霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活十五回目「過去の博麗霊夢」

「貴女が博麗霊夢さん、でしょうか」

 

 開口一番の言葉はそれだった。

 対して彼女は竹箒を動かす手を止めて、此方の方へ近付いて来る。

 

「そうだけど、アンタは?」

 

 随分と物怖じしない子だと思った。

 普通ならば見慣れない異性を前にすると萎縮するものである。彼女にはそれが一切感じられず、むしろ堂々と胸を張って対面している。

 この度胸が妖怪退治に必要な要素なのだろうか。

 

「先生と申します。人里で寺子屋などを営んでいる者です」

「さきお、さんね。ふーん。で、何の用かしら?」

「では失礼して」

 

 その言葉を待っていた、とばかりに僕は持参した包みを開ける。中から必死に纏めた紙束が露わになる。きちんと『弾幕決闘の規定改善案』と記した表紙を上にして差し出す。

 

「これ、なに?」

 

 一瞥した彼女がそう聞く。

 

「弾幕決闘の新たな規定を記した案を纏めた書類です。博麗の巫女である貴女に拝見頂きたく」

「違うわ。そんなことを聞きたいんじゃないの」

「では、何を?」

「なぜ私の所へ持ってきたかよ」

 

 迷惑そうな表情を隠そうとせず彼女は言った。

 内心で動揺を隠し切れずに僕はその言葉の真意を探る。

 

「それは貴女が弾幕決闘の規定を定めた人間の代表と聞いていたので」

「確かにそうだけど、私はそれを読んでも役に立てないわ。というよりもスペルカードルールは現状誰にも変えられない」

「……何故でしょうか?」

 

 簡単に引き下がれない僕は理由を問うた。

 彼女は溜息を吐きながらも律儀に説明してくれる。

 

「まず今の人里と妖怪の関係は良好だとは言えない状態だって知ってるわね?」

「ええ、それは把握しています」

「正直言うといつ関係が破綻してもおかしくない。最近も妖精に無理矢理挑まれた人里の子が亡くなってるしね。両者の不満を抑えるのも限界ぎりぎりもいい所だわ」

 

 人里の子とは恐らく操さんの事だろう。

 自然と握り拳を作り、自分の表情が険しくなったのを感じる。

 

「…………あんたもしかして、いえ、いいわ」

 

 察したらしい彼女が口を噤む。察しが良すぎる気がするがありがたい配慮だった。

 

「あとね、あいつらは不満を押し殺して人里側に歩み寄っている。私が問答無用でそうさせているやつも居るけれど、多くの不平等を強いて漸くと特殊な人間達が相対する事が叶っているの」

「……ええ」

「そんな最中に更なる枷を求めるのは悪手よ。幻想郷はあらゆる勢力が拮抗し、安定している。そこに誰かを優遇するような規定を定めてしまうのは関係を壊すのが目に見える結果だわ」

「…………はい」

「だから私は役には立てないの。私の幻想郷で担う役割は人里側よりも中立寄りだから」

「…………」

「その案はどの立場に持って行っても爆弾にしかならないわ」

 

 完全に納得してしまった。心がそれが真実なのだと認めてしまった。

 僕は彼女の言葉で目が覚めた思いだ。固めた拳が緩やかに力を抜いていく。

 気付けば見知った部屋の中で僕は立ち尽くしていた。

 いつの間にかに戻ってきたのかは記憶に無い。行きの苦労を考えれば呆けた状態でよく帰れたものだと冷静に振り返れた。不思議と頭の中は冴えている。

 

「ああ、そうか」

 

 そして記憶も戻ってきた。

 鮮明に覚えている。掻い摘んでいえば一縷の望みに賭けて博麗の巫女に会いに行くも明確な拒絶をされた。

 それも身勝手な拒絶ではない。彼女は僕に諭すように危険性を説いてくれた。まるで駄々っ子を丁寧に説き伏せる近所のお姉さんのように。

 これではどちらが年上なのか分かったものではない。

 

「ふふっ」

 

 変な笑い声が口から零れる。

 多くの挫折を経験したが、これほど応える挫折の経験はなかった。

 努力すれば報われるなんて慰めれる状態ではない。そもそも前提自体が間違っていたのだ。当然の帰結であったというところなのだろう。

 悔しくも思えるが自業自得なので感情の捌け口が見付からない。

 寝るしかない、と思った。

 寝れば感情を良くも悪くも感情を沈められる。

 布団に入り、目を瞑れば吐き気を催す現実を忘れられると信じていた。

 目を閉じる。

 負の感情が押し寄せて、眠りの世界へ落ちてはいけない。

 それから眠れない日々が続いた。

 

 そして愚かな僕は知らなかった。

 如何に人里の人間達は守られていて、安全ある日常生活を営んでいけていたのか。

 火種を欲する存在はいた。

 当時の幻想郷を快く思わない連中がいた。

 博麗の巫女に爆弾だと言わしめた物を欲する勢力があった。

 異変は静かに始まっている。

 僕の手元になくなっていた草案がその証明をしていた。

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