魅力的にキャラ崩壊してる?
やさぐれるちみっこはお嫌いですか?
凰鈴音は牛乳を一気に飲み干す。軽くゲップを鳴らして鼻唄を歌いながら『IS』学園に足をいれた。鈴音は日本育ちだが中国の代表候補生になる。中学二年の頃。両親の離婚で中国に渡り、気まぐれに受けた『IS』適性検査で『A』判定だとわかった。『IS』学園は日本にある。これだと思った鈴音は奮起した。日本に戻るために猛勉強して、キツい訓練にも耐えた。約一年で代表候補生になった実力の高さは、才能だけでは片付けられない努力のひと。結果として専用機持ちになった。
「それが裏目になるなんてね~。さすがあたし。頑張りすぎちゃったわ~」
本来なら学園の初日から通う手筈だったが、専用機の調整に手間取り、編入手続きをするはめになったのである。そして現在は迷子だ。あっちにふらふら。こっちにふらふら。走り回るのが好きな鈴音は、しばしば方向を忘れてしまう。
「なにをやってるんだお前は」
「ん? 千冬さんに似てる? ……まっ、まさかね。本人なわけないしねっ」
「ほう? 久し振りにデコピンするか?」
「嫌ですっ! あっ、そのっ、ご結婚おめでとうございますっ! じゃっ、そういうことで~」
「まだしてないが、ありがとう。それで凰。いつも通りに迷子だろ? 案内してやるから来い」
残念っ、回り込まれてしまった! 千冬からは逃げられないっ! 鈴音が持つボストンバッグを千冬に取られ、奪い返そうと跳ね回るも避けられてしまう。
「ちっ、千冬さんは忙しいでしょっ! ……あたしは大丈夫だしっ。クっ。あたしは大丈夫なのでっ、シっ!」
「気にするな。凰は生徒で私は教師だ。ほらほら追って来い。まだまだ甘いな。……そうだ、凰。歓迎しよう、盛大になっ!」
うぼわぁ。赤くなった額をさする鈴音はニヤけてしまう。いつもこうだ。元気な鈴音に千冬がかまってくるのだ。毎度のこととはいえ、絶妙な力加減で額を打たれて転げ回り、一夏が呆れた姿をみせるのが日常だった。一度だけ、鈴音はしでかしている。鈴音からみた千冬が親戚のババアみたいだったのでババ臭いといったのだ。あれは泣いた。漏らしたし。苦い記憶である。そんな千冬でも鈴音は慕っているが、内心では悪態をついていた。こんの『B.B.A.』めっ。絶対に口に出さないが、いつかやり返したいと思っている。
「そうそう、千冬さん。一夏は元気?」
「ん? いつも通りだが……。凰。お前はまだ好きなのか?」
「う~ん。微妙。一年も離れてたけど日本は好きなんだぁ。こう、帰ってきたっ! とか思うけどさ。離れてわかったのよ。一夏の鈍感は無関心と同じなんだって。近場にいたアイドル? そんな感じだったみたい。……今はもう、ねっ」
「そうか。恋に恋するのは卒業か。鈴。成長したな。──しかし。こうなれば、不良在庫同士か」
何やら深いタメ息をする千冬に不安を感じた鈴音は追求せずに、学園のあれこれを訊くことにした。嬉しいやら残念やら、鈴音は一年二組であり、千冬や一夏とは少しだけ距離がある。それから、二組と三組のクラス代表が専用機持ちでないため、クラスで話し合って欲しいと千冬に頼まれた。鈴音は快諾。諸々の手続きを終えた鈴音は千冬の案内で寮に入った。
鈴音のルームメイトは同じ二組の『ティナ・ハミルトン』だ。鈴音は早速、千冬に頼まれたクラス代表のことを話した。その話を聞いてすぐ、二組の生徒達を集めたティナの行動力はすごい。あたしじゃなくても……。遠慮がちに鈴音が専用機持ちだと伝えると喝采が起こった。困惑する鈴音に迫るティナが一組の情報を伝えてくる。
「それじゃなに? 一組には三人も専用機持ちがいるわけね。しかも、一夏に何かあれば二人目の『六合壱式』と『IS』バトルをする可能性があると。それが嫌だって話なのよね? ……ねぇ、ハミルトン。そんなにヤバいの?」
「ヤバいよヤバいよ? フルボッコよ、フルボッコ。勝てるとか勝てないとか、そんな話じゃないわ。軍用機だといわれても、ですよねー。そんな感じ」
「なにそれヒドい」
「ジッサイ強い?」
「あたしは鈴でいいわ。ネタが通じて嬉しいし、仲良くしましょ」
「ティナでいいわよ。鈴。日本のスラングは勉強中だから、コアなのはやめてね」
「うしっ! それなら明日っ、一組に宣戦布告してくるわねっ!」
盛大な拍手を受けた鈴音はひとり一人と握手をしていく。二組のクラス代表になった。気合い充分の鈴音は夜更かしは厳禁だからと部屋に戻り爆睡する。
◇
「──その情報は古いよ。二組のクラス代表は、あ、た、しっ! 中国の代表候補生、専用機は『甲龍』の凰鈴音っ! 鈴って呼んでねっ?」
「……鈴? なんで格好つけてるんだ?」
「今日は宣戦布告にきたわけ。一夏はぶち殺し確定だけど、噂の二人目はいる? ちょっと千冬さんの話をしたいんだけど……」
「あ、俺が八嶋楓。好きに呼んでくれ」
「りんりん後ろぉ~」
「なあ、凰。昨日もいったが、学園では織斑先生と呼べ。そういったよなぁ?」
「ひぃ。……またあとでねぇ~」
逃走した鈴音は昼休みまで大人しくしていた。チャイムの音と同時に立ち上がる。飛び出した鈴音は廊下から一組の様子を窺っていた。不審者さながらに千冬を警戒する鈴音は真顔だ。もうすぐだ。もうすぐ立ち去る。あんの『B.B.A.』めぇ。ギンッ。振り返った千冬がニタリと笑う。悲鳴をあげた鈴音は食堂へ走った。
食堂でひとり、担々麺をすする鈴音をみつけたからだろう。相席した一夏が鈴音へ質問攻めにしてきたので威嚇してみた。その様子に戸惑うのは箒であり、鈴音の目当てだった楓はいない。ファースト、セカンド幼馴染みだと紹介する一夏のカツ丼からカツを奪う。なにやら文句をいってくるが、鈴音は知っている。一夏はシスコンだ。楓の話をする度に遮られたらウザい。すでに聞いている千冬からの情報もあり、一方的に楓を嫌う一夏に呆れていた。
「──色々は色々よ。色々あったのよ。にしてもさ、一夏ぁ。あんたバカぁ? 一夏が認めなくても千冬さんは結婚できんのよ。そりゃあ、一夏が認めたら嬉しいとは思うわ。でもね。千冬さんだって女なのよ? 結婚は夢じゃないの?」
さすがあたし。良いこというわ。そう。そうなのよねぇ。『B.B.A.』でも女なのよ。幸せそうな顔をしやがってさぁ。なによ? 自慢? 自慢してんの? 普通さぁ、年下のあたしにいう? 同僚とかにしなさいよ。だから一夏。彼氏の話を聞かされたあたしは諦めたの。
「うぐっ。……だが、家族だぞ?」
「はいはい。好きにしなさい。あたしは千冬さんを応援する。同じ女、妹分としては味方したいのよ。だから一夏。この件に関しては力になれないわ。悪いけどね」
「はあ。仕方ないか。それはわかった」
「うしっ! この話は終わりね。そんで一夏ぁ。そっちに座る、数年振りにあった篠ノ之さんとは付き合ってんの? やるぅ。ねねっ。イチャイチャしてんの? してるんでしょ?」
「してないし付き合ってない。そういう冗談は箒に失礼だぞ? それに鈴。酔っ払った千冬姉に似てきてるからな」
うぼわぁ。
「反省します。わりとマジでごめん」
「う、うむ。それと、箒でいいぞ?」
「ん? そう。なら箒。あたしは鈴よ」
「ちょっとよろしくて?」
一夏が眉を寄せる。なんだろう? 鈴音が怪しんでいるとセシリアが高らかに名乗りあげた。なるほどね。一夏の苦手なタイプか。把握した鈴音は丼に口をつけてすする。安い挑発だ。専用機持ちのお嬢様なんかには負けない。セシリアは微笑みを深くする。鈴音も笑う。鈴音の闘志に怯む様子のないセシリアに手を出した。握手に込める力は強い。鈴音はセシリアを隣に座らせた。向かい合う一夏と箒が引いてる?
「気に入ったわ、オルコット。あたしは鈴でいいからさ。そのうちバトルしましょう」
「ダーティがお好きなようですわね。わたくしはセシリアで構いませんわ。鈴さん。こういうときは確か……」
「おう! バトルしようぜっ!」
「ええ。バトルしましょう」
「あのさ箒。なんか違うと思うんだ」
「わからん。わからんが。代表候補生同士には、なにかあるんだろう」
烏龍茶と紅茶をぶつける。鈴音とセシリアは専用機を争う、代表候補生時代の話で盛り上がり、一夏と箒が遠い目をしていた。それに気づいた鈴音は気になっていた話題をふる。楓とのバトルだ。一夏の感想は卑怯であり、セシリアの感想は卑劣だった。感想が似て嬉しかったのだろう。一夏が前のめりになるが、セシリアは首を振った。違うのですと紅茶で舌を濡らす。
「恐ろしいほど貪欲に勝ちにいきますの。楓さんの眼差しは深いのですわ。生きるために勝ち続ける必要があるそうですし、あの機体に振り回されないよう、努力を惜しまない方ですの。まだ未完成の武装や機体と聞いてますからね。ますます強くなるかと……。本当に、あの片腕の身体でよくぞ、そう思いますわね」
「へえ。すごく好評価ね」
「ええ、そうですね。鈴さんもバトルをすればわかりますわ。バトル後にレポートをいただきますの。どう思い、どう闘い、どうするのか。対戦相手の思考を読むことから始めると聞いたわたくしは驚愕しましたわ。他人の挙動を読み取るのは癖であり、ご趣味だとか。……まあ。やや? 褒められるご趣味ではないかと思いますが、バトルに生かされているようですしね。あまりうるさくするつもりもありませんの」
「たぎるわぁ。あたしもヤりたい」
「ぜひ、そうなさいな。わたくしはね。わたくしのとるであろう闘い方や苦手な距離に挙動の癖を教わりましたの。信じられます? あまりにもショックでね。紅茶を溢してしまいましたわ。事前準備で丸裸にされたうえで強襲ですのよ。あれを卑劣と呼ばずになんといいますか。レポートは紙でいただきまして……。わたくし。思わず引き千切りましたのよ。その直後にメールが届きましたわ。『ストレス発散はできた? 電子データなら破れないだろうからね』なんてありましたのよ。それはもう笑いましたわ。お腹を抱えましたの」
「ちょっとやり過ぎじゃない?」
「ええ、鈴さん。わたくし。次こそは角を撃ち抜きますの。それに、わたくしが納得できるまで訓練に参加できますからね。どう思おうがプラスになるのです。最初のバトルでは不覚をとりましたが、わたくしも成長していますのよ?」
「セシリア? なんで顔が赤いのよ」
「べっ、別に、なにもありませんのよ? え、ええ。なにもありませんの。ありませんのよ? いいですか、鈴さん。なにもありませんの」
「うん。なんかあったのね」
「ふぐっ。……鈴さんもみればわかりますわ。バトル後は暑いからと脱ぐのです。上半身、裸なんですのよ? あの腹筋と背筋は素晴らしい……。え、ええ。着痩せしている楓さんが羨ましいですわね。おほほ」
「セシリアァ。あんたもかぁ……。ビービーエーといいセシリアといい──」
「なっ、なんですの?」
「男かっ。また男なのかっ」
震える鈴音が吠え声をあげた。鋭くも光る鈴音の目に怯えたのか、箒が一夏の腕にしがみつく。お前も男かぁ~。目が語る。箒の口から悲鳴がもれ、セシリアは鈴音から距離をとった。鈴音は気づいてしまう。一夏の腕を挟む巨乳に──。
「しまった! 食後の牛乳を飲んでないっ! 飲まないと……。箒とセシリアはそうね。あんたらはあるのね。そうだ。みんな死ねばいいのよ」
「なにをやっているんだお前は」
呆れた千冬に鈴音は沈められた。しばらく転げ回っていた鈴音がうめき声をあげる。千冬から受け取った牛乳を一気に飲み干した鈴音は机に叩きつけた。箒とセシリアの胸をひと睨みして舌打ちをする。哀れみの視線を受けた鈴音は走った。
その日の放課後。楓の訓練に介入した鈴音はストレスを発散するように暴れるも、ごくごく簡単に鎮圧されてしまう。楓に負けた腹いせを一夏にぶつけようとしたが、一夏に『そうだ、酢豚だ。おごってくれよ』といわれ、きょとんとする。鈴音は『一夏、それは告白だったの。好きだってことよ。今は違うけどねパンチっ!』をしたので、ご満悦である。楓の裸体を拝めたし、眠る前の牛乳も美味しく飲めた鈴音は満足気に眠りについた。
次回『嘘』予告。
ちょろ可愛い?
誰がいいましたの?
お母様にも打たれたことないのにっ!
次回『満を持して登場。チョロコッ党!』
この次も、サービスサービスぅ!