ゆうだち 作:ゆうやけ
ぼんやりと夢心地のさなか、ワタシがあたしだと自覚を得ると意識が覚醒し目が覚めた。
錆びた鉄が焦げるような刺激臭と煙っぽい淀んだ空気が辛く、甲高い機械音がうるさい。
過去の記憶を思い出そうとするも、あたしは誰なのか、なぜここにいるのかわからなかった。
あたしは何かの箱型の中から仰向けで寝ていた身体を起こすと辺りを見渡した。
部屋は広い実験室だが何かの大型の器機やカプセルは壊れ、ガラス片が散らかり煙を上げている。天井や壁の一部が崩れていて、大災害にでも遭ったかのような惨状だった。
わたしは寝ていた所から降りると裸であることに気づいた。ガラス片や突起物に気をつけ何か着るものはないか辺りを探し、汚れていたけど大きいシーツのようなものを見つけ身体に巻いた。
出口に繋がると思われる扉をくぐり部屋を移動していると広い部屋にて、長めの黒髪で背が高い女性と出会った―――瞬間、”逃げよう”と思うと同時に逃げ出し押し扉を押した勢いで吹き飛ばしてしまった、その衝撃が不味かったのか数歩走ったところで扉付近の天井が崩れた。
「感がいいのね、夕立」
嬉しいような残念そうな声が聞こえた気がした。
扉を吹き飛ばしたことに内心驚きつつ、走り続ける。あの女性はあたしのことを ゆうだち と呼んでいた。あたしの名前なのだろうかと疑問に思っている内に外に出た。
天気は夕立、なんてこともなく夕日が沈んだばかりなのかそとは夕闇だった。そんな冗談を考えるようには余裕が出てきた。
あのまま、あの女性に保護された方が良かっただろうか、けどあの女性は怖い感じするし逃げなければいけない気がした。
この騒ぎだ。誰かくるだろうし、追手も来るかもしれない。この辺りは明かりがある急いで何処かに隠れるか逃げよう。離れていく中でわたしがいた建物を見るとところどころボロボロで煙をお上げていた。
気配のある場所はなるべく避けて暗い道を小走りに駆ける。駆けて行くと塀に突きあたる。出入り口のような場所があった。時間もないし意を決して走り抜けようとすると、強力な電流でも流した音が走りわたしの身体を突き抜けた。それでも身体のダメージは合ったけどよろめくこともなく走り抜けた。
途中まで誰かにみられている気配があったが辺りは闇に覆われて見えなくなると観察する視線も途切れた。それから森を見つけ一休みする。
「……逃げきれたっぽい」
相当走ったが息切れはなく汗もでない、おろるおろる確認した足も土に汚れているくらいで擦り傷すらなかった。
肌寒くもないので、隠れることができそうな場所を見つけて朝がするまで待つことにした。
ふと、あたしは”自身の怪我”をなぜ気にしているのか不思議に思った。
確認することは普通だと思いなおし疑問を棚上げにする。他にもわからないことがたくさんあるけれど気怠いし何も考えたくなかった。
■
気がつけば、苦しんでいるような、助けを求められたような声で呼ばれた気がして目を醒ました。木陰の下で蹲っていたらいつの間にか眠ってしまったようだ。まだ日は出てなく暗い。人の気配もない。音は感じられなかった。確かに音がした気がする。方向はなんとなくわかった。気になってそちらへ向かう。
森を出た頃には日が上っていた。歩みを進めていると、人の気配に近づいているけれどあたしの方に来てはないから大丈夫だろう。
舗装された道の脇を進み、危険だと思った箇所は避ける。目的地に近づくにつれて何かの強いのいい匂いがした。
人の気配も強くなってきたため、身を隠しながら歩みを進めるととても大きい何かの工場を幾つも見つけた。
あちらこちらでくぐもった声がして気が散る、あたしを呼んだわけではないようだった。なぜか意識がぼんやりとしたりもした。引き返したほうがいいのだろう。けど、どうにも気になって探ることにした。
少数の人間が一抱えのある武器を持って見廻っているようで見廻りの目を盗み、1つの工場の中へ入っていった。
中の造りは簡単で工場の中に何かを捨てるように大きな穴とその周りに保護柵があるくらいなのと、とても広い。その穴の下を覗くと、形が崩れていたりぐちゃぐちゃの肉塊が多いが、形を保っているのもある。
あたしより数倍も大きいだろう鮫のような小型の鯨のような黒鉄で身体を覆った死骸が何百体と捨てられていた。あたしは質が落ちると眉をひそめた。
声はこれらからするようだ。辺りを探したが降りれそうもない、降りるのはいいが登れないだろう。2階に制御室っぽい部屋が見えた、2階に行く階段の前に扉があって横のパネルを解除しないと入れないようだ。
衣類の代わりはなく、赤黒い肉が入ったゴミ箱とその横の木箱に入った試験薬で使えそうなものはなく、説明書なども無かった。探索中ゴミ箱や木箱などが簡単に壊れて中身が散乱してしまったが安物なのか、元々古かったのか。他のところに行こう。
次の建物も同じ施設で穴は大きな鉄の左右2枚の仕切りで閉じていた。これは無理矢理開けることもできないだろう。2階に制御室っぽい部屋があるがこちらも開かなかった他の建物も似たようなものかもしれない。
あたし一人こうして侵入できている、重要な施設ではないのだろうか。運がいいだけなのかもしれない。次で最後にしよう。慎重にゴミ箱などを漁ったが壊れた、やっぱり安物だ。
敷地全体から聞こる声で集中を乱され意識を薄れるのを感じながら声を探した。汗をかき疲労感を覚えたが工場の敷地外ではわからなかった一際強い呪詛のような呟きが聞こえる。あたしはこの施設を出てそちらへ向かった。
目的地は他と同じ建物だった。中の鉄の仕切りが1枚無く、穴に入りきれずそこから何体か形が崩れた魚が飛び出ていた。
何歩か歩いてそこで歩みをやめた。誰かと構わず垂れ流していた声がぴたりと止んだからだ。最初からなにもなかったかのように声が聞こえなくなった。何かないか警戒したりもしたけどしばらく静寂が続いただけだった。注意深く声を聞こうとしたけれど敷地内にあった声まで聞こえなくなっていた。
この魚の死骸は何のためにあるのだろうか。疑問ばかりが増えていく。
辺りを探すとゴミ箱の上にバインダーが置いてあった。今度も壊れないよう、慎重に。
表紙に名前が書いてある。あたしが読める文字のようだ。この工場の労働者が記したものだろうか。あたしは記録をみた。
――D-3B 蛍光灯の交換、終了。G工場より換気の調子が悪く魚の腐敗が酷い。○月○日→○月○日に魚の搬送、保管日変更。液体窒素納入、終了。前田体調不良、遅刻。
深海棲艦の鮮度記録表 ○月○日
〇〇:〇〇 鮮度3 腐臭4 再利用1 異常なし 池崎
〇〇:〇〇 鮮度 腐臭 再利用
〇〇:〇〇 鮮度 腐臭 再利用
備考
まだ再利用できるが腐敗が進んでいる、次…
メモ用紙と1枚目の書き出しで残りを流し読みした。
業務内容だったがこの魚が深海棲艦と呼ばれ、それを保管する施設のようだ。再利用の施設はここの工場にはないらしい。新しい発見もあるけどわからないことがますます増える。備考欄で文章が途切れていたが作業の途中でなにかあったのか。
これ以上することもないだろうと出口に向かって歩いた。ふいに身の危険を感じた。敵意を感じて後ろを振り返ると魚の何体かのあるはずのない目がこちらを向いた気がする。
(((イカナイデェ)))
淀んだような声が頭に響く。いつまでも残るわけにもいかないし、縋っているように聞こえるが自己欲求を満たしたい雰囲気を発している。あれと一緒にいたらあたしがあたしでなくなる。そう思って出口へと足の歩みを早めた。
途端に獲物を狙うような声と感情が一斉にわたしを襲う。
(((ズットォ、イッショニィィ)))
肉質の何かがちぎれ汁っぽい何かが飛び散るような音が背後からした。
あたしはそのまま出口を吹き飛ばした。何かが這えずって向かってくる音がする。
業務記録では深海棲艦は死んだことになっているのだがこうして襲ってきているわけだが職務怠慢ではないだろうか。
見回りの目を逃れるために慎重な行動も難しいだろう。
この際、見回りの人間が持っていた武器でなんとかしてもらおう。いきなり撃たれるかもしれないが、逃げ切るまで深海棲艦に追いかけられる気がしてそうすることにした。
■
俺は外を出ると朝日が黄色い。いつもと変わらない日常。今日の現場も男だらけの楽でつまらない見廻りだ。
今日は事務に留守番の電話があって交代勤務の前田が体調不良で遅刻するそうだ。勿体無いと半日、ロッカーの中で放置した弁当を食べたせいらしい。腹の調子が悪い中で仕事しても集中できないだろうから休み、別の奴にでてきてもらうことにした。
今日は夜勤で眠気の中、緊急連絡がありうっかりして作業途中のバインダーを箱の上に置いて来たままにしてしまった。面倒だが作業を終わらせて2階の制御室に戻さないといけない。
新しく建造していた駆逐艦が妖精たちの事故の影響で逃げたしたらしい。発見次第、連絡だ。
「全く、うっかりしていたな。はぁ~、めんどっ」
しかし、建造した艦娘が逃げたのは今の世代で初めてではないだろうか。まだ性格に問題はあれど従順であるはずだ、妖精を害さない限りは。
もしかすると試作や二世代は無いとして一世代の型だろうか。今世代の10倍以上は建造の資源を必要とする。贅沢なことだ、化け魚共が多すぎて日本の資源が回りきらずに次の大戦に向けて節約続きだというのに。
だが、あの怖い司令官が失敗するような計画を立てるだろうか、機械の思考を持つ冷酷な司令官らしくない。それとも頭のおかしい妖精がまた騒ぎを起こしたのだろうか。
司令の説得でしばらく静かだったが、また活動を始めたのだろうか。
人間は妖精に頭があがらず少数の犠牲者や死者は仕方ないとされている。しかし、妖精は何かされない限りは人に害を及ぼさない、それなのに率先して犠牲者を出すあれが。
「やっっばい、考えただけで鬱になってくるわ。あぁ、色が欲しい、何処かに女子でも落ちてないものか」
そう思いながら工場と工場の間を歩いていると向かい側からとんでもない速度で走ってくる者がいた。
続き(未定)