霊夢と結婚した   作:毎日三拝

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結婚生活九回目「博麗霊夢」

 荷物を取りに行った本居さんが帰ってきたのはそれから間もない。

 戻って来た彼女は竹で編んだ籠を背負っていた。中身を覗くと山の幸が詰っている。明らかに取り過ぎだ。

 

「食べきれるのかい?」

 

 と、僕が聞くと彼女は笑って答える。

 

「近所に住んでいるお爺ちゃんとかの分もありますから。余っても近所に配るので」

「へぇ。余るようなら少し頂戴ね、小鈴ちゃん」

「はい。いいですよ」

 

 嫁さんは事食べ物に関して抜け目ない。

 少しばかり呆れながら歩いていると漸く人里の姿が見えてきた。ちらほらと知っている顔も立っている。

 僕は先に挨拶をしようと近寄っていく。彼も僕の姿に気が付いたようで此方を見るなり笑顔になった。まず挨拶代わりに手を挙げると彼は何故か先程までの笑顔から一変して顔を顰める。

 僕が何か彼に失礼な事でもしたのかと一瞬ばかり考えたが、そうではない理由に思い当たった。ここで僕は自分の迂闊さを悟る。

 彼は嫁さんを見て表情を顰めたのだ。

 頭に血が上り、激昂しそうになるが僕はそれを抑える。

 こればかりは誰が悪い訳ではないからだ。里の人間に霊夢が顔を会わせるとはそういう事なのだから。

 

「やあ、久し振り」

「あ、ああ。先生。お久し振りで」

 

 僕は敢えてそれを無視して彼に挨拶した。

 彼も少しどもりながらも調子を合わせてくれた。

 幸い嫁さんは気付いていない筈だから何の問題も無い。それだけの話だ。

 

「……それより先生。いいんですかい?」

 

 小声で彼は僕に問い掛ける。

 嫁さん達に聞かれないようにする配慮だろう。

 

「こればかりはどうしようもないないよ。時期が早いか、遅いかの二択だから」

「そうですかい。本当なら里の英雄にする配慮じゃねぇんですけど。情けねぇぜ」

「有り難う。そう言って貰えるだけで救われるよ」

「それじゃあ、里の内部は俺よりも酷いと思うんで気を強く持ってくだせい」

 

 その言葉に頷く。

 しかし、真に気丈であらねばならないのは僕じゃない。

 代わってあげられるならば良かったのだけれど現実はそう上手くはいかないのだ。

 そそくさと里の内部に戻って行く彼の背中を眺めながら、二人と合流すると簡易式の門を越えて里の中に入っていく。

 相変わらず平和な日常がそこにあった。

 商売人が喉をからして客寄せし、子供が無邪気に駆け回っている。

 その微笑ましい光景に安堵していると同時に僕は恐怖に駆られた。

 買い物をしながら世間話に花を咲かせていた主婦らしき女性が嫁さんの姿を見付けて表情を歪ませる。明らかにその表情は恐怖そのもの。

 彼女は手提げにしていた買い物籠を地面に落とすと呪詛のように呟いた。

 

「……博麗の巫女」

 

 その言葉を皮切りにして瞬く間に嫁さんが人里に来ている事が伝わっていく。

 人間の感情は他者に伝染する。それが悪感情であればあるほどに。

 里の人間達が霊夢の姿を見た途端に全体の空気が変わった。それまでの彼等が過す日常らしさが消えて殺伐とした雰囲気に移り変わる。

 二人の姿を見ると本居さんは俯きながら目を伏せていた。自分に向けられている感情ではないけれど里全体の人達からそういう目で見られればそうなるのが普通だ。

 それに比べて当事者である嫁さんは堂々と腕を組んで達観した顔をしていた。

 まるで強大な怪物に立ち向かう前の戦士のような気概をみせている。なんという強心臓だ。僕の心配事は杞憂に終わってしまったらしい。

 思わず僕は笑ってしまった。

 

「じゃ、小鈴ちゃん。またね!」

 

 彼女は心配する本居さんにそう別れの挨拶を述べると視線も気にせず、勝手に開かれていく人混みの中を進んでいく。

 唖然とした後に本居さんと僕は顔を向かい合わせた。

 

「また今度、店に寄らせてもらうよ」

「……はい、お待ちしていますね」

 

 本居さんと別れると僕は嫁さんに置いてかれないように後を追い掛けた。

 追いついて隣に並ぶと彼女は話し掛ける。

 

「無理はしてないかい?」

「あんたが居てくれればそれだけで無敵よ。だから……隣に居て」

「うん。いいよ。僕達は夫婦だからね」

 

 自分から彼女の手を取り、絡ませると前を向く。

 きゅっと強く握り返される掌。彼女の手は汗ばんでいた。その御蔭で僕だけが彼女の態度が強がりだったのだと知る。

 夫婦生活というやつは難しくて既婚者曰く様々な壁があるらしい。

 その日、僕達は行く先々でその壁を感じたが、二人で乗り越えて神社に帰還した。

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