霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活十八日目「異変 後編」

 僕の心理状態を察した霧雨さんは黙っていた。

 怒りを静めるまでずっと付き添ってくれる。博麗さんも考え事に没頭しているようで部屋の中は静けさを保っていた。

 時間が経ち、感情がやっと薄れてきて

 

「お願いします」

 

 と、伝える。

 霧雨さんは首を縦に動かして口を開く。

 

「じゃあ本題に入る前にひとつ説明する。妖怪と人の力関係は分かってるよな」

「ええ、身に染みるほどに」

「さっきも言ったがスペルカードルールとは強者と弱者が同じ土俵に立てる様に作られた。強さではなく、美しさを競う遊びだ。それが成立するまで弱肉強食の時代で生き死にが道理を賄っていた。強者が一方的に搾取し、弱者が抗うそんな時代だ」

 

 ひどいよな、と付け加える。

 

「その道理を変える為に妖怪が博麗の巫女に相談してルールが作成された」

 

 少し聞き流せない言葉があった。

 

「待ってください。妖怪がルール作成を打診したのですか?」

「何故か知らない奴が多いがそうだ。ルール導入の切欠となった"吸血鬼異変"で気力の無くなった妖怪達を幻想郷を支配しようと目論んでいた吸血鬼が軍門に下した。弱肉強食の時代だったから文句もいえない。まぁなんだかんだで吸血鬼は鎮圧され、このままではいけないと危機感を持った妖怪達が頼ってきたんだとさ」

 

 知らなかった。

 当時の僕はその異変を知っていたが、そういう事だったのかと今更理解する。

 そして気付く。

 これから霧雨さんが説明しようとしている内容に。

 

「だから人側には不満が確かにあったんだ。これまで一方的に搾取され守られてきたからな。今更虫のいい話とばかりに」

 

 段々と理解していく。

 それと対照的に何か頭の奥で警鐘が鳴り響いていた。

 謎を紐解く内にその欠片が集まって、真実が浮き彫りになろうとしていく。いけばいくほどにそれは形を為して音は大きくなっていた。

 ああ、頭が痛い。

 おぼろげながらも見えてきたもの。

 最悪の異変とは強者の鬱憤を晴らすものではない凡そ異変とは言えないもので――。

 

「……じゃあ、じゃあもしかして、最悪の異変とは」

 

 動悸がする。景色が霞んでくる。

 認め難い事実が見えていた。

 そしてその答えは霧雨さんの口から紐解かれる。

 

「スペルカードルールを廃止させ全時代の混沌とした時代の再現する為のものだ」

「一体そんな……何の為に、そんな事を」

「魔理沙の言う通り簡単な話よ」

 

 急に口を閉ざしていた博麗さんが声を上げる。

 彼女は無表情のまま此方を見ていた。初対面の時と同じ黒曜石の瞳。綺麗だと思う反面冷たさを感じる。

 相変わらず読めない。意思が読み取れない。

 

「本当に単純な話。気に食わないのよ、今の生活が」

「ああそうだな。つまりそういう話なんだよ。下らない大人の意地さ。平和とか平穏を全ての人が望む願いじゃないってことだ」

「理解したくないって顔ね」

 

 鼓動が高鳴る。視点が定まらない。動揺していた。

 たった一言で彼女は僕の心情を掴んだのだ。

 そう、そうだ。

 僕にはそれが受け入れ難い事実だった。

 同じ種族、同じ里に住む者達なのになぜこんなに考え方が違うのだろうか。

 勿論、仮定の推論だというのは分かっている。本当にそんな人達が居て、禄でもない事を企てていかは定かではない。

 なぜ、なぜなんだろう。

 頭が痛くなる。頭痛がする。

 なんで僕の努力を、操さんの死を、家族を奪った原因を弄べるのだろうか。

 同じ人間の所業には思えない。

 もういっぱいいっぱいだ。分からない事が有り過ぎて、何が正しくて何が悪いのかも見失っている。頭がずきずきと痛む。

 ああ、僕には到底理解出来ない……。

 なんで、なぜこんな――。

 

「それでいいのよ」

「えっ?」

 

 優しく肩に触れる手があった。少しひんやりとした小さな手。

 

「アンタはそれでいいの。受け入れる必要も変わる必要も無い」

 

 俯いていた顔を上げると黒曜石の瞳が此方を見ていた。

 綺麗な黒。

 ただ先程までの冷たさはない。

 人間味のある温かさがあった。

 博麗霊夢。

 色々な噂がある人だった。

 曰く、問答無用で妖怪を叩き伏す英雄。

 曰く、常に平等で誰にも関心のない冷たい人。

 第一印象は確かにそんな感じだった。

 冷たい瞳が興味の無さを伝え、誰にでもそんな態度を貫いていた。博麗霊夢は巫女だから人間とは掛け離れていると里の人間が零していたのを訊いた事すらあった。

 でも、それは違う。

 大間違いだと気付かされた。

 彼女は優しい子だ。不器用なだけでその優しさを伝えるのが苦手なだけ。

 僕は、当時の僕は求めていた。

 全てを見失った僕は誰かに肯定して欲しくて堪らなかった。

 里の人々がくれた優しさや上白沢慧音先生の気遣いも確かにありがたかった。

 でも、本当に欲しい言葉はそれではなくて、本当はそんな事を気付いて欲しかったのではなくて。

 ただ僕は肯定して欲しかった。 

 間違いを犯しているのかと常に不安だった。操さんの為と思って行動していたのに余計な事だったのかと心配だった。

 それをこの時、彼女は言ってくれた。

 一番欲しかった言葉を言ってくれたんだ。

 それだけで僕は救われて、それだけで僕の世界は変わった。

 

「ありがとう」

 

 気が付けば声に出していた。

 精一杯の感謝の気持ちがそこにある。

 博麗さんは面食らった表情をしていたが、次第にほぐれ笑みを浮かべる。

 

「どういたしまして」

 

 初めて見た彼女の表情だ。

 薄い微笑みだったけれど今でも鮮明に覚えている。

 僕は死ぬまでこの瞬間を忘れないだろう。

 人は恋に落ちる瞬間がある。

 操さんは僕をからかう際にそんな事をよく口にしていた。結局、操さんの本心は分からなかったが自分の事なら分かる。

 僕はこの瞬間に救われ、彼女を好きになった。

 不謹慎であるのは分かっていた。

 婚約者が亡くなって一年足らずで他の誰かを好きになるなんて。

 だけれどもそれは突然だ。

 人はある日突然誰かを好きになり、恋に落ちる。

 当時を振り返ればそれがその日だっただけの話だった。




段々と真相が明らかに。
でもいつまで過去編なんだ。きっと読者の方々はそう思っている。私もそう思っている。
次回もまだ過去編です。まだまだ続きます。
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