幼馴染の夢と想い   作:伊東椋

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 夢を見ていた。

 

 夢の中にいる『私』は、『彼』のために存在していた。

 

 「事件だ! いや、事故? と、とにかくタクの言う通りの事が起きたかもしれないんだよ!」

 

 この世に肉体を得て6年、『私』は『彼』のやりたい事を叶えるために走り回った。それこそが『私』が存在する理由そのものだったからだ。

 

 『彼』が『私』の存在理由……という点は、私とほとんど変わらない。

 だが、『私』の行ってきた事は『彼』の望む結末を与えてやる事ができなかった。

 これまでに『私』がしてきた事は、結果的に『彼』の願いを叶える事はできなかったのだ。

 

 『私』は、何のためにこの手を汚してきたのだろう。

 

 夢の中の『私』は殺人鬼で――『彼』を死なせないために多くの人の命を奪ってきた。

 

 そして光が照らす舞台の上で、『私』の正体を知った『彼』は、『私』にその剣を振りかざす――

 

 「――私から”目的”を奪わないで!」

 

 だが、『私』の声は『彼』に届かない。

 

 『私』は『彼』の名を叫び、終焉の時を迎えた――

 

 

 

 ”次”の『私』は、生まれ変わったような日常をおくっていた。

 

 記憶喪失となった『私』には見た事もない友人達がいて、彼女らと一緒に渋谷の街へと遊びに行くのだ。

 

 それが全ての始まりだった。

 

 襲い掛かる頭痛。

 

 学園で見た信じられない光景。

 

 禁じられた渋谷に来れば来るほど、『私』は頭痛に襲われ、そして何かを探し続けた。

 

 その果てに、ある病院に連れてこられた『私』。

 その病室で出会ったのが――『彼』だった。

 

 だが、『彼』は『私』に冷たい態度を取り続ける。

 記憶を失っている『私』も、『彼』に酷い言葉を並べ、嫌った。

 

 『私』がいくら罵倒しても、『彼』は怒ったりしなかった。『私』は驚いた。『彼』は涙を流して、笑っていたのだ。昔と変わらない優しい笑顔だった。

 

 そう、『彼』はいつだって、すごく優しかった。

 

 記憶を失った『私』には理解できなかったけど、私にはわかっていたから、もどかしくて悔しかった。

 

 あの男を前にして恐怖で震える事しかできなかった『私』を、何の能力も持たない『彼』が守るように割って入ってくれた。その姿がとても頼もしくて、その言葉がとても心に響いて、そしてその存在がとても格好良くて――

 

 だが、やはり『私』は『彼』の傍に居る事は許されなかった。

 

 『私』は一人で夜の渋谷の街を彷徨い、その先で辿り着いたヒカリヲでちょうど公演していた演劇を観た。

 初めて来るはずなのに、まるで誘い込まれるように席に着いた『私』は、ただただ、舞台の上で繰り広げられる演劇を眺める。

 いつしか、その目からはぽろぽろと大粒の涙が止めどなく零れ落ちた。

 

 すべての終わった場所で、『私』は舞台から下り、観客席でスポットライトの光を浴びる。

 鳴りやまないスタンディングオベーションの中、『私』は太陽のように眩しい天井の光を見上げる。

 私は『私』と共に、天井から降り注ぐ眩い光に包まれた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、夢から醒めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、頬に冷たい感触があった。

 そっと指で触れてみると、目の縁から涙が零れている。

 またあの夢だ――何度目かわからない夢を見て、私は涙の跡がくっきりと残った頬をゴシゴシと拭った。

 目覚めた頃には内容も覚えていないが、同じ夢だと言う事だけはわかった。何か大切なものを思い出したかのような――しかしその夢自体を思い出そうとしても全体が靄にかかったように掴み取れず、それがどんな夢だったのかもわからない。

 いつもならこの夢を見た朝は、とても胸が締め付けられるような感覚を味わう事になるのだが、今日だけは違った。隣で一緒に眠る彼の姿を見た途端、気怠さも吹っ飛ぶような幸福感を感じた。

 「タク……」

 眼鏡を外した彼の寝顔を、そっと撫でる。

 ずっと触れたいと思っていた、彼。もう二度と離れたくないと願った彼。これからもずっと一緒にいると約束してくれた彼の存在がたまらなく愛おしかった。

 いつまでも眺めていられる彼の寝顔を観察していると、残念ながらその時間は長くは続かなかった。彼の瞼がぴくりと動いたかと思うと、その目がゆっくりと開き、私を見た。

 「おはよう、タク」

 「……ああ、おはよう。尾上」

 いつもと変わらない優しい笑顔を朝一番に拝めるのは、正に至福の時。これ以上の幸福があって良いのだろうか。

 「………………」

 「……?」

 むくりと起き上がった彼が、ハッと私の方を見詰めたかと思うと何故か固まってしまった。どうしたのだろう、と彼の思考を読んでみると、昨夜の記憶が彼の思考から流れ込んできた。

 あの告白の後、私と彼――尾上世莉架と宮代拓留はめでたく結ばれる運びとなった。幼馴染から恋人へとジョブチェンジした二人の間にもはや障害など無く、その先は熱に浮かされた二人が愛を確かめ合うのは自然の摂理だった――という展開になるわけでもなく、もどかしく感じた『黒』の部分が出た私の攻勢を彼が防戦一方で終結すると言う騒がしい夜となった。

 「何故拒むんだ、宮代拓留。 晴れて恋仲となったのだから、大人しく私の処女を受け取ると良い」

 「待て! だから待てって! いきなりそんなの進展過ぎるのも程があるだろっ!」

 結局、両者とも疲れて寝落ちしてしまったが、あの時の彼はとても可愛らしかった。あの顔を再び見る事ができたので、良しとしよう。

 「それにしても、本当にここで朝を迎えるだなんて……」

 何もなかったとは言え、朝帰りなのは変わらない。

 「う? でもタク、青葉寮じゃなくて宮下公園の方に帰るんでしょ? それなら誰にもバレないじゃない」

 「……確かに、そうだな」

 こういうちょっと抜けてる部分も、彼の良い所だ。可愛い。

 「ねえ、タク」

 「ん? なんだ、尾上」

 昨夜は私の涙で濡らした彼の胸に、ダイブする。

 「タク、だいすき」

 

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