「特設航空母艦、春日丸と申します。不束者ですが、務めを果したいと思います。」
九六式艦戦を手なずけて、鷹匠のように敵を迎撃する彼女の名前は特設航空母艦 春日丸 だ。彼女は元々、海軍所属では無かった。当初、豪華客船として就役したが…。時代はそれを許さなかった。客船時代はほとんどなく海軍に接収され、空母へと姿を変えたのだった。そんな苦い過去を持つ彼女がこの横須賀へ着任したのはつい最近のこと。空母といっても戦地への航空機輸送が主だった彼女だが、愛機の九六式艦戦を手なずけている。鷹のように素早く、鋭い攻撃能力を活かして空母戦の時は先頭に立つこともある。だが、本音は戦争が嫌いであり…。本来の客船としての生涯を送りたかったと今でも思っている。彼女が、提督食堂でよく注文する食べ物がある。それはエビグラタンだ。
「おっ、春日丸か…。今夜もエビグラタンかい?」
「はい。お願いいたします。」
と、静かな声でエビグラタンを注文する彼女に提督は…。
「ここじゃ、別に気を使わなくてもいいんだよ。同じ商船改造空母の隼鷹なんか、あんな調子なんだからさ。君もくつろいでいいんだよ。」
と、相変わらず酔っ払って酔いつぶれている隼鷹の方を見る。「で、ですけど…。」と、気を使いっぱなしの春日丸。提督は厨房へと去っていく。
(はぁ…。私、ここで上手くやっていけるのかなぁ…。)
心の中で心配になる春日丸。すると…。
「隣、いいですか?」
その声に気付いて振り返ると、そこには瑞鳳がいた。
「…そっか。春日丸ちゃんも色々と大変だったのね。」
と、レモンサワーを飲みながら瑞鳳が呟く。春日丸は思いきって、客船として生まれて空母として育った自分の事を話したのだった。
「ところで、客船の時の話だけど…。日本郵船所属だったんだよね?ということは…料理には知識ある方?」
と、突然料理のことについて聞かれた春日丸は驚いた。
「えっ、ええ。ちょっとしたフルコースなら作れますけど…。」
と、話すと瑞鳳は驚いた顔で見つめてきた。
「フルコースって、ちょっとした物かなぁ?今度、一緒に料理作ってみない?私も料理作るの好きだし!」
「…えっ?そうなんですか!?」春日丸が驚いていると、提督がエビグラタンを持ってやって来た。
「はい。おまたせ。あれ?瑞鳳どうした?」
「提督~。あたしにもグラタン頂戴ー。」
と、駄々をこねる瑞鳳に春日丸が
「あ、あの。よかったら一緒に食べませんか?」と、声をかけてきた。
「えっ、いいの?」
「ええ。せっかく話し相手になってくれたんですもの。そのお礼です。」
「春日丸ちゃんありがとうー!」
と、元気に御礼を言う瑞鳳。エビグラタンを取り分けて「いただきます。」をして口へ運ぶ。すると、口の中に、濃厚なホワイトソースとエビのプリプリッとした食感が広がりとても美味しい。
「提督!とっても美味しいです。」
と、瑞鳳。一方の春日丸は静かに食べていた。だが、その瞳には涙が浮かんでいた。瑞鳳が尋ねると、返ってきた言葉は意外だった。
「…いや、ちょっと姉妹の事を思い出しましてね。料理の上手さを競いあっていたのが急に懐かしくなってしまって。」
と、涙を手で拭く。姉妹の新田丸と八幡丸の事を思い出したらしい。
「おいおい。大丈夫かい?」涙が止まらない春日丸に提督は心配そうに声をかけた。
「けど、大丈夫です。こうして、自分の居場所がまた見つかって…。」
客船として生まれて、空母として育った彼女は…。異色の存在だった為、なかなか友達が出来なかったらしい。だが、瑞鳳や提督と話して昔、姉妹で共に料理を競いあっていた事を思い出したのだった。それからと言うと、彼女は瑞鳳とよく料理を作るようになった。洋食が得意な彼女のお陰で、空母寮の洋食メニューが増えて大和の洋食といい勝負が出来るほどになった。
こんにちは。今回は客船として生まれ、空母として育った春日丸の話を書いてみました。元々、日本郵船の豪華客船として就役した彼女は戦争という時代を空母に姿を変えて活躍しました。彼女と同じ時代に活躍し、今は横浜港で余生を送っている氷川丸によると…。[料理は郵船か帝国か。]というほど、日本郵船の客船は豪華かつ美味しいフルコースで有名でした。洋食が有名だったということで、メニューはエビグラタンにしてみました。エビグラタンって、洋食でも花形ですよね。あのホワイトソースとエビのプリプリッとした食感と風味がいいんですよねぇ~♪異色の存在だった春日丸ですが、横須賀で友達も出来たようですね。これから空母として成長していく彼女には、客船時代の事もちゃんと覚えていてほしいものです。