「これで……最後だ!」
右手に持った剣を体の横で水平に構える。
青いエフェクトが剣の刃を包みそのまま目の前にいる"敵"を斬る。右から左に、左から右に。
普通の人間の速度ではありえない速度で。
4連撃ソードスキル<ホリゾンタル・スクエア>
剣を纏っていたエフェクトが収まると同時に、敵である人型リザードマン、正式名称<リザードマン・ロード>が不規則な形で動きを止める。そのあとすぐにその体にノイズが走りポリゴンの欠片となって四散した。
溜まっていた息を吐き出すように、少し力を抜く。そして、握っていた剣を背中の鞘に納めながら労い、周囲に敵がいないか確認するために<索敵スキル>で確認する。
(周囲に敵は……いないみたいだな)
敵がいないことを確認しても油断はできない。いつモンスターが再湧出するとも限らない。右手の人差し指と中指を揃えて上から下に振り下ろせばメニューウィンドウが出てくる。
「帰るか……」
一人呟きウィンドウを消す。
もう気付いていると思うが、ここは現実世界ではない。かといって異世界かと聞かれればそうじゃないと答える。そう、ここは仮想世界。簡単に言うとゲームの中なのだ。
「もうすぐ二年か……。月日が経つのって早いよなぁ……」
私たちがこのソードアート・オンラインというMMORPGを始めて……いや、囚われてから……。
何度も思い出す、あの日――このゲームの正式サービスが開始されたときのことを。
——二年前・現実世界
「お姉ちゃーん!部活行ってくるねー!」
妹の"直葉"の声にハッとして私――桐ヶ谷和葉は読んでいた雑誌から目を離して時計を見る。
『12:50』
待ちわびたゲームの正式サービス開始時間まで残り10分だった。
雑誌を本棚に戻し、いつでもゲームを開始できるようにゲームハードであるヘッドギア"ナーヴギア"を起動し頭に被……ろうとして携帯を取り出す。一旦ナーヴギアをベッドに置いておいて、そのまま連絡帳を開いて"隣人"に電話をかける。
プルルルル……プルル……。
『もしもし?和葉?』
「やっほー。悠叶」
隣人——幼馴染みの藍田 悠叶(アイダ ユウト)が疑問符を浮かべながら電話に出た。まあもうすぐ正式サービスが開始されるっていうのに電話をかけていればそりゃ疑問を抱くだろう——
『和葉のことだからなんとなく、とか、待ちきれずに、みたいな理由なんだろうけどね』
と思った時期が私にもあった。
「ははは。私がそんな理由でかけるわけn『嘘は良くないよ』……なんでばれたぁ!!」
なんて話をしている間にも時間はすぎていくわけで。気付けば13時まであと5分となっていた。
「と、とにかく!集合場所は"ベータ"の時と一緒だからね!」
そう言って返事も聞かずにまた後で!と言って通話を切る。
枕元に置いておいたナーヴギアを今度こそ頭に被りベッドに横になる。
『12:59』
残り一分。今か今かとその瞬間を待つ。
残り十秒……。
九……。
八……。
七……。
そこまで数えて目を閉じる。静かに息を吸う。残り一秒。
「リンク・スタート!」
その魔法の言葉と同時に私の意識は仮想世界へとダイブした。