょっと待って、キリト。あの高さは………フォーム・チェンジ、ウェンディ。」

 《SAO》、《GGO》共々空中戦ができないなら、この子の風魔法を使って工夫するだけだ!

 ウェンディになった理由を、キリトはすぐに飲み込んでくれた。

「天竜の咆哮だな?」

 小声で耳打ち。僕は真剣にキリトにうなづき返す。

「はい。敵が降下してきた時にやりますから、タイミングよく竜巻に乗って、攻撃してください。」

「わかった。」

 キリトが僕の横に立って、スプリガンが降りようとするのを辛抱強く待つ。

 そして、奴は先にしびれを切らした。

「そっちが来ないなら………俺から行くぜ!!」

 プラン通り、降下してきた。

「よし! 頼むぜ!!」

「はい! 天竜の……咆哮ッ!!」

 竜巻に巻き込まれていくスプリガン。空へ押し戻されていった。

「うわぁーっ!!」

 クルクル回って、スプリガンがどんどん遠くなる。

「もらったっ!!」

 キリトが天竜の咆哮の気流にうまく乗った。もう1本剣を出している。

「?!」

 完全に不意を取られたスプリガンは何もできない。

「ダブル・サーキュラーーッッ!!」

 体を時計回りに捻らせていたキリトが左の剣で切り上げ、1回転して、右の剣でスプリガンの左肩から斜めに『コア』に大きな跡をつけた。斬りきれなかったために、スプリガンが地面に落ちてくる。

「フォーム・チェンジ、《GGO》バージョン・シノン。」

 当然、ここは超遠距離攻撃に特化したこの人を使うとこでしょう。

 アスファルトに寝そべって、へカートを構える。スプリガンの姿をスコープで捉え、照準を定めた。

 狙うは見え隠れする『コア』。

 ………ふらふらとスプリガンが立ち上がった。

「もう……死んで。」

 へカートのトリガーを引いた。そして、『コア』を粉砕する甲高い音をしっかり聞き届けた。

「……ふう。」

 キリトと《ALO》の《キリト》が1つになった。これでキリトはコンプリート。僕もアスナは2フォームとも入手。

 シノンは後は《ALO》の分だけだ。

 『時間封鎖』が解けて、僕は制服姿に戻った。

「終わったね。」

「ああ。」

 僕は右肩を回しながら、キリトと話し始めた。

「朝から疲れるっての。」

「ああ。……早いこと学校に行こうぜ、光汰。」

「そうだね。」

 そこで不意に、高速で通り過ぎていく光球を見つけた。

「「ええっ?!」」

 慌てつつ、僕はライトを当てた。

「うわ、『殺マト』のユノだ!!」

 すかさずキャプチャーする。

 時間的にまずいことになっては困るから、2人で全力ダッシュをし始めた。

 

 7時57分。ダッシュをしたおかげで、余裕の到着。

「どちらにしろ、間に合ったな。走らなくてもよかったけど。」

「ほんと、7時20分頃に家を出る習慣を作っておいて、正解だね。」

 ダッシュしていた割には、息はあまり上がってない。………それよりも。

「……それに、今日はもー戦うのイヤ。勉強に集中したいや。」

 制カバンを肩に提げなおす。

「あれで、フォーム・チェンジをかなりの回数でやったしな。」

 キリトがそう言うと、何度も僕は首を縦に振って、教室に向かった。

 

 で、3階の僕の教室前。扉を思いっ切りガラッと開けた。

 僕が大抵最初に教室に入るのに、開いているということは。

「………祐太郎は……?! ……なぜに………!!」

「オイオイ!!」

 僕とキリトの目に飛び込んできたのは、顔をそっぽ向ける悠二と………

 『灼眼のシャナ』の『吉田和美』の姿を手に入れた、祐太郎だった。

 祐太郎が、唖然としている僕たちの方に来た。

「びっくりしたろ??」

 左手を口に添えて、小声で美人好きの友人は言った。

 我に返るや否や、僕は呆れてため息をついた。

「はいはい。そうですね。ま、僕らは今朝も、大掛かりな戦いを仕掛けられたんだ。……勝ったけどね。それで、《ALO》のアスナと《SAO》のシノンをゲットしたさ。」

 シノンの如く、さらっとした僕の報告を聞くと、祐太郎は目を丸くした。

「今日も?!!」

 いちいち反応が大きい祐太郎をなだめるために、僕はぽんぽんと彼の肩を叩いて、気を逸らした。

「それよりも。4階に行こう。ね、キリト。」

「そうだな。」

 

 僕とキリトは、2日連続で起こった早朝戦闘をありのままに、4人に語った。

「今日もそんな面倒な戦いが……。」

 純が言葉を漏らした。

「おかげでアスナはコンプリート、シノンはあと1フォームなんだ。………フォーム・チェンジ、《ALO》バージョン・アスナ。」

 僕は戦闘の証拠にと、ウンディーネ・アスナに変身した。

 キリトが僕の言葉に継ぐ。

「オレも……3つの姿を揃えられたんだ。」

 それから《GGO》バージョンの自分に変身するキリト。

「……生で見ると、本当に女と見間違えそうだな。」

 どこかの専門家のように偉そうな態度で、祐太郎は言った。

 隣で悠二がぼそっと一言付け加える。

「外見上、吉田さんが男言葉話すのが、一番ギャップ感じちゃうな~……。」

 なるほど、そっぽ向いてたのは、そのギャップに変なものを感じたからなのか。

 ふと誰か僕の(正確には、《ALO》のアスナの)右耳を触りだした。

 視線だけ向けると、悠二がさりげなくやっていた。……無視しよう。

 イラつきを平然とした顔の裏に隠しているが。

「……光汰さん、断らなくていいんですか?」

 フィオナさんが心理面を気にしてくれた。反撃待ちなのを見抜かれたか。

「ああ、はい。《ALO》のアバターって、大抵こんなんですからね。いちいち反応してちゃ、ダメだと思うんで。」

「その通りだな。」

 あっさりとした僕の言葉に、何かしら企んでいるのがわかったか、言ってから、キリトは1人でクスクス笑い出す。

 続いて純も反応。キリトと一緒に背を向けて、肩を叩き合い、腹を抱えている。

 一番よくわかってない悠二は、不思議そうな顔をした。2人をじっと見ている。

 隙あり、ってことでゆっくり右手を振り上げる。

「あ、悠二、横。」

 祐太郎が警告したのと同時に、笑顔かつ全力で、腕を一気に振り下ろす。

「いでっっ!!!」

「はいおバカさーん。」

 コントみたいだ。吹き出しそうだねえ。

「今日はほんと、フォーム・チェンジを使いに使いました。フォーム・チェンジ、《GGO》バージョン・シノン。」

 《GGO》バージョンのシノンに変身して、僕は首を横に振った。

「お疲れだな。」

 純が労りの言葉をかけてくれた。

「身体が持たないよ。……今日はこの姿で過ごそうかと思ってたのにね。」

 気持ちだけでも休ませてよ。

 

 

 いじりを喰らうのも嫌だっちゅーの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回はキリトの別のアバターとその仲間が怪物に取り込まれてしまっていました。
見事解放して、新しい力を得た光汰とキリト。
次からは、主に日常回、かつ文化祭編に入ります。
え、敵は来るのかって? 彼らも何を考えてるのか、ここぞというときに侵攻を止めちゃいます。

こんな非常にカオスな小説を読んでいただきありがとうございます。
まだまだ続きますが、なにとぞよろしくお願いいたします。
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