星の距離─Ex,memorys─   作:歌うたい

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副題『キャンバスの中の紅いカラット』


Produce,Act1 神崎蘭子

神崎蘭子は厨二病である。

 

 

思考もそうだが、何より言語が非常難解である。

つまり基本的に何言ってるのかが分からない。

だからこそ、彼女とコミュニケーションを取ろうと思うのなら、非常に高いハードルを越えて行かなくてはならない。

 

おはようございますという挨拶が

 

『煩わしい太陽ね!』

 

お疲れ様です、と労う言葉が

 

『闇に飲まれよ』

 

プロデューサーを指して

 

『我が下僕』

 

仕事に行ってきますという宣言が

 

『いざ、侵略の時よ』

 

 

 

しかし、それさえも立派な個性としてアイドル活動に転用出来るように計らうのだから、商魂逞しい稼業である。

だからこそ、武内プロデューサーは彼女の個性を尊重し、なるべくその言語を理解出来るように務めた。

 

 

けれど、数奇な運命の末に、新たに加わる事になったプロデューサーは、違った。

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「煩わしい太陽ね」

 

 

「外、曇ってンだが」

 

 

「えっ……あ、我が同族」

 

 

「勝手に同列に語ってンじゃねェよ」

 

 

「う……きょ、今日の饗宴は如何なる内容か」

 

 

「あァ?」

 

 

「ひぃ、す、すいません。えっと、今日の予定は……」

 

 

新人な筈なのに態度はまるで新人らしからぬプロデューサー、一方通行は兎角、口が悪い。

他の人が不理解の余りスルーする場面も、彼から返ってくるのはチンピラみたいなメンチ切りである。

 

しかも質の悪いのが、綺麗所の多い346本社において、『美形といえば?』と問われれば名が挙げられるトップアイドル達に普通に食い込み兼ねない容姿をしている点。

美しい男、というある意味希少生物扱いされているだけあって整った美人顔から繰り出される凄みは、かなり恐い。

 

手触り抜群の美しい白髪と深紅の瞳はまるで架空の物語から飛び出して来た姿で、下手な女よりも男が欲情しそうな美形とくれば、もはやこの男がアイドルになれば良いのではという意見が多く挙がるくらいだ。

 

 

「『Rosenburg Engel』で出した『Legne』って曲あンだろ、アレをリミックス収録する。シンフォニー要素を強めて音響変えっから、発声の仕方も複雑になるが、トレーナーからサンプルも預かってるから聞いとけ」

 

 

「えっ、は、はぁ……大丈夫、かな」

 

 

「オマエなら問題ねェよ」

 

 

「──!! しょ、わ、わわ我が力にかかれば造作もにゃいわ!」

 

 

「噛ンでンぞ。で、収録終わった後はファッション雑誌の撮影。『フラムベルク』な」

 

 

「えっ!? い、いつの間に契約したんですか……?」

 

 

「あン? オマエ、雑誌のカタログで其処のアクセサリーずっと見てンだろ、だから試しに営業掛けたら契約取れた」

 

 

「……う、ぅ」

 

 

「デザイナーがオマエのファンらしくてな、商品で気に入ったのがあれば何個か贈ってくれるってよ。こン中から……どォした」

 

 

そして、その容姿や誰にも媚びぬと言わんばかりのスタンス、実力、能力は彼女がスケッチに描く超常的な存在を敷き詰めた様な存在に、神崎蘭子は憧れた。

さらに、彼との出逢いはまるで運命に導かれたように劇的で、『命を救われる』という恋物語ならば定番の導入を迎えれば。

自称堕天使がさらに堕ちるのも、特別おかしなことではなかった。

 

 

「……わ、我が同族よ……大儀で……あふぅ」

 

 

「……惚ける暇あったらちゃンと選ンどけ。サンプルも聴いとけよ、ゴスロリ」

 

 

「は、はいぃ……」

 

 

「……はァ」

 

 

プロデューサーに任命されて最初に担当する事となってまだ二週間も経っていないのに、一方通行の行き先には暗雲が立ち込めていた。

主に、アイドルとの距離感が原因で。

 

 

 

 

───

 

 

 

 

「我が問うは深淵に沈みし心の慰め。答えなさい、同族よ。怠惰なる時を如何にして過ごすかを」

 

 

「……」

 

 

「い、如何にして──す、すみません、ええと、ご趣味はありますか……?」

 

 

「……ギターか料理、後たまにツーリングか。それとライブハウスに偶に行く」

 

 

「……絵とか、描いたり、は?」

 

 

「自分では描かねェな。オマエはこの前も描いてたみてェだが……俺を被写体にしてンだろ」

 

 

「!?────なななななんで分かったの!?」

 

 

「事務作業してる横でチラチラ見てスケッチブックに書き込んでりゃ気付くに決まってンだろ」

 

 

収録も撮影も終わり、少し早めの夕食。

外食するにも神崎蘭子はそれなりに有名人である。

安易にファミレスで食事を取れないなら個人経営の隠れ家的料理屋に行けば良いのだが、時間も微妙。

 

 

という訳で場所を移したのは、夏に346社の有するアイドル寮からそう離れてはいない郊内のマンションに一人暮らしを始めた蘭子の自宅。

 

プロデューサーとはいえかなり意識してる異性を招くのは恥ずかしがり屋の蘭子にしては思い切った選択だが、彼女の先輩である高垣楓曰く絶品と評される彼の手料理を食べてみたかったのだ。

 

メニューは蘭子の好物、ハンバーグ。

手馴れた手並みであっという間に出来上がったそれは、普通に料理屋で出せるレベルであり、文句なしに絶品だった。

 

 

しかし、ハンバーグに舌鼓を打つときよりも。

惹かれている男が、普段蘭子が使っているエプロンを纏って。

少しネクタイを緩めたリラックスした状態で台所に向かう背中、それをテーブルで見つめる自分。

そのどこからどう見ても恋人みたいな構図。

 

何かたまんなかった。

なるべく音を立てないように身悶えた。

14歳には物凄く生々しい経験である。

 

その瞬間の幸福は、ある意味彼女にとって最大のスパイスだったのかも知れない。

 

 

そして空になった皿を前にしての、このトークである。

一周回って冷静になれたかと思えば、やっぱり蘭子は蘭子であった。

 

 

 

「いやいやいやそれは違う違うのよ同族! 偶々あの風景が我の琴線に触れちゃったから描こっかなぁと我が右腕が疼いたから澱みを解放するべくちょっとした出来心ですごめんなさい!」

 

 

「混ざって余計に何言ってンのか分からねェよ。まァ、別に怒ってねェけど」

 

 

「ほ、ホント……?」

 

 

「描きてェなら描きてェって言えよ最初から。俺なンか描いてどォするとかも聞かねェし。ンな事より姿勢一つ変えただけで難しそうな顔されンのは気が散ってしょォがねェンだ」

 

 

「う、ご、ごめんなさい……」

 

 

テンパり過ぎて舌は回り過ぎるし、目もグルグルと渦を巻く。

 

顔も体も熱を孕んで今にも汗が滲みそうだが、薄着になるのも我慢するしかない。

 

年齢にしては育っている胸元に風を送りたくても、一方通行にはしたないと思われるのは嫌だし、何より恥ずかしい。

 

 

アイドルの癖に男を自宅に招いておいて何を今更とは思っても口にしてはいけない。

彼女は奇抜な成りや言動こそしているが、中身は極めてピュアな少女であるのだから。

 

 

「……では、次なる美の執筆の刻は我が力全てを以てキャンバスを染め尽くすわ……クックックッ」

 

 

「……」

 

 

「ぅ────ぁ、じゃ、じゃぁ、ぁにょ、今から……描いても、良い、ですか?」

 

 

「ン、今からだと?……チッ、少し待ってろ──まァ、1時間くらいなら何とかなるか。オイ、コンセント借りるぞ」

 

 

「あ、そこのソファの裏です」

 

 

「あィよ……」

 

 

ピュアではあるが、恋する乙女でもある。

 

彼女自身、まだ胸を張って言えるほどではないけれど。

 

素直で良い子と蘭子を良く知る者が見れば、少し驚くかもしれない。

 

少しばかり、欲張りになった自称堕天使に。

 

 

ケーブルを繋いだ持ち運び用のノートパソコンで、処理すべき仕事を着々と片付けていく静謐な横顔を、見つめる少女の腕はなかなか動かない。

 

 

何故なら、スケッチブックに描く彼は三人目であり、もう七割は仕上がっている。

1時間どころか、その4分の1もあれば充分に仕上げることは出来るのだけれど。

 

 

──その分、見つめる事が出来る。

 

 

電子の海を映す切れ長な紅い目を。

 

時折薄く開閉する薄い唇を。

 

キーボードを静かに叩く指先を。

 

長い長い、猫の様な睫毛を。

 

 

「──」

 

 

スケッチブックを開いたまま、時折わざとらしく動かすだけの右腕、そこから筆圧の音は鳴らない。

 

ならば当然、蘭子の目的なんて既に把握出来ている一方通行は、無粋に指摘する事もなく、唇の中でせりあがる溜め息を噛み殺すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

_____




とりあえずこんくらいのボリュームに抑えてみた
ちょっと短過ぎるかも?
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