『IS』二人目の未来   作:echo21

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バトル少々……。

パクってないオマージュです。
ヲタヲタする簪はお嫌いですか?




『IS』二人目の未来 05 更識簪

 更識簪は思い返す。日本の代表候補生である簪は『IS』学園の入学に合わせて専用機を受けとる予定だった。それを砕いたのは一夏になる。簪の専用機を開発していた日本の『倉持技研』は、一夏の専用機を開発することが政府介入で決定し、全体の七割にものぼる人員を一夏の専用機開発に投入した。簪の専用機──第二世代型の訓練機になる日本国産の『打鉄』の後継機を目指した『打鉄弐式』は、一夏の専用機開発のために無期限の中止になっていた。

 

『契約違反をするつもりはない。だが、こちらに日本政府の圧力があった。足りない時間をマンパワーで埋めるしかないんだ。すまない。本当にすまない』

 

 簪の担当者は土下座する勢いで謝罪した。現実にはやれること、やれないことがある。半ば諦めが混じりながらも、再開の期日を訊いた簪に返答はなかった。家の力を使わずに才能と努力でのしあがった代表候補生。簪自らが発案から携わった専用機の開発計画。優秀な姉の楯無に挑む夢が崩れていく音を聞いた。

 

『──だからね? 簪ちゃん。あなたは無能でいなさいな──』

 

『お姉ちゃん。わたしは無能なんかじゃない。この弐式であなたを倒す』

 

 悔しい。ひとの夢は儚い。本当に悔しい。うちひしがれた簪はお気に入りのアニメを延々と流し見していた。普段なら楽しい勧善懲悪ものすら、意味がわからない。焦点が定かでない、うつろな目で画面をみる簪の手を握り続けた本音がいなければ、日常生活に支障をきたしていただろう。そのさいに起こったテレビジャックに気づいた本音が簪を叩いた。

 

『かんちゃん! これっ、倉持だよっ。かんちゃんの話もあるかもっ!』

 

『──それからなんだっけ。さっきもいったけど、いっくんの専用機は束さんが開発するからさ。倉なんちゃらは解析とか整備したらいいんじゃない? 時間が足りなかったんでしょ~。束さんがやるから触らないでいいよん。もとからあった開発計画すらしないとかねぇ……。倉なんちゃらはバカじゃないの? おう、技術者ども。お前らには愛情がないの? ゴミがっ。ないなら死ねよ。……あっ、そうそう。かっくんの専用機も束さんが造るからっ! いっくんはちーちゃんと同じで剣一本でいいから、かっくんは調査用の全身装甲? フルスキンタイプにしよっか。だってだって、宇宙に行く前に深海に潜るからねぇ。テストもあるし。それからそれから──』

 

 愉快に喋る束に簪は困惑する。何も手につかなかった夜から明けた朝の報道で、叩かれる『倉持技研』の広報者が必死に弁明する姿をみた。いい変化だと喜ぶ本音に簪は苦笑する。一夏の専用機開発がなくなったとしても、簪の開発計画は中止のままなのだ。浮かれる本音には悪いが、すぐには再開されないだろうと予測した簪は決意する。

 

『自分でやろう』

 

 束がいった『技術者の愛情』は簪の琴線に触れていた。愛のない機体。そんなものは認められない。もとよりアニメ好き、ヲタク気質のある簪には、我慢ならない言葉だ。

 

『お姉ちゃんだって出来た。いちから自分で造りあげるんだ。わたしの愛で、わたしだけの機体を』

 

 誰にでもない。自らに誓った。『倉持技研』との交渉は難航した。前例がない。それは前例がないんだと、何度も何度もいわれた。国家や特定企業にしか認められない『IS』コアの所持をいち個人がするのだ。至極当然で、難色を示すことはわかっている。それでも。それでもと簪は粘り強く交渉した。そこには専用機持ちに選らばれた自負、再開されない開発計画の発案者としての想いもあった。束のテレビジャックで世論を味方につけた簪が認められるまであと一歩、もう一歩まで迫ったときに朗報が入った。

 

『S.R.F.』

 

 束と楓が企み、発足した団体だ。わかりやすいという理由で決まった正式名称は『宇宙兎工場』である。本拠地を『IS』学園とし、一切の営利行動をとらずに寄付金すら受け取らない、束の持参金のみで運営される団体だ。ネットから発信された情報は拡散した。宇宙に行く。それだけを目的とした団体に、非常識だ、ナンセンスだと難癖がついた。ただの噂。誰かのイタズラだとする報道もあり、実在する団体とは思われなかった。簪は驚愕する。そんな情報を裏付けたのは『二人目』の男性操縦者からの手紙であり、直に簪を勧誘したのは千冬だったからだ。

 

『──だからこそ、更識簪。お前が欲しい』

 

 涙が出る。簪は評価された。楓からの手紙には様々な理由や事情、政治的な背景などが書かれていたが、簪が覚えてることは最後の一文だけだ。千冬に来るかと訊かれた。行きますと叫んだ。お前が四人目だなといわれたことはうっすらと覚えている。団体に所属したことは千冬を通して政府に伝わり、簪の専用機は『S.R.F.』の開発計画として改善される。歩みを取り戻した簪に不満はない。

 

「そう。わたしは感謝している」

 

「そうだねぇ。かんちゃん。だからこそだよぅ。やっしーにお礼をいわなくちゃダメだよぅ。まだ会ってないでしょ~」

 

「でも、本音。こういうとき、どんな顔をすればいいかわからないの」

 

「笑えばいいと思うのぉ」

 

 笑ってみた。

 

「どう?」

 

「ないわぁ~」

 

 簪と本音が戯れていたのは第三アリーナの観客席になる。今日は一年生の全員が見学する『IS』バトルであり、今は二人の男性操縦者側の準備が終わるのを待っていた。その合間に楯無のデモンストレーションが行われ、次々とターゲットを撃ち、華麗に舞う姿は美しい。生徒最強の実力に見惚れる一年生達をよそに、簪はふと浮かんだ疑問があった。

 

「……ねぇ、本音。本当なの?」

 

「本当だよぅ。会長はチョロイ~ン」

 

「──ねぇ、本音。嘘でしょ?」

 

「本当だよぅ。会長はチョロイ~ン」

 

「それが本当なら、お義兄さんに?」

 

「知らないよぅ。愛人かもよぅ?」

 

「ねぇ、本音。こういうとき、どんな顔をすればいいかわからないの」

 

「笑えばいいと思うのぉ」

 

 簪は本音の頬を引っ張る。盛大な歓声がしたので、頬から手を離した。痛がる本音の文句を無視して伊達眼鏡の機能、投射型ディスプレイの電源をいれた簪は目を細める。アリーナ内に現れたのはセシリアと一夏だ。美男美女。絵になる二人は開始のブザーで飛び回る。

 

 セシリアの『ブルー・ティアーズ』は第三世代型、中遠距離の射撃型になる。俗にいうビットが繰り出された。『BT兵器』をメイン武器にする『ブルー・ティアーズ』は事前の情報通りであり、ディスプレイに表示された情報と現実を擦り合わせていく。それに対して『白式』の情報は少ない。一夏は挙動を確かめるように手を動かしていた。なにかがある。簪はセシリアの情報を頭の隅にやり、『白式』の性能を予測しながら『S.R.F.』の公開情報を出した。

 

「……ブレオン? 本当に?」

 

 飛び回っていた一夏が止まる。『白式』は試作第四世代型、近距離の格闘型だ。簪は呆れた。本当に武器が剣しかない。軽い駆け引きすらもなしに、その情報を高らかに宣言する一夏はダメだ。代表候補生を舐めているとしか思えない。裏側にある足の引っ張り合いを嫌う人でさえ、バトル中にはテクニックとして駆使する。虚実。武術を知るのなら尚更だ。

 

「オリムー、やっぱりバカだぁ」

 

 一夏がアニメにみえてきた簪は笑う。まさか。たったひとつの武器である『雪片弐型』の説明までしてくれるとは思わなかったのだろう。さすがのセシリアも戸惑い、攻撃を躊躇している。代表候補生なら罠を疑うはずだ。その気持ちは痛いほどわかる。簪は頷いた。

 

「本音。織斑くんはすごいよ。代表候補生なら罠だと感じるけど、あれは違うの。やられ役の手順を踏んでる織斑くんは、ザコ役の美学を知っていた。これで、必殺技からの自滅をすれば役満」

 

「……ないと思うなぁ」

 

 簪は熱中した。一夏が『単一仕様能力(ワンオフアビリティ)』の名をいったのである。太陽を背にした一夏は、掲げた剣を降りおろす。発動した必殺技は『零落白夜』だ。千冬の『暮桜』から受け継いだ、相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる最大の攻撃能力。これがあったからこその『ブリュンヒルデ』だ。もちろん弱点はある。自身のシールドエネルギーを消費して稼動するため、使用するほど自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣。最強は最弱の裏返しだ。負けた。負けが決まった。セシリアの完勝である。簪は感動で胸がいっぱいになった。

 

「すばらしい。織斑くんは役満だった」

 

「かんちゃん……。それはないよぅ」

 

 しばしの休憩を挟み、連戦のセシリアと楓が出るとざわめきが起こった。セシリアはいい。あくまでも既存の『IS』を踏まえた機体だ。問題は楓だ。全身装甲の楓はアビスカラーの重厚な鎧をきた機体であり、『非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)』がない。盛り上がる胸部や何倍にも太くなった手足からはどこか流麗な印象を受ける。左肩に二つ、右肩に二つある肩部バインダーが特徴的で、テールバインダーまであるのだ。簪は首を傾げる。じっくりと舐めるように全身を、被ったマスクと一本角をみたとたんに衝撃が走った。

 

「あれって、クィン・マンサ? クィン・マンサなんで? リアルクィン・マンサがいるっ!」

 

『──みなさん。ご静粛に。ご静粛に願いたい。……初公開の機体を説明したいのだが、よろしいかな?』

 

『はいっ!』

 

「パクり?」

 

『そこっ! パクってないから! オマージュ、またの名を魔改造といいなさい。では説明する──』

 

 機体名『六合壱式(りくごういちしき)』は試作第三世代型、近中距離の汎用型になる。未だに未完成の機体であり、現在の武装は二本のプラズマソードと全身に仕込んだミサイル三十発、頭部にある三連式のバルカンだ。未完成なのは肩部バインダーにテールバインダー、胸部に仕込む予定の大型魚雷だという。各バインダーは思考操作による稼働で海や空を泳ぐための補助スラスターが付いており、高機動や旋回力の向上に繋げる予定だとか。やはりクィン・マンサ? 先ほど、指を向けられた簪は口にしない。

 

『──などで、一本角はセンサーになる。客席の小声も拾えるな。それと『拡張領域(バススロット)』にはぎっしりと弾薬が入っているからね。ミス・オルコット。残弾の心配はしなくていい。オプション、『後付装備(イコライザ)』としては、ただ固いだけの棒とか、ライフルにバズーカなどもあるが、余計な話か。気にしなくていいだろう。……では、殺ろうか』

 

 楓が動き出す。青ざめたセシリアが慌てて構える間に、挨拶だといわんばかりに、全身から発射されたミサイルの群れがセシリアを襲った。未完成のはずのテールバインダーから流れるスラスターの光がヒト型の流星のようであり、肩部バインダーを開き回る姿は圧巻だ。セシリアには回る壁が迫るようにみえただろう。迷わずに逃げの一手を打ったセシリアはビットで反撃に出た。全ての攻撃を肩部バインダーで受けながら回る楓は、ミサイルを撃ち続けながらセシリアへ接近する。プラズマソードで斬りつけ、頭部のバルカンで引き撃ち、ミサイルによる追い込みを繰り返す。勝てるわけがない。誰がどうみても圧勝で、その過剰な武力と性能をみせつけた。

 

『──そこまでっ! 勝者、八嶋楓っ!』

 

 歓声は沸かない。楓はセシリアと何かを話したあとにピットに戻った。その後ろ姿がなくなり、皆の落ち着きが戻った頃にどよめくような声が起こっていく。

 

「本音。挨拶にいこう。魔改造だった」

 

「まだだよぅ。オリムーともバトルだよぅ」

 

「すぐ終わる。混む前に動こう」

 

「はあい。わかったよぅ。かんちゃんはロボも好きだもんねぇ」

 

 案の定、一夏は秒殺された。バトルのログをみた簪は参考にならないと削除していたりする。一組の打ち上げに混じった簪はしどろもどろで楓と話したため、本音のフォローがなければ危なかった。実は簪。まともに異性と会話するのは初めてで、ぎこちない笑顔はみれたものじゃない。楓と本音によるネタふりで、ロボやアニメ談義に華を咲かせなければ痛い人で終わるような有り様であった。楓が呟いた『更識は更識か。焦る姿は姉に似てるな』という言葉に気づいた本音は、黙ったまま楓の背中を叩き続けた。

 

 なお、クラス代表は一夏に決まった。全敗した一夏の抗議は『全勝したからね。弟さんは頑張って』という楓に飛びかかる寸前で、『弟さんと呼ぶのとクラス代表。どっちがいい?』で黙殺された。楓がエスだと広まったことは些細な話だが、ザコ役のお約束を簪から説明された一夏の背中は泣いていた。

 

 





次回『嘘』予告。

やめないで、かんちゃん。
どうしてもやめるっていうの?
一緒にバストアップ体操をしてよっ。

次回『うっか鈴のちんちく鈴』

この次も、サービスサービスぅ!
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