今回から急に文化祭編です。
しかし、どこか光汰はイヤイヤな雰囲気を見せてますよ?
#5 文化祭 上
アスナたちの皮を被った怪物と戦った、その日から文化祭のクラスの出し物を本格的に準備し始めることになっていた。
何をやるか、というと………。
「はあ……、何の趣味で女装のコスプレなんかぁ……。忘れてたのに……。」
「しょーがねーだろ? 委員長の奴の意見に大多数が賛成しちまったんだからさ。」
どういうご趣味か、コスプレを使う喫茶&シューティング・ゲーム。それも景品付き。
委員長がした見積もりは……1万7千円以上。個人でも、少なくとも5、6千は財布から消え去る。
僕と祐太郎はごくわずかな反対派の一員だったが、多数決原理であえなく敗北。
為すがままにここまで任せているうちに、キリトたちと出会い、出し物のことを完全に忘れ去っていた。
「な、光汰。」
「何?」
「……今日は文化祭のために、放課後寄り道しようぜ。」
祐太郎が嫌嫌な提案を僕に突き付ける。どちらにしろ、参加しないといけない話だから、それをする時間を設けないと。
「いいよ。分かった。僕からキリトによーく話しておくよ。」
「よし、じゃ俺も悠二に言っとく。」
すぐに放課後の予定が決まった。
敵が襲ってくることもなく、授業は終わった。
「ん~~……。さて、面倒な事をやらないと……。」
《GGO》バージョンのシノンの姿のままだった僕は、椅子に座りっぱなしで疲れ、席を立って伸びをした。
そこに『和美』姿の祐太郎が来る。
「お疲れ。掃除ねーから、ホームルームまで済んだら、行こう。」
「うん。」
キリトと悠二も近寄ってくる。
「付き合うのは付き合うぜ、光汰。」
キリトは結構興味津々だ。そんなに期待されると気が狂う。
それとは対照的に、悠二は黙り込んでいる。
それにしても、どんなコスプレにしたらいいんだろう。接客プラス集客役だし。
その帰り道。
「あ、そうそう。光汰。」
「今度は何?」
今日はやけに祐太郎が話しかけてくる。
「委員長から、俺ら以外のメンバーの選んだコスプレのリスト、もらった。ほれ。」
「あ、ありがとう………。」
折りたたまれた『リスト』なるものを、僕はゆっくりと開いた。
すっかり忘れていた僕ら以外のクラスメイト32人の選択物を、一つ一つ見る。
読み切って、そして、僕は赤面した。
「ふ、ふざけてるね……。メイド枠とアニメキャラ枠なんかも作ってたんだ……。それも……その2つがあと1枠ずつ……。」
ぷるぷる震える僕の肩に、祐太郎が手を乗せ、寄り掛かってきた。
「メイド枠の注釈も見てみろよ。」
「え………ウソ………フギャァァァァァーーーーーーーッッッ!!!!」
その注釈を見て、完全に脳内の思考回路が爆発した。悲鳴がシノンじみたものになってしまったが。
そこには、『何らかのアイテム(ex:ウサミミ)を追加購入の義務有り。』とあったからだ。
これは完全に恥さらしだ。特に女子高生と家族に冷ややかな目をされる、大いなる恥さらしだ!!
これだから、出店側になるのは大嫌いなんだ。
思考が爆発したってのに、そこで祐太郎は、僕の脳内に、さらに油をたらしてきた。
「俺は悪いけど、運よく希望者がいねーから、『涼宮ハルヒ』でいかせてもらうぜ。」
「!!!!」
僕の全てが、その言葉で一瞬でフリーズした。ただ、ぼーっと突っ立ってしまう。
これにはキリトも悠二も、気にしないわけがない。
「あーあ、固まったぞ~。どーすんだ、祐太郎さ。」
「俺は悪くねーだろ!!」
「いや、もっと気持ちを汲み取るべきだったね。」
ガンガンに2人に言われまくる祐太郎を助けないと。はっとなって、そう思った。
気に食わない話だが、認めざるを得ない話だ。
「……いいよ。こうなりゃ、やってやろうじゃんか!!!」
「「「…………。」」」
僕の考えを裏切った冷たい視線が、3連続で僕に突き刺さった。
「聞いたか?」
「ちゃーんと聞いたぜ?」
「僕も聞いたよ?」
うわ、トラップにまんまと引っ掛かけられた。顔がすごく赤くなって、3人をまともに見てられない。
「……絶対仕返ししてやる……。」
この辱め、今までの中で最悪だから。特にキリトにはこれで2回目を喰らったわけだし。
髪を猫みたいに少し逆立ててしまいそうだ。
頭にきて、へカートを召還。そして、僕は表情を笑顔へ変えた。
3人の後ろにいるから、全く気付いてない。
祐太郎と悠二には、別の方法を考えるとして、まずはキリトに、冗談抜きで戒めだ。
さっと静かに、へカートの銃口をキリトの背中に向け、20センチくらい後ろまで近づく。
「それにしても、どんな感じなのかな~。」
キリトがのーんびりと言ってる。この野郎、猶予を与えてはダメなタイプだ。
「「!!!」」
祐太郎と悠二が反応。顔を引きつらせ始めた。
「あの、キリト……。」
「ん?」
「後ろでものすごく怒ってる人がいるよ……。」
「え」
キリトはそこでやっと気付いた。僕は決して笑顔を消さない。
「ご、ごめん……光汰……。」
「次やったら、こんなもんじゃ済まさないからね。」
「はい………。」
戦闘の時にしか使わないものを、召還させてくれるな、このバカキリト。
ま、セリフはしっかりシノンぽかったし、この点はこちらで勝手に満足していよう。
キリトを沈黙させたのも、1つの満足と化して、僕はへカートを片付けざまに3人の前をスタスタと歩いていく。
でも、これはまだ、第一段階の山でしかない。まだまだこれから、いろいろ嫌な試練が待ち構えている。
「早く済まさないと、何かグチグチ言われるよ?」
平素の僕に戻り、一歩も動かない3人に、忠告。
それでやっと互いに顔を見合って、歩き出した。
目的の店に到着して、僕らは2組に分かれ、店内を歩き回る。
さーっと流し見をする僕に対して、一つ一つ、じーっくり観察しているキリト。
文化祭用のコスチュームを買うことよりも、キリトの態度の方がすごく気になる。
絶対に、僕が今持っているフォームのうちの、どの姿で、メイド服を着るのか、想像してるに決まっている。
「……キリト。」
「ん?」
ご希望のフォームは、あの2つ、にしぼっているだろうな。
「………君が、僕に要求したいフォームは……《SAO》のシノンだろう?もしくは、同じ《SAO》のアスナ、かな??」
「え、なぜわかった?」
3日しか行動を共にしてない僕に、図星を指されたキリト。これには爆笑したくなる。
頭に浮かんだことを続けて言う。
「ついでに言えば、ネコみたいなメイドの僕を、勝手に作り上げてた。違う?」
「うげ……すいません、おっしゃる通りです……。」
呆れた。変態で《SAO》最強のソロプレイヤー、思考面では、僕に完敗しているぞ。
これが、現実ではアスナやシノンとか(特にリズベット)の下になってしまう、みじめな僕のパートナー。
現に姿上、まさにそれが権化されている。
「もう、謝んなくていい。……フォーム・チェンジ、《SAO》バージョン・シノン。」
現実の朝田詩乃に近い、《SAO》バージョンのシノンに変身。
「……カツラ、探さないとダメだけど、特別に…ね、家で着てあげるよ。君のためにさ。」
「え、それっていいのか?」
「ただし、口外禁止。……恥ずかしいから。」
キリトのあの言葉で、時々働くようになっている、変な感情を言葉で覆い隠す。
「……黙っとくから、手伝うよ、光汰。」
「それを守ってくれるならよろしい。」
それから、真剣にキリトも探し出した。
2人でやると、意外と事はうまく進むもので、3、4分で服は決まった。
「……なんか、よくあるメイド服だな。……これでいいか?」
「別に…特別感は要らないんだ。これにするよ。あとは……ネコ耳と尻尾かぁ……。」
「うん。あとはそれだな。」
あまり乗り気ではない僕とは違って、キリトは勝手に想像を膨らませて、勝手に意気込んでいる。
どうして他人の文化祭の準備、しかも超ヤルキナイネンさんの準備にノリノリなのか、理解できない。
キリトが周りの人たちに見えていたら、と考えただけでゾッとする……。
時間短縮にはかなり有効だけどね!!
案の定、今度もキリトが、クロネコアイテムをたった1分で見つけてきた。
「こっちに来いよ。」
手招きもして、アピールしてくる。これでさらに、僕のヤルキナイネンさんモードが加速した……。
「……わかった。」
あとはカツラのみ。それを考えつつ、僕はキリトのところに行った。
…彼が見つけたのは、意外とかわいい感じのネコ耳と尻尾。でもヤルキナイネンさんモードには全く影響してません。はい。
「いいね。じゃあ、残りはカツラね……。」
2、3秒見て、すぐに探し物タイムに無理やり突入させる。
カゴにはちゃんとメイド服、クロネコセット、入れてますよ。
………敵が来ないかどうか、同時にすんごくひやひやしてんのになぁ……。何なんだ、この感じは……。
何度も言うけど、文化祭に向けて超ヤルキナイネンさんの僕には、文化祭関係で騒ぎ立てられると嫌気が増す。
出店するのが嫌だ、というのには、ちょいとナンセンスな経験が理由の土台である。
それは、去年。つまり、高1のときも出店側だった時に……。
……あれは思い出したくもない、クラスメイトのすごく目立つ大失態が、脳内に焼き付いているからだ。
……全く言いたくなんかないよ、もう!
そうこうしているうちに、重音テトのような、コロネ型ツインテールの茶髪のカツラを見つけ、祐太郎たちより先に会計を済ませた。
早足で駅に向かっていく。キリトも無言でついてくる。
空気を読んだか、アラストールもティアマトーも一言も話さない。
10分ちょっとでいつも利用する駅に到着した。
プラットフォームに着いたと同時に、僕はある疑問に気が付いた。
・・・戦う時の口調・服装変化。何かに強制されている気が、初めからしていた。……あと、ここでのキャラクターの姿も。それに突然、《閃光》アスナの姿になっていた、3日前の朝の事…。
意を決して、キリトに話しかける。
「……ねえ。」
「ん?」
「僕らが初めて会った時さぁ、若干焦ってたのはわかるけど…」
左腕に装着しているものを少し掲げて、次の言葉をつないだ。
「…これの機能、まだ説明してない所、あるんじゃないの? 何かおかしいな、って思ってたんだけど。」
僕が、そう言い放った後、数秒ぽかーんとしていたキリトだったが、何を指摘しているのかわかったらしく、シニカルな笑みを浮かべた。
「……悪りぃ。そりゃ忘れてた俺たちが不親切だったな。」
「それに、何で人が“光の珠”の状態なの? 明らかに強い力を受けてるじゃん。」
「……そこもか。うーん……電車が来たからさ、その中で話すよ。」
言われるがままに電車に乗り込む。
そして、キリトは僕がまさに聞きたいことを話し出した。
「……もう気付いたかもしれないけどさ、口調と服装の変化はそのウォッチの機能の1つだ。それに……フィオナさん曰く、人物の光球化は敵の組織のリーダーの力に大いに影響されているんだよ。目的を悟ったフィオナさんは、すぐに対抗し始めて………俺と悠二を助けてくれて、さらに俺にはこの《SAO》アバターをくれた。でも、それじゃあまだ心もとない。そこで、最も優れた戦士を選び出して、なんとか先に手に入れた3人を授けることになった。そこでまさか……近所だったり、同じ学校であったり、な……すごい偶然が重なったんだ…。けど、その敵のリーダーの力が強過ぎたのか、俺のパートナーはじめ、みんな姿がキャラのものになっちまったんだろう。それをフィオナさんが姿と声の認識を改竄・攪乱するシールドを展開して何とか今他人に曝されるのを防いでるんだ―――――――俺の口から話せる事は、これくらいだな。」
大方推測していた事だったけれども、自らの巻き込まれ秘話も含めた、キリトの話には改めて驚きを覚えた。
少しフィオナさんへの懐疑的な考えをちらつかせた自分の浅慮に恥ずかしさも。
……僕らのすべきことは、ほぼ固まった。
目の前のキリトの沈痛な表情。その中にある怒りも手に取るようにわかった。
復讐に近い形ではあるが……………敵組織のリーダーを討さなくてはならない。
「キリト。僕らは全力で敵と戦って、強くなっていこうよ。……それしかないよ。」
幾分か優しくなったかもしれない僕の言葉に、キリトはポーカーフェイスに戻り、再びシニカルな笑みを見せた。
「ああ、そうだな。」
一段と仲良くなった僕ら2(4)人は、意気揚々と家に戻った。
僕はいそいそと部屋に戻り、あの約束を実行し始める。
「おおっ。」
興奮に満ちた目で僕の着替えを ガン見してくるキリト。
突然、ビクッと身体が震える感じがした。
何だか、あのツインテールお嬢様のような……。
「大丈夫か、オイ!」
「!」
キリトの声ではっとなる。そして、さっき少しちらつかせた思考に顔が赤くなった。
「き、き、キリトは、き、着替えが、終わるまで、は、入って……くるなよ?」
何故かみかみなんだ、僕。やっぱり、女の姿に慣れ始めた影響が出ているのだろうか……。
もしそうなら、いろんな意味で危険な状態に向かって疾走してる……のかな、僕は……。
キリトが部屋を出たのを確認してから、大きくため息をつく。
「……重症だよねぇ…これ……………」
祐太郎や純よりも、と小声で呟き、のろのろと着替えを再開した。
◇◇◇
光汰に部屋から出るよう勧告され、それに従ったキリトは見えないことを活用し、廊下にどっかと座り込んで考え事をしていた。
主に、この3,4日のことだ。
将来夫婦になる約束をしたアスナこと結城明日奈が、少年の姿の一部になったのを見たあの日。怒りと共に自然と支えていきたいと望み、現に自分の想定を上回る成長を見せられた。 いつの間にか信頼さえできていた。本当の明日奈や詩乃との語らいのようなこともできた。
あの頭の回転スピードは自分と早々変わらないかもしれない。武器の切替は状況変化に合わせるため、同じアインクラッドで戦うことがあったらどんなに攻略が早かったか、とも思うキリト。
(でもなぁ……)
浮かれかけた思考をリセットし、光汰の欠点と言えるであろう一面を思い返す。
単純に冗談に引っ掛かりやすいところ、それを指摘した後の子供じみた反抗。そう、いつぞやのリズとの触れ合いに少し似ている。
「……ま、それを全部ひっくるめて佐々倉光汰っていう人間なんだしな。……俺ももっと支えてやらないとな……。」
簡潔にまとめてそう呟いた、まさにその時。
部屋の戸が、ガラッと開いた。
「………何ブツクサ言ってるの……キリト……………?」
「うわあああああああああああああ!?」
出てきたのは、光汰なのは光汰なのだが、どこか幽霊じみたオーラをまとった彼だった。
「あ、あ、あ、アスナの姿で、ゆ、幽霊みたいなことするなあああああああああ!!」
虚しい絶叫が家中に響いた。
何の仕打ちをするつもりだよ! と、心内でさらに叫ぶキリト。
彼は何とか思考を落ち着け、光汰の格好をまじまじと見つめだす。
約束通り、文化祭時の衣装姿である。
全体を眺め回した後、キリトは無意識にこう口にした。
「か、かわいい……。」
「え……。」
何故か光汰は赤面。そのまま沈黙が数秒続き……突然、光汰が取り乱してキリトをまくし立てた。
「ご、誤解しないでよ、注文通りにしてやっただけなんだからな!? 決して不埒なことなんて、か、考えてないからなっ!!?」
いきなりの意味不明なセリフ。はあっとため息をつき、キリトは弁明した。
「悪かったよ。思ったことが馬鹿正直に出てきて……。」
キリト自身にとっては嘘偽りないことだったが、火に油を注いでしまったらしく、
「はぁ!? やめてよ、変に敏感なんだからさぁ…、普通の女の子に使う言葉はあまり出さないでよ……。」
明らかに怒りと恥じらいの混じった返答が返ってきた。
キリトはそれを面白く感じ、茶々を入れた。
「何に敏感になってるんだよ?」
「!」
さらに光汰は顔を赤くした。口をパクパクさせているが、言葉が上手く出てこないらしい。
間髪入れずに、次の言葉攻めを行うキリト。
「気付いているかもしれないけどさぁ…。」
「や、やめっ……。」
どんどん女々しい態度になっていく光汰。キリトはよせばいいのに調子に乗って、
「おん……。」
「ダメ―――――――――――――ッ!!」
ゆでダコのように顔を真っ赤にした光汰から、敏捷力全開の鉄拳制裁をくらった。
「がはあっ!」
「あ……。」
鼻血をまき散らして吹っ飛んでいくキリトと、自分の行動にハッとなる光汰。
(……何故こうなるんだ。)
キリトはそう思いながら、壁に激突し意識を手放した。
◇◇◇
急に思考のオーバーヒートが収まり、気付くとキリトをぶん殴ってしまっていた僕。
今度は完全に頭が真っ白に。
「ごめん、キリト。」
とっさにそう口にしたが、キリトは意識を失っているため聞こえない。
普通にキリトの名を口ずさんでいたが、思いつきでちょっとあることを試したくなった。
今からやろうとすることに再び顔が赤くなる。
「キリト…君……。」
ああ、ノーマル状態で何やってんだ。今、どうしようもなく取り返しのつかない事やっちゃったぞ、僕。
いかん、アスナに感情移入し始めたというよりも、意識が若干アスナ化し出して、ヤバイ。
……ってダメダメダメダメ! ぶんぶんと頭を振って、関係ない思考を吹き飛ばす。
明日奈自慢の栗色のロングヘアを振り乱してしまうが、この際構ってられない。
部屋にキリトを運び込み、私服に着替えたら、今度は詩乃(SAOシノンver)に姿変えをし、机に頬杖を立ててそこはかとなくボーッとしてみる。
(何だろう、この空虚感…少し気持ちいいかも……。)
と、思っているうちに眠りに誘われ始めた。
この数日、ドタバタしてたからいいよね……と甘い言い訳を浮かべ、自分のベッドに潜り込んだ。
………詩乃、ごめんなさい。
そう心の中で謝って、襲い来る睡魔に従った。
目が覚めたのは、それから一時間半ほど経った頃だった。
キリトはすっかり起きていたらしく、鼻にティッシュを詰め込んでいる。
何故か、目が合うと彼の方から視線を逸らした。
その時、ふと新たな情報が脳内に飛び込んできた。
「ステイ……シア……って、な、何……?」
聞き慣れない単語に頭が困乱する。
逆にキリトの方は、ああ、と何かを理解し、
「ステイシア……俺がアンダーワールドで精神喪失してた時から、アスナが使ってた神様アカウントだよ。」
と、さらりと言った。
その途方もない回答に、僕は一瞬固まってから口を開いた。
「か………神様ぁ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまったが、その後のキリトの説明で納得できた。
それを自分なりに噛み砕くと、この数年のうちに発売されるはずのSAO16巻“アリシゼーション・エクスプローディング”編の中で出てくるらしく、1度ログアウトしてしまうと二度と使えないような貴重な代物らしい。
少しタイムトラベルが絡んだ感じなので、すぐさま質問する。
「それ……フィオナさんから聞きかじった?」
キリトは大きく首肯する。少なくとも、今の彼にアンダーワールドから救出される頃の彼自身の情報もあるらしいことはわかった。
ユージオやアリスとの関係などを聞きたいのを抑え込み、先送りにすることにした。
……まさか、こんな不意を衝く状況で新たな情報を得るなんて、なぁ……。
敵襲がないため、ごく普通な一日になった。
いや、「平凡な」の方が正しいか。戦いがあることのほうがだんだん定着してきていたから。
塾というノーマルスパンが終わり、家に帰った途端にキリトが思いがけないことを提案してきた。
「よし、身につけた戦いの腕を落とさないために、ちょっくら剣の打ち合いを習慣にしておこうぜ。もしものためにさ。」
「うぇ」
こんな時間に!? という言葉が出る前に奇声が出る僕。
抑えろ、抑えるんだ、佐々倉光汰。やましいことなど考えるな、自分。
その考えを何とか飲み込み、キリトの言葉の正論さに無理やりに納得して、ウォッチに念じ、一度“閃光”アスナの姿へ。
「……いいじゃない、やりましょう。」
「なぜ間を開けた!?」
キリトの、僕のとっさの思考による空白へのツッコミは無視し、条件を付け足す。
「ただし、みんなが寝静まってからよ、キリト君。」
「お、おう。」
状況を判断したらしく、キリトは素直にこの条件を受け入れる態度を見せた。
既に、《黒の剣士》の姿でやる気満々、いつでもいけるぞ、というオーラを漂わせていたのだ。
彼の提案による必然的な成り行きで、「トレーニング」は、11時を過ぎた辺りに始めることになった。
深夜に徘徊したと知られると、とりわけ義母からの風当たりがきつくなるが、シャナ&ヴィルの姿・能力を扱える今の僕の手にかかれば出し抜くのは簡単だろう。
封絶を展開し、ドアを破壊。そのまま家を出て、鍛錬にふさわしい場所にキリトと共に着いたらそれを解除。これであれも、元に戻っただろう。
まずは、親しみの深いKоB副団長殿の姿になり、鞘から彼女の愛剣・ランベントライトを音高く抜き放ち、剣先をキリトに向ける。
キリトも超重いエリュシデータを抜剣。楽な出で立ちで剣を中段に構えた。
……並々ならぬ空気が僕ら二人の間に張り詰める。
「本気でいくぜ! 光汰!!」
「……そうね、中途半端に手を抜かれたら意味ないもの!」
殺す気で戦うんだ……、ユニークスキル《二刀流》の持ち主・キリトと!
なかなか激しい戦闘演習になった。
アスナは、かつてキリトと一度デュエルをした時、リズベットに一分も持たないで負けた、という意味の言葉を発していた。
だからそのアスナの姿を現在駆っている僕は、あんまり持たないだろうと思っていたのだが、陸上部・長距離部門に中学時代所属していたことが影響したのか、エリュシデータでの斬撃のパリィに苦痛を隠せなかったけれども、細剣の利点、軽さとスピードを活用して手数で反撃をした。
……《スター・スプラッシュ》や、《エアロ・ペネトレイター》。頭に思い浮かぶ限りの細剣系ソードスキルで、ある程度はキリトを翻弄させた。
一通り打ち合い、2人とも落ち着いて腰を下ろした時には、もう日付は変わっていた。近くの時計からの情報だ。
「良く持ったな、光汰。」
「………ふん、常にマイペースな誰かさんとは違うわよ。」
「グッ……」
どこかしら裏のある彼の称賛を、鋭い目線と冷たい言葉で返す。そして、ランベントライトを鞘に戻した。
……あれ、《狂剣士》時代のアスナさんみたいな言い方だったかな? キリトがちょっと縮こまってる。
「キ……キリト君……?」
顔を覗き込んでみる。何か考えているらしい。
ふと、自分の今の格好・体勢を俯瞰した。
……いかん、完全にアスナだった。…………いや、ポーズの方だからな!? ……服装はともかく。
恥ずかしくて、僕はそそくさとシャナに変身、封絶を展開し、キリトの手を掴んで家に帰った。
翌日、僕は5時半に起きた。いつも起きる時間だ。
何か言い知れぬ不安があったあの2日間は4時半ごろだったが、あれは自分の体内時計ではかなり早起きな方なのだ。
家事が似合いそうな人は……、と考え『俺ガイル』のヤルキナイネンさんに変身し、一通りの役割を果たした。
夜遅くにトレーニングをしたため、キリトは未だに爆睡中。
僕もかなり眠いのだが、甘やかすと寝坊する自信がある。だから、こうして家事の役割と朝ご飯で意識の完全覚醒を図っている。
余裕を持って朝食を食べ、部屋に戻ろうとしたら、パジャマの右ポケットから電話の着信音が。
つかみ出して確認すると……純からだ。一体何の用事があるんだ。
通話キーを押し、不機嫌な声をわざと出す。
「何の用? 早く言えよ、こんにゃろ。」
『悪かったな、こんな朝早い時間に電話してさ。』
僕の反応に若干自棄を起こしている感じがありありと伝わってくる。
「ごめんごめん。純がさ、僕に電話してくること自体あまりないから、ついいじりたくなったのさ。」
『ふーん……。』
……嘘は言ってないのだが、何故彼に対して罪悪感があるのだろうか? いじったからか?
不可解な自問自答をしていると、純が用件を伝えてきた。
『お前らのクラスも出店するんだろ? 俺のクラスの方も教えるからさ、情報くれないか?』
すばやく僕は返答する。
「おい、こっちは嫌々でやることになってんの。っていうか、当日まで待てないの?」
『……言いたくない、やりたくないって気持ちは分かるぜ? でも、重々しい気持ちで嫌々やられたら、クラスメイトが可哀想だろ。』
「ぐぬぬ……!」
去年の経験を共有しているため、逆に正鵠を射られて反論できなくなる。これは自爆したね……。
顔が赤くなる。ううう……どうしよう?
――――――その答えは…ただ一つ!
「からかわれようと、開き直ってやればいいんだな? どういう目で見られるか、僕は知らないよ?」
『何故に俺の責任に!?』
「当たり前だよ、言い出しっぺが大半を担うに決まってるでしょ。」
『何その変な理屈。やめてくれよ。』
うっわ、責任丸投げする気だったのか、この人。
これじゃ、理屈も何もないだろう。……アホが。
グチグチ言い合っては埒が明かないと思い、先制シュートを放った。
「コスプレ喫茶兼ダーツ&ビンゴ(景品付き)だよ、うちのクラスは。」
すると、クックックッと何とかして笑いを噛み殺そうとする純の声が聞こえた。
わーっ、ヒドイなぁ……何で笑うの!? と、言いたいのを堪えた。“閃光”アスナに、姿もモードも切り替える。
「……何か考えてるでしょ。」
アインクラッド第74層のダンジョン安全エリアにて、手作りのサンドを食べさせてもらおうとして、不埒な考えをちらつかせたキリトに、アスナが鋭い勘で言ったものだ。
それをそのまんま活用してみたのだが……、どうやら功を奏したようで、純を黙らせることに成功した。
めんどくさいので、そのままの服装で自室に戻る。そろそろキリトに起きてもらわないと困るからだ。左手にはキリトの朝ごはん用のおにぎり2つ。
「………ということで、もしも私に悪評つく結果になったら、共同責任でお互い何か奢り合いましょ。」
『くっ……しょうがねえなあ……。わかった、そういうことにしとくぜ。』
「む~っ……。」
猶も責任転嫁したいことをにじませているのを察知した僕は、言い返しはしなかったが、学校であなたの店のこと聞くから、というセリフを残して電話を切った。
今日は、明日奈はアスナでも、“バーサクヒ―ラー”の姿で学校に行こうと、何となく思った。
結局キリトが目覚めたのは、僕のいつもの登校開始時間の15分前。既に水妖精族細剣士のフォームに変身している僕と、アラストール、ティアマトーに、
「おはよ、よく寝てたね……。」
「気を緩め過ぎであるぞ。」
「演習自粛」
彼は目覚め早々に、非難を含んだ言葉を聞かされるはめになった。
見慣れた“黒の剣士”の代名詞、上下黒の服装に黒のレザーコートを羽織り、歩きもって不服そうに僕の作ったおにぎりを頬張って食べるキリト。
一応、感想が欲しいと思い、僕はたまらずキリトをガン見する。
それと同時にハッとなって、恋する乙女がすることじゃねーか!(あのツインテール馬鹿と同じツッコみ方だ)と、自分にツッコむ。
朝から感情の浮き沈みが激しい。………と思っていたら、目の前を何かが通っていった。
それは、この数日よく見かけ、集めたものだった。
すかさずライトを照射すると、人物の姿が浮かび上がる。
「……誰?」
よく知らない作品の人物だったが、とりあえず『回収』した。
――――――……後でフィオナさんに聞いてみよう……。
と、考えていたらすぐ横から驚愕の声が漏れてきた。
「『勇者エミリア』こと遊佐恵美だったぞ、オイ……。」
訳分からないので、質問を繰り返す。
「だから誰それ?」
そうすると、キリトは僕に、『えっ、知らないのか?』って顔で見てきた。
「気の向かないモノには知識が皆無なんだよ、悪かったね。」
「………。」
刺々しい僕の言い方に、キリトは目を泳がせた。
……『すまん、フィオナさんに聞いてくれ』って顔で言ってる。
何故微妙なところでキリトと思考がシンクロしてるんだ………。
いつも通りの時間に学校へ到着し、カバンをクラスの自席にさっと置く。
そして、1つ上の階の純のクラスへ向かう。キリトが不思議そうな顔してついてくる。
「おーい、じゅーん……。」
「あ、来たか皮肉屋光汰。」
んなっ……本人はジョークのつもりだろうが、やはりムカつく。隣にはもちろんフィオナさんがいる。
先手を取られたが、用件のある人が2人ともここにいるから楽だ。
まずは純に、だ。
「はぁ………あんなに朝早く電話してきたんだからさ、きちんとここで話してくれるよね?」
「ああ。ビンゴ大会と射撃……に『ラブライブ!』キャラ校内総選挙か。」
「!」
あの謎めいた笑いの意味がわかった。
つまり、だ。オタクじみた出し物を自分のクラスでやるが、それを上回るインパクトを放つであろう僕らのコスプレ喫茶に本当は吹き出したかったのだ。
それを僕たちに悪いと思って我慢した結果が、Kの音しか出てないあの笑いだったのだ。
簡潔に済んだから、話のターゲットをフィオナさんに切り替える。
「あの、フィオナさん。」
「はい。」
一旦、大きく深呼吸。
「こんなこと聞く時点で恥ずかしいんですが……、遊佐恵美って………誰ですか?」
これにはこみ上げる笑いを我慢できず、純は声も出せないほど爆笑し出した。
そして、若干わざとらしくよそ見するキリト。
真剣な話だととらえたフィオナさんは、手短に遊佐恵美の情報をくれた。
「『はたらく魔王さま!』のメインヒロインです。自身の聖剣であり、“娘”であるアムス=ラムスが唯一の武器ですよ。その人を入手した、ということは、新たなパートナーとしてアムス=ラムスと話せるはずです。」
「へえ………。」
知らなかったからしっかりと記憶に刻み付けようと、僕は思った。
その思考を皮切りに、急に頭の中がやかましくなった。いきなりのことで頭痛に襲われる。……パパはどこ? とかやめてくれ……。
純が見かねて、情報を追加提供してきた。
「その本人曰く、剣を出さないときには、アムス=ラムスは頭の中にいるとか。」
「言うの遅いんだよ、バカァ!!」
すごい女勇者さんがいるもんだな……。素直にそう思った。
自分の頭の中に、確固とした別の人物が存在してることに慣れるって、相当な所業だし、ストレスだよ。
「ちなみに、“パパ”はエミリアの永遠の敵、魔王の真奧貞夫な。」
再び純からの追加情報。魔王さん、ネーミングセンスなさすぎですぅ………。
仕方なく、君のパパはこの世界のどこかにいるから、きっと見つけ出す、と伝えただけで、アムス=ラムスはやけに素直に聞いて静かになった。
ま、SAOじゃAIのユイのパパとママはキリトとアスナなんだし、それとちょっと似た形になるか。
フィオナさんは、僕の今後への影響を減らすべく、これで話を打ち切ってくれた。
………人目が無い時は、勉強もしつつ、アムス=ラムスをちゃんと世話しないと。
人知れず、僕はそう決心した。
はい、新フォームもちゃっかり出てのかなりの長文。
ごめんなさい。
戦闘アリのときもこんなに出来れば苦労しないのでしょうか………
なんでなんでしょう………
あと2話くらい、文化祭編は続きます。
どうしようもない駄文な小説ですが、読んでくださった方は本当にありがとうございます。
大丈夫だよ、という方はまだまだお付き合いお願い致します。