DreamCross外伝 ~歪んだ世界の裏側で~   作:(略して)将軍

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エスケープ・フロム・ベネツィア_01

「おう、昨日のお嬢ちゃんじゃねぇか! もう具合は大丈夫なのかい?」

 

 

 

 

港には、大きな帆船や、漁をする為の小舟が、数多く停泊しており、

船と倉庫の間を、日に焼けた偉丈夫達が荷物を背に、何度も往復し、

縁日の屋台とさほど規模が変わらない露店の商人が、道行く人々を呼び込もうとしている。

 

ここにいる人達にとっては、これがごく普通の日常なのだろう。

例え、昨日漁をしていた中、空から何かが落ちてきて、

調べに行った所、気を失った少し身なりの整った少女と、

彼女よりも年下と思われる小柄な少年が浮いていて、それを救助したうえで……

 

二人が訳のわからないことを言ったことに対し、なにか訳ありだということを察して

落ち着くまで町長の家に世話になる事になったとしても、日常に影響はないようだ。

 

……せいぜい、私の事を覚えていてくれた人が、心配して声をかけてくれる程度である。

 

 

「ええ、おかげさまで……昨日はどうもありがとうございました」

 

 

赤いフードをかぶった大柄な男と、金髪を二つに束ねた小柄な少女との戦いの中、

突如として、空に開いた次元の裂け目に吸い込まれた私達は、気が付くと見たことのない天井を眺めていた。

 

介抱してくれた人達の話を聞くと、私達二人は、海に浮いていたところを、漁に出ていた漁師達が見つけ、

そのまま、この町『ベネツィア』の町長の家まで運んできてくれたのだという。

 

都心では、まず見ることのできない青く澄んだ空

時代錯誤とも思える、広い海の上を浮かぶ帆船

壁に掛けられた、見たことのない地形だらけの世界地図

……そして、これまでに感じたことのない強烈な聖霊力の躍動

 

ここが、私達の世界で無い事を確信する事に、さほど時間はかからなかった。

 

 

「それと、すいません……昨日話したもう一人についてなんですけど」

 

「ああ、残念だが見つかったって話は聞いてないな」

 

あの二人に襲撃された際に巻き込まれた3人目……

さくらちゃんは、救助された際に居なかったと告げられた

 

 

「それに、お前さん達が落ちてくるのを発見した、物見のパピーの奴にも確認したんだが……

 落ちてきた影は、やっぱり2つだけだったそうだ」

 

「そうですか……どうもすいません」

 

 

次元の裂け目に吸い込まれる直前に目にしたのは、強い流れに飲まれそうになるさくらちゃんと

彼女の手を放すまいとして掴み……それでも、力の奔流に勝てず、

その手を離してしまい、絶叫する李君の姿だった

 

そのショックからか、李君は目を覚ましたものの、冷静な彼にしては酷く落ち込み

今もなお、町長の家でベッドに臥せっている。

 

 

あの時の二人の姿に、私はかつて経験したある事件のことを思い出していた。

留学中、こっそりと二人で寮を抜け出し、森でみつけたリスを追いかけ、

……今回の事件と同様、突如として空に現れた次元の裂け目に吸い込まれそうになり

そして、私だけが帰ってきてしまった2年前の事件。

 

あの出来事は、今でも私の心に大きな傷となって残っている。

もし、さくらちゃんも2年前に居なくなってしまった彼女と同様の場所に飛ばされたのだとしたら……

 

……と、脳裏に浮かんだ最悪の予感を即座に振り払う

私達も、別世界とはいえ、ちゃんとした人間の住む世界にたどり着いたのだ。

彼女も、場所が違うだけで、この世界のどこかに来ているのかもしれない。

 

 

それでも、見知らぬ土地で、身一つでは相当な苦労になるかもしれないが、

あの時と同じ道をたどるわけにはいかない。

 

……そう思い、前に進むために考えを切り替ることにした。

李君も、もう少しすれば落ち着いて、同じ結論に到達するだろう。

 

そんな事を考える中、突如聞こえてきたプロペラ音のする方を見てみると……

赤い色をした、まるでゲームの中に出てくるような空飛ぶ船が、港の方へ向かってきているではないか

そんな現実離れした船を目にして、少し放心していると……

 

「おっと、お嬢ちゃん天翔艇(カーム・シップ)は初めてかい?」

 

……と、さっきのおじさんがあの船について教えてくれた。

 

あれは紅山猫(レッドリンクス)という義賊の空賊集団の船だということ

義賊とはいえ、そんな集団を町に入れてもいいのかと尋ねると、

彼らのターゲットとなる悪徳貴族が所属する国の都市部では、言うまでもなく取り締まりが厳しいが

この町のような、辺境にある独立自治を持っている所では、よほどの無法者で無い限りは平気で受け入れているのだという。

元をただせば、この町を建立したのも、近辺の海を御したエンリケ族という海賊だったとか

 

 

そして、話を聞き終えて、李君の様子を見ようと港を後にしようとした所で……

……突如、背後からは大きな悲鳴が聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

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