魔法先生ネギま!-Fate/Crossover servant-   作:魔黒丼

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第1話

 ―黄昏時。日もほとんど沈んだ頃、学園都市の上空を杖に跨り疾駆するネギの姿があった。

 その顔には焦燥の色が滲み出、得体の知れない不安が彼の胸を締め付けていた。

 

(さっきの濁流みたいな魔力の流れは一体…僕の知らないところで何かが起きている!)

 

 焦る気持ちが高まる一方、ネギは先ほど巨大な魔力を察知した場所、図書館へとたどり着いた。

 すると、すでにその場にはタカミチ・T・高畑を筆頭とした魔法教師が数名集まっていた。

 

「タカミチ!」

 

 最も見知った友人にネギは反射的に声を掛ける。

 それに気づいたタカミチも空から降りて来るネギに手を振って応じた。

 

「やあネギ君。君も気付いたんだね?」

 

「うん!あんなに強い魔力の流れ、魔法使いじゃなくても魔力に対する感性の強い人ならすぐに気付くよ!」

 

 話しながらネギは彼に駆け寄る。

 見慣れた顔を見て安心したのか、ネギの表情から少しだけ強張りが薄れる。

 それを見てタカミチも優しい笑みを浮かべながら現状をネギに教えた。

 

 巨大な魔力の奔流が起こったのは今から約十分以内。

 場所はここ、図書館島の内部。もしくは地下階層との事だった。

 

「学園長からは既に指示が出ていてね、『魔法先生は速やかに原因を調査し、必要とあれば対処せよ』、とのことだよ」

 

 ―ならば自分も一緒に、とネギが言おうとした瞬間、それを遮るようにタカミチは続けて言った。

 

「そこで…ネギ君には、ここで見張りをお願いしようかな」

 

「え」

 

 予想外の指示にネギは一瞬固まると、すぐさまタカミチに食って掛かった。

 

「なんでさ!僕も先生なんだから一緒に…」

 

「もし今、一般の生徒たちがここに来たら色々とマズいからね。ネギ君には万が一ここに一般人が来た時の対処をお願いしたいんだ」

 

「で、でもそれは人払いや認識阻害の結界を使えばなんとか…」

 

「いまだに状況が分からない状態で無闇に魔法を使うのは得策とはいえない。それに、これも一般生徒を考慮した立派な魔法先生としての仕事だよ、ネギ君?」

 

 食い下がるも、根が真面目なネギは仕事と言われると反論することが出来ず、しかし納得のいかない表情で俯く彼の頭をタカミチは優しく撫でた。

 見上げたそこには、心配しなくていいと語り掛けているような温かい微笑みがあった。

 そうしてなかば言いくるめる形でネギを待機させたタカミチは、他の魔法教員たちと一緒に図書館島の中へと入っていった。

 

「さてと…鬼が出るか蛇が出るか…」

 

 変わらぬ表情でそう呟くタカミチだったが、その目には歴戦の(つわもの)を思わせる鋭い輝きがあった。

 

***

 所変わって、図書館島の地下深部。

 石壁で囲われた空間の一角、魔法陣の上で正座する夕映と、向かい合う形で彼女の正面に胡坐をかいて鎮座するライダーことイスカンダルの姿があった。

 

 古の王を名乗る男との予期せぬ会合を果たした夕映は、互いに状況を整理し、相互理解をするためにこれまでの経緯(いきさつ)を彼に説明していた。

 

「……なるほど。仔細、あい判った」

 

 彼女の説明を全て聞いたライダーは憮然とした様相で頷き、こう言った。

 

「つまり貴様は…魔術に対する単なる興味関心に身を委ね、その末に意味も分からず儀式を行使し、何ら深い意図も思惑も無く、この征服王(イスカンダル)を世に現界させた、と…こう言う訳だな?」

 

 どことなく不安にさせるような抑揚のない口調で、ライダーは夕映に問いかけた。

 

「いえ、その…結果的には、そうなります。はい」

 

 しどろもどろになりかけるも、最終的にはっきりと彼女は肯定した。

 それを聞いたライダーはがくんと項垂れると、何かを堪えるように肩を震わせ始めた。

 

 ―何か癪に障ったか。それともいまだ掴みどころの見えないこの男の逆鱗に触れたか。

 さまざまな不安が過ったのも束の間。俯いた顔を覗き込もうとしたその瞬間、

 

「――うわっはっはっはっはっは!!」

 

 顔を上げると同時に、まるで弾けたように豪快に笑い始めたライダーに、度胆を抜かれた夕映はすくみ上がった。

 

「痛快!かつては世界の覇権を握らんと地上に君臨し、今や英霊にまで成り果てた余が、無垢な小娘の好奇心でサーヴァントとして現界するとは!未踏の地など無い時代とはいえ…いまだに世は未知なる奇異や摩訶不思議で溢れておると見える!」

 

 何が嬉しいのか分からないが、持ち前の巨躯に相応しい雄大な笑い声を響かせるライダーに、夕映はただただ圧倒されていた。

 一頻り笑い飛ばして満足したのか、ライダーは笑顔のまま彼女に向き直る。

 

「うむ!そうと分かれば小娘よ!さっさとこんな狭苦しい場所とはおさらばして、余を地上まで案内せい」

 

 そう言って立ち上がると、ライダーは早足でその場から立ち去ろうと歩き出し、

 

「…って、ちょっと!待って下さい!」

 

 夕映は慌ててライダーのマントを掴んで彼を呼び止めた。

 何事かと思いつつも至って落ち着いた様子で振り返るライダーとは対照的に、引き留めた夕映の表情には明らかな困惑と懐疑的な色が浮かび上がっていた。

 

「さ、サーヴァントとかマスターとか突然言われても何が何だか…それにイスカンダルと言うと、世にも有名なアレキサンダー大王の事ではないですか!?そんな歴史上の“超”が付くほどの有名人がこんな風にして現れるなんて…いくら魔法とは言っても信じられません!」

 

「…信じられんと言われてもなぁ…イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが…」

 

 まくし立てる彼女に対し、ライダーは困ったように指先で頬を掻く。

 

「第一、召喚したのは貴様であろう?」

 

 そう混ぜ返すと、夕映は思わず言葉に詰まった。

 

「うっ…た、確かにそうですが…まさか本当に…というより半分事故のような感じが…」

 

 と、もじもじと言い淀む夕映に対し、

 

「まぁ良いではないか。何であれ余はこうして貴様のサーヴァントとして現界したのだ。貴様は余のマスターとして、ドンと構えておれば良い」

 

 屈託のない笑みでそう答えるライダー。その顔を見て、まるで動揺している自分が馬鹿のようだと思い、夕映は思わず深いため息を吐いた。

 するとライダーは、何かを思いついたかのように切り出した。

 

「そう言えば小娘、ここは書庫だと言っていたな?」

 

「え?あ、ハイ…このすぐ上が小島を丸ごと使った巨大図書館になっていますが…」

 

「ふむ。では小娘よ、さっそくだがこの世界の地図と、ある書物を探したいのだが頼めるか?」

 

「ハァ…構いませんが、その前にひとついいですか?」

 

「むん?」

 

 先ほどとは打って変わったような弛みない顔つきで夕映は目の前の巨漢に向かって告げた。

 

「“小娘”はやめて下さい。先ほども言いましたが、私の名前は綾瀬夕映です」

 

 先ほどまでとは一変し、毅然とした態度でそう言い放った彼女の言葉が意外だったのか、一瞬呆気に取られたライダーだったが、

 

「…うむ!ならばこれからよろしく頼むぞ夕映よ!」

 

 と、何処か嬉しそうな笑顔で彼女の要望に応えた。

 そんな彼に対し夕映は「アナタの事は何と呼べばいいですか」と訊ねる。

 ライダーは小さく唸りながら顎に手をあてて答えた。

 

「うーむ…そうさな、王と呼び称えるも良し、気軽にイスカンダルと呼ぶも良し、クラスに則ってライダーと呼ぶも良し、好きに呼ぶが良い」

 

 呼び方に拘りは無いらしく、好きなようにと答えたライダーの返答だった。が、ここで先ほどから抱いていた疑問が再び彼女の胸に返り咲いた。

 

「あの…もう一ついいですか?」

 

「む?」

 

 目の前のそれを何とかして理解しようと、夕映は立て続けに質問をぶつけた。

 

「サーヴァントとマスターもそうなんですが…ライダーとかクラスとか…それは一体?」 

 

「ふむ…そう言えば何も知らずに呼び出したのだったな。ならばその疑問も当然だな」

 

 一人納得したように頷くと、ライダーは深く息を吸ってから口を開いた。

 

「そもそもサーヴァントとは、英霊を用いた最高ランクの使い魔であり、英霊とは生前の行いや人々の信仰によってその魂を昇華させた最高位の精霊のようなものだ。つまりマスターである貴様は、このイスカンダルをサーヴァントとして召喚したのだ。胸を張って誇るが良い」

 

「は、はぁ…」

 

 なぜか得意げになって鼻を鳴らすサーヴァントの説明に、いまいち現実味を感じることが出来ない、いや、聞いても理解し切れない内容に、夕映は気の抜けたような空返事を返す事しか出来なかった。

 そんな彼女の内心などお構いなく、ライダーは説明を続けた。

 

「…で、そのサーヴァントにも七つのクラスがあってだな、生前の逸話や、その者の生まれ持った特性などによってそれぞれのクラスに振り分けられるのだ」

 

「つまり、ライダーと言うのは…」

 

「その名の通り、騎兵やそれにまつわる逸話などによって与えられるクラスでな、余がライダーの座に据えられたのも、おそらく余の宝具の評判のせいであろう」 

 

「宝…具?」

 

 はたまた飛び出してきた不可解な言葉に夕映は首を傾げる。

 

「宝具とはな…まあいずれ見せる機会もあろう。その時に説明してやる」

 

 煩わしそうに締めくくるとライダーは再び彼女に背を向けて、闇に包まれた天井を見上げる。

 

「ともかく、いい加減こんなシケきった場所から出るとしようではないか。いつまでもじっとしているのは性に合わんのでな」

 

 辛抱堪らんと言った様子でライダーは腰に差していた宝剣を抜いた。

 

「な!な、何をする気ですか!?」

 

 突如剣を抜いたライダーに夕映は思わず声を荒げるが、彼は気にした風も無く一歩前に出る。

 

「思いのほか、地上までは距離がありそうなのでな。駆け上がるための“(あし)”を用意するのよ」

 

 背を向けたままライダーは剣を頭上に掲げ、

 

「出でよ、我が愛馬!」

 

 そう高らかに呼びかけると、何もない虚空に向かって剣を振り下ろした。

 その瞬間、雷のような閃光と共に目の前の空間が切り裂け、迸る光の中から一頭の駿馬が嘶きを上げながら飛び出してきた。

 

 その光景に再び度胆を抜かれた夕映は、小さく悲鳴を漏らしながら尻餅を着いた。

 

 そんな少女のことなど気にも留めず、現れた巨馬はゆっくりと主の下へと歩み寄る。

 ―ブケファラス…それが駿馬(彼女)の名であった。

 かつて彼の王を背に戴き、共に世界を蹂躙した伝説の蹄の持ち主が今、王の呼びかけに応じてはぜ参じた。

 

「本当は戦車(チャリオッツ)を用意したかったのだが…まあ場所が場所なんでな。些か乗り心地は荒っぽいやも知れんが、我慢してくれ」

 

 そう言いながらライダーは愛馬の上に跨ると、いまだに腰を抜かしている夕映に向かって手を差し伸べた。

 

「ほれ、案内は任せると言ったであろう?さっさと乗るが良い、夕映よ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら彼は夕映の細い腕を掴んで馬上へと引き上げる。

 岩のような剛腕に掴みあげられながら彼女は悟った。

 ライダーと言うクラスの意味と、サーヴァントと言う存在の大きさを。そして目の前の男が嘗てこの世界に君臨した本物の英雄()だと言うことを。

 

***

図書館島の地下三階部。

 

「一階から三階は異常無し…か」

 

 小さく呟きながら、タカミチは煙草に火を灯す。

 

「図書館内は禁煙ですよ?タカミチ先生」

 

 彼の隣を歩く同僚のガンドルフィーニは、色の無い声で彼に注意した。

 生来の生真面目な彼は同僚の些細な規律違反でさえ見逃そうとはしなかった。

 そんな彼から注意を受けたタカミチは肩を竦めながら渋々煙草を携帯灰皿に押し込むと、ポケットに手を入れた弛んだ姿勢のまま周囲の警戒を続ける。

 

「…下に行くほど魔素(マナ)が濃くなっていってますね」

 

 暗闇に包まれた地下深部を見下ろしながら、ガンドルフィーニは言った。

 ええ、とだけ返し、タカミチも同じように暗闇を見下ろす。

 館内に入ってからと言うもの、賊や魔物と言った外敵にこそ遭遇しなかったものの、いまだ漂う不可思議な魔力の流れに彼らは首を捻っていた。

 

「一体この下で何が行われたのか…」

 

 眉を顰めるガンドルフィーニは緊張を隠しきれずにいた。

 爆発したかのような、それでいて凝縮されたかのような魔力の奔流。今なお見えぬその正体に彼はある種の懸念をつのらせる。

 

「呪術協会か…もしくは魔法によるテロ?」

 

「それは飛躍しすぎじゃないかな…まあ、降りてみれば分かるでしょう」

 

 体を強張らせるガンドルフィーニに対し、落ち着き払った様子のタカミチは更に下層に降りるための階段に足を掛ける。

 次の瞬間、飛んで来た罠の矢を彼は音速の拳で弾き落とした。

 

「ともあれ…こんな罠だらけの場所でわざわざ悪事を行うとも考えにくいですからね…案外、作為的な思惑は無かったりして」

 

 冗談めいた口調で言うタカミチの言葉に、ガンドルフィーニは、まさかと返す。

 明らかに人為的でなければ説明がつかないような現象ではあるが、いまだに正体が見えない以上、要らぬ憶測はかえって不安を募らせるだけ。

 それを悟ったガンドルフィーニは余計な事を考えるのを止め、再び職務に専念した。

 

 そんな時、前を歩いていたタカミチの足が不意に止まった。

 

「…どうかしましたか?」

 

 そう訊ねるガンドルフィーニの方を見向きもせず、タカミチは足元に広がる闇を見つめた。

 

「…何か…聞こえません?」

 

 訊きながらタカミチは階段の淵から下を覗き込む。

 釣られたガンドルフィーニも覗き込みつつ耳を澄ませた。

 

 聞こえてくるのは本棚の隙間を吹き抜ける風の音…だけでは無かった。

 

「これは…蹄の音?」

 

 風に交じって聞こえてくるのは、まるで大地を蹴って疾走する馬の蹄の足音。

 ―そんな馬鹿な。あり得ない、とさらに前のめりになって覗き込んだ直後だった。

 

「―…AAAALaLaLaLaLaLaie(アアアアラララララライッ)!!」

 

「―…きゃぁあああああああ!?」

 

 蹄の音と共に野太い咆哮と絹を裂くような少女の悲鳴が、目にも留まらぬ猛スピードで二人の前を駆け上がっていった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

「―――なっ」

 

「い、今のは?」

 

 驚きのあまりに見送ってしまった二人だったが、我に返るとすぐさま他の教員たちも招集し、駆け抜けていった声の主を追いかけて行った。




………
……

…続くかな?
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