誰かが何かをするだけの話   作:なぁのいも

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過去作の江風が過去作の海風に会ってしまったお話(?)


私が知らない姉妹の姿

 ある日の正午過ぎ。提督の誕生日プレゼント買うために街に出掛けた江風ではあるが、上手くプレゼントが決まらない。

 

「ンー……どうしよっかなぁ…」

 

 姉である村雨の様にセンスの良い物を選ぶことなんて無理だし、海風の様に気の利いたものを選ぶことは出来ない自覚はある。白露型の中でも一番の男勝りで、あまり少女らしくないと言う自覚もありはする。

 

 それでも、姉や妹達からは江風が一生懸命選んだものが一番喜んでくれると背中を押され、その言葉で少し調子に乗って一人で街に繰り出した江風であるが、候補すら探すことが出来ずに既に一時間が経過してしまっている。

 

 自分が街へと出かける時に鎮守府で見送ってくれた心配そうな表情をした姉の海風の事が頭を過る。こんなにも決まらないのなら、海風について来て貰った方が良かったのかもしれない。

 

「でもそれだと、結局全部姉貴頼りになりそうだったし…」

 

 四ヶ月前まで、もっと言うと提督との関係が特別なものになるまでは、殆どが海風頼りの生活を送っていた事は間違いない。海風が心配して色々とお世話を焼いてくれたので、それに酷く甘えていた。

 

 当時は何も感じて無かったが、今は提督の役に立つために色々と修行している最中なので、当時の海風への甘えっぷりの酷さを思い返すと苦笑が漏れる。

 

 ここで海風に頼ってしまうと、プレゼントも海風が決めてしまい江風もそれに流される結果となるだろう。流されたとはいえ、決めたのは江風。そうなってしまったら、江風が選んだことに等しくなる。

 

 そうならない様に今回は一人で行くことにしたのだが、余りにも決める事が出来ない為に海風にもついて来て貰った方が良かったのでは?と言う後悔も出てくる。

 

「ンー…サクッと決めれると思ったんだけどなぁー」

 

 顎に手を置いて次に行くお店を吟味していると、人込みの中に見覚えのある人物が目に止まる。薄い水色のワンピースに膝近くまである長い銀髪を三つ編みにした清楚な少女。あの特徴的な髪の色と長さで江風はすぐにピンと来た。江風の姉である海風だ。

 

 もしかしたら、江風の事を心配してこっそりついて来たのかもしれない。それならば好都合だ。今の江風では提督に贈るプレゼントを選ぶことは無理難題に等しい。自分の力で選びたいのが本心だが助言を貰う位は許させるだろう。

 

 普通に声をかけるのもつまらない。江風はこっそりと海風の背後にまで忍び寄り、力一杯に彼女の肩を叩く。

 

「ひゃああああ!!??」

 

 肩を大きく跳ねさせて、仰天の声をあげながら背後に振り返る。海風の背後には悪戯が成功しニヤリと笑う江風が立っていた。

 

「よぉう!海風の姉貴!なぁんだ江風の事が心配でついて来たのかい?ンっ?」

 

 にひひと声を出して笑う江風とは対照的に、海風は驚愕の表情で固まっている。

 

「ふぇっ?江風?えっ?」

 

 彼女の表情とリアクションに江風も違和感を覚える。

 

「か、江風?今日は出撃の筈じゃ…」

 

「んっ?今日は休暇だよ。鎮守府から出る時だって、見送ってくれたじゃンか?」

 

 江風の言葉で海風は何かに気付いたように一度息を飲むと、自分の思った事を言葉にする。

 

「えっと…江風の所属は?」

 

「んー○○だけど?…あれ、もしかして」

 

「やっぱり、私は○○鎮守府の海風です」

 

 二人は所属する鎮守府が違う海風と江風であり、姉妹の関係でありながらもここでは初対面となる。言わば、そっくりさんと間違えてしまったのが今の江風の状況だ。そっくりさんどころか全く同じ存在ではあるのだが。

 

 自分の鎮守府の江風がサボっていないと言う事実に海風は安堵したような表情となり、江風は何処か気まずそうな表情となる。

 

「ふふっ。おっちょこちょいね江風は」

 

 自分の所属する鎮守府で江風が気まずそうにする表情は中々見ないので、海風はついつい笑みを漏らしてしまう。

 

「わ、笑うなよぉ」

 

 自分が起こした失態で目の前に居るのはそっくりさんであり自分の知る海風とは別人のような関係なのだが、どうしても自分の知る姉様に思ってしまう。だから、ついいつもの姉の前でやるように顔を背けて機嫌が悪くなった事をアピールする。

 

「ふふっ、ごめんね江風」

 

「ンーいいけどさぁ…。江風が考えなしに行動したからだし…」

 

「ううん。良いんです。私も遠出してこの街にあるお菓子を買いに来たから起きた間違いなわけですし」

 

 お菓子?そう言われて江風が手に持っていた物に注目してみる。海風も江風の視線に気づいた様で、にこりと微笑みながら左手に持っていた袋を掲げる。袋の中にある箱の印刷には見覚えがある。この街で有名なお菓子屋さんのマークだ。

 

「はーン。成程、確かにそこのお菓子美味しいもんなぁ」

 

「今日は遠出して初めて買ってみたの。その…忙しい提督と一緒に食べれたらなぁって」

 

 ほんのり顔を赤くして照れる海風。袋を掲げる左手をよく見てみると、薬指には銀色に光る金属類が。

 

 酷く陳腐な物言いをすると、今ここでこの海風に出会えたのは運命的な物だったのかもしれない。この姉なら、自分に適切なアドバイスをくれるかもしれない。

 

 江風の雰囲気から海風も何かを察し彼女もふんわりと微笑む。

 

「何か私に聞きたい事でもあるようね。よかったら、近くの喫茶店に案内してくれないかしら。そこでお話を聞きますよ」

 

「ホントに?!いやぁ助かるよ!勿論、姉貴のおごりで!」

 

「もう、調子が良いんですから」

 

 初対面の筈の二人。でも、そのつながりは違う二人でも本物のようでいつの間にか砕けた会話が出来ている。

 

 自分の鎮守府にいる江風の事を思い出し、また微笑ましく思った海風はお茶代位は出してもいいかなと思いながら、先を歩く江風に続く。

 

 

 

 

 

 

 喫茶店でそれぞれ飲み物と江風は追加デザートを注文し、雑談をしながら注文の品を味わい、海風は江風の相談に乗る。

 

「成程、提督に贈る誕生日プレゼントが決まらないわけですね」

 

「そうなンだよ…。やっぱり、江風じゃイイのが思い浮かばなくってさ」

 

「それで、私の事を見つけて相談しようとしたわけね」

 

「うンうン。そういう事。姉貴、昔から過保護だったから、もしかしたらこっそりついて来たンじゃないかなーって思って」

 

「そうしたら、『別の海風』だったって言う事ですね」

 

「うン。その通り」

 

 注文したデザートを美味しそうに頬張りながら、子犬の様に首を上下に振る。

 

 過保護と言う言葉を受け、海風は自分に苦笑いを浮べる。

 

 江風の鎮守府に居る海風とは別人とは言えるが、今思うと妹達に対してかなり過保護に世話を焼いていたかもしれない。今は提督のお手伝いに勤しんでいるので、余り妹達のお世話をしてないが、妹達にとって姉離れに、海風にとっても妹離れしていくいい機会となったのだと今は思う。そのお世話欲は今は海風の提督に完全に向いているのだが、彼女の提督自身は自分の事は自分で出来る人の上に、家事の分担は完全に出来ているので海風が提督に過保護に世話を焼く心配も無い。

 

 話を聞く限り、江風の所の海風はまだ妹離れをする事が出来なさそうだ。でも、近い内には自然と妹を見守る立場になれるだろうという予感はする。妹の成長を見守るのは姉の役割だから。

 

 目の前に居るのは海風であるのは間違いない。だけど、江風の知る海風とは違う印象を受ける。

 

 江風の知る海風は、どこまでも姉妹、特に妹思いだけど過保護な面が強くて心配性だけど、頼れる存在でつい頼ってしまう。

 

 でも、目の前の海風はどこまでも落ち着き払っていて、妹をお世話する対象の様に見て無くて、まるで優しく見守るようでいて、それでいて、服装のおかげか儚さと綺麗さを合わせ持っている素敵な女性だった。

 

「どうしたの?私に何かついてますか?」

 

 いつも知っている海風とは違いすぎて、思わず見惚れてしまった。彼女の頼んだ紅茶を飲む動作もとても優雅で可憐で。

 

 だから、江風は改めて感謝する。この海風とめぐり合わせてくれた運命に。

 

「いや、なンでも」

 

「そう?なら良いのですけど」

 

 彼女がティーカップを置いた事を確認して、江風は本題を進める。

 

「そンで、プレゼントは何が良いと思う?」

 

「その前に一ついいかしら?江風は提督の事好き」

 

「それはその…好きだよ…。好きだから、出来るだけ江風で選んで渡したいってワケだからさ」

 

 気恥ずかしさに顔を赤く染めながらもなんとか自分の想いを言葉にする。

 

 提督の事は大好きだ。だから、あんな作戦(過去作参照)に出てまで提督の気を引こうとしたのだ。結果としては、盛大にからかわれる事になったが。

 

「うん。その気持ちは大事よ。好きだからこそ、本気で選んでるんだもんね」

 

「うン…」

 

 落ち着き払っているからか、江風は素直に心の内を語ってしまう。別に言う義務も義理だって、目の前の彼女にはありもしないのだが、世話焼きとしての頼れる面とは完全の別の妹を諭す姉としての面。その面に絆されついつい心からの言葉が出てしまう。

 

 ――ああ、凄いなぁ。

 

 何となくではあるが、心で悟る。これが真に姉としての海風の姿なのかもしれない。世話を焼く面を控え、妹を見守り導く優しく寛大な姉。

 

 海風の中に秘めていた真の姉としての海風。

 

 ――江風もこんな風になりたいかなぁ

 

 自分とは真逆で、落ち着き払っていて心の広さがありありと伝わる。だからこそ、憧れそうになる。目の前の『自分も知らない姉』に。

 

「どんなものを贈りたいとか、そう言う要望はある?」

 

「ンー。あんまり思い浮かばないな。でも、食べ物とかは嫌かな」

 

「折角の提督の誕生日だもんね。どうせなら無くなる物よりは使ってくれる物とかの方が良いよね」

 

「その通りかなぁ。うん。やっぱり、無くならないもの方が良いな」

 

「どんなのがいいのかな?例えば、万年筆とか、ご本とか」

 

「んーそれよりは身に着けてくれる物の方が良いかな?」

 

「それは、何でですか?」

 

「その…江風は出撃で提督と一緒に居られない時が出てくるから、だからふとした時に身に着けた物を見て江風の事、思って欲しいなー何て…」

 

 少し照れながらも江風は自分の想いと考えを口にする。

 

「ふふっ。答え、出たわね」

 

 海風は花が開くような可憐な笑みを浮かべる。

 

「あっ…」

 

 確かに答えは出た。それも自分の想いと言葉だけで。

 

 海風の言葉は決して押し付ける物じゃない。誘導的ではあったが、海風が言ったのは質問と例の提示だけ。そこから出たのは、江風の考えと本心があってこその答え。

 

 自分の力だけではこんなに早く答えを得る事は出来なかっただろう。江風の所の海風では別の答えが出た可能性がある。

 

 ――ああ、良かった。相談できて良かった。

 

「これで大分プレゼントを絞れたんじゃないかしら。これ以上は、私は何も言いません。だから、後は江風が考えて」

 

「うン!うン!!ありがとう姉貴!!!」

 

 考えが纏ったのなら善は急げ。そう言わんばかりに江風は飲み物とケーキを一気に食べ終え、海風に礼を述べながら喫茶店から風の様に去ってしまった。

 

「あっ…。もう、自分に素直なんだから」

 

 そうは言いながらも、海風の頬は緩んでいる。

 

 江風が自分も知らない海風を知れたのなら、その逆も叱り。恋する乙女な江風を想像することが出来なかったが、さっきまで目の前に居た江風は恋する乙女そのものだった。

 

 好きな人が喜んでくれるプレゼントは何か、最終的には自分が贈りたいプレゼントは何かにはなっていたが、その方が江風らしい。時に悪戯に、時に素直にが一番彼女らしい。だから、彼女が素直に彼に贈りたいと思った物なら、江風を好きな提督は喜んでくれるだろうと考えたのだ。

 

 雑談の最中も向こうの提督は江風に意地悪だと言いながらも、その顔はどこまでも喜色に満ちていた。それと同時に、一緒に居れない時は淋しいとも。本当は彼女なりの答えは出ていたのだろう。後は、それを彼女に気付かせればいい。

 

 ――私は彼女のお節介な姉ではないですから

 

 そういう少し突き放すような考えがあったからこそ導くようにしたのだが、そうでなくとも今の彼女なら妹達を導くようにするだろう。彼女は『妹達だけの海風』ではなく、『提督の海風』なのだから。

 

 また太陽の様な眩しい笑顔を浮かべて去っていった江風の事を思い出すと静かに笑みを零す。

 

 ――私の妹達もあんな素敵な笑顔を浮かべる様になるのかしら?

 

 先ほどまで居た元気で素直な少女に自分達の妹を重ねながら、また優雅に紅茶に口をつけた。

 

 

 

 

 数日後になり提督の誕生日当日。

 

「これ、プレゼント!」

 

 江風は提督にラッピングした小さな箱を手渡した。

 

「んっ?これは?」

 

「まぁまぁ、あけてみてくれって」

 

 江風に促されるままにラッピングを解いて箱を開ける。

 

 中に納まっていたのは、金色の月の様なワッペンの入ったワインレッドのリストバンド。活発な彼女らしいプレゼント。

 

 そのリストバンドを手に持って出て来た提督の感想は

 

「あぁ、まるで江風みたいだ」

 

 と言うもの。彼女の髪の色と瞳の色。彼女の特徴的な部分がこのリストバンドに集約されている。

 

「そうだよ。その…、江風はよく出撃とかで、ここを空けるから、ここに居なくても江風の事、感じて欲しいって思ってさ。だから、おそろいの買ってみたんだ」

 

 そう言いながら、提督に贈った物と同じリストバンドをポケットから取り出して腕につける。

 

 リストバンドなら袖で隠せるし、着けれない時はポケットに入れる事が出来る。これが彼女なりに考えた好きな人に素直な気持ちを添えて贈るプレゼント。

 

 江風らしくない理由に面食らいながらも、その言葉の意味を理解していく内に、彼女に対する愛おしさが溢れ出てくる。だって、江風が自分と一緒に居ない時は淋しいと言ってくれだのだから。

 

 提督は江風の背に腕を回して抱きしめる。

 

「可愛らしい理由だな。江風らしくない」

 

「な、可愛いも、江風らしくないも余計だって!!」

 

「なんてな、ありがとう江風。凄く嬉しい。ずっと大事にさせて貰う」

 

「きひひー!良かったよ。ずっと大事にしてくれよな」

 

 江風も提督の背に腕を回し、嬉しさと気恥ずかしさで火照った顔を彼の胸に埋めた。

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