新緑の火星の物語(特殊な番外編シリーズ) 作:子無しししゃも
第一回裏アネックス物まねコンテスト、俊輝の第二回戦の相手はまさかの拓也!拓也の『U-NASA第四支局所属中型有人戦略宇宙艦「九頭竜」』は審査員の高評価を攫っていった。しかし、それに対して不敵な笑みを浮かべる俊輝。その逆転の一手とは!?
―早く降りてこーい
「んん……もう朝ですか……」
窓の外から差し込む日差しで、わたしは目を覚ましました。
朝は弱いのです。ええ、とっても。
何故朝というものが存在するのでしょうか。夜の闇の中で静かに眠る、これに勝る快楽がありましょうか? いいえ、ありませんとも! 夜がずっと続くとどうなるか? 知らないんですか? 夜が続くんですよ!
むー、頭が回っていません。何やら意味不明な事を言ってる気がしますね。
―おーい
では、自己紹介でもしましょうか。わたしはエリシア、この街で家族と暮らす16歳です。どこの街か? どこでしたっけ……まあなんでもいいと思います。誰に自己紹介をしているか? 前に本で読んだのです、自己分析は頭をはっきりと……
「早く起きろっつってんだろ!」
何という事でしょうか。年頃の女の子の部屋のドアを勝手に開けてこれまたガラの悪そうな男の人が入って来るではありませんか。怖いですね、警察に通報せねばなりません。でもいいえ、その必要はないのです。
「バイロンお兄ちゃん、もう起きてますよ……」
何故ならこの人はわたしの兄なのですから。先ほどから少しだけ聞こえていた声は起こしにきたお兄ちゃんのようでした。
「じゃあ早く降りてこい、朝メシ皆待ってんぞ」
それだけ言ってお兄ちゃんは部屋を出て下へ降りていきました。
お兄ちゃんはともかく皆を待たせてはダメです。わたしも急いでそれに続きます。
「おはよう、エリシア」
「お母さん、おはようございます」
食卓から見えるキッチンでお母さんが振り返り、わたしに声をかけてくれます。
背丈も顔も本当にわたしにそっくりで、時々不思議な気分になります。
「ありゃ、エリシアちゃん髪ぼさぼさだよ」
「ひゃっ!?」
突然の背後からの声と頭に触られてびっくりしてしまいました。
振り返り、声の主を確認……するまでもなく、わかっています。
「もー、綺麗な髪なんだからちゃんと整えなきゃだめだぞ☆」
「恭華お姉ちゃん、やめてくださいー」
「やだー♪」
わたしの髪をかきまわすこの人は恭華お姉ちゃん、バイロンお兄ちゃんと同い年の姉です。
イケイケでピチピチの……とは本人の談ですが、何が何やら。
その距離をずいずい詰めてくるところがわたしは少し苦手です。あと、わたしにないものがあるところとか。
「あー、ずるいです私もエリシアの髪触ります!」
もう一人お姉ちゃんが乱入してきます。わたしにそっくりの、わたしに似てなくて明るい、その姉に親しみを込めてわたしは声をかけます。
「触らないで欲しいのです、0024番」
「ナターシャだよ!?」
このように二人の姉にいじられながら、わたしの朝の時間は過ぎていきます。
「はっはっは、今日も元気で何よりだな、嬢ちゃんよ」
されるがままのわたしに、箒を持ったメイドさんが声をかけてきます。
いつも家のあれこれをしてくれて、わたし達の事を気にかけてくれる優しい人です。
何故男なのにメイド服を着ているのかは謎ですが。
筋肉ですごく服がつっぱってますが。それを除けば、すごく良い人です……。
「ドク……母さん、食器を並べ終えました」
「ありがとうございます、ヨハン君」
一番上の兄、ヨハンお兄ちゃんがお手伝いを終えて席に座ります。
それを合図に皆席に座り、朝ごはんの時間です。
「エリシア、今日は確か授業参観の日でしたね」
食後のお母さんの一言。それで、わたしは凍り付きました。
そんなばかな。何故この事が、トップシークレットの情報が外に漏れてしまったのか?
昨日の、一昨日の、それより前の情報を頭をフル回転させて考えます。
プリント……焼却しました。姉伝い……いいえ、あの人達が知り得るわけがない。では、何故。
「お母さん、なんで、それを」
なんとか声を絞り出し、お母さんの返事を待ちます。完全に隠滅したはずの情報。それを何故、お母さんが。
「ベルトルト先生から聞きました」
私は床に崩れ落ちたい気分でした。ええ、担任の先生、ベルトルト先生。
生物学担当46歳バツ1。化学担当のラインハルト先生とはあまり仲が良くない。少し余計な情報が入っていますが。
教師であると同時に山に経っている研究所の所長でもあり、よくお母さんが物品を届けています。
完全に想定外でした。このルートがあったのか、と。
やたらあの人に会いたがって話をしたがるお母さんの挙動を警戒すべきだった、と。
「へ? ベルトルト先生!? 私見学に行きたいです!」
真っ先にナターシャお姉ちゃんが反応します。あの先生が凄く好きなようで。
「おおー、あたしも学校休みだしいこっかなー」
「可愛い妹の授業参観だしな!」
「貴様が見たいのはエリシアではなくエリシアの可愛いクラスメイトだろう。代わりに私が行こう」
ええ、ええ……こうなるのは目に見えていたのです。だから嫌だったのですよ……
「ふっふっふ、私は授業参観という事で特別にこの衣装をですね!」
そう言って、お母さんはマントを翻すかのようにエプロンを脱ぎます。
……その下にあったのは、学生服でした。
「……」
「……」
「……」
騒がしいわたしの兄と姉は、即座に口を閉じました。お話が大好きな恭華お姉ちゃんは愛想笑いを浮かべ。ナターシャお姉ちゃんは目を背け。お母さんの言う事は絶対、なヨハンお兄ちゃんはただただ沈黙を貫きます。
「うわきっつ」
それに答えたのは、バイロンお兄ちゃんだけでした。
「私、そろそろ出ないと。いってきます」
その空気に耐えきれず、わたしはかばんを持って家を出ました。
「あ……? ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!!」
背後の声は聞こえないようにしつつ、家の門をくぐり外に出ます。
グッドラックです、バイロンお兄ちゃん。
登校中、わたしは考えていました。
どうすれば、授業参観を阻止できるのかと。
わたしの学校でのポジションは、ごくごく普通の目立たない、友達もほどほど、といった感じです。
それが、あの家族がやってきてはどう思われてしまうでしょうか。
ええ、まずいです。非常にまずい。
どうすれば授業参観が中止になるのでしょうか。
まず初めに、ベルトルト先生を暗殺する。
ダメですね、勝てる気がしません。何かの順位とか腕っぷしで負けてた気がします。
次に、学校が爆破炎上する。うーん、具体的な手段が思いつきません。
最後に、世界がピンチになる。ダメですね。
わたしの青春はどうやらここまでのようです。これはもう、奇跡が起こる事を祈るしかありません。
お母さんがまともな格好で来て、バイロンお兄ちゃんが友達をナンパしたりしないで、ナターシャお姉ちゃんがベルトルト先生に熱烈なアプローチをしたりしない。その事を。
無理ですね。やはりわたしの青春はここまでのようです。
でも、どうしようもなくなったらもう祈るしかないじゃないですか。
……そして、何事もなく学校へ。
何事かあってほしかった、というのは流石に贅沢ですよね……
足が重たいです。教室に辿り着けば、時間が経てば、授業が始まってしまう。参観は昼前の授業でまだ時間はあるけれど、それで何ができるわけでもないのです。
「……ねえシロ君、私の下着、知りませんこと?」
ふと耳に入ってきた言葉。それから漂う事件の匂い。私はふとそちらを向きました。
そこにいたのは、体操服の男女の生徒。学年はたぶん3年生の先輩です。時間的に部活の朝の練習が終わったのでしょうか。
女の人の方が、もじもじしながら彼氏さんでしょうか、シロ君と呼ばれた男の人を問い詰めています。
「へ? いや知らないけど……」
「素直に言ってくださいまし」
クールに丁寧に問い詰めようとしていますが、顔が真っ赤です。朝っぱらから何が起こっているのでしょうか。
「いや本当に……ってお前まさか今……」
「わー! それ以上ダメですわ!」
慌ててシロ君先輩が女の人に上着を被せて、二人して保健室に向かいます。青春ですね、とは言っていられない事が起こっている様子です。
そう、問題は、このようなやり取りがそこらでいくつも起こっている、という事でした。
下着が集団行方不明。なんと馬鹿らしい……と言い切れない事態です。
でもだからと言って私に何ができるわけでもないですよね。警察の人が何とかするでしょう。
そうこうしている内に教室に着いたのですが、そこでもクラスの子たちがわいわい騒いでいる様子でした。
やはり、下着の集団行方不明。
何人かの男の子に容疑がかけられているようですが、どの人もアリバイがあり……で荒れています。
もしかしたら、これで授業参観が中止になるかも……?
少し期待しながら、荷物を置くためにロッカー室に。この高校、珍しく荷物を置くロッカー室が教室から離れているのです。ちょっと不便です……
時間ギリギリだったせいか、ロッカー室には誰もいません。さて、自分のロッカーに荷物を……
「ひゃっ!?」
その時でした、お尻を誰かに触られました! 誰!? 誰なのですか!?
びっくりして気が動転しながらも辺りを探します。
薄暗いロッカー室の影、そこにいたのは。
「ベルトルト先生……?」
ああ、勘違いされちゃいますね、ベルトルト先生が犯人とかではなく、そこにはベルトルト先生が倒れていたのです……! 頭に大きなタンコブを作り、ぴくぴくと痙攣しています。
「先生! 大丈夫です!?」
わたしの声を聞いて気が付いたのか、ベルトルト先生は弱弱しく目を開きます。
「エリシア君……後ろだ……」
思わず私は振り返りました。そこに先生を襲った犯人がいるかもしれない、もし目撃してしまったら私まで酷い目に……とは思いましたが……
「……じょうじ」
そこには、人型の何かがいました。何も身に着けておらず、2mはあろうかという巨体。黒と茶の混じった、虫の甲皮のような質感が見て取れる肌。その大きな目には何やらいやらしい色が浮かび……頭には……ぱんつを被っています……。前言撤回です、身に着けていました……
「あ……ぃやぁ……」
悲鳴を上げる事もできず、動けず。ただ、震える事しかできません。
「エリシア君、これを使え! ヤツを倒すんだ!」
そんな唐突なベルトルト先生の声と共にへたり込むわたしの傍に投げられたものに目を向けられず、ただ異形の怪物から目を離す事ができず。倒す? そんな事、できるわけが。
でも、やらないといけません。
「先生、使い方、教えてください」
先生が投げ渡したものを手に取ります。それは、薬瓶のような何か。
何やら気おされた様子の先生が使い方を説明してくれます。
可愛らしい、変身ヒロインものの主人公が変身する時のような、そんな文句を唱えろ、と。
顔から火が出そうなそれをすらすらと言う先生も先生です……
「まばゆい光が……えと……ごにょごにょ……"人為変態"」
非常時と言えども、高校生の身でそれを言うには、わたしは少し羞恥が強くて、適当にごまかしてしましましたが、最後の一言が重要だったようで、変化はすぐに現れました。
光がわたしの身を包み、身に纏う学生服が別の衣装へと変わっていきます。
頭の上からは何かの耳のようにぴこっとした何かが二つ生え、服は水色の基調としたすごーくひらひらしたものに。そして、スカートが幾分か短くなった……気が……
「よし、成功だ! ヤツを倒すんだ!」
謎の衣装はさておき、先生に言われるまま、怪物のお腹を思いっきりグーで殴ります。
「……」
ぽこっ、と可愛らしい音がしたような気がしました。効果、ナシです。
その何かは反撃にこちらに手を伸ばしてきます、殺意とかではない、何だか……バイロンお兄ちゃんが温泉旅行でお友達の人と一緒に女湯を覗きに来た時のような……なんかそんな感じの感情を浮かべながら。
そして、その手は胸に触れ……
「……じょう」
何か、笑われた気がしました。
同時に、ぷつん、と何かが切れる音も。
「
衝動に導かれるまま意味も分からず口にしたその言葉に反応するように、左腕から無数の触手が現れました。
そして、地を蹴り、それを怪物の顔にぶちこみます。
わたし、すっごく怒っています。理由は言いたくないですが、すごく。
「じょっ……!?」
反撃が予想外だったのか、慌てて逃げる怪物。
逃がしません。
ロッカー室の扉を突き破り脱出する怪物。しかし、わたしから伸びた触手がそれを追い、その足を絡めとり転倒させます。
すぐに追いつき追撃に顔に数発攻撃を加えると、怪物はおとなしくなりました。
「……よくやった、エリシア君」
「えっと、これ、何なのでしょうか……」
這い出てきたベルトルト先生。わたしの今の状態は何なのか。
その答えは、ただ一言だけでした。
「君は今日から、魔法少女だ」
観覧ありがとうございました。
まりゅすく=ロシア語:軟体動物 響きがちょっと可愛いですよね。本当はウミウシのロシア語にしたかったのですが読みがわからず断念したという残念な経緯があったり。
2017年エイプリルフール企画の小説です。
ふと思い立って当日の深夜に書いたものなので少し話が急展開、あと戦闘シーンが驚きのさっぱりさ。