霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活十九日目「変わらぬ日常と変化」

 人里は平穏だった。

 商店が精力的に掛け声を上げて客引きをし、その間を人々が行き交う。

 そんな何時も通りの光景だった。

 平常と変わらない日常。当たり前の風景。

 それが歪に感じる僕は気付いていた。

 子供達の姿が全く見当たらない事に。

 噂は加速する。

 更なる尾鰭が付いて噂話は嫌に現実味のある話へと進化していた。

 子供曰く、大人は洗脳されれている。

 彼等は妖怪を脅威と看做し、大きな恐怖心を抱いていた。

 それが人伝に渡れば渡るほど話は大きくなり、変わっていく。そして大人は馬鹿げていると最初から取り合わないし、次第にとんでもない方向へ膨れいく噂話を信じる訳がなかった。

 その子供達と大人達の溝を確実に利用される事となる。

 最新の噂話を本居さんに訊いて貰ったところ、大人は妖怪に洗脳されており、夜な夜な妖怪が里に現れては大人は子供を差し出しているとの事らしい。

 明らかに誘導されている節がある。

 大人の僕からしたら有り得ないの一言だが、子供達にはその真偽が判断つかなかったようだ。

 非常に拙い状況である。

 人里のこれからを担う子供達の思想を操作し、妖怪に対して畏怖ではなく、恐怖を抱かせる。これは長い目でみれば崩壊の合図だ。

 恐怖を持って妖怪に対すれば人は拒絶を選ぶ。

 近場に存在しているだけで危険視するような事態に陥れば、本格的に妖怪と人間は袂を分かつ。恐らく半分妖怪である寺子屋の上白沢慧音先生も無事では済まないかもしれない。

 きっと先生は恐れられても残ろうとするだろうから。排斥で済めば御の字の可能性もある。

 先が見えない予測が次々に頭に浮かぶ。

 どうにかしたい。

 どうにかしよう。

 勇ましさがあれど僕は何も出来ない。力の無い一般人は傍観を貫くしかない。

 それに僕は既に釘を刺されていた。

 あの博麗さんが押し入って来た夜。あの夜の続きだ。

 慰めの言葉を投げ掛け、彼女は照れ臭そうにその場から離れて行ったが、残っていた霧雨さんに言われてしまった。

 

「あんたはこの異変に関らないでくれ」

 

 直接的な言葉だった。

 今更引き下がれない立場になったしまっていた僕は反論をする。

 自分の蒔いた種だから、とか。贖罪の行動は必要だから、とか。罪悪感を抱いた誰もが思う当然の心情だ。

 それをばっさりと切られる。

 

「邪魔だ。役者じゃないんだよ、あんたは。そもそも異変解決の舞台に立てるのはそれなりの力を持ったやつだけなんだ」

 

 深く深くとんがり帽子を被り、彼女は続ける。

 

「なんで懇切丁寧に説明したと思う。それはそうしないとあんたが止まらない性格だと思ったからだ。小鈴も心配してたぜ、先生さんよ」

「最初から知ってたんですね。僕の事を……」

「このままじゃ友達だけではなくて先生まで居なくなってしまうってさ」

 

 胸にずきりと響く。

 やはりあの子は聡い子だ。

 困ったらなにをどうすればいいかよく分かってる。

 そして霧雨さんも大分賢い。

 初対面の筈なのに僕の事をよく理解していた。

 これは牽制だ。

 独自に動く可能性があった人物を動けなくする理由を説明で与えたのだ。どの行動の意味、行動が齎す可能性を示唆している。

 愚かな僕にもその意味は良く分かった。

 僕は監視されている。

 一挙一動を隈なく観察し、何か行動を起こす事を望まれていた。草案が盗まれた可能性を加味すれば有り得なくはない。

 嘆かわしい話だ。

 その時に初めて気付けた。

 噂話の元となった事件の被害者、その元婚約者とは随分と利用されやすい立場にある。僕が操さんの為に何かをすればするほどに事件被害者として立場が強くなっていく。

 更にそれを噂話に加えて流布すればさぞや同情が集まるだろう。

 現に僕は人里の人々に哀れな元婚約者として見られている。思えば見舞い客がその証拠だった。

 本居さんや上白沢先生などの知り合いは勿論だが、あまり交流の無かった面々が積極的に訪れていた事から相当な同情心を募られている。

 既に僕の事が広範囲に伝わっているのは間違いなかった。

 確かにこれでは動けない。動いてはならないのを分からせられた。

 

「まぁ、なんだ。心配する必要はないぜ」

 

 頭を抱えていた僕に霧雨さんは告げる。

 

「私と霊夢、いいや私は異変解決のプロフェッショナルだ。この魔理沙さんがずばっと解決してやる!」

 

 と言って笑う。随分と人懐っこい笑顔だった。

 彼女ならば信じられる、そう思わされる魅力がある。

 頼もしい。

 そう思う半面で惨めさが募る。これは僕に残された最後の意地だ。成熟した大人がまだ成長過程にある少女に頼むというのはあまりにも情けない。

 下らない意地だった。

 僕に出来る事など高が知れるというのに如何するというのだろうか。出来る事など最初から分かっていた。

 

「お願い致しますっ……! ぜひお願い致しますっ!!」

 

 複雑な全ての感情を理性で飲み込み、勢いよく頭を下げる。

 何度も繰り返し頭を下げた。困惑する霧雨さんを無視しても続ける。これが僕の精一杯。僕に出来無いならば出来る方にお願いするだけだ。

 

「分かった、そんなことしなくても分かったって! もういい加減止めてくれ!」

 

 困惑を越えて迷惑になっていたので止まる。

 

「はぁ。誠意は確かに伝わった。私が動くには十分だ。だから最後にまた言うぜ。あんたは関らない、それでいいんだな?」

「はい。貴女に任せます。勝手すれば益々状況が悪くなるのは分かりましたから」

「確かに聞いた。魔法使いとの約束は覆せないぜ」

「ええ。その意味はよく分かりませんが約束は守ります。僕はあの子達の先生ですから……」

 

 約束は守る。

 最低限の社会に敷かれたルールだ。

 それを破るのは模範とされる大人のするべき事ではない。意地は飲み込んでも教師としての誇りは汚せない。

 霧雨さんはその後にすぐに出て行った。

 あれだけ釘を刺したのだから大丈夫だと信用されたのだろう。

 僕はその信用を裏切らない為に何もしなかった。

 本居さんの先生を続け、日常を淡々と生きる。それだけの日々が続いた。誰が異変を望んでいるのか分からない今は知り合い以外には会わずに過した。

 でも変化とは思わぬ方向から訪れる。

 ある日、僕の家に来訪があった。

 よく見知った二人組みの夫婦。会いたくとも疎遠になっていた二人だ。

 僕が約束を破る大人になったのはそれから間もない話だった。

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