霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活十三回目「理性」

 後日、事の顛末を人伝に僕は知った。

 操さん。元婚約者の死因は当時の幻想郷でありふれたものだった。

 彼女は出掛け先で知り合った妖精と弾幕勝負をしたらしい。なんでそうなったのかは当事者が両方とも既にいないので不明だ。

 勿論、操さんは何の力も持たないただの少女である。いくら力が無く、危険の少ない妖精といえど弾幕で対等に渡り合える筈がなかった。一言でいえば無謀である。

 そして彼女は勝負の途中、妖精の放った弾幕を避けきれず……。

 

「自業自得」

 

 気が付けば無表情で冷酷な言葉を口にしていた。

 話を聞かせてくれた人は僕を薄情だと叱ったが、僕自身は今でもその言葉に偽りは無いと誓える。

 そう、全ては自業自得なのだ。

 そもそも弾幕決闘の規定自体が曖昧で、力の無い里の人間達は力のある妖怪に挑む際に当事者同士が勝負の度にルールを確認している。でないと勝負にならない。一方的な虐殺に勝負は変わるだろう。

 それほどにただの人間と妖魔の類には自力の差があり、それを埋める為の決闘なのである。相手を侮り、規定をちゃんと決めずに決闘をするなど自殺に等しい。人間の幼子程度しか知能が無い妖精を相手にしたのも悪かった。

 涙も感情も既に枯れ果てた僕は客人が帰った後も思考を続ける。

 誰が悪いのか。何が原因だったのか。何所が狂っていたのか。

 

「……あはは」

 

 冷静に考えてみればこの事件は何時かは起きそうなものだった。

 弾幕決闘とは幻想郷に住まうどんな存在とでも対等に勝負出来る決闘である。その意味を真実にしたのは博麗の巫女だ。

 人間が妖魔を圧倒し、異変なる人知を越えた事件を解決していく……。人間の誰もが抱えていた妖魔に対する恐怖が薄れていった。里に妖怪が出入りをしても誰も怯えず、むしろ受け入れてすらある。幻想郷が真に全てを受け入れていっていたのは間違いない。

 それは妖怪の賢者の目論見道理なのだと思う。

 想定外だったのは薄れるどころか忘れられた畏怖そのものだ。

 確かに里の人間達が惨たらしく、殺される事件は無くなった。彼等は気軽に話し掛けられる存在にまでなっている。でも、妖魔は妖魔だ。安全装置が組み込まれようとも危険物は危険物のままなのを忘れてはいけない。

 その志向性が顕著だったのはやはり操さんのような年若い世代だ。

 彼女達は幼子の頃から妖魔の恐ろしさを子守唄代わりに教えられていただろう。大人も子供を守る為に必死だった筈だ。

 しかし、年少の子供達は真の恐怖を知らない。

 幻想郷は平和だった。当代の博麗の巫女が活躍する前、十数年は異変はあれど人里に影響を及ぼすような大規模な異変は存在していない。人里の守護者である恩師であり、商売敵な上白沢慧音先生の活躍もあるが。

 ジェネレーションギャップ、というやつだろうか。世代の差により、価値観そのものが変動しているのだ。

 難しい言葉で敢えていうならば"無知の知"。知らないという事はそれ自体が罪である。ゆえに痛い目をみてしまった……。

 此度の事件は弾幕決闘が流行る末に起きてしまう当然の帰結だった。

 

「誰も悪くなんてないじゃないか」

 

 当時の僕は二度目である家族を失った悲しみから逃れようとしていた嫌いがある。

 逃げ道は常に保身であり、自分ではない誰かに理由を求めるが人間だ。それが憎しみならば、誰かを怨む理由が欲しかったのだと思う。

 僕は聖人ではない。人間だ。憎しみの感情は当然ある。

 だけど、そうなのだけれど、その前に僕は教育者だ。操さんを含めても二人しか居ない生徒を受け持つだけの盆暗であるが寺子屋の教師なのである。

 恩師である上白沢先生のように一廉の人格者ではないが、生徒に誇れる存在であろうとするのは僕の教師像として当たり前であった。

 行き場のない悲しみで教師として誇りが砕けそうになる。

 自身の情けなさに怒りが湧き、思い切り拳を握り締めた。爪が掌に食い込み、痛みを訴えているのを無視して力の限り握り締める。拳はこれ以上ないくらいに固くなっていた。

 それを容赦無く、自分の頬に叩きつける。

 

「――がふっ!」

 

 脳内に歪な音が鳴り響く。

 肉と骨が軋む嫌な音だった。

 口の中に違和感を感じて、舌で弄ると欠片を拾う。それを舌上から手で摘まみ出してみると欠けた歯の残骸だった。察するに奥歯が少し欠けてしまったらしい。

 だけど代わりに教師としての誇りは保てそうだった。感情が薄らいで気分が幾らかすっきりと落ち着いていた。

 台所へと赴き、桶に溜めた水へ手拭いを浸してから口許へ当てる。

 唾を少し吐き出すと血混じりのものが手拭いを赤く染めた。それを眺めながら相変わらず好きになれない色だと思った。ただそれだけだった。 

 如何やら僕は客人の言う通りの薄情者だったらしい。

 

「ははっ!」

 

 ちっとも可笑しくないのに笑いは起こる。

 思い起こしてみると狂人の奇行だが、当時の僕は窮めて理性的であった。

 感情を制御し、道理によって物事を判断出来る状態であり、理論的、概念的に思考出来る状態でもあった。それゆえに当然の如く行動し、当たり前のように最善の選択を選び取る。

 この事件で当時の僕に出来る最善の行動とは何か。

 それは"二度と操さんのような被害者を出さないようにする事である"。

 僕は他人の大義名分を掲げて、後に幻想郷史上最悪の異変と呼ばれる『博麗異変』の切欠を作ろうとしていた。

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