霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活十一回目「遠野操」

 遠野操。彼女との馴れ初めを話そう。

 まず彼女は遠野家という商家の一人娘だ。

 遠野家は百貨店を営んでいる家で、"遠野百貨店"と言えば幻想郷内で二番目に栄えている商家と言えるだろう。

 なお一番目は大手道具屋である"霧雨店"だ。

 遠野家は一代で栄えた歴史が一切無い店なので歴史ある大手に勝てないのは必然なのかもしれない。

 そんな遠野百貨店を営んでいる商家の娘との繋がりは商売とは関係無い所にある。

 ただ単に僕の実家が遠野家の隣だっただけだ。簡単に関係性を述べれば少しばかり年離れた幼馴染というやつである。

 だが、結界外の世界は知らないけれど、幻想郷において隣人関係は非常に重要だ。

 狭い世界における関係性の結び付きは時に重要な意味を持つものである。

 結界外の事情を考えれば稀だと思われるが、幻想郷の人間社会では幼馴染が将来夫婦の関係に変わるのも珍しい話ではない。

 事実、操さんが生まれる前から結婚する事が互いの両親達によって当たり前のように決まっていた。

 幼い頃に隣人の小母さんが腹を膨らませていたのには気付いていたが、その中身が将来寄り添う相手と決まっていたとは思いもしなかったけど。

 

先生(さきお)さん」

 

 親しげに僕の名前を呼ぶ彼女を思い浮かべる。

 小さい頃はよく「お兄さん、お兄さん」と僕の後に付いて来たものだが、その頃の操さんは愛らしい童女の様な面影を残しながらも女性として色付く華やいだ雰囲気を既に持っていた。

 赤ん坊の頃から知っている彼女。実の兄のように接し、慕ってくれた彼女。

 操さんが女性として成長していく度に僕は随分ともどかしい気持ちにさせられていた。

 女子は男子よりも大人になるのが早いと聞いていたが、彼女は僕が思っていたよりもずっと大人になっていた。

 腰元まで伸ばした烏羽色の髪を赤い紐状の織物使い、後頭部の所で纏めている。あれはリボンか。

 着物は何時も赤く染め上げた物を着ていた。操さんはリボンもそうだが、赤色を好む傾向にあったと思う。

 何故かと不意に彼女へ聞いた事がある。

 そうした時、彼女は当たり前のように答えた。

 

「貴方が好きな色だから」

 

 男心を擽る可愛らしい言葉である。

 もしかしたら夫婦になる義務感からそう口にしていただけかもしれない。だけれど断言してもいい。彼女は僕に惚れていた。

 単なる婚約者だと割り切った好意ではない。一人の男性として意識してくれていた。

 対して煮え切られないのは僕の方である。

 実の妹だと思って接していた操さんを僕はどうしても女性として意識する、または性的対象として思えなかったのだ。

 それ故に日常的なまでに受けている彼女の積極的な好意を僕はのらりくらりと躱しながら寺子屋で偶に訪れる生徒に勉学を教える日々を続けていた。

 そんな日常を僕は愛し、また満足していたのである。

 いつかは変わってしまうだろう日々を精々今を満喫しながら生きていても当たり前の様に時間が解決してくれると当時の僕はのほほんと考えていた。

 

 後悔先に立たず――。

 

 過去は悔やむ為に存在し、人間は愚かにもそれを後に念じるばかり。

 時間が齎してくれるものは何も良い事だけじゃない。時には最悪の事態を引き起こすのもまた時間というものだったのだ。

 現在でもあの日の事ははっきりと覚えている。

 

「では行って来ますね、先生(さきお)さん」

 

 そう僕の名前を呼んだ彼女。花咲く笑顔のまま僕に手を振り、何時も通りに外出していく。

 蒸し暑く、蝉の鳴き声がともて煩わしい日だった。寺子屋の窓から人里から出て行く背中を見送りのつもりで感慨も無く、ただ眺めていた。

 それから彼女は生きたまま帰ってくる事は無かった。二度と。

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