ダンジョンに鉄の華を咲かせるのは間違っているだろうか   作:軍勢

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ゴソコソ…ポソリと投稿


第7輪

唐突ではあるが、オルガ・イツカという男の人生は決して幸運に恵まれたものではない。

 

幼少期から死ぬような目に遭ったことも両手足の指の数などというレベルではなく、CGS時代では理不尽な扱いや暴力で無駄に命の危機を彷徨った事もある。

 

団内の裏切りやとあるお偉いさん(エリオン家当主)の部下によって団員が戦争に巻き込まれたり、空気の読めない馬鹿(クジャン家当主)によって災厄が目を覚まし採掘場が滅茶苦茶になったりと…一々数えていると悲しくなるぐらいには不運やらなにやらに塗れた人生であった。

 

 

 

 

 

そんなオルガだが、オラリオに来てからは信頼できる主神と出会えたり、陽気な仕事仲間達に恵まれた。

最低限の資金を貯める事ができ、装備も不良品ではない信用できるものを用意できた。

 

順調に物事がうまく運んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これだけは言わせてほしい。

 

オルガ・イツカという男の旅路は何時だって困難が付き物だという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

 

バベルの地下にあるダンジョン、その一階層のとある場所で戦いが繰り広げられていた。

 

気合と共にブオンと重たい風切り音を唸らせて剣が振るわれる。

叩きつけられた(鈍器)によってモンスターの肉が潰れ、骨が砕け――

 

「――ギッ!?」

 

――そして断末魔の声を上げて絶命する。

 

「グギャ!!」

 

「チッ!うざってぇんだ…よッ!!」

 

続けて襲いかかるゴブリンを潰れた肉に埋まる様な形になっている剣を振り上げて迎撃、顎をカチ上げる。

剣で間に合わない場合は殴り飛ばし、蹴り飛ばす。そうして出来た隙に剣を叩き込み群れるゴブリン達(・・・・・・・・)を屠っていく。

 

そう、群れるゴブリン(・・・・・・・)をだ

 

ダンジョンの一階層とは、当然一階層と言うだけあって初心者にも比較的安全に敵を倒せる階層だ。

トラップ類も存在せず、モンスターの数も少なく、居るのは特殊な能力も持たないゴブリンやコボルトなどのモンスター位で、しかも殆どが単体(・・・・・)でしか出現しない言ってしまえばチュートリアル階層である。

 

だが、いまオルガが戦っているのは少なくとも20以上は確実に存在している。

第一階層にしては似つかわしくない状況だ。

 

 

しかし、答えとしてはいたって単純だ。

 

怪物の宴(モンスターパーティ)が発生したからである。

 

 

 

 

 

 

 

一応言っておくが、上層のそれも第一階層で発生し巻き込まれるなど宝くじの一等を当てるより低確率だ。

そして、そんなある意味大当たりを引いたオルガは孤軍奮闘を強いられる事となったのが現在の状況である。

 

物事の始まりには何故か多大な苦労を伴うのが運命なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、一階層だってのにモンスター多過ぎだろ…」

 

骸となって横たわるモンスターは既に10を超えているが、ギラギラと殺意に目を光らせたモンスターたちがまだまだ存在していた。

オルガとしては余程運が悪いのか、一階層で大量に経験値(エクセリア)を貯められる状況を幸運と捉えれば良いのか判断に迷う所である。

 

 

「ギャギィイイッ!!」

 

「―――ッオラァ!!」

 

一瞬の気の緩みを察知したのか飛びかかってくるゴブリンをバットの如く打ち返す。

ゴシャッと何かが砕ける感触と共にゴブリンは一瞬で灰となって崩れ去った…魔石を砕いた事で発生したモンスターの末路に気味の悪さを覚えながらも、まだまだ居るゴブリン達に向けて剣を振るっていく。

 

 

ゴブリンを斬殺ではなく撲殺していく姿は(ソード)というより、剣のカタチをした打撃武器(ソードメイス)

ソレを振っているオルガの剣の扱いが素人同然というのもあるだろうが、持ち手の技量以前に切れ味が悪すぎるので斬りるよりこっちの(叩きつけた)方が殺傷力があるという悲しき事実のせいである。

まぁ、正直オルガにとっては剣の扱いなど三日月の扱っていた太刀以外は力任せに叩きつける印象(主に鉄華団でのMS戦闘)が強すぎるので、普通の剣でも似たような扱いをしていた可能性は高い。なので耐久値が高いこの武器で正解だったのかもしれない。

 

とは言え、勿論この乱闘で無傷とはいかず、結構な頻度で攻撃を受けていた。

頭に受けた傷からは血が流れており、体も痣がそこらに出来ている。

もしも防具が無ければオルガはこの場で死んでいた可能性もあっただろう、時間をかけてでも装備を整えた恩恵が早くも出ていた。

 

しかし、普通の冒険初心者であれば、この絶望的状況に泣き叫ぶか自棄になるかの行動を取っていただろう。

恩恵は肉体面の補強は行ってくれるが、精神は自分自身のモノでしかない。ある意味こういう場面でこそ冒険者を続けていけるかどうかが試される。

 

そして、殺意に濡れた異形に囲まれながらもオルガは止まらない、諦めない。

 

「ハッ、今更この程度で…止まるわけねぇだろうがッ!」

 

その目には微塵も恐怖の感情は浮かんでいない。

何故ならこの程度の恐怖に竦む程温い修羅場を潜ってきてはいないのだから

 

十数メートルの鋼鉄の巨人(モビルスーツ)に嬲られる恐怖を知っている身からすればこの程度は逆に可愛いものだ。

何しろ殺せる、生身でも剣を叩き込めば殺せる相手なのだから。

 

「こんなところで終われねぇ、そうだろミカ」

 

此処には居ない親友に尋ねる様に言葉が零れた。

そして『当然でしょ?』と、なにを当たり前な事を言っているのかと言う声が聞こえた気がした。

 

「はっ、やっぱお前ならそう言うんだろうな!」

 

ギリギリと再度剣を握る力を込めてオルガは再び敵に向かって剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォオオオオオッラァ!!」

 

―――グシャリ

 

気合を込めた一撃がコボルトの頭蓋を砕き潰し絶命させる。

 

 

「ハッ…ゼェ…次……!」

 

油断なく周囲を見回すが、そこに生きたモンスターの姿はなかった。

あるのは通路上に折り重なるような死骸がそこらに転がっているだけだ。

 

後に残るは静寂…いや、オルガの荒い息遣いだけだった。

そして絶望を脱した事を悟ったオルガは剣を床に突き立てながら達成感と共に言葉を吐き出した。

 

「ぜっ…ハッ…はっ……どうだ、やってやったぞ……!」

 

息は切れ、流れ落ちる汗は同じく流れでる血と混ざりながら床にシミを作っていく。

数の暴力を無傷で蹴散らせる程の実力は今のオルガにはなく、全身に打撲を作り頭部からは赤い血が流れ出ていた。

体力も底を着いたのか、足はガクガクと震え、剣を床に突き刺してどうにか体を支えている始末。

満身創痍と誰が見てもひと目でわかる状態である。

 

このままであれば少しもしない内に疲労で倒れるだろう。

そうなれば折角窮地を脱したのが水の泡である、ここまできてそんな死に方は絶対にゴメンだ。

 

「ギリギリ…無事みてぇだな」

 

腰のポーチを探ると奇跡的に割れずに済んだポーションを取り出す。

とはいえ罅が入っている所を見るに本当にギリギリだった、もう少し衝撃が強ければ割れていただろう。

 

「マジで効くんだろうな……頼むぜ?」

 

若干の不審を声にだしながらもグイっとポーションを一気に呷る。

美味い…とは言えないが不味いとも言えない味だったが、乾いた喉にはよく染み渡る

容器に入っていた液体はオルガの喉が動くと共に減っていき、あっという間に空になった。

 

「ぷはぁっ!……すげぇなこいつは…本当に怪我が治っちまうし体力も回復しやがった」

 

先程までズキズキと傷んでいた打撲箇所はキレイに無くなり、頭部からの出血もなくなった。

そしてなにより先程までの満身創痍状態から歩いても問題ない位には体力も戻った事に驚いた。

 

「こいつは確かに必需品だな、正直半信半疑だったけどよ」

 

流石に飲むだけで傷が治るという説明にはオルガも不審を拭い切れていなかったが、体感してようやくその効果とありがたみを実感する事が出来た。

少なくとも、今後ダンジョンに潜る際には絶対に購入しておこうと決意する程度には。

 

 

「っと、そういや魔石を取り出さねぇといけねぇんだよな」

 

息が整い、体も動かせる程に回復したオルガは次にやらなければならない事を思い出した。

そして辺りを見回した後、うんざりした様に言葉が零れた。

 

「こいつは…早めにサポーターってやつを雇った方が良いかもしれねぇな」

 

目の前の山となったモンスター達の屍から魔石を取り出さなければならない事実に、これからの冒険者生活にできるだけ早くサポーターを雇える様になろうと誓うオルガであった。

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

…………………

 

………

 

 

「これで最後…っと」

 

最早慣れた様な手つきで魔石を取り出し、モンスターの体が灰となって崩れ去っていく。

 

「やっと終わったか…しっかしホントに魔石を抜いたら消えちまうんだな」

 

オルガは魔石の一つを見ながらそう零した。魔石を抜いた途端に灰となり消えるモンスターはオルガの常識からは外れ過ぎた現象であり、何とも気味が悪いと感じていた。

あと死骸は消えるのに返り血はそのまま残るのかがどうにも納得できない

試しにモンスターの一部を取ったあとに魔石を抜いてみたが同じく塵になった時はうまい話はねぇかと落胆した。

 

「まぁ、今回はそこそこレアドロップってやつは出てきたからよしとするか」

 

上層の上層なだけあり、魔石も魔石というよりは欠片というような大きさで価値は低い。

だが、オルガが言ったように今回はドロップ品もそこそこあり、はじめてのダンジョン探索としては良い儲けだろう。

 

「まだやれそうだが…いや、今日はもうやめといた方が良いか?」

 

体力は回復したとはいえ、今から下の階層に行って似たような場面に出くわしたらお陀仏だ。

悪い時には悪いことが重なる、今までの経験から安易に行くのは危険だとオルガの本能が警告したのだ。

だが同時に、まだ戦えるという思いも湧いてきていた…相反する思いだが、両方ともオルガ自身の思いだった。

 

「いや、焦る必要はねぇ…また明日から潜りゃ良いだけだ」

 

無意識に言葉が零れた。

自分に言い聞かせるような言葉を吐いて、オルガは出口に向かってきびすを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、初日から波乱万丈な思いをしたオルガのダンジョン探索は終わった。

 

 

 

だが、この後受付嬢からボロボロな姿と短時間での魔石やドロップ品の量についてジト目で聞かれる事になるのをオルガはまだ知らない。

 

 




恥ずかしながら半年ぶりに投稿させて頂きました。
本当ならこの後の話も書きたかったけど…これ以上遅筆はちょっと…

あぁ、書きたい事があるのにそこまで話を組み立てるのが長い…

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