DreamCross外伝 ~歪んだ世界の裏側で~ 作:(略して)将軍
エピソード・オブ・さくら_01
暗く、生物の気配が感じられない空間に、その少女は立っていた。
周囲には、血の色のように赤い霧が立ち込めており、足元がどうなっているのかもわからない。
「ここ、どこなんだろ……? 私、どうしてこんな所に……」
問いかけても、その答えを返してくれる者はおらず、
見廻しても、霧以外の物は目に映らない。
「怖いよ~……オバケが出てきたらどうしよう……」
大嫌いな、幽霊が出てきそうな雰囲気におびえながらも
とりあえず、憂鬱な気持ちで、とりあえず前に進んでみることにする。
とは言っても、霧が濃いのでちゃんと前に進めているのかすら定かではない
だが、しばらく歩いた所で、足元になにか硬い物の感触が返ってきた。
「ほえ……? なんだろ、これ……?」
かがんで、足に触れた固い物に今度は手で触れてみると、ゴツゴツとした手触りを感じた。
「これって、木の……根っこ?」
ふと、顔を上げてみると、霧の向こうに背の高い大きな影が見えた
どうやら、あれがこの根の持ち主らしい。
少女が根の上に乗り近づいていくと、徐々にハッキリとした姿が見えてきた
「わぁ~……おっきい木……!」
少女が見たものは、目を疑うほどの巨木だった。
霧のせいで、全体を見ることはできないが
今、目にすることができる部分からでも、
とてつもない太さと高さだという事がわかった
「こんな大きな木……ご近所にあったっけ?」
いぶかしげに思いつつも、とりあえず少女は木に触れてみる
手には、先ほどの根と同じ感触が返ってきた
「月峰神社のご神木は、ここまで大きくなかったし……
……ほえ?」
ハッキリとではなかったが、少し離れた場所から、妙な感覚を感じ
そちらへと足を進めてみると、少し進んだ所に大きなの洞があった
「この中から……感じる、なんだろう、この気配……?」
洞の中は真っ暗で、霧の中以上に視界が利きにくい
少女は、洞の中に身を乗り出し、大きな声で叫んだ。
「すいませーん! 誰かいませんかー!?」
少女が身を乗り出している洞はかなりの大きさで
後ろから見れば、木が少女を飲み込もうとしているようにも見える
もし、後ろから彼女の背中を押す者が居れば
少女はそのまま洞の中へ吸い込まれるように落ちていくだろう
……もし、背中を押すものが居れば……
「え……?」
突如、身体が軽くなったように感じた
「きゃあぁぁぁぁぁ……っ!」
目の中に、先ほど自分が身を乗り出していた洞が映る
しかし、そこに何があるのかは少女にはわからない
結局、何が起こったのかわからぬまま……
少女は、闇の中へと吸い込まれていった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それは確かに、変わった夢だな……」
1学期の終業式を終え、家への帰路へと向かう子供達
その中で、赤い霧と巨大な樹の……夢を見た少女「木之本桜」は
同級生の少年「李小狼」と、自分が見た夢について話していた
「目が覚めたとき、ベッドの上から転がり落ちちゃって
ケロちゃんは笑うし、お兄ちゃんはまた怪獣が暴れたっていうし……!」
目覚めた後の事を思い出して、桜は憤慨する
怪獣と言うのは、兄「木之本桃矢」が桜の事をからかう時によく使う言葉である
桜本人にとっては、決して見逃す事のできない禁句の様なものであり
以前別の人物から連呼された時は、桃矢が畏怖する程度の殺気を放ったこともあった
……もっとも、桃矢のからかいは親友の雪兎からシスコン呼ばわりされるほどの
妹を溺愛するが故の愛情の裏返しなのだが……
閑話休題
「それにしても、赤い霧と大きな樹か……
もしかしたら、それは予知夢かもしれないな」
「けど、クロウカードは全部集めて、最後の審判も終わったのに……」
クロウカード、不世出の才能を持つ史上最大級の魔術師
母親が小狼の一族の出であり、彼と親戚関係にあたる
そのクロウが残した遺産の中で最高と呼ばれるものがクロウカード
52枚のカードそれぞれが自我を持ち、強力な魔法が込められている
かつて、散らばったクロウカードを
桜と小狼は、時には競い合い、時には協力し合って捕獲していた
そして、カードの真の主と認められる為の審判……
厳しい審判ではあったものの、さくらは見事に主として認められた
それからすでに2月経ち、おかしな事件は起こらなくなっていたのだが……
「事件を起こすのはクロウカードだけとは限らない
……あの大道寺きらみたいなのも居るわけだしな」
「はぅ、そういえば……
きらちゃん、いつも私の事を目の敵にしてるんだよね」
さくらは昨年の臨海学校以降、頻繁に勝負を仕掛けてくるようになった
年中スクール水着の天才少女の事を思い出す
「負けず嫌いそうだから、さくらに負けたのが、よほど悔しかったんだろうな」
彼女は、さくらと同い年ながらも、海外の大学を飛び級で卒業し
とある分野の研究に関しては、世界的に有名な文句なしの天才であるが……
ちょっとしたいざこざから、半ば無理やりに勝負を挑まれて、勝利してからというもの
事あるごとに新たな発明品を使って、さくらに勝負を挑んでくる悩みのタネでもある
「私は、勝負する気はないんだけど、きらちゃんいつも勝手だから……
今度は最高傑作で私の事を倒す、とか言ってたけど……
いい加減、あきらめてくれないかな……?」
(無理だろう……)
きら自身、自分と互角以上(実際の対戦成績は全敗だが)に渡り合うさくらのことを認めているのだが
尊大かつ負けず嫌いな性格を考えるに、あきらめる事だけはまずありえない話である。
「……ところで、李君は夏休みどうするの? やっぱり、今年も、香港に……」
そう言いながら、1年前、商店街の抽選に当たり、香港に行った事を思い出す
クロウの因果による水使いの魔術の事件、小狼の実家【李家】への訪問
及び、小狼の4人の姉と現当主の母
大変ではあったが、今ではどれも良い思い出だ
「……いや、今年はずっとこっちにいる」
「そうなんだ、じゃあ今年の夏休みは李君も一緒に遊べるんだね」
真底嬉しそうな笑顔の返答に、顔を赤らめながら目を背ける
心の中では、それもいいなと思っているが……
実際のところ、今年の夏休みに小狼が日本に残るのは
母・夜蘭からの命によるものが大きい
実は最後の審判を終え、さくらがクロウカードの主になってから
彼女の周囲で、様々な組織が潜む様になっていた
今のところ、表立った行動をしてくる所はなく
日本聖霊庁がひそかに護衛しているためか、はたまたさくら自身の性格ゆえか
本人は偶に変な気配がすると思う程度で、全く気付いていないが
万が一にも、それらの組織の手にさくらが落ちるような事は
クロウの縁者である李家には、いろんな意味であってはならない事である
故に、幼いながらも李家で一番強い魔力を持った小狼に
彼女を護るよう言いつけられたのだ
もっとも、本人でさえ気づいていない信条の変化により
その命がなくとも、今と状況は変わらなかったかもしれないが……
そのまま、帰路の途中にある公園まで行き着くと
腰まで届く青髪に、黄色いヘアバンド
そして、制服にチェック柄のチョッキを付けた
二人より少し年上の少女の姿が目に入った
「ん? あそこにいるのは……」
「廿楽さん!」
廿楽冴姫、御苑女学園中等部に通う中学二年生
成績優秀で、生徒会書記を務める優等生
実家が貿易商をやっている縁で、小狼は来日前にも何度か顔を合わせた事がある
「あら、さくらちゃんに李君、こんにちは」
「こんにちは、廿楽さん」
「こんにちは……」
さくらが元気いっぱいに、小狼がややぎこちなく挨拶を返す
「今日は、知世ちゃんは一緒じゃないの?」
「はい、今日はおうちの用事があるからってSPさん達と一緒に車で……」
「へぇ、珍しいわね」
「そっちこそ、今日は愛乃と一緒じゃないのか?」
愛乃はぁと、いつも冴姫と共にいる親友の姿が今日はない
「うん、今日はちょっと……ね」
歯切れの悪い答えを返す冴姫
いつものハッキリとした物言いからすれば、今日の冴姫の様子は少しおかしい
「……悪いけど、今ちょっと急いでるから」
だが、今はその事を問いただす時間はなさそうだった
「あっ、すいません……忙しい時に呼び止めちゃって」
「気にしてないわ、また今度時間が取れたら喫茶あいので……」
そう言い残し、去る様にその場から立ち去ろうとする冴姫
……その直後、周囲に強い魔力の気配が現れると、驚愕した表情でさくらの方へ振り向く
「冴姫さ……!?」
名を呼び終わらないうちに、視界が傾き、身体が軽くなった直後……
疾く、まぶしい何かが目の前を横切る
我に返ると、さくらは小狼のすぐ横にいた
小狼は険しい顔で、いつの間にか剣を構えており
冴姫も、聖霊・ヴァンリーの力を解放していた
小狼と冴姫の間には、槍を構え、赤いフードを被った大柄な男と
二つに束ねた金髪をなびかせ、輝く鎌のようなものを構える黒衣の少女
周囲に、それ以外の人間は誰も居ない……
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……数時間後、大道寺邸
「はい、大道寺です……
まぁ、さくらちゃんのお兄様、いつもお世話になっております
……さくらちゃん? いえ、家には来ておりませんけど……」