ダンジョンに鉄の華を咲かせるのは間違っているだろうか   作:軍勢

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ぐああああ!平成最後に間に合わなかったァ!!
しかし新年号となりました、皆様おめでとうございます!!


第8輪

ダンジョン探索を終え、集めた魔石やドロップアイテムを換金して帰るだけの筈だったオルガだが…彼は現在、ギルドの一室で一人の女性と向かい合うように座っていた。

 

彼女の名前は『エイナ・チュール』

この度、オルガの担当受付嬢となった若手のギルド職員である。

メガネを掛けた知的な美人だが、彼女は現在、そのメガネの奥にある目蓋をピクピクと震わせていた。

 

オルガがダンジョンから持ち帰ってきた魔石とレアドロップの多さに、自分の忠告を無視して奥まで行ったのかと思いお説教をしようかと思ったのだが…話を聞けば、まさか初めてのダンジョン探索で、それも第一階層で怪物の宴(モンスターパーティ)なんてものに遭遇したある意味大当たりを引いたという…

 

その凄まじいオルガの不運さに少なからず戦慄したのである。

 

 

「一階層で怪物の宴(モンスターパーティ)…ですか」

 

「あぁ、お陰で初探索で死ぬかと思ったぜ…まぁ、幸い草臥れ損にならずには済んだけどな」

 

換金された魔石と爪や牙等のドロップ品の代金が入った袋を見ながら疲れた様に言うオルガ。

ダンジョン初日という点で言えば破格の報酬だろう…但し労力もそれに見合ったハイリスクの上でのハイリターンだが。

 

そんな様子のオルガに若干目を吊り上げながらエイナはオルガの行動を咎めるように問いかけた。

 

「なんで逃げなかったんですか?」

 

「……情けねぇ話だが周りを囲まれちまってな、逃げ出す暇がなかった」

 

壁に背を向けていたのもあるが、初めてのモンスター討伐に浮かれていたのかもしれない。

知らぬ間に腑抜けていたらしい自分を恥じながら、目の前の受付嬢の責めるかのような視線を受け止める。

 

「………」

 

「………」

 

「分かりました、ですからそんな睨まないで下さい」

 

「いや、睨んでるつもりはねぇんだが…」

 

数秒間見つめ合いの後、先に折れたのはエイナだった。

野生の狼の様な鋭くギラついた威圧感を持つオルガの眼力の前に屈したのだ…本人としては全くその気はないので言い掛かりも良いところだと悪態も吐きたくなったが…

 

…よく見ると若干涙目になっていたので睨んでいない事だけを伝えるに止めた。

 

「ですが、くれぐれも無茶はしないで下さい。『冒険者は冒険をしてはいけない』んですよ」

 

「あぁ、俺も無駄死にはしたくねぇからな」

 

ここまで親身になってくれるギルド職員の言葉を無下には出来ない。

とは言え、必要があれば無茶も無理もするんだろうなと半場確信じみた思いがあるので少々あやふやな返事でかえした。

 

「貴方が帰って来なかったら悲しむ人がいるのを忘れないで下さいね」

 

「あぁ、肝に銘じておくさ」

 

そのやり取りを最後に、今回のお説教?は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さってと…これからどうするかねぇ」

 

ギルドから出ると真上からやや傾いた太陽が照らしていた。

少し前に鐘の音が聞こえていたので今は昼を過ぎた辺りだと当たりを付ける。

 

「今は昼過ぎか…時間が余っちまったな」

 

本当は夕方頃まで潜っている予定だったが、怪物の宴によって切り上げた影響でまだ日は高かった。

流石に今からダンジョンに再び潜るなんて選択肢はない、防具もダンジョンから出た時に確認してみたが、あれだけ叩かれたがガタつきも目立つ凹みもないので調整に出す必要もない。精々明日のダンジョン探索の為にポーションを買って武器の手入れと素振りでもしておく位だろう。

 

そんな事を考えていると、何処かで聞いた声が後ろから掛けられた。

 

「おう、オルガじゃねぇか」

 

「ん?あぁ、あんたか…昼飯にしちゃ少し遅くねぇか?」

 

「風邪引いて寝込んだ馬鹿が居てな、ちっとばかし遅れてんだよ」

 

声の主である土木作業の現場で働いていた時の同僚は、やれやれとばかりにため息をこぼす。

それからはやや強引な誘いを受け、オルガは彼らと一緒に昼飯を食べる事になった。

 

「これからダンジョンに潜るのか?」

 

「いや、もう行ってきた所だ」

 

「なんだ随分とはええな、今日は様子見程度だったのか?」

 

「まぁ、初っ端から深く潜ってそのまま…なんてのも偶に居るからな、慎重に越したこたぁねぇさ」

 

「……」

 

元同僚の言葉になんと言って返せば良いのか分からずオルガは口を閉ざした

真実を話せば間違いなく二人は腹を抱えて笑うだろうからだ、沈黙は金である。

 

「…ん?探索が終わったって事はオメェ暇か?」

 

「予定が空白になって意味ならそうだな」

 

オルガの言葉を聴いてニヤァと口角を上げる二人

その顔はどう見ても悪巧みをするおやじであり、ぶっちゃけ女性に対してだったら即通報レベルのワルい顔だった。

 

「そうかそうか!なぁオルガ君、そんな君に折り入って話があるんだ」

 

「ちゃんと給料出すし、鍛錬にもなる非常にタノシイお仕事があるんだがどうだね?」

 

まるで似合ってない、いっそのこと不審者として憲兵に突き出したい暗いに気持ち悪い丁寧口調と笑顔で迫るおっさん二人。

流石のオルガもこの時の二人の表情と言葉遣いには鳥肌が立ってしまったらしい…無理もない。

 

「まずその詐欺師みてぇな気持ちわりぃ顔すんのやめて話せ!」

 

ぶっちゃけそんなことしなくても給料出すから手伝ってくれと言えば首を縦に振ったんだがなぁとオルガは心の底で思った。

そんな訳で彼の午後の予定は半強制的に決まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから勝手に話を進めたバカ二人に親方からの拳骨が落ちるということもあったが。

オルガを含めた作業は無事に進み。太陽が西に傾き、辺りを赤く照らす時間となる頃には終りを迎えた。

 

「助かったぜオルガ」

 

「親方達には世話になりましたし、ちゃんとその分給料くれますから」

 

給金が入った袋を片手で弄びながらながら答えるオルガ。

彼としては労働に見合った給金を出してくれるなら問題はないのだ。

 

「ハッ!そう言ってくれるのはオメェ位なもんさ」

 

「そうそう、『俺はもう冒険者なんだ』とか言って断るやつも多いんだ」

 

「それまではウチの労働にひーこら言ってた奴がな、腹立つ前に笑いを堪えるのが大変だったぜ」

 

ガハハハ!と笑うおっさん達。

実際、基本的に冒険者として活動しだした者がまた労働に励む事は殆ど無い。

冒険者としてのプライドか、普通の労働に勤しむのがカッコ悪いと思うのかは分からないが…

 

「まぁな…ったく、どうせなら労働派遣でもやるファミリアがありゃ楽なんだがな」

 

「……労働派遣ですか」

 

「あぁ…まぁ無いものねだりだがな、それじゃなオルガ今日は助かったぜ」

 

「また頼むぜ」

 

「ははっ考えとくさ」

 

オルガと労働者は冗談を交わすように喋りながら自分たちの家の方へと帰っていった。

 

 

 

 

…………………

 

…………

 

……

 

 

「冒険者の労働派遣…か」

 

ホームへの帰り道、ふと先ほどのやり取りが口に出た。

何気ない会話だったが、その内容はオルガの耳に残り続けていた。

 

今は自分しかいない零細ファミリアだが、組織が大きくなるにつれてシノギについても考えなくてはならない。

 

ダンジョン探索一本で行くファミリアは多い…だが、中には冒険者としてはやっていけないのが出てくるのも確かだ。

スキル、ステイタス、或いは精神的にかはそれぞれだが冒険者を諦めた者達…サポーターだ。

全員がそうではないが、やはりその割合は大きい…ならば、ファミリアの将来のことを考えればそういうことを請け負うのをファミリアの事業として取り入れる価値は高い。

 

「何にせよ今は絵に書いた餅だな」

 

今のヘスティア・ファミリアの眷属はオルガ一人、事業を始めようにも時間も人もカネもない。

なら今は強くなること、金を稼ぐ為にダンジョンに潜って帰ってくることだけを考える方が堅実的だろう。

 

そうこう考えている内に廃教会に着き、そして

 

 

「おっかえりー!オルガ君!!」

 

「うおっ!!?」

 

廃協会の入口から黒い影がオルガへと文字通り飛んでいった。

 

「っと、なんだヘスティアさんか」

 

ロケットの如く抱きついたソレは主神であるヘスティアだった。

小柄とは言え十分に勢いのついたタックルにオルガは若干バランスを崩しかける。

とはいえ体格差が大きく筋力もあるので容易に持ちこたえる事ができた。

 

「いきなり抱きつくのは勘弁してくれよ…」

 

「まぁまぁ、これが僕なりの愛情表現ってヤツなんだからさ!」

 

愛情表現にしては少々危ないと思うも、特に実害の無いこともあり言うのはやめた。

なんだかんだとこの小さな主神のこういうところに救われているとオルガは思っていた。

 

「ちょっとオルガ君に見せたいものがあってね、こうして待ってたんだよ」

 

「見せたいもの?」

 

「そうさ!ホントは君が行く前に見せたかったんだ!ちょっとそこに居てくれよ?」

 

そう言ってヘスティアは教会の段差の上に登ると、入口に置いてあった布を抱えた。

 

「見て驚いてくれ!これさっ!!」

 

掛け声と共にバサリと広げられ、陽の光に照らされる白地の布。

 

その白地の中央にヘスティアが見せたいと言っていたモノが描かれていた。

 

 

 

 

 

――――それは”炎の中で咲き誇る鉄の華”。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは……」

 

「ふふん、どうだい?これがボク達のファミリアのエンブレムだよ!」

 

オルガの驚いた顔にヘスティアはイタズラが成功した様に笑いながら告げた。

これがヘスティア・ファミリアのエンブレム、このエンブレムこそがヘスティア・ファミリアの証だと。

 

 

 

 

 

「………」

 

「?」

 

 

 

「ハッ…クッハハハハハハッ!」

 

「ど、どうしたんだい?オルガ君」

 

黙り込んだかと思えば今度は大声で笑いだしたオルガの奇行にヘスティアも思わずどうしたのかと聞いてしまう。

確かに、同じ様な行動を目の前でされればヘスティアと同じ行動を取るだろう。

 

 

「……ったく、ヘスティアさん。アンタは最高の主神だぜ」

 

本当に、オルガは心の底からそう思った。

 

 


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