『IS』二人目の未来   作:echo21

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文量が増え……アメリカンのせい?

今回はアメリカンテイストなんです。
間違いないくナターシャは苦労人である。




『IS』二人目の未来 11 ナターシャ・ファイルス

 ナターシャ・ファイルスは呆れていた。アメリカのテストパイロットをしているナターシャは、アメリカとイスラエルが共同開発した軍事用『IS』の『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』と二人目の男性操縦者が駆る『六合壱式』のバトルをして最強を示そうとする軍の上層部に涙が出る思いだ。

 

「まったく。アラスカ条約はどこにいったのかしら。世界に自白して束博士に殺されに行けって話じゃないの?」

 

「あんまグチんなよ、ナタル。ブリュンヒルデもいってたろ? なんとかなるって」

 

「んとにもう。雑ね、イーリは」

 

 ナターシャが乗る飛行機はアメリカ空軍の輸送機である。隣に座るアメリカの国家代表『イーリス・コーリング』は不味いコーヒーを啜りながら冷めたフライドポテトをつまんでいた。イーリスはいい。国家代表として飛び回っているのが常だ。ナターシャがイーリスと会うのは数週間に一度であり『地図にない基地(イレイズド)』で訓練を共にすることが多い。こうして共同任務にあたるのは珍しく、あまり基地から出ないナターシャは聞かされた任務に眉を寄せてしまっていた。

 

「ねぇ、イーリ。お願いだから聞いて。アラスカ条約はどう思う? なにか協議してるとか知らない?」

 

 ──アラスカ条約。

 現行の兵器は大半が『IS』の前で鉄くずに等しく、それ故に世界の軍事バランスは崩壊した。開発者の『篠ノ之束』が日本人ということもあり、日本が『IS』技術を独占的に保有していると思われた。危機感を募らせた諸外国は『IS』運用協定(通称、アラスカ条約)によって『IS』の情報開示と共有、研究のための超国家機関である『IS』学園の設立、『IS』による軍事利用の禁止などを定めた。

 

「そんなの、決まってる。核だよ、核。『IS』を核兵器と同じ扱いにしたいのさ。新しい条約とか協議とか騒ぐのもいるけどよ。ただの驚異だ。考えてもみろよ? 非核武装国家やテロ屋が単機でどこでも襲えるんだぜ。数も決まって増えないしな。そりゃあ、躍起になって止めるさ。外交ってやつだ」

 

「──そっか、核兵器かぁ。……ちょっとこの子を考えると複雑だわ」

 

 首から下げたネックレス。待機形態である鐘を触るナターシャにイーリスは顔を寄せた。

 

「今回の動きもそうだぜ。兎博士は世界を二度見捨てたってのが、外交筋の見解だ。次がないよう動かなくちゃいけねぇ。一度目は雲隠れだ」

 

 わかるだろと目を向けられ頷く。

 

「二度目が『S.R.F.』ね。ああも簡単に宣言されたらね。基地でも大騒ぎだったけど、利益度外視で宇宙を目指すなんて……。あそこが『NASA』ならハグの嵐、みんなで抱き合ってたわよ」

 

「そりゃそうだ。喜ぶのはロケットが大好きなバカ野郎で、金儲けの達人は泣きをみる。笑えるよな? そんでほら、二人目が軍用機さながらって聞くぜ。兵器の性能差は知りたいだろうよ。学園なら情報開示がないし、あそこじゃなきゃあ、それこそ条約違反だ。まあよ、ナタルの不安もわかる。福音が軍用機だなんて責められないかだろ? 心配すんな。知らぬ存ぜぬは外交にお任せさ。ケツを叩きゃいいんだ」

 

「働けって?」

 

「そうさ。お話がお仕事だろ?」

 

 軽くコーヒーをぶつけ合う。ケラケラと笑うイーリスに呆れながらナターシャはコーヒーを飲んだ。

 

「他になにか知らない? なんでもいいから情報が欲しいわ。千冬と話したって聞いてるけど?」

 

「情報ねぇ……。あれなら知ってるぜ。通信したときポロっとよ? ブリュンヒルデが女になった話だ。腹筋がぶっ壊れるかと思ったぜ。なんせ、あの歳でヴァージンだったとよ? ブリュンヒルデなのにだぜ? だからあたしはいってやったのさ。話を聞いてすぐにブリュンヒルデによぅ。『結婚は二回だろ? 次も探せよ』ってな。お顔が真っ赤だったぜ!」

 

「ドヤ顔してんじゃないわよ。他の話っ」

 

「ああ、だったな。ナタルもか。……悪い悪い。あんま怒んなよぅ。他な、他」

 

「イーリィ?」

 

「なんかあったかなぁ。……あれがあったわ。思い出した、思い出した。ブリュンヒルデと一緒に兎博士も喰われたって話よ。腹筋がぶっ壊れたねぇ。二人目はあたしの腹筋をどうしたいんだ? まあよ、あたしはいってやったのさ。『悪い。次が決まってるのは旦那だったわ』ってな!」

 

「イーリィィィ」

 

「悪い悪い。他の話な? ──なんかあったかなぁ。あれもあったわ。『S.R.F.』がハレムだって噂だよ。もしかしたら、ナタルも喰われちまうぜぇ~。オーライ。ジョークだ、ジョーク。あたしは喰ってみたいけどねぇ。殴りあいたいわぁ」

 

 食べるかと差し出されたフライドポテトはしなびている。ナターシャは首を振った。

 

「まったく。バトルジャンキーよねぇ」

 

「おうさ。闘いは愛してるからな! ……ただなぁ。ナタルはどう思う? ベッドの殴りあいは勝てんのかな? ブリュンヒルデが陥落してんだ。ちょっと味わうぐらい、大丈夫だと思うか?」

 

「知らないわよっ。ほんと、このビッチはどうしてこう……。問題行動はなしよ?」

 

「あいよ。なんにせよ、楽しみだぜ」

 

 

   ◇

 

 

 授業中の学園を訪れたナターシャは、千冬とイーリスが顔を合わせた瞬間に殴りあいを始めたことにタメ息をこぼした。隣に立つ楓と雑談を交えながら挨拶をして暇を潰す。イーリスが気絶したところで決着がつき、軽い手当ての最中に目覚めたイーリスはさすがの国家代表である。

 

「よう、旦那。初めましてだ。あたしがアメリカのバカ野郎のイーリス・コーリングだ。イーリでいいぜ。ところで、バーボンはあるかい?」

 

「こちらこそ、初めましてだ。俺が二人目のオカマ野郎の八嶋楓になる。好きに呼んでくれ。飛びきり安いバーボンを買っておこう」

 

 立ち上がったイーリスと楓が握手を交わす。満面の笑みを浮かべたイーリスが頷いて腕を組んだ。ナターシャは額に手をやってしまう。

 

「旦那は話せるねぇ。イケる口かい?」

 

「田舎の産まれ育ちでね。アルコールはスポーツだ」

 

「セックスは?」

 

「愛のスポーツだね」

 

「旦那。結婚してくれ」

 

「やらんわ! イーリス。次は殺るが?」

 

「んじゃ、愛人でいいわ。よろしくっ」

 

 満足気に手をあげたイーリスに合わせるよう、楓とハイタッチを交わして肩を組んでみせる。楓にくっついて笑い、千冬をみたイーリスは誰がどうみてもケンカを売っていた。

 

「ほんと、このクソビッ……。んっ。千冬は知っていると思うけど、楓には謝るわ。ごめんなさい。こんなのでも、アメリカの国家代表なの。イーリはいつもこうなのよ」

 

「大丈夫ですよ?」

 

「愛してるぜ」

 

「ああ、知っている。残念ながら、私と同い年だからな。幾度か闘ってもいるが、本当に変わらんなお前は。殺すぞ?」

 

「大統領が変わっても、あたしは変わらないから安心してくれ。あたしのファンはクレイジーだらけさ。なんの問題もないね。おら、来いやっ」

 

 楓から離れて睨みあう二人の間にナターシャが入り込んだ。

 

「やめなさい。問題あるに決まってるでしょ? イーリがそんなんだから私にモデルの仕事が入るの。私はテストパイロットなんですけど?」

 

「あたしはランボーでモンローさ。未成年には刺激が強い。ナタルは違うだろ?」

 

「そういう問題でもないんだけどね」

 

 深々と息を吐きながらこめかみを押さえるナターシャにイーリスが肩を叩いてくる。手を払い除けられたイーリスは上機嫌だ。それがわかってしまうナターシャは疲労が増していく思いだ。

 

「なんにせよだ。よろしくなっ。ほらほら、移動しようぜ。守衛が笑ってやがる」

 

「ほんと、このクソビッチ……。イーリがいうことじゃないけど、移動しましょう。案内は千冬が?」

 

「すまないが、検査の立ち会いがある。他にも別件があってな。楓が案内を……。イーリスはわかってるだろうな?」

 

「よしきたっ。旦那のベッドに行こうぜ」

 

「殺す」

 

「来いやっ」

 

「やめなさい。それじゃあ、千冬さん。頼まれましたので案内しますからね。イーリは来い。ナタルさんはこちらへ」

 

 触り程度だが、学園内を案内されたあとに、アリーナの観客席にやって来ていた。すでに放課後の時間になっており、訓練に汗を流す生徒達がいる。イーリスの性格を抜きにしても、現役の国家代表に視線が集まるのは自然だ。イーリスのモデル仕事の代行で、代表候補生の肩書きをつけられているナターシャはアメリカのアイドルとされている。アメリカの二大美女。良くも悪くも下品な人気のあるイーリス、国家代表に振り回される姿が健気で苦労人といわれるナターシャは注目されることに慣れていた。

 

「あれが一人目かぁ。ナタルは?」

 

「私? 一人目だわねぇ」

 

「意味深ですね。なにか問題でも?」

 

「旦那ぁ。悪いけどよ? ちょっとキツイことになるぜ? あたしは本人だけに聞かせたい。ナタルはどうする?」

 

「イーリに賛成。彼の環境は悪いわ」

 

「なるほど。呼び出します。こちらに」

 

 どうせ最後に案内するのだからと、ひとが少ない場所として『S.R.F.』の休憩室に来ていた。先に案内されていた外交官は待合室で仕事中とのこと。ナターシャ達の前には一夏だけでなく、箒と一年生の代表候補生達が集まっていた。理由や事情は違えど強くなりたい者達である。

 

「おうおう。睨めっこするために呼んだんじゃないんだぜ。あたしはアメリカの国家代表、イーリス・コーリングだ。イーリでいい。ブリュンヒルデとはケンカ友達だ」

 

「私はナターシャ・ファイルスね。アメリカのテストパイロットをしてるわ。千冬とはそれなりの仲よ。しばらくは学園のお世話になるの。よろしくね?」

 

「どうも。織斑一夏です。俺に話が?」

 

「よう、一人目。元気にやってるか? 若い女が騒いでたなぁ。そんでよ? 何人ぐらい喰ったんだ?」

 

「一夏です。そんな話ですか?」

 

 イーリスのふざけた態度に一夏はしかめ面で返してくる。思いきりタメ息を吐いたイーリスは楓をみた。

 

「おう、旦那ぁ。こいつ、余裕ないぜ? 二人目としてどうよ? 旦那は寝技が得意だろ?」

 

 楓は無言のまま肩をすくめて笑ってみせた。ナターシャがわざとらしく手を叩く。

 

「楓のは根回しね。それより、イーリ。マジメな子みたいよ?」

 

「だなぁ。どうすっかなぁ。ブリュンヒルデなら殴りあいからだし、旦那ならベッドの上か、酒でもひっかけながら始めるとこだけどよぅ」

 

 腕を組んで唸るイーリスにナターシャは苦笑してしまう。イーリスは後輩の面倒をよくみる。ここがアメリカなら、イーリスの人柄、キャラクターを知っているので問題が少ないのだが。

 

「ま、普通にやりましょう。私がやるわ。イーリもそれでいいわよね?」

 

「オーライ。任せた」

 

「よろしい。まず一夏くん? あなたは弱いわ。そのうえでいうけど、剣一本のあなたは似非ブリュンヒルデね。コメディアンになりたい?」

 

「なっ」

 

 立ち上がる一夏を諌めたのは箒だ。他のみんなは少なからず、そういう気持ちがあった。

 

「あなたを知らない他人、世界はいうわ。ブリュンヒルデの弟は一人目の男性操縦者。ブリュンヒルデの剣をねだる男だって」

 

 一夏の顔は怒りで染まっていく。イーリスが手をあげてニヤけた。

 

「よう、一人目。よく聞けよ。ブリュンヒルデは憎まれてるし恨まれてる。バカな野郎共からしたら戦犯だ。女尊男卑の象徴にみえる。しかもだ。座れ」

 

「うるせぇっ」

 

「座りなさい。『IS』を発明した博士を止められたのは誰? 千冬よ。ただひとりの人間であり、ブリュンヒルデになる前から側にいるのは誰? 博士よね。みんなわかったわ。有利じゃないわけがない。第一回の大会からね。それはもう、すごい陰口よ」

 

「それは……」

 

「一夏……。姉さんが」

 

 落ち込む箒をみたからだろう。落ち着きを取り戻した一夏は腰をおろして箒の手を握った。 

 

「当たり前の話だろ。第一世代は試行錯誤だ。ミスばかりの機体だぜ。その中でブリュンヒルデはどうだ? 自分にあった機体で自分にあった戦術だとよ。しかもだ。あれはなんだ? 第二形態移行(セカンドシフト)だ? バカにしてんのか? おう。誰でもいい。第二形態移行の条件をいえ」

 

「わたくしが」

 

「名前は?」

 

「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。一夏さん。『IS』コアには意識のようなものがあります。それは操縦時間に比例し、コア側も操縦者の特性を理解しようとする相互関係になりますわ。そのうえで、各『IS』が操縦者と最高の状態、最高の相性になったときに自然発生する能力がワンオフアビリティーであり、織斑先生と一夏さんの『零落白夜』になりますの。よろしくて?」

 

 そう。専用機持ちの全員が第二形態移行を目指している。コアに依存しない形で発動させようとしたのが、第三世代型の『IS』になる。一夏はそれをすでに達成していた。それは何故か、千冬に似た状況になっている。イーリスとナターシャの危惧がそれだった。

 

「それは……。でもよっ、俺がやったわけじゃないんだぜっ」

 

「お嬢様は満点だな。落ち着いて聞けよ、一人目。いいか? 口が悪いやつは『モノマネ野郎』とか『コピー』だとかいってくるだろうよ。あたしらが第一世代、第二世代でバカ騒ぎしてるときに、ブリュンヒルデはワンオフしやがった。事前準備、闘う前の時間から優劣があったわけさ。ブリュンヒルデに引退まで追い込まれた女もいる。ナタルもそうさ。男も女もだ。それらをねじ伏せたからブリュンヒルデだ。最強の女だ。──わかったか? 千冬は踏ん張って、吹っ飛ばした。お前は? お前はもう、ワンオフしてやがるな。一歩有利になった。ならどうだ? 誰かの目の敵にされてるわけさ。だからもっとだ。もっと貪欲になれよ、一人目」

 

「一人目じゃないっ。織斑一夏だっ!」

 

「おう、ちょっとだけ男になったなぁ。みれるようになったら名前で呼んでやるよ。さてさて、下のほうはどうだっ──」

 

 イーリスの頭を叩いたナターシャは、それはもう深いタメ息を吐いた。

 

「イーリはビッチだからね。食べられたくなかったら近づかないように。男も女もね?」

 

 楓とナターシャを残し、全員が距離をとった。イーリスは楓に抱きついてみせる。

 

「旦那ぁ。ナタルがヒドいんだぜぇ。なぐさめてくれよぅ。バーボンでも飲みながらよぅ」

 

「よしよし」

 

「はいはい、イーリは黙りなさい。楓も甘やかさないでよ? 一夏くん、みんな。これでもイーリは生身で千冬と殴りあうバトルジャンキーだから、なんの心配もいらないわ」

 

 生身の千冬の実力を知る者はひく。

 

「なにいってやがる。あんなのは挨拶だ、挨拶。本気でケンカしたらあたしは死んでるぜ。『IS』ならなぁ。いいとこまでいったけどよぅ。引退しやがってさぁ……。クソがっ」

 

 イーリスは今でも千冬の引退に納得していない人間だ。今の大会で優勝しても、初代ブリュンヒルデとは闘えない。最強の女は依然として織斑千冬だといわれ続けている。二回目の大会で優勝したイタリアの代表はブリュンヒルデを辞退しているのだ。闘える場にいない者には勝てない。

 

「──なにをやっているんだお前は。……そろそろ仕事は終わったか? 次は気絶しても止めんぞ?」

 

「うん? ベッドインはまだだぜ? なんなら一緒にやるか? ブリュンヒルデとはヤってねぇしなぁ。うん?」

 

「そろそろ殴りあいが始まるから、避難してお話でもしましょうか。答えられる質問なら答えるからね? ──あ、そうそう。知ってたらでいいけど。三年のダリル、ダリル・ケイシーは元気?」

 

 




次回『嘘』予告

誰かが回る
雨雲は廻り続けた
止まない土砂降りはあるんだ

次回『ヒトの造りしもの』

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