霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活十六日目「異変 前編」

 現体制に不満を持つ勢力。

 それがどんな輩なのかは簡単に分かる。

 まぁ、僕は過去の記憶を振り返る資格を持っているから容易なのだが、当時の僕には到底不可能な話だ。まずそんな勢力が在った事すら知らない。

 ただ過去の記憶を使って、賢者の言葉を借りるならばこういう事らしい。

 

『中途半端に力あるものがより快適な生活を望んだ時に革命の火が灯される』

 

 確かにあの賢者はそう言った。

 

 ■

 

 眠れない夜は続いていた。

 来る日も来る日も眠りに落ちる度に悪夢が再生される。

 決まって幸福な記憶から一転しての別れ。時間は経過している筈なのに変わらずあの日に苛まれている。

 地獄の様な心地である。

 いずれ時が来れば癒えるのかもしれないが時間は待ってはくれない。

 変化はすぐに起こる。

 まず寺子屋を再開した。

 唯一の生徒となった本居さんたっての希望であったので断る理由もなかった。むしろ働かなければ食えないので助かったくらいである。

 お互いに無用な詮索はなしに授業は進んでいく。

 彼女は頭が良くて、気遣いの出来る子である。余計な言葉が関係を壊す事を知っていたのだろう。ただただその気遣いが有り難かった。

 僕を助けてくれたのは彼女だけではなかった。

 人里に住まう方々が会いに訪れては励みの言葉を頂いた。中には寺子屋教師の大先輩である上白沢慧音先生の姿もあった。

 

「良かったら今度また授業を受けにきなさい。学術の門とは年齢など関係無く開け放たれているのです」

 

 年若の頃に教壇で勉学を解説する姿となんら変わらない姿だった。

 上白沢先生が半分妖怪である事を知っていても驚きがある。相も変わらず真人間よりも人間らしい人格者だった。

 言葉は余計ではない。本心から嬉しかった。

 眠れない日々の中であったが、僕に少し精神的余裕が出来たのだろう。

 皆さんの厚意を無駄にしない為に立ち直ろうとしていた。

 そんな折りにとある噂が人里内で流行り出す。

 最初の兆候で、異変の兆しであった。

 

 ■

 

『人里の人間は妖怪に攫われて密かに食われている』

 

 馬鹿馬鹿しい内容の噂話だった。

 明らかに嘘と分かる。天狗達が配る新聞のゴシップよりも酷い。

 妖怪達を恐れつつも接して生きてきた大人達は微塵も信じることはなく、鼻で笑っていた。そもそも信憑性があっても人里の人間が誘拐されたならすぐに分かる。

 本当に下らない噂話であった。

 大人にとってはであるが。

 この噂話の標的は幻想郷の常識を知る者達ではなく、これから知るだろう人物を対象としていた。つまりは子供である。

 子供とは純真だ。

 自分の判断に頼らずとも相手の言葉を素直に信じれる。

 そして疑問を持つ前にそうかもしれないという可能性を彼らは垣間見ていた。

 妖怪またはそれに準じた存在に襲われ、亡くなってしまった事件。そう、操さんの事件である。

 子供達は間違いではないが勘違いをしていた。

 妖怪が人間を食べる、という点を。人里の人間を妖怪は食べるのだと。

 そんな噂話の全貌を僕が理解する前に彼女は現れた。

 現在の僕の嫁さんにして、当時は博麗の巫女として役割を全うしていた博麗霊夢が訪れ……、いや押し入って来た。

 授業用の教科書を執筆していると彼女は扉を強引に引き戸を開けたのだろう、かなりの轟音が響いたので玄関口を見遣る。

 

「久し振りね」

 

 軽く挨拶の言葉を口にするも鋭い剣幕を放っていた。以前と違う迫力をした黒曜石の瞳が此方を見ていた。

 

「……な、何用で?」

「しらばっくれても無駄よ、あんな噂を流すとしたらあんたしかいない」

 

 何を言われているのか、全く理解出来なかった。

 

「事件の犯人は大抵動機を持つやつでしょ。ほら、そんなのあんたしかいないじゃない」

「待ってくれ! 何を言ってるのかわからないし、そもそも何かを疑われているかも知らない!?」

 

 このままでは問答無用で何らかしらの罪に問われ、査問に掛けられる雰囲気だったので慌てて事態を把握しようとした。

 が、彼女の発する剣幕は増していく。暫し無言の睨み合いが続いた。

 部屋に静けさが戻る。肌が粟立つような嫌な雰囲気だった。

 そして先に沈黙を破ったのは僕でも彼女でもなく、第三者である。

 

「やっぱり先走りが過ぎるんじゃないか、霊夢」

 

 仁王立ちになり睨む彼女の背から現れたのは金髪の少女、霧雨魔理沙だった。

 

「煩い」  

 

 僕に向けていた剣幕を霧雨さんに向けるも彼女はにこやかに笑い、肩を優しい手付きで数度叩く。

 それだけで先程発していた剣幕が嘘のように消えた。僕は心底助かったと安堵した。

 

「まぁここはこの魔理沙さんにお任せだ」

「……はいはい。どうぞ」

 

 大きな溜息を残して一歩下がる。

 代わりに霧雨さんが前に出て鼻を鳴らし胸を張った。

 

「私の名はパチュリー・ノーレッジ。100年ほど生きる魔法使いだぜ」

「は、はぁ。これはご丁寧に私は先生という者です。ノーレッジさん」

「なんだつまらない反応だなぁ。まるで寺子屋の教師みたいだ」

「合ってます。教師ですから」

「なんだ、そうなのか」

 

 片眉を下げて調子悪そうに表情を崩す霧雨さん。

 一体如何すればいいというのだろうか。理不尽である。

 

「こっちも突然後ろのやつが突貫するのを追いかけて来たから、取り合えず状況を整理したいんで幾つか聞かせてもらう。まず霊夢が此処に向かってきた心当たりは?」

「もしかしたら数日前に窺った件かもしれません」

「何をしに。何かを持ってきたとか、か」

「ええ。博麗の巫女様に拝見していただきたく。弾幕決闘の規定変更を記した草案を」

「あん? 今更スペルカードルールを改訂しようとしてたのか、あんた」

 

 そういって理解出来ない、という表情を浮かべる。

 

「なんでそん――」

「詮索不要よ、魔理沙」

 

 当然の疑問を口にしようと霧雨さんがしていた時。その言葉を後ろで事の成り行きを傍観していた彼女が塞ぐ。

 

「なんだって?」

「詳しくは後で説明するわ。此処では駄目よ」

「……納得がいかないが、流すことにする。こうなったら頑固だからな」

 

 大振りな仕草で肩を竦める霧雨さん。

 不器用な遣り方だが嫁さんは操さんを亡くした僕の心情を慮ってくれたようだった。当時の彼女は分かりづらい優しさがあった。

 

「まぁあれだ。察するにルールを変える何かがあったんだな。それでお前さんと霊夢はその改定案を如何したんだ」

「巫女様にはこれは不必要なものだと説得され、諦めて大人しく自宅へ持ち帰りました」

「それだけ?」

「えぇ、それだけです」

「本当に?」

「事実です」

 

 嘘が無いか確かめるように瞳を覗き込まれる。

 そうして数瞬ばかり時間が過ぎ去った後、霧雨さんは口を開いた。

 

「分からん」

「……呆れた。もういいかしら魔理沙、交代で」

「いいや駄目だね、まだ疑問は残っている。なぁ、あんたは本当に噂話と関係ないんだな?」

「ええ、先程からそう申しております」

「なら答えは簡単だ」

 

 霧雨さんはにやりと笑い、宣言する。

 

「噂話の出所は他にある、という事だ!」

 

 その後ろで彼女、博麗さんは静かに溜息を吐いた。




※2015/07/07 文章を追加
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