新緑の火星の物語(特殊な番外編シリーズ)   作:子無しししゃも

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拙作本編3章終了後に投稿予定のコラボ時空での白陣営ラスボス戦のプロトタイプです。
本来は灰陣営と白陣営各対戦カードの名乗りパートだけどシモンVSオリヴィエの一部会話&戦闘パートだけ抜き出し。


コラボ時空白陣営決戦編プロトタイプ

――『神殿』第六圏 大霊墓

 

 

 油断なく、周囲を見回す。

 そこは、今現在起こっている地獄のような戦いの結末の地に相応しい魔境などではなく、ただただ平穏で静謐な空間だった。 

 

 生の気配は無く、ただ銘碑のように墓が立ち並ぶ草原。

 アラームがひっきりなしに鳴り響く中数多くの罠や防衛機構が作動し牙を剥いてきたこれまでの階層と比べ、それは拍子抜けするように平和的で。

 

 彼は、思わず体から力を抜く。

 張り詰めていた意識がほぐれ、その思考はこの場所についてへと移る。

 これは、誰の墓なのだろうか。

 

 この地の底で研究に一生を捧げた同士達のものだろうか。

 それとも、彼らが心も体を喰らってきた犠牲者を悼むものなのだろうか。

 

 この空間を、今から自分は施設そのものを崩壊させるという方法で巻き込んで破壊しなければならない。

 それに微かな罪悪感と確かな覚悟を抱え、彼は一歩、また一歩と足を進めていく。

 

 

――そして。 

 

 

「ようこそ、とでも言うべきなのかな? イヴ君」

 

 目の前に、男は現れた。

  

 穏やかで心優しい人格を想像させる柔和な笑顔。整った体形と容姿。

 神話の一人物であるかのような時代錯誤の服装。

 

 ひと目すれば、まるでそれは聖人のような。

 

 だが、シモンは知っている。

 

 魅力的な笑顔、その細めた瞼の奥にある瞳は泥玉をはめ込んだかのような虚無に満ちている。

 黄金比を体現した肉体、それは人類の到達点にある存在を写し取った作り物。

 

 

 その正体は、人間の皮を被った、人の肉体と魂を食む魔物なのだと。

 

 

「取引をしよう……と言いだせるような雰囲気ではないね」

 

 まるで、散歩の途中で出会った知り合いと立ち話をするときのように、男――オリヴィエはのんびりとした調子でシモンへと言葉を向ける。

 

 自身の本拠地は襲撃され、数百年の間敵を近づけなかった喉元へ刃を突きつけられている。

 そのような現状などどこ吹く風、といった様子で。

 

「うん。お前が滅びない限り、ボク達は止まれない」

 

 交渉の余地は無しという意思確認。

 

「そうか、残念だ―――」

 

 それに、微笑みを崩さないままオリヴィエは答え。

 

 

 

「――じゃあ、先に行って仲間のみんなを待つといい」

 

 瞬間、銀色の槍が、オリヴィエの体が、シモンの心臓を抉り取らんと高速で駆ける。

 

「……おや?」

 

 ……だが。

 コンマ秒と経たぬ後に、オリヴィエは首を傾げる。

 その槍が与えた感触と、自身の知覚の変化に。

 シモンの肉体を刺し貫いていたはずの槍は空を裂き、自身の視界、右半分が光を失い暗くなる。

 

 残った左の視界に映るのは、まるで自分の顔から生えたかのような銀の棒。

 

 一泊置いて走るのは、右の眼窩を中心として灼熱感と、体内、それも知覚と精神活動の中枢たる目と脳に侵入を許した異物感。

 

「おやおやおや」

 

 即座に身を翻し後方に飛び退くオリヴィエ。

 残る左の視界で周囲を探れば、ちょうど死角となっていた失われた右の視界の範囲に、シモンの姿が見える。

 

「……」

 

 関心した様子で自身を見るオリヴィエに、シモンは無言を保つ。

 

 オリヴィエの一撃を回避し、カウンターの刺突で目を脳ごと刺し貫く。

 かつての戦いで、シモンは最初の一撃において後塵を拝した。

 

 その意趣返しとでも言うかのように、今ここにシモンの初撃は敵に致命傷を与えていた。

 

――ヤツは狂人でありニュートンの王たるものの一柱だが、アダムともエドガー様とも違う

 

 ニュートン最高峰の肉体を持つ怪物に一撃を加えたシモンの脳裏に響くのは、命を賭してこの神殿の内部構造についての情報を知らせてくれた、ニュートンの人間の言葉。

 かつて一度相対し初撃を躱せなかった自身の経験と、与えられた情報。そして、弛まぬ鍛練。

 その全てが合わさり、今こうしてシモンは最初の一合において完全とも言える勝利を収めていた。

 

――あれは、少しでも余裕が崩れれば合理でしか判断をしない

 

 もしシモンが今相対しているのがアダム・ベイリアルであったなら。エドガー・ド・デカルトであったならば。

 そして、平時のオリヴィエであったならば。

 今この瞬間、両者は槍ではなく言葉を交えていただろう。

 

 こうして目の前に自身を捉えたシモンの努力に対する賞賛。

 それからの、嘲笑。慢侮。誘惑。

 

―でも残念、全部無駄になっちゃいまーす☆

 

―わざわざ蹂躙されるために来るとはな。見上げた事だ

 

―素晴らしい。私の元に来ないかい?

 

 だが、今シモンと相対しているオリヴィエは違う。

 余計な問答は必要ない。手早く始末する。

 そんな思考回路で動いている。

 

 そこには、アダムのような稚気じみた嗜虐性も、エドガーのような王の余裕も存在しない。

 勧誘には乗らないだろう。言葉で惑うような相手ではないだろう。引き出せそうな情報もない。時間稼ぎの必要性、特になし。もしくは、それよりも奇襲の有効性が勝る。

 

 だから、言葉など交わさずに殺す。

 その思考に情動はなく、合理的に、機械的に導き出された結論のみが存在している。

 

 

「……謝罪しよう。ここに至ってまだ私は君を軽んじていたようだ」

 

 もはや繕う必要もないと判断したのか、その顔から表情を消しているオリヴィエ。

 彼はその懐から『薬』を取り出す。

 それは、彼の手術ベースである哺乳類型の型に合わせられたものではない。

 

 欠損した右目と一部脳の再生を行うつもりか? と想定していたシモンの予想とは異なる。

 だが。

 

「ッーー!」

 

 その薬の形式から類推される高難易度かつ特殊な系統の『型』。

 アダムに比肩する危険性を持つ相手が持っていた隠し玉という事実。

 そして何より、ルイスの肉体を乗っ取り自分の目の前に現れた時以上に警鐘を鳴らしている自分の本能。

 

 

 その全てに従い、変態させてはならないという結論と同時にシモンはオリヴィエへと躍りかかる。

 

「……焦ってはいけないとも」

 

 大丈夫だ。相手は摂取の為片腕が塞がっている。片腕の槍術では抗しきれないだろう。間に合う。

 そんなシモンを出迎えたのは、無防備に見えたオリヴィエの全身から突如突き出した何本もの槍。

 

 αMO手術による、薬未使用時の限定的な能力行使。

 その可能性を見落としていた事に歯噛みするシモンだったが、止まってはいられない。

 

 中空のガラス管のような細いそれは、急所にピンポイントで刺されば致命傷は免れないが一方で脆いとも感じられる。

 槍で薙ぎ払えば強行突破も可能だろう。

 

 これ以上の思考の時間は与えられず、シモンは槍を振るい相手のそれをへし折る。

 

 だが、そこまでだった。

 

「残念だ、一手遅れたね」 

 

 迂回せず最短距離でオリヴィエを叩くための判断。

 しかし薙ぎ払いとして大振りにした槍を引き戻す時間、そこに微かなタイムロスが生じた。 

 

 シモンの判断を間違いと断じる事はできないだろう。

 槍を回避するため背後に飛び退いても、迂回してオリヴィエを叩こうとしても、結局これは避けられない事実だった。

  

「始めよう」

 

 瞬間、シモンの左腕に植物の根のような、刺胞動物の触手のような細い糸が無数に絡みつく。

 それを即座にシモンは振り払い、その攻撃圏から身を躱す。

 

 簡単に振り払えたことからシモン自身も持ちいるような拘束のための高強度のものではない。

 ならば、その目的は毒の注入だと判断するシモン。

 

 相手の変態の邪魔は間に合わなかった事を察したがしかし、シモンは退避ではなく前進を選んだ。

 毒物であれど、少なくとも一瞬で動けなくなる類ではない様子。

 痛みや麻痺もなく、体に異常は生じていない。あるいは毒を注がれる前に振り払えたのかもしれない。

 

 ならば選ぶべき選択肢は先と変わらず、速攻。

 能力の完全な発現が終わる前に殺すしかない――!

 

 切り札を切ったと思わしき相手を変態無しで御せると思うほど、シモンの見立ては甘くはない。

 

「拘束制御装置第6号、解錠!」

 

 力強い叫びに応じ、その戒めが解かれシモンのベースが発現する。

 発現するのはカメムシキメラζ、数あるシモンのベースの中でも、特に筋力に長けたカメムシたちの合成虫だ。

 

 右腕の筋肉がアリの手術ベースに比肩するほどに大きく膨れ上がり、左腕も同じく―――

 

「あ、ぐっ!?」

 

――とは、ならず。

 

 苦悶の声と共に左腕を押さえるシモン。

 

 そこには、力強いカメムシの能力が発現したそれではなく、代わりに腫瘍のような醜い膨らみがいくつも構成された、明らかな異常をきたした姿があった。

 

 なにを、された?

 

 その答を探す時間は、シモンには与えられなかった。

 目の前に映るオリヴィエの体が、ブレて消える。

 

 咄嗟に槍を構えるが、しかし。

 

 瞬間、シモンの左肩を槍が砕き、異常ともいえる加速度が乗った拳打が鳩尾を強かに打ち据える。

 以前交戦した際の初撃とは比べものにならない速度。

 テラフォーマーすら遥かに上回るそれに対応しきれず、シモンは吹き飛ばされる。

 

 

「観客が君しかいないのは少し寂しいけど……ああ、どうか万雷の喝采を」

 

 受け身を取ったシモンが見据える先で、その姿は人の身を離れ、変じていく。

 

 

 

 植物の繊維か刺胞動物の触手か、無数の細い糸が螺旋を描き腕の形状を模す事で構成された左腕。

 右腕の至る所からは赤褐色の金属が析出し、籠手か鱗のように肌を覆う。

 臀部には脊椎から延長されるかのように長い一本の機械じみた無機的な印象を与える尾が生え、ぐねぐねと独立した生物のように動き回る。

 それらの大きな変化で目立ちはしないが肌の所々が何かにひねられているかのように捻じれ曲がり、奇怪な違和感を見る者に与えている。

 

 そして、再生した右目は無数の瞳が夜空に散る星のように形成された異形の様相を成している。

 

 

「新たなる世界の始まりを、今ここから始めるとしよう」

 

 

 奇妙に歪で、ただ悍ましいその姿。

 まるで邪教の神像が如き異形が、血反吐を吐くシモンの目に映っていた。




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