『IS』二人目の未来   作:echo21

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感想にも書いた……。

正妻はちーちゃん!
大奥を支配するちっふー?
それだけは譲らないのだッ!

活動報告に人物一覧あります。
ご興味がある方はご覧ください。




『IS』二人目の未来 14 アリーシャ・ジョセスターフ

 アリーシャ・ジョセスターフは二代目のブリュンヒルデだが辞退している。第二回の『モンド・グロッソ』での決勝戦。アリーシャの対戦相手であった千冬が現れず、誘拐された一夏を救出するために千冬が欠場した。そのためにアリーシャは不戦勝で優勝者になり、辞退した理由を『千冬との決着はついていない』からと公言し続け、『称号のない二代目』となった。

 

「やっと闘えるのサ」

 

 アリーシャの飼い猫、白猫のシャイニィを抱いたまま浮かべる獰猛な笑み。長身のアリーシャは腰まであるツインテールの赤い髪以外も個性的すぎる。アリーシャの専用機『テンペスタ』の後継機である『テンペスタII』の実験で失った隻眼に隻腕、肩から胸元まで露出するように着崩した和服は花魁さながらである。足下のピンヒールに煙管を咥え──必要な物は担当者が手配し、手荷物は背負っている──『IS』学園内を気ままに歩いていた。

 

 アリーシャはイタリアの国家代表だ。つい五日前からいるアメリカコンビが騒ぎになっていたのに、アリーシャまで増えればと政府関係者は予測していたが、そうはならなかった。アリーシャの奇抜すぎる格好と『称号のない二代目』が足を引っ張っている。自国のイタリア以外でアリーシャに気軽に話しかけてくる者は少ない。アリーシャは有名人ではあるが、人気者ではないのだった。

 

「あのぅ。迷ってたりしてます? 案内ならできますけど……」

 

 アリーシャの片目が細くなった。学園の制服を着た男は二名いる。五体満足が一人目で片腕の要注意人物が二人目だと世話役から聞いていた。だからというより、千冬の雰囲気を感じたアリーシャは確信する。アリーシャの前に立つ一夏は頬を掻いていた。返事、してなかったのサ。

 

「キミはいい匂いがするのサ」

 

「はあ。そういうあなたも?」

 

 アリーシャが微笑む。アリーシャの腕から白猫が飛び降りていく。一夏に向けて一度鳴いて歩いていった。居なくなる白猫に一夏は眉を寄せて、どんな言葉を出すか悩んでいるようにみえた。アリーシャは空いた手を一夏に差し出す。いじめるつもりはないサ。けどね。気づいたらキミは、どんな顔をするのサ。

 

「アリーシャ・ジョセスターフ。イタリアの国家代表サ。……キミにはこういったらわかるかナ。ブリュンヒルデと闘えずに不戦勝サ。だから辞退したのにね。引き受けなくても、二代目は二代目なのサ。アーリィでいいのサ。キミはブリュンヒルデの弟だよね?」

 

 口の端をあげるアリーシャに一夏が戸惑いの声をあげようとしているが、意味のある言葉は出てこなかった。

 

 ──第二回の『モンド・グロッソ』で誘拐された一夏は救出されたあと、日本に戻る前後で厳重な警備をされ続けていた。初体験のストレスを受けた一夏は、ろくにテレビなどでの情報を知ることはなかった。

 

『初代ブリュンヒルデ引退!』

 

『不戦勝の二代目は辞退!』

 

 千冬の影響力もあってか、一夏の地元では話題に出ることはなかったけれども、ネットで踊る文字列をみた一夏は嘔吐している。落ち着いた頃に思い出したように調べたらこれだった。そこに善悪はなく、どこか楽し気な雰囲気であり、当事者を気遣うような一文はない。

 

 あれから時間が経っていた一夏は責任転嫁ができていた。ぶり返す恐怖。犯罪者が悪いことは誰にでもわかる。すぐそこにある悪意。それでも、一夏が応援に行かなければアリーシャは──。

 

「うぷっ」

 

「うん? 吐くならトイレに……。どこにあったか忘れたナ。仕方ないから私に吐けばいいのサ。このあと、シャワーを浴びる予定で服も──」

 

 ──介抱されたあとの一夏は、申し訳なさそうな顔で平謝りしている。アリーシャを探していた楯無が現れなければ、もっと気まずい雰囲気になっていただろう。シャワーを浴びて着替えたアリーシャは笑って許した。事故で欠損を経験してから身体に気を使わなくなっているアリーシャは、もうすぐ闘える事実を思い出して反省する。あの日より不利だナ。体調を整えないと。

 

「……本当にすみません」

 

「まあいいのサ。シャワーも浴びたし、楯無にも会えたからね? 服は洗えばいいのサ。匂いも落ちるのサ、落ちるのかナ?」

 

「アーリィ。わたしはとっても探してたのよ? ふらふら歩き回るのはやめてくれない? 一夏くんは箒ちゃん達が探してたわよ? あとね。匂いは落ちます。わたしの虚を舐めないでちょうだい」

 

「うげっ。すみませんけど俺っ」

 

「うん? 気にせず行けばいいのサ。約束は破られたら悲しいからナ。私に気を使わなくていいのサ。チャオ」

 

「チャ、チャオ? 失礼しましたっ」

 

 急ぎドアを開けて走り去る一夏を見送れば、腕を組む楯無が頬を膨らませてアリーシャを睨んでいた。

 

「なにかナ?」

 

「アーリィ? お痛はダメよ。織斑先生と闘うために来たんでしょ? 問題行動はしないって話はどこにいったのよ?」

 

「あれかナ、あれだナ。覚えてるサ、覚えてるのサ。心配はいらないよ?」

 

「……絶対、わかってないわよねぇ。まあ、いいわ。ゲストルームに案内するのが早まったわけだしね。織斑先生とは?」

 

「千冬? まだ会ってないナ。にしても、よく千冬が納得したね? 理由をいわずに『ふざけるなっ。却下だっ』なんていいそうなのサ」

 

「ちょっと、アーリィ? 妙に似てるわね。あんまり笑わせないでよ。本当にいってたから……。待って。思い出しちゃった。お腹、痛くなっちゃうじゃない」

 

 うぷぷっと笑う楯無にアリーシャは呆れた。今の学園は活気づいている。一般の生徒達は一夏をアイドル視しているし、教師達は『S.R.F.』関連でやってくる有名人達の素顔をみれてご満悦だ。先を見据えた難しい話は学園長を始め、千冬と楯無に丸投げされている。そんな空気に当てられたのか、気負っていたアリーシャは脱力してしまった。最も、目の前の楯無にタメ息が出たのも、気が抜ける一因だろう。

 

「それで? いつ闘えるのサ」

 

「今日は無理ね。明日以降にしなさい。体調を整える必要があるでしょ? まったく。呼び掛けたわたしも驚くほど早く来るなんてね。呆れてものもいえないわ」

 

「私はね。さっきまでの楯無にだけはいわれたくないのサ。それより、千冬の『暮桜』がないと聞いてるのサ。機体はどうするのかナ?」

 

「あるわよ。学園の地下に封印されているの。学園の有事があれば解放される予定、だったみたいね。今は『S.R.F.』があるわ。すでに有事というわけ。調整は束博士がしているから大会よりも強くなるかも。なんてね。アーリィとしては嬉しいんじゃないの?」

 

「ほう。いいことを聞いたのサ」

 

 心がたぎる。アリーシャの発する空気に反応するかのように、ゲストルームのドアが開いた。入室してきたのはアリーシャが待ち望んだひと。

 

「すまんが、それはなしだ。『暮桜』は動かない。コアがないからな。それと楯無、二人にしてくれ。……アリーシャ」

 

「千冬、織斑ぁ!」

 

「待たせたな、本当に……。待たせてしまった。だがな、話をしよう」

 

「話? 千冬と話? 私にはないナ!」

 

「アーリィ! 落ち着きなさいっ! ……織斑先生、わたしも同席しますね。落ち着いて、アーリィ。いいから落ち着きなさい」

 

 千冬を睨んでいたアリーシャは深呼吸を繰り返す。ドアの隙間から入ってきた白猫に目をやり、抱き上げたことで少しずつ落ち着いてきた。飼い猫の体温がなければ、もっと時間が掛かっていただろう。白猫に遅れて入室したのは楓だった。

 

「二人目ね、確か……。シャイニィが連れてきたのかナ。お陰で落ち着いたサ」

 

「どうも。初めましてです。その猫が鳴いていたから鳴く方向に歩いてきたら……。そんな訳ですから、お礼なら猫に」

 

「面白いことをいうのサ。シャイニィ、ありがとう。もう大丈夫だからサ」

 

 白猫に微笑むアリーシャをみて、楯無が安堵の息を吐いていた。緊迫した空気が霧散していく。雰囲気を和らげてくれた感謝だろうか。楓に目配せを送る楯無、目を閉じて腕を組む千冬と笑顔の楓を見回し、アリーシャは改めて自己紹介を始めた。

 

 

   ◇

 

 

 千冬の新たな『IS』は試作第三世代型、近距離格闘型の『六合千式(りくごうちしき)』である。壱式の楓はアビスカラー、弐式の簪はアジュール、千式の千冬はマゼンタのパーソナルカラーになり、これは全身装甲で顔がみえないために──簪の常識(?)を提案した──採用された。

 

『千式の千冬って、血渋き千冬に聞こえるよね。ちーちゃん? お似合いだよぅん』

 

『そのケンカ、買おう』

 

『千冬の千でしょ? 俺はいいと思う』

 

『な、なら、いいな。うん』

 

『千冬様……。呼び捨てで流されましたね』

 

『先生もチョロイ~ン? わたしも参加するべきなのか。お姉ちゃん? いや、本音に相談しよう』

 

 以下は余談だ。楓達には手足となる手駒がいるために、『S.R.F.』の機体は六合の壱式、弐式を参考にしつつ、シリーズ化したものを量産する予定だ。今ある量産予定機はモスグリーンの『六合兎式(りくごうとしき)』の二機であり、オータムとマドカがテストしている。なお、スコール達が所持していた『IS』は、スコールの専用機以外を返還する予定であり──それらを含めて亡国から買っている──委員会を通して各国に渡る手筈となる。その手柄を楯無に譲った楓は『雑用でしょっ、雑用を押しつけたんでしょっ』などといわれ、褒美を個人的に与える約束を楯無としているが完全に余計な余談だ。

 

「新しい専用機は強いのかナ?」

 

「性能は倍以上だ。ワンオフはないがな。アリーシャはあると聞いたが、ある意味で対等だと思わんか?」

 

「なるほどナ。ちゃんと闘えるなら私は文句なんてないのサ。いつ闘う?」

 

「明後日は学園が休みだ。非公開でゆっくり闘おう。武装は完成していないが、私としては剣があるだけでいい。あれば闘えるからな」

 

「満足するまで闘える、かナ?」

 

「そうだ。満足するまで、だな」

 

 勝敗は明らかにされていない。噂はある。インタビューに応じるアリーシャは『私は満足したのサ。ちゃんと二代目の役割を果たすのサ』と、満面の笑みを浮かべていった。

 

 




次回『嘘』予告

かつての盟約がある
そんなものは関係がない
私はあなたの従者なのですから

次回『反逆の虚』

この次も、サービスサービスぅ!

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