今回は普通の女子が2名ほど新しく登場します。
そして、HRKTYさんこんなカオスな小説をお気に入り登録していただきありがとうございます!
敵襲なく今日の授業が終了した後、クラス総出で出店のための買い物に行った。
僕の担当は、ダーツ大会の景品(3回目)のスコアトップ5人の分だ。相当な買い物額になるな、確実に。
親に事前に伝えていたのもあって、十分すぎる金額を持たせてもらっている。
さて、去年うちのクラスに来た人の層を考慮すると、ゲームやフィギュアなど、オタクにはたまらないものが揃っている、この周辺の店を何軒か回ろう。
アムス=ラムスは、急な環境変化に耐えたことによる疲れが出たらしく、熟睡中。
今回もキリトは興味津々だ。かなり協力的になるだろう。
そんなキリトに、アラストールとティアマトーは呆れているようで、午後に入ってから一切言葉を発していない。
「………。」
――――――テンションがバラバラ過ぎる。どうしよう……。
そんなことを考えながら歩いていると、背後から気味悪い気配がした。
不吉な予感しかしないが、意を決して真剣白刃取りをする心構えで後ろを向くと………。
「わっ、気付かれたか!」
妙なテンションの女の子……がいた。右手にあるものから、学生だとわかる。だが制服はうちのではない。明らかに女子のものだ。
しかし、悪いことにそいつは中学時代の知り合いだった。
今日の昼に再びベースの“閃光”アスナさんの姿に戻っていた僕は、冷や汗をかく。
不自然に思われないうちに、挨拶しよう………。
「久しぶりに会ったね、清瀬さん……。」
「ったく、下の名前で呼んでって中学の時から私言ってるんですけど。いい加減にやってよ、光汰。」
「すまん、女子を下で呼ぶのは慣れてないし、それに通ってるとこ男子校だし。」
女子に言い訳かますのは情けないが、自然と口に出す僕。
清瀬愛理。それが彼女のフルネームだ。
気遣いが趣あるし、誰とでも本当に親しくなりやすい奴だ。
ただ、こういうドッキリを仕掛けてくるお茶目なところもある。
「………しっかし、今日は一段と焦ってますねぇ、旦那。」
「……文化祭の準備だよ。巻き込まれた側の人ですけどね。」
「……ほぉー。」
あ、いじりのスイッチを僕が入れてしまった。
すかさず逃走開始。
ことの成り行きを見守らなくていいのに見守っていたキリトが慌てて付いてくる。
「いじられるのはごめんだよ!」
「あっ、久しぶりなのに……待ちなさいよ! 変質者!」
「変質者じゃないわああああああああああああああああああ!!」
人目をはばからずに、絶叫してツッコんだ。
“閃光”アスナさんの姿で、敏捷力を全開にする。
そして、情けないくらいのペースで清瀬さんを引き離していく。
「は、速っ……。」
彼女の声が小さくなる。目的の店を見つけると、急ブレーキをかけつつ、扉を押して中に飛び込んだ。
「いてえ!!」
隙間に入り込めなかったキリトが、少し悲惨な結果に。
いらっしゃいませー、と機械的な挨拶が聞こえる。
………彼女の知る僕の足の速さより、アインクラッドでのアスナの敏捷パラメータの方が断然に上であるため、不自然さを彼女に与えてしまったかもしれないが、買い物に集中することにした。………やはり、慣れは怖い。
それから予定通りに買い物を済ませ、大荷物を抱えて駅に向かう。
そこへ、僕の近くに2つの光球がやってきて、旋回し出した。
午前のエミリアの件があったので、ライトは既につけている。
……どうやら双子のようだが、可愛らしい悪魔だ。片方は、ツインテール。もう片方は、なかなかおしとやかな女の子のように思わせる。
自然と付いてくるので、若干放置プレイし、どこかで待ち伏せしてる奴の気配察知に意識を特化させる。SAO作中では《索敵スキル》と呼ばれる代物だ。
しばらく歩き、駅の改札を通ろうとした時、すぐそこに見える純がいつも使う側のホームとつながっている階段に、彼女の存在を確認した。
そのしつこさに観念した僕は、改札を通り、素通りするふりをした。
「つっかまーえたー!」
どことなく嬉しそうな清瀬さん。彼女を落ち込ませないために、僕は即興の演技で驚いてあげた。……小学生か、貴様は。
もう離さないとばかりに左腕をがっしり持っている。……姿がアスナ様なので、胸の辺りに一切触れませんように……。
しかし、変なことに先ほどの僕の尋常ならぬ足の速さに触れてこようとしない。
周囲にカップルに思われてるだろうな、と考えつつ、ちょうどよく来た電車に乗り込んだ。
もちろん、キリトとさっきから付いてきている2つの光球も一緒に。
「……こうして会ったんだし、ゲーセン行かない?」
電車を乗り換えて早々に、清瀬さんはそう口にした。
「………………は?」
ここしばらくゲームに無縁だった生活をしていたから、唐突なことで頭が固まった。
「隆之介に感化されてあんたがボカロオタクになってたの、知ってるし。」
「何………!」
確かにあのリズムゲームは大好きだし、それでリズム感が成長したし。
………どこから漏れたんだよ、その情報………!
そんなことを考え狼狽する僕を見て、清瀬さんはクスクス笑い出した。
してやられた感じがしたので、そっぽを向くが、依然として左腕は掴まれたままだ。
ああ、できることなら離れたい……。ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
……DBのフリーザ(声が『アンパンマン』のバイキンマンと同じ)のような、心の叫びが出てしまう。
離れてほしいなどと言えず、清瀬さんにやられっぱなしの状況で、数分後、同じ駅で下車した。
そ、そして、為されるままに駅から近場のゲームセンターへ………。
「ひやぁ………。」
目まぐるしいアーケードゲーム界の儲け方の変化を目の当たりにした気分だ。
フューチャートーンか……タッチスライドが付加され、ゲーム機体で曲ごとの自分のオリジナル編成ができる機能、そして「カスタマイズ」なる小物アイテム…!
新たな曲が追加されたせいで、特に愛しのミクたんのモジュールの数が100越しちゃってるし………! う~、たまらん!!
清瀬さんは僕のこの反応を見るのが目的だと思ったが、何故か隣の機体の前に立った。
頭に『?』がたくさん浮かび上がったが、お気に入りPの1人現実逃避Pが作ったDIVAの最新追加曲「アンハッピーリフレイン」を、前作までにミクのモジュール42個、レンのモジュール19個集めた僕は、早速個別設定を完了させ、HARDを選ぶ。
前作は身長のことで、少し不満があったからな………どうなってるか、ワクワクするぞ………!
適応能力の高さ、見せてやる。キリト、アラストール、ティアマトー、そして、清瀬さんに……!! この曲、もともと知ってる曲だから!
「っしゃ―――――っ!!」
初回でのパーフェクトクリア(103.57%)を成し遂げ、その場の4人は固まった。
「光汰………やっぱ音ゲーに関しては他の人と一味違うわ……。」
若干引き気味の清瀬さん。そう言う割には、HARDの「キャットフード」で100%越えのエクセレント評価ですね。しかも、ワンSAFE。
EXTREMEもそこそこにクリアできるけど、廃人レベルの人とはプレイ頻度が違うので、クリア平均達成率が74.02%とクリアボーダーすれすれだ。
あんな複雑なものがくると、パニックで手元が狂いやすくなる。ましてや最大難度の「初音ミクの激唱」は特に。
キリトは、モチのロンで目をキラキラさせて次の曲を楽しみにしている。
音楽、ということで2つの光球の反応が上々だ。これは候補が大分絞られてくるかな。
次の曲は、清瀬さんから対戦を申し込まれ、本人が自信ありだという「裏表ラバーズ」をセレクト。
僕は桜ミクと雪ミク2010の組み合わせ。清瀬さんはリンのブラックスターとアペンド。……隆之介の感化、あんたも受けてないか?
それはさておき………、同じパーフェクトクリアでも、あっさりCOOL率の差(96.85%vs92.07%)で、僕が容赦なく勝たせてもらった。
「むっき――――――っ!!」
「ざーまみろ。」
そこまではよかった。
怒った清瀬さんは、近づいてきていきなり右手を振り上げると、
「もうちょっと手加減してもいいじゃないのよ―――――――っ!! バカ――――――――っ!!」
と言って、僕の左肩あたりを狙って……………って、腕の軌道を考えるとそれだけはマジでマズい!! 対面状態でワザと当たるのはマジでヤバい!!
キリトも僕の危機を察して、飛び込もうとする構えを見せたが、そうすれば彼の存在に彼女が感付いてしまう……!
いろいろ考えたせいで初動が遅れたものの、後ろへのバックステップでかわした。
当たらなくてよかった………と安堵したのも束の間、清瀬さんは何かを疑う表情で僕を見てきた。
「あんた………そんなに身軽だったっけ? それに………………男じゃあり得ない柔らかい感触が中指に…………。」
「………!」
「かと思えば、なんか腕に別のものがぶつかった感じもしたし………あんたなんか秘密にしてない?」
「…き、気のせいじゃあないかな~? 久しぶりで少し興奮してるんじゃないの??」
お年頃の女の子は、こういうことで変な方向に思考を飛ばしやすいらしいから、逃走のチャンスを作るために使わせてもらった。
果たして、思惑通りに清瀬さんは顔を赤らめ、うろたえだした。
「へ、変なこと言ってんじゃないわよ、ば、バカッ…………」
「荷物多いし、僕はこれで。楽しかったよ。」
「あっ…………待ちなさいよ………本当になんか隠してるでしょ!」
小走りでそのゲーセンを後にする。もちろん清瀬さんを置いて。
「危なかったな………あいつ文化祭にくるつもりじゃ…………」
力なく僕が独り言ちると、キリトも項垂れるように首肯した。
「認識だけを改竄することに特化したシールドらしいからな………一度疑われたからには事実判明まで持ち込むぞ。……俺もぶつかったし…………。」
僕は、キリトの昨日の言葉を噛みしめるように思い出した。
声はまだどうにかなっているものの、容姿面が崩れ出したらそっちに気付くのもあっという間だろう。
2人で落ち込んでいると、午後中黙りこくっていたアラストールが口を開いた。
「それは時が解決することだ。優先することを間違うでないぞ。」
自身の経験をもとにして言っているのだろう。自然と隠し事はいつかばれるものだと。本当に隠すべきでない人にはばれるんだ、と。だから、今は敵との戦いに集中せよ、と。
そのことを同時に理解し、僕とキリトは吹っ切れた。
「ありがとう、アラストール。目の前のことでパニックしてたよ。」
「俺もだよ。」
清瀬さんとのことは、なるべく忘れて過ごそうと決めた。
ただ、あれのせいでちょっともの足りなかったから、この後未練がましくもう3回(計6曲分)を別のところで遊んで帰ったのは、情けなかったが。
◇◇◇
闇に包まれた広い部屋の中に、横長い机が1つある。
そこに1人の少年が、腕と足を組んで座っていた。
そこへ、大柄な男の足音。少年へ近づいていくようだ。
何をするのか。誰もが知りたいことだろう。
男の足音が少年の前で止まった。緊張が高まる。
すると、男は少年に対して跪いた。
「リーダー、この世界における最も警戒すべき戦士らの情報を入手し、彼らと対極の影の戦士製作のための基礎データに組み込み終えた。次の指示を。」
少年はどうやら男の上司のようである。
「『ソードアート・オンライン』の結城明日奈の姿の奴の情報を開示してくれ。」
「は?」
男が間抜けな声を出した。彼のリーダーが戦士を指名することはとても珍しいのだ。
それと同時に、侵攻部隊の優先排除リストに掲載されることも意味する。
「彼の急成長が著しいと、へレイオナから聞いているんだ。果たしてどんな奴か、俺は興味があるんだ。」
「は、はっ。」
急いで男は天井から吊り下がったモニターにSAOの結城明日奈の姿の戦士………佐々倉光汰のことが映し出された。いつ調べたのだろうか。
ここでは日本の法の下だとプライバシーの侵害で訴えられるレベルの事が当然のように行われている。
「へえ………。なかなかなもんだな……」
少年は小声で称賛の声を挙げ、舌なめずりをした。
「完全に女にしてやりたいぞ……! もういい、電源を落とせ。」
「はっ。」
「それから、そいつは俺の許可なく殺すなよ。破った奴は俺が直接制裁を加える。わかったな?」
「ははっ!」
「よし、持ち場に戻れ。」
「はっ。」
………着実に彼らの言う、光汰たちと影の戦士の対決計画が進んでいた。
あの3日間は、そのための準備期間だったのだから。
それを光汰やフィオナはおろか、誰も知らない。
◇◇◇
「びえっくし!!」
自室に戻った途端、僕は(“閃光”アスナの姿で)盛大なくしゃみをした。誰かが噂しているのだろう。
鼻をすすり、気を取り直して『回収』した双子の光球の出典・人物名をネットで調べる。
えっと、検索ワードは………音楽、悪魔、双子……でいいか…………。
「―――――――――――ッ!!」
急にゾクッと震えた。………不吉な感じだ。
だがしかし、それきりで何の変化もない。………気にしないでおこう。
さて、先ほどの検索結果を確認しようか。
なになに………「ToLOVEる―ダークネス」の………ツインテールが次女のナナで、おしとやか女子で実は策士が三女のモモか……………。
他にも、ナナとモモの姉で天真爛漫なララ、しっかり者の小学6年生の結城美柑、戦闘アンドロイドチックなヤミさんこと金色の闇、天衣無縫すぎて周りを振り回す、黒咲芽亜、高校の風紀委員長の古手川唯、彼女と同じ高校に通う西連寺春菜の計8人がメインヒロインか。
一見しただけで判断するのはおかしいだろうが、僕的には一位美柑、二位ナナ、三位モモだな………!
ララやメアはちょっとこの記述だけでも、天然ちゃん系だとわかるからしっくりこない。
ハレンチなことに厳しいくせに、自分も妄想しちゃう唯。そしてマジメそうな春菜。何だか少し根暗そうに見えるヤミさん。
………個性が強すぎるキャラクターがわんさかいるな。
ミクやSAOが好きで、PSvitaを手に入れてるし(今は封印状態だが)、ゲームソフトも複数持っている。………これも今後の購入対象にしとこ。
む………! ナナとモモ、あのツインテール馬鹿の幼馴染と同じ誕生日だ! それにララは七夕!? 後者は明らかに意図的だな、おい!!
一方で僕の一押しの美柑は11月3日か。
1人心の内でそんな漫才じみたことをしていたら、後ろからスースーと僕のパートナーが眠りだした音がした。
その光景にムカついたので、ちょっくらイタズラを仕掛ける。
さっき手に入れたモモさんに姿を変え、彼の頭のそばに座る。そして、慣れないせいで変にむず痒い悪魔の尻尾でキリトの顔を突っつきまわす。
するとムニャムニャと寝言を言いながら、身体ごと背けられた。
僕も負けじとイタズラし続けようとした、その時だった。
「ダァ―――――――――――――ッ!!」
いつの間にか起きていたアムス=ラムスが僕の中から―――こういう表現しか出来ないんだよ―――飛び出し、Uターンでキリトのお腹へ突撃。
「ふごっ!?」
あまりにも可哀想な絵面が出来上がり、事の発端を作った僕は申し訳なくて、彼から視線を逸らした。
ウェイクアップコールならぬウェイクアップ頭突きを喰らって、キリトはただ今絶賛悶絶中。
不慮の事故だぞ、いきなりアムス=ラムスが飛び出すなんて思ってなかったからな!? と心の中で弁解する。
「『同居人』が多いと、こういうことがあるものだ。慣れていけ。」
「至極当然」
見守っていたアラストールとティアマトーから、本日2つ目の深イイお言葉をいただきました。
……っていうか、あなたたちの場合、シャナvsヴィル、シャナ&ヴィルvs悠二のバトル2つだけでしょ?
“紅世の王”2人にわざわざツッコむわけにもいかないので、黙っておいた。……今の僕の命は2人が握っているとも言えるからだ。
アスナやシノンなどの通常の人間だとフレイムヘイズよりダメージは大きいし傷が残りやすい。バーサクヒーラーでも不安が残る。
しかし、フレイムヘイズはセルフヒールのように傷の回復があり得ないくらいに早い。
シャナは胴体前面をソラトに斬られ、ヴィルは片腕をもぎ取られることがあったが、いずれも回復までの時間差はあるものの、元通りに修復」されている。
フレイムヘイズは“契約”で生きながらえているが、もちろん到底治癒できないほどのダメージを負うと“契約”解除する者が多い。
………何だか湿っぽい話になってしまったから、話を変えよう。
やっと痛みから解放されたキリトが、あぐらをかいて困った顔をしている。その膝の上にアムス=ラムスが。
僕は今後の事を考え、貧乳気味のノエル(ブレイブルー)へ姿を変える。
………今更だが、慣れてしまっているものの、よく使う姿には特に愛着を覚える。アスナ、シノン、シャナ、そしてこのノエル。
シノンは小説で気に入っていたから、僕だって彼女みたいなスナイパーに………なんて変な希望がこういう形で実現。
うれしいよ、これはもう。……………変態と思う人もいるだろうな、こんな理想を言っちゃえばさ……。
「おい、なんでGGOのシノンになってるんだよ!」
「へ?」
キリトの言葉に反応し、夢想にふけっていた僕は、慌てて中学の時に買わざるを得なかった手鏡で今の己の姿を確認する。
「……………うぇ」
本当になっていた。考えている内に名スナイパー、シノンに。
ま、こういうこともあるよね~…………。こういうまぐれが。
……っつーか、奇声出すなよ、自分。
「危険」
不意に、ティアマトーが強い語調で言った。何か問題があるのだろうか。
どうしたの、と聞いてみたが、本人が黙ってしまったため、それ以上聞けなかった。
…若干不服だ、不完全燃焼で。
「かわいい……」
「ひやぁっ!?」
いきなりのキリトの発言に再び飛び上がってしまう。しかも、また「かわいい」に対して乙女レベルの反応で顔を赤らめて。
「………。」
やめてぇ! と叫びそうなのを抑えて怒りを先行させ、キリトに全力ビンタをお見舞いする。
ぐふっ、という声と共に大げさに後ろへ倒れ込んだ。それを見てケラケラ笑うアムス=ラムス。
そして、キリトに先ほどの発言の事情を聞くと、僕が口を無意識にとがらせていたらしく、その仕草がか…かわいい……と思ってしまったとのこと。
どんだけ異性意識を高めてるんだ、バカキリト! シノンだけど本人じゃないし! 中身は男だぞ!?
反論して勘違いをされるとそれまでだ、と考えた僕は白けた目で彼を見てやり過ごした。
この茶番でそこそこ体力を費やした。……後に響くぞ、これ! 精神的に!!
この………馬鹿野郎がぁ!! ……あれ、これって「ガンダムSEED」のアスランのような発言………。
さっきから途方もないスケールの妄想のしまくり……。そのせいで、キリトにツッコまれたし……………。
………………何やってんでしょ、僕って。
この日は塾が無いのをいいことに、寝るまでの間僕はのーんびりと過ごし、ふて寝した。……トレーニングは省かなかったが。
翌日から、放課後の文化祭への準備が、クラスによっては本格化し始めた。
僕らのクラスもその一例だった。
一昨日までの3日間のことが嘘のようにぴたりと止み、仮の平和を取り戻していた。
敵の奴らが何を企んでいるのか知りたいが、祐太郎や純はあまり気にしていないようだから、僕もやや開き直って文化祭モードだ。
…………クラスメイトの親の知り合いにトップクラスのメイク師がいて、わざわざ文化祭の2日間ともメイクしに来てくれることになったのは意外だったが。
それも、抜き打ち。看板“娘”となりそうな数名に限られた、嫌な意味で光栄なことだ。
これには、候補になる気満々の奴や、選ばれたくない奴(僕は後者だが)の2つに分かれる。
………僕の知る限り、アピールする奴の方がダメだったことは時々ある。
僕はあまり目立ちたくないし、アシスト側でいたい人だから、立候補するのは苦手だ。
しかし、このネガティブ思考が今年の文化祭では仇となった。
8月晦日になり、2日前に撮ったコスプレ写真の選考に、なんと出店に端っから否定的だった僕と祐太郎が残ってしまったとわかったのだ。
そのあまりにも早い決定に、僕は開いた口が塞がらなくなった。
「お前はともかく、何で俺まで……………」
決まった時の、いかにも絶望感をにじませる祐太郎の言葉が印象深かった。
9月の2日、つまり明後日にまずクラスメイトにガーリッシュメイクのサプライズお披露目となるらしく、僕はそっちの方に肩を落とした。
その数日後の文化祭での公開処刑の前哨戦だと思えたからだ。
一度は拭ったはずのネガティブムードが再来する。
その日は、一応文化祭成功を願う打ち上げの形を取っているから、なおさらめんどくさい。
何故学校行事に面倒なお祭り的なイベントがあるんだ!
開き直るにしても、モチベーションのアップダウンを繰り返すと気力が持たない。
一時期は学校のイベントに超ポジティブだったこともあったが、表立って目立ってしまうミスをしてしまってからは、ご覧の通りヤルキナイネンさんに。
あの事件から、僕は表で目立つよりも裏方に徹することに向いていると自覚したのだ。
その日の夜、どこから情報を仕入れたのか、フィオナさんが純が眠っていることを利用して僕らのトレーニングにやってきた。
そして、密やかな僕らのトレーニング場に着くなり、フィオナさんはとんでもないことを言った。
「キリトさん、光汰さんにダークリパルサー持たせてもらってもよろしいですか?」
「「え」」
2人とも目を丸くして次の言葉が継げないうちに、さっとフィオナさんはキリトの背にあったダークリパルサーを鞘ごと取って、僕に放ってきた。
「………あれ?」
思っていたより少し軽い。なんで…………僕がキリトの剣を持てる……?
「やはり、フォーム同士の相乗効果が出てきていますね。」
「そ、相乗……効果…ですか…………?」
なんだ、キリトが目を点にしてる時点で彼も知らない機能だぞ。
2人して黙りこくっていると、フィオナさんが解説を加えた。
「お伝えし忘れていましたが、姿を複数持っていると自然とプラス方向でお互いの能力を補填し合う機能をウォッチに付与しておいたんです。今後のため、というのが最大の目的です。この剣が持てるのは名スナイパーのシノンの筋力が主に働いてますね。……しかし、かなりの低確率でマイナス補正が発生することがありますが。」
「!」
フィオナさんの言葉に僕はピンと来た。…………ウルティマラティオ・へカートⅡだ。
あの狙撃銃はかなりの重量があるし、それを担ぐためのSTRを若干上回っていたシノン(GGOアバター)ならではの効果だ。
ちなみに、今はSAOアバターのアスナ様だ。もちろん、トレーニングのための状態。
「新しい武器を作っていこうと思います。………その前にひとまず今はここで見学させてもらいます。お2人がどんなトレーニングをしているのかを。」
ここで、僕は一応の報告犯が誰か解った。
「……………キリト君、報告したのね。」
怒りがこもった笑顔をキリトに向ける。するとキリトは一度体を震え上がらせたが、こくこくと頷いた。
「………バカ」
そう呟き、僕は鞘からランベントライトを抜いて構える。そしてダークリパルサーをキリトに返す。
さらに、思いつきでSAOバージョンのシノンの短剣を瞬時に腰に装着し、左手に持って二刀流に。
「!!」
キリトが意外そうな顔して僕を見ている。僕の二刀はどちらもスピード特化の軽く華奢な剣だからだ。
重量級のエリュシデータとダークリパルサーに対抗するには、いささか心もとない。
しかし、ここ数日の打ち合いでは、キリトが一刀であろうと二刀であろうと、僕はこの2本の剣のどちらかのみで大方対応しきれている。……残りはステップ回避だけれど。
ならば、2本同時ならもっと防御力があがるのではないか。そう考えてのこの構えだ。
「………独特な構え方ですね、二刀にしては。」
細剣系の細身の剣とダガー系に慣れたからだろう、緩い立ち姿で、利き手のランベントライトは下段、左手のシノンの短剣は中段の構え。
右手のエリュシデータを中段に構え、重心を下方に修正したキリトとは少し違う。
フィオナさんの言う通り、独特な構えかもしれない。
二刀装備の僕に手加減するつもりか、キリトはエリュシデータしか構えていない。
「いつも殺すつもりでも、殺さないくらいの本気でやってるじゃない、キリト君。手加減しないで。二刀流は一回やったことあるから、大丈夫よ?」
「そんだけ言うなら…………仕方ない、こいつを使わせてもらうぜ。」
ダークリパルサーを今日初めて抜き放つキリト。
「剣の修繕は私がしますから、とことんやってくれて構いませんよ~。」
このフィオナさんの遠慮なく剣を交えろという言葉が合図となり、お互いに勢いよく地を蹴って、僕らの本気のトレーニングが始まりを告げた。
その後、僕にはあまり自覚がなかったが、フィオナさん曰く相当な高速の剣撃のやり合いになっていたらしい。
パリィとソードスキルとステップ回避しかお互いにやっていない気がするが。
……もしかしたら、キリトと同じ思考の加速が行われたのかもしれない。………キリトの剣の軌道が見えていたから。
僕の両手の剣は、全力でキリトの斬撃をパリィをしたせいで、ちょこちょこ刃こぼれしている。これも証拠の1つだろう。
エリュシデータもダークリパルサーも少し損害が出ていた。
せっかくの休戦期間だから、ランベントライトを含め4本とも修繕に出すことにした。………フィオナさんはどのくらいで終わらせるのかが気になるけど。
例の認識改竄型シールドにより、帰宅後のキリトと同時入浴は避けられず、髪が最も洗いやすい詩乃(SAOアバターver)の姿に変身する。
力・能力の相乗効果。特にこれといった筋力トレーニングはしていないが、改めて考えると確かに前より筋力が上がっていることが確認できることがあった気がする。
………それを脱衣所でしていたから、遅れてきたキリトにジト目で射竦められてしまった。
「……何してんだよ、おい。」
「わわっ、み、見るなぁ!」
この家の他の人には聞こえない程度の音量でキリトに怒鳴り、鉄拳を喰らわせる。
ちなみにアムス=ラムスは既にお休み中で、アラストールとティアマトーはパジャマ用の僕のジャージの上にいて、キリトと僕の会話を黙って聞き続けている。
「うごご…………理不尽だろ、これ………!」
「単なる確認だよ、確認! 何勘違いしてんの!! 気味悪い! 僕を女として見るな!!」
ラストの文句は紛れもない事実であるのか、キリトは顔を赤くした。反論をしようとしているが、上手く言葉に出せていない。
そんな彼をジト目で見返し、僕はさっさと浴室に入った。
そして、僕はむくれ顔、キリトは困惑顔のまま、湯冷めする前に部屋に戻った。
「痛いとこ突かれたからって、いつまでもうじうじしてるんじゃないよ、キリト。」
「何故そんなに上から目線なんだよ………。」
「だって………この数日で何回『かわいい』って言った? 心まで女になるのを防ごうとしてるこっちの身にもなってよ。………バカキリト。」
ま、いじり返した時のキリトの反応が面白い。やり返しの糸口をつかんでやったぞ。
……………女の子の姿をエンジョイしていることだけは、グレーゾーンだけど。それでも、完全に女になりたくない思いも事実だが。
そこから他愛ない小言の言い合いを繰り返し、その挙句の果てには、僕ら2人とも疲れてその場で寝てしまった。
ナナさんやモモさん、エミリアも上手くローテーションして使っていきたいな…………。
翌朝、詩乃の姿のはずが、彼女ではない微妙な違和感を覚えて目が覚めた。
依然としてキリトはぐっすり寝ている。そして、その横には昨日の夜フィオナさんに修繕を頼んだ剣全て。
剣2本を収納し、キリトを放置して1階の洗面所に行くと、違和感の原因が判明した。
「あれ、なんでモモさんになってる?!」
無意識の変身はこれで2度目。そのことについ鏡へ前のめりになってしまい、男として目の行き場に困るところが露わになる。
………っていうか、寝巻のジャージのチャックを開けっ放しにして寝てた僕が悪いんだが……。
行き場の無い思考は尻尾まで張り詰めてしまっている。
この嫌なムードを払拭するために、今日は雪ノ下雪乃の姿で登校しよう。………原因不明だし、この現象。
「はぁ…………。」
超近距離の対面状態で触れられない限り、僕の姿は周囲に露見することはないから、制服(+ネクタイ&ベスト)に着替えた。それでもまだモモさんの姿。
そして、いつもの分担された家事をこなしていくことにした。………足元が確認しにくい姿があるもんだね、この世には。
生憎の雨で、助かったっていえば助かった。一応、家の者しか見られないからな。家を出るまでだけだが。
物理的に接触しなければ大丈夫なのだ。………………そう、ぶつかりさえしなければ。
ふと、2階のある部屋のドアが開く音がして、僕はぎくりと身体を固くしてしまう。
とん、とん、と軽いが慎重な足音が階段から聞こえてくる。……むむ、この足音は。
間もなく台所に現れたのは、5人兄弟のうち、唯一母親が同じ妹で中学3年生の奈々実だ。
「………おはよう、奈々実。」
「……ん、おはよ、お兄ちゃん。…………最近ヘンだよ。」
「う………、そ、そうかな?」
出し抜けに痛い所を突かれ、口に含みかけていた牛乳を吹き出しそうになった。
「ど………どんなことが変かな、僕。」
「うん、変。私にも言えないような事、隠してるでしょ。ビクビクしてる。近くにいるとね。」
「ひゅう……………」
わざと強がってみるが、何か察されてるかと考えると落ち着かない。
背中に冷や汗が大量に流れている。
あり得る選択肢の1つを聞いてみよう。
「き………清瀬さんに聞いたのかな……?」
「お兄ちゃんのただ1人の女の子のお友達から? 違うよ、私自身が感じたんだよ?」
「うげっ………」
なーんだかす―――っごくマズい傾向ですよ………………。
奈々実は天然ちゃんなのだが、洞察力が半端なくあるため、時々してやられることがある。その中でも、今回はとびきりのピンチだ。
軽くパニックを起こしていると、奈々実に背中側へ回り込まれてしまった。
だが、どぎまぎさせられるだけにもいかないため、すかさずKoBアスナに変身しバク宙で回避。距離を取る。
「もう、逃げないでよ、お兄ちゃん!」
その言葉に反応して、奈々実からさらに離れようとバックステップをしようとした、その時。
何かを踏んづけ、漫画の如くスルンとこけた。
ヤバい、このままじゃあ………!
触れられるのはどうしても避けたいため、とっさの受身で姿勢を立て直す。
が、突然視界に奈々実の手が入った。危険なところを狙っているのがすぐわかった。
奈々実は左利きだから、伸ばしていた左手を右手で掴む。それを一気に引き寄せ、背面蹴りで彼女に膝カックンをさせる。
ひるんだところに右手で奈々実の口を塞ぎ、僕は彼女の耳元で囁いた。
「今特にあの2人に本当の事情を知られるわけにはいかないんだ。騒がないでくれるかい?」
「ふぐ!?」
僕のこの一言で奈々実は黙ってくれた。………勘のいい実の妹に隠し事はしきれない。その思いは既に限界に達していた。
とりあえず、瞬間的に彼女の気道を強く押さえ、気絶させる。
「アラストール、ティアマトー、彼女に本当のことを言った方がいいかな…………?」
キリトが眠っているから、一番身近な2人に相談すると、
「貴様がいいと思うのなら教えればいいと思うぞ。」
「適宜判断」
お墨付きをいただいた。
「…………そう。じゃあ………!」
決意は固まった。ということで、奈々実をお姫様抱っこで彼女の部屋に連れていく。
「う…ううう…………」
奈々実が目覚めたのは、それから20分後。
「………あら、もう起きたのね、奈々実。」
血盟騎士団の制服のアスナ様(何度も言うがこれはベース)の姿とモードで、僕は待っていた。
いつもの服を着た状態でも良かったが、こっちの方が伝わりやすいと思ったからだ。
もちろん、目の前の紅白の服の剣士が僕だと思うはずもなく、奈々実は目を点にしている。
「だ………誰なの? それに、何で私の名前知ってるの?!」
当然の言葉が奈々実の口から出てくる。僕はすぐに弁明する。
「静かにして。………あの2人に、このことを絶対に知られたくないの。私の妹なら、分かってくれるわよね、奈々実。」
「!!」
これで奈々実は、察してくれたはずだ。自分の兄が目の前に立っていることを。
僕はKoBの制服から、学校の制服に服装を変え、それに伴ってモードも通常の僕へ。
「これでわかっただろ? 僕が近頃おどおどしてた理由。」
「う、うん………」
「まだ信じきれない感じだね、その顔。ま、当然っちゃー当然だけど。」
「…………でも、びっくりしたよ、お兄ちゃんがそんなことになってるなんて…………。」
「……………あの2人に怒られることしたと思ってたんだ……。」
顔を引きつらせて僕は笑ってしまう。でも、怒らせてしまうことをしてるのは事実だけど。
よそ見してると、奈々実が僕の体のどこかを突いてきた。
「ねえ…………この姿、お兄ちゃんが気に入ってる『ソードアートオンライン』のメインのヒロインだよね………?」
「そうだ………って、胸はダメェ!!」
胸を両手で守り、顔をまた赤くしてしまう。なんて乙女チックな反応だよ。
慌ててシャナに変身。一気に視点が下がる。
「と、とにかく、これは僕と奈々実、2人だけの秘密だ、分かったな!?」
「………分かったけど、お兄ちゃん、後ろに男の人。」
「ひゃぁ、キリトッ!?」
いつの間にか起きていたキリトに、またまたジト目で見られていた。
「…………最初っから聞いてたな…。」
「ん、まあな。まさか、こんなとこでこの家の複雑な関係を知ることになるとは思ってなかったけどな。」
気持ちを切り替えようにも、切り替えきれない。
「…………………この事は、この5人の秘密だよ…………?」
僕は力なく、それしか言えなくなっていた。
予定通り、僕は今朝のことは頭の片隅に留めておきつつ、雪ノ下雪乃の姿で登校し始めた。
しかし、家から出た途端、嫌な気配を感じ取った。…………清瀬さんだ。
明確な意志を持って秘密をうち明かした奈々実とは一切事情が違う。
キリトに目配せをし、傘を持ちつつ僕は、彼がなるべく雨に濡れないようにして走り出す。
そして、足元の情報だけを頼りに、駅へと急いだ。
万一走る速さにマイナス補正がかかっても、大丈夫なように。
………明日はもっと僕にとってマイナスなことがあるが。
「!!」
こんなに急いでいる時に光球を発見。しかも、今回はかの『艦これ』の電と利根!
さっと『回収』し、さらにダッシュする。
幸い今日は清瀬さんに追い付かれること無く、学校に辿り着いた。
しかし、思わぬ出来事が僕を襲った。
「やっほ~、元気ぃ?」
「わあ、ララ!?」
「こっちもいるよ~?」
「ぎぃやぁあああああ、メアァァ!?」
純(ララ)と祐太郎(メア)のドッキリ。………これにはさすがに頭に来た。
「フォーム・チェンジ…………ナナ=アスタ=デビルーク!!」
少し涙目になりつつ、ナナに変身。
「………2人ともこっち来い……………!」
「「ふぐっ?!」」
制服の襟を引っ掴んでズルズルと引きずり、校舎裏へ(純の10数m上にいるペケはとりあえず無視する)。
カバンと傘をキリトに渡して2人を乱雑に離し、まず純にマウントを取る。
「今の自分の状況を考えて行動しやがれボケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「ぎゃあああああああ、やめてくれええええええええええ!!」
悠二もフィオナさんも見ているが止めに来ない。
それをいいことに、僕は流れで一方的なキャットファイト………を、始めた。
祐太郎はその風景を見て頭が冷えたのか、ずれた制服を正し始めている。
「要するに………手に入れたフォームを俺たち4人に見せたかっただけか。」
勝手にまとめに入っているキリトが独り言ちているのがかすかに聞こえた。
それを契機に僕は純へのマウントを解除。ララの姿のせいで、彼の制服が所々はだけている。
メア姿の祐太郎はもう知らんぷりしているが、僕のやり返しはまだ終わったわけではない。
「フォーム・チェンジ、モモ=べリア=デビルーク。」
今度はモモさんに変身し、ノーガードな祐太郎の片足を払って転倒させ、みぞおち辺りに手刀を食らわせる。
「ふごっ!?」
「………からかうにも程度を見極めてからやれ、バカ。それに、平和ボケにはまだ早くないかい?」
返答を待たず、小声でコマンドを唱えて利根に変身し、僕は彼女のツインテールをいじくり出す。
それに反応し、純が何かブツブツと言っている…………のを視界に捉えたその時だった。
……なんと、金剛に変身したのだ。……見せしめか、この野郎。
「……………他の艦娘にもなれるのか?」
僕は若干イラついた状態で純に聞いてみた。………すると、僕の予想とは違い、彼は首を横に振った。
ここで、僕はやり返し第2弾のチャンス到来、と思った。再び小さい声で変身コマンドを唱えて電に。
………シャナと同じくらいに視点が下がった。
羨望の視線が電となった僕に刺さってくる中、いじられる前に先手を打つことにした。
「フォーム・チェンジ、雪ノ下雪乃…………。」
ヤルキナイネンさんに変身し、キリトと共にクラスに向かった。
新たな“光球”の発見も、敵襲もそれから一切なく、今日の第2学期始業式は終わった。
「おい、光汰、祐太郎。」
階段を下りかけたところで、純に引き留められる。何の用事があるのだろうか。
そう思って彼の口から用件が飛び出すのを待っていると、彼は近づいてきて僕ら2人の耳の間でこう呟いた。
「今日メイクアーティストの人と、メイクの事前決定をするらしいからさ、フィオナさんが特別に、試作品の他人が感じるこっちの体の感触まで誤魔化せる奴くれるってよ。」
「………何故急に?」
僕は不思議で仕方なく、質問した。
「元クラスメイトがお前らが“罰ゲーム”を食らうって言ってたのを、フィオナさんが気の毒に思ったんだよ。ですよね、フィオナさん。」
純が僕の質問への返答に、フィオナさんへの確認を織り交ぜて言った。
「はい。その品がこちらです。効能は最大で12時間ですが、急仕込みの試作品なので効能が不安定かもしれません。予備も合わせて4×2+1の9錠渡しておきます。」
言葉なくして立ち尽くす僕と祐太郎。ありがたくて逆に話せない。
「ほら、今のうちに1つ飲んどけよ。」
「う、うん………。」
「お、おう……。」
純に催促され、その謎めいた錠剤を飲み込む。
すると、内から突然ドクン、と強い痛みが走った。
それは祐太郎も同じで、痛みに呻いている。
悪寒がし、冷や汗が変に垂れてくる。
そこから、その症状が治まるまで数分を要した。
しかし、何も変化は感じない。依然としてゆきのんの姿のままだし。
「何も変わった気がしないけど………大丈夫なんです? これ。」
素直にフィオナさんに訴えてみるが、試作品ですから、とスルーされた。
それ以上追及できず、しぶしぶ僕と祐太郎は某メイクアーティストさんとの待ち合わせ場所に行った。
疑ったが、効果は表れていた。
元の姿も幾許か女っぽいところがある僕だけでなく、筋力が僕よりいくらか上の祐太郎も、触られてもアニメのヒロインの姿だとばれなかった。
その証拠に、
「男の子って感じがありありだけど、メイクのやりがいがあるわね~」
などと言っていたのだ。何の疑念も抱いていない口調だった。…………どんだけすごい科学力まで持ってるんだ、フィオナさんは…。
その帰り道。
「な、祐太郎? 明日のアレって、下校時間になってすぐだったっけ?」
「ああ、そうだぞ。」
「キリトたちは当然同伴、めんどくっさ………。」
「おいおい、開き直ったんじゃねーのかよ。」
「うるさい!」
後ろでベラベラとトーク中のキリトと悠二を他所に、僕と祐太郎は明日のことで話し合っていた。
いざ嫌なことに目の前にすると、僕は面倒くさがりな性分が思い切り主張してゲンナリしてくる。……それと戦いは別の話だが。
文化祭まであと1週間もないことが、余計めんどくさくて嫌な気分に拍車をかけている。
さらに清瀬さんの追跡が気になって、心の休まることがない。
「戦いもそうだけど、今は文化祭に集中しようぜ~」
「バカッ、人目はそれなりに気にしろ…………!」
今朝僕にシメられたばかりなのに、メアの姿だし。ホントに見事な位に平和ボケ中だ、祐太郎は。
………それに少ししゃべり方が、メアっぽかったのは気のせいだろうか。
「――――?!」
突然、人並みならぬ強い殺気を感じた。が、ゲネオスやへレイオナのものじゃない。
祐太郎との会話を打ち切り、僕は周囲を見渡した。
疑念の一言も発さずにいる祐太郎にキリト、悠二やアラストール、そしてティアマトー。
……しかし、その殺気の発生源は見つけれなかった。その代わりに敵に奪われてはマズいものを発見した。
ライトを当ててみても、誰なのか分からない。
同じ制服を身に纏っていて、剣を携えている少女が2人。祐太郎も目を点にしているから、よっぽどマイナーなライトノベルなんだろう。
片方は金髪で左のサイドポニー。プロポーションはまあまあいい方かもしれない。勝気な性格が伝わってくる目つきしてる。
もう1人は水色っぽい髪でストレートロングで…………貧乳。クールな見た目に合ってるといえば合ってる気がする。
僕は後者に見惚れている隙に、祐太郎は金髪サイドポニーを『回収』してしまったから、仕方なくそれに従った。
それから、何事も無く僕らは自宅に帰ることができた。……これで、あの忌まわしい明日の打ち上げに備えられる。
高校に入ってロクに音楽の授業もないし、クラスメイトにも伝えていなかったが、僕は中学時代5教科に加えて音楽だけは3年間最上成績をキープしていた。
今の十八番は、「千本桜」と「ワールドイズマイン」。自分の無理ない音域だけで歌っているつもりだったから、カラオケではボリュームゾーンの得点が出ると思っていた。
しかし、面白いように80~90点台がバンバン出たせいで、よく天狗になりかけたものだ。
………さすがにcosMo@暴走Pさんのあの超高速曲シリーズには、痛い目に遭わされたが。……あんなの、よくカラオケに収録されてるなと近頃よく思う。
ゲームで十分過ぎる。
………考え方によっては、明日の打ち上げは楽しみになるのだけれども…………コスプレ+メイクのサプライズお披露目があるから、イマイチ気分が乗らない。
今の僕の複数の姿は、決してどれもコスプレなんかではない、カウントしてたまるか!
周囲にオタクだと見られているが、身の程を弁えないコスプレだけは自分にとっての禁忌物にしていた。………そう、特に女装。
それだけは身の破滅だと、世迷いごとを人目気にせずほざくのと同等以上の堕落になる、と。
オネェにはなりたくないよ! 元の男の姿に戻っても、心は乙女なんてことになると想像すると、かなり怖い!!
「やっぱ文化祭は嫌いだ…………」
それなりに丁寧に保管しているメイド服のコスプレを眺めながら、僕は独り言として呟いた。
服の中にブラやパッド入れがあったし! 僕が今のように女の姿の時にしか役立たん機能があったし! 自棄起こすぞ、コラ、あのクソったれ委員長!
文化祭が終わったら、これネットオークションで売ってやるからな!
それに、僕が怒りのオーラを立ち昇らせているせいか、キリトはわざと寝たふりをして話しかけてこない。
関わると、八つ当たりされると判断したんだろう、勘の良い奴だ。まさにそうしたい気分だし。
勉強じゃ払拭するのは無理だ。…………問題が分からなかったら、余計にイライラする。
仕方ない、ネットで好きなボカロを聴いて心を落ち着けるか。まずは、「FREELY TOMORROW」からがいいな。
あの曲、本物の人間が歌ってるような感触があるから。
翌日の放課後は、僕が自棄を起こして本気で歌ったせいで、ボカロとアニソンのオンパレードになり、のどが疲れた。
その上、僕と祐太郎のメイクとコスプレに周りが熱狂していたせいで、外以上に暑かった。
でも、あのフィオナさんの『試作品』なる薬で、ボディタッチされても気付かれなかった。
……………やはり、フィオナさんの不思議と高度な科学力にはあまり言及しない方がいいかもしれない。
さて、これであとはもう4日後の文化祭(2日間開催)だけとなった。
………しかし、何であいつら出撃を控えてるんだろう?
こっちのことを探っているとしても、こんなブランクはできないと思うが。
なんか怪しい………………。
まさか、完全に平和ボケした時を狙うためとか?!
出てきたのは、光汰の中学時代の知り合いと彼の妹でした。
元より隠すのは下手な光汰は実の妹にだけは真実を教えました。
さて、次回は文化祭ラストです。
よろしくお願いします。