霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活七回目「人里へ」

 突然であるが博麗神社の食糧事情について語らせて欲しい。

 僕達夫婦が毎日健康かつ神社の仕事に専念して暮らしていけている事情だ。

 簡潔に述べれば人里に住まう人間達から御供え物として食糧を分けて頂いているのである。

 勿論、対価を差し出さず只で頂いている訳ではない。嫁さん、つまりは博麗神社の巫女としての役割を果たしている報酬としてだ。

 博麗神社が神社として本来の働きを果たしていないので幻想郷を守護する巫女としてだけれど。本人からしてみたら悲しい事実に違いない。あまり気にはせずにいる気がするけれど。

 そういう訳で食料は人里の代表者から必要分だけ頂ける。

 しかし、如何せん人里に住まう脆弱と言っても過言では無い方達では博麗神社に食糧を運び込んで無事に済む訳がない。

 確かに弾幕決闘の法に従い、あらゆる妖怪達が自身よりもひ弱な人間達を襲う事を罰則としているが厳密に規律を照らし合わせてみれば荷物を奪う事を禁じていないし、弾幕決闘で勝利すれば合法的に対価として奪える。

 人里で大切に育てた作物や狩猟で得た獣の肉、川で獲った魚。人肉が主食だという妖怪達も人間の食料が不味いとは思わないし、むしろ臭みが酷いらしい人肉よりも余程御馳走だと思う。ていうか専ら最近の彼等が好んで食べているのは僕達人間と大して変わらない食卓風景である。

 人里から博麗神社へ辿り着くにはそんな飢えた妖怪達が跋扈する危険な獣道を越えられなければ話にならない。あと時折であるが悪戯好きな妖精達が人間を惑わして食糧を奪いに来るので余計に危険だ。

 よくよく考えてみれば大体博麗神社に参拝客が来れないのもこれの所為だよね。

 そういう理由がありまして食糧を定期的に僕が人里へ受け取りに行く。それだけなら大して特別な事では無いのだけれど今回は違うのだ。何故ならば、

 

「ねえ、そろそろ行くわよ」

 

 神社の戸締りを済ませ相方の準備が整うまで境内にて暇を持て余し、これから人里へ向かう理由について耽っていると待ち人来る。

 嫁さんの姿を確認すると僕は思わず口を開いた。

 

「珍しいね。その格好するのは」

 

 彼女は自分の姿を改めて確認すると

 

「そう?」

 

 首を傾げた。

 僕はその様子に対してぎこちない微笑で再度言う。

 

「そうだよ。一年振りくらいかもしれない」

 

 何時も着ている紅白巫女装束ではない独特さがある。

 懐かしい気すらした。腋を露出させた珍しい巫女装束が。

 異変が乱立した幻想郷で博麗の巫女を確固とした存在に確立させた象徴。当時の彼女は年が年中あの格好で幻想郷を守護する役目を果たしていた。ある意味であるが幻想郷では英雄的姿に違いない。

 僕はあの姿が忌々しい程に嫌いだった。むしろ憎悪している。妖怪の賢者を筆頭に幻想郷を理想郷として不動のものにしようとした奴等が用いた生贄なのだから。

 あの異変。

 弾幕決闘を完全に定着させたあの最後の異変の所為で彼女は――

 

「ねえ?」

 

 気遣う様な優しげな声。

 気が付いたら彼女の左手が僕の頬を撫でていた。

 

「あんたにさ、そんな顔をさせる為にこの格好をした訳じゃないわ」

 

 瞬間。血液が沸騰して激昂しそうになった。

 怒り。悲しみ。哀れみ。その全ての負感情が溢れて満ちて僕は自身の不甲斐なさに唇を噛む。

 

「そろそろ博麗の巫女としてだけじゃなく、幻想郷の博麗神社の巫女として役割を果たさなきゃいけないのよ。大丈夫。あんたのお蔭で傷は十分に癒えたわ」

 

 誰かを思い遣る慈しみの表情。

 嘗ては誰に対しても平等に向けられていた彼女のその表情が今では僕だけに向けられている。僕の中で蠢く独占欲が彼女を蝕んでいる証拠。

 両手が震える。脆く儚い姿を晒す目の前の少女を抱き締めたいと。

 でも、僕にはそんな資格が在る筈がなかった。

 

「好いてもいない女を嫁に貰わせて御免ね……」

 

 不甲斐なかった。目の前の彼女を愛する人として、男として、何より彼女の夫として。

 溢れ出す悪感情を心中でそっと仕舞うと僕は頬をそっと撫でる彼女の左手を両手で包み込み首を横に振ってから微笑む。

 

「好きだよ」

 

 言葉が見付からなかった。

 日本語で表現出来る愛の言葉など腐るほど在る筈なのに心中を正しく表現する言葉が見付からない。たかが五十音の組み合わせて伝える言葉の形が浮かばなかった。

 相手を安心させる気の利いた言葉など本当に幾らでも在る筈なのに。月が見える夜ならば問える言葉ならあったのに。

 嫁さんは花咲く笑顔を見せると僕の両手を右手で優しく取り外す。

 

「さ。長らく神社に引き篭もってたから人里連中を安心させてやらないと、ね」

 

 そう言ってからりと笑った。

 裏のない純真無垢な笑顔だ。対照的に僕は取り繕った笑顔で答えている。

 心が軋みそうになった。

 白状しよう。浮かれていた。

 まるで恋人同士の逢引みたいで初々しいさを求めていた。

 時間は残酷である。忘れ去ろうとした傷もふとした切欠で再び開く。その傷が深ければ深いほどに簡単には忘れさせてくれはしない。時間は何も解決してくれない。

 先導する彼女の背中を眺めながら僕は奥歯を噛み締めた。




投稿が大幅に遅れてしまいました。
広告詐欺の戦いを経て、家庭事情が急変し、心労で筆が乗らなくなる。まさかの三重罠。漸くと一段落ついたので投稿。読者様からしたらまこと如何でもいいわ、と思うかもしれませんがね。すいません。次回はからはもう少し早く投稿出来たらいいなぁ・・・・・・
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